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ETERNAL PROMISE【The Advance】  作者: 小林汐希
1章 Past 10 years & …
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[1章2話-2]:再び開いた記憶の扉




 この家が、片岡家の娘として迎える条件だった……。


「そ、そうなのぉ?」


 つまり、いつかは茜音がこの家に帰ることを分かっていての養子縁組を決めてくれたのだと。


「そう。それ以外にもたくさん条件があってね。でも、初めてあなたに会ったとき、この子はどんな厳しい条件でも、幸せにしてあげたいって、それを受け入れたわ」


 そこで話された内容は、茜音の知らなかった大人たちの話だった。


 事故で両親を亡くしたと同時に、彼女本人の意思とは全く関係なく、この家をはじめとする莫大な財産を受け継いでいた。


 家は将来茜音が判断できるようになるまでは維持すること、財産は本当に茜音本人の養育以外には使ってはならず、残りは必ず本人に返すことなど。なかなか条件を満たすことは難しかったという。


「そこで、私たちが施設の園長先生に出したのは、養育費は受け取らない。家も含め全ての財産は茜音のものだと。園長先生も納得していただいて初めて預けてもらえた。大変だって分かってたけど、茜音と一緒に暮らせるようになって、本当に嬉しかったのよ」


「そうなんだ……」


 茜音も知っている。片岡の両親は自分たちで子供を授かることができない。自分たちの子育てとして引き取ってくれたのだとは聞いたことがある。


「今日で、茜音が来て10年になる。お前ももう18歳の年頃だ。もう分別もつけられると思って、この日に預かったものを返そうと決めたんだよ」


「お父さん、お母さん……」


 もう一度リビングを見回してみる。


「掃除は時々していたからきれいなはずだ。家電で古くなって危ないものは少し処分させてもらった。電気や水道ガスはもう一度点検していつでも使えるようになっている。あと換えたのは玄関の鍵くらいかな。それ以外は手をつけていないよ」


「ちょっと、見てきてもいい?」


 何とか立ち上がり、リビングを出た。廊下の途中にある階段を上っていく。家の正面に面した部屋の扉を開けた。


「すご……」


 何もかも当時のままだった。


 翌春には小学校に上がる歳だったから、机もすでに買ってもらっていた。部屋に置かれているタンスも見る。当時の服がまだきちんと畳まれて保管されていた。どうやら茜音の服の趣味は昔からあまり変わっていないらしい。


 部屋の奥の窓に寄ると、昔は椅子に乗って見ていた景色が広がっていた。


「本当に……、帰ってきたんだ……」


 2階の他の部屋や両親の寝室もそのままだった。


「茜音、ここから一人で帰ってこられるかな? 買い物をしてからお店に行くようにしようかと思ってるんだけど」


「うん、分かった。直接行くね。本当にありがとう」


 一人残った茜音は、再び自分の部屋に戻った。ベッドに腰掛けると今でも十分に使えることが分かった。亡くなった両親は、本当に子供用でなければならないものを除いては高くても質のいい大人用を茜音に与えていたことが分かる。おかげで机も新品同様に使える。服などは整理する必要があるが、急ぐ必要はなさそうだった。


 家の中を確認すると、言われていたような家電品がいくつか足りないが、すぐにでも生活が可能な最低限はそろっている。


 当時はそうと気づいていなかった防音室。その部屋の中にはグランドピアノが置いてある。これも小さい頃に一緒に弾かせてもらった。


「パパ、ママ……」


 リビングのソファーに再び座った。幼稚園までだとしても生まれ育った家での記憶はたくさん思い出せる。両親と過ごした楽しい時間、いたずらをして叱られたこと。なにより、茜音が施設にいたときも忘れずに持っていた家庭のイメージはこの場所で作られたものだ。


 確かに誰もいないこの家は今の茜音一人には大きすぎるかもしれない。


 それでも思い出がたくさん詰まっていて、自分の帰りを待ちわびていてくれたこの家を手放すつもりにはなれなかった。


 昔を思い出してしまう品物も多くある。そのうちにいろいろ整理していけば、菜都実や佳織たちを招くこともできるし、きっと自分と健の新居としても使えるのではないかと思いついたとたん、茜音の顔が赤くなった。


「今度、みんなにお願いして整理に来るかなぁ」


 腕時計の針は出発する時刻を示していた。


「いってきまぁす」


 家中の戸締まりをして、誰もいないとは分かっていてもまたこの場所で言えたことが奇跡だ。


 周辺の地理はやはり体が覚えているようで、バス停への道に迷うことはない。しばらくあそこで生活していれば、昔の自分を知っている人物にも再会しそうだ。


 来るときは知らない場所に思えたのに、帰りはもう何度も行き来した懐かしい道に戻っていた。


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