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第三話 家族として、兵士として、師として/中

「ヒムラー長官が銀翼党にいた頃、ですか」


 特に隠してもいない事だが。

 私は、親衛隊が嫌いだ。


 理由は、いくつかある。

 だが、根幹である理由は一つだけ。

 親衛隊全国指導者であるハインリヒ・ヒムラーが嫌いだから。

 より正確に言えば、嫌いになったから。


 彼が嫌いだから、私は親衛隊を嫌悪している。

 まぁ、ある組織の長が嫌いだからその組織が嫌いになるなんてよくある事だ。


「あぁ、アイリス先生から私は色々な事を学んだ。その事を再確認していた。ただ、それだけだ」


 彼の言うアイリス先生。

 アイリス・フォン・フリューゲルは、私の姉で昔はよく可愛がって貰った。

 昔は、ね。

 私は、今でもアイリスを家族として愛しているし、尊敬している。

 ただまぁ、彼女の目にもはや私の姿は入っていないだろう。


 ……。

 それは、今は不要な感情か。


 彼のその言葉を聞いて。

 私は、一歩踏み入る決断をした。

 もはや、恐怖心はない。

 私は、私の最後に残された家族の安全保障のために。


 彼の真意を聞かねばならない。


「ヒムラー長官、一つ尋ねたい事が」


「何かな?」


「あなたは、なぜ急に大ドイツ銀翼突撃党から国民社会主義ドイツ労働者党に鞍替えをしたのですか? ……私は、いつまでも忘れていませんよ。あの日、3年前のあの日の夜。あなたが私たちの家に訪れて、アイリス。いや、私の姉に銀翼党から脱退して、ナチ党に入ると言った日を」


 私は、出来る限り無表情を保って。

 淡々とその言葉を口にする。

 拳を強く握りしめすぎて、血が僅かに床に落ちていくが。

 そんな事はどうでも良かったし、むしろその痛みは、激情を冷やすのにちょうど良かった。


「あなたは、あなたは。アイリス姉さんに確かな忠誠を誓っていたはずです。どうして、どうして……ッ!」


「……なるほど。私の感じていた違和感はこれか」


 ヒムラーは、黙って私の話を聞いていた。

 そして、私が言葉に詰まったタイミングで冷静に口を開いた。


「違和感? これのどこが!」


「まぁ、最後まで話を聞きなさい。私も君の話を最後まで聞いたんだ。なら、君も私の話を最後まで聞くべきではないかな?」


「それは……。ヒムラー長官、失礼しました。冷静さをつい失ってしまっていました」


 うん、ちょっとこれは私が悪い。

 上の立場の人に声を荒げてしまうとは、私らしくもない。

 頭に熱が溜まってるのか? 


 少しでも頭を冷やすために軍帽を取って、それを膝に置く。

 そして、私は話を聞く姿勢を整える。


「じゃあ、話を始めようか。先に結論を言ってしまおうか。私は、アイリス先生を裏切ってなどいない。私は、今でも先生の事を想っている。もちろん、男女の仲の意味ではない。尊敬すべき人として、だ。先ほども言った通り、私はあの人から多くを学んだ。学んだからこそ、私はあの人を尊敬していると共に」


 ヒムラー長官は、そこまで言うと一旦口を閉じた。

 そして、僅かな時間のあいだ、天井の方に視線を向けた。

 しかし、すぐに目線を私の方に戻して、口を開く。


「……恐怖している。先生の強大な報復心だけは、非常に良くない。アレは間違いなく、ドイツ民族にもいつか害を及ぼす。だが、それに気づいても私の忠誠心は変わらなかった。だから、だからこそ、私は銀翼党から距離を置いて、ナチ党に入った。そうしなければ……万が一の時に先生を止められないからな」

ヒムラーが小物じゃない世界線

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