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最後の晩餐が始まりました。(3)

「ところで僕が渡したお菓子だけど、独楽を見せたかったからこの場に出すのを断っただけで、ちゃんと食べてね?」


 リヒト王子が、静かに回って静かにテーブルに再び転がった独楽を指でつつく。


「実はあれ、僕の方でも買ったんだ。だから仮に美味しくなくても我慢して道連れになって? あのお菓子、噂になっている割りには食べた人の感想が出回ってない、(いわ)く付きの品なんだよね」


 独楽からこちらへと視線を移した彼が、悪戯っ子のような笑みで冗談を口にする。

 あざと可愛い。あざと可愛いわ、この王子。

 普通の可愛いではなくあざと可愛いと思ってしまうのは、ゲームでの彼を知っているから。腹芸のできる王族が、無邪気なわけがない。

 ただ、公式は癒やし系を前面に出したかったらしく、恋愛イベントはほんわか甘いものが多かった。その結果、『無邪気な笑顔で敵を陥れるリヒト王子』の二次創作が大量に生まれた。

 私のリヒト王子に対する印象もそちらだったため、前世で『あな届』を布教する際には薄い本もセットで貸していた。布教したうちの一人に、尋ねられたことがある。「あざと可愛い」は男性キャラでもアリかナシかを。勿論、私は全力で「アリ」だと答えた。加えて、「どうせ腹が黒いなら外面くらい癒やし系の方がいい」という持論を展開した。腹黒を含めてリヒト王子は推しなのだ。


「あら、奇遇ですわね。私の方は噂にすらなっていない品を用意しましたの。まずは殿下に道連れのお手本を見せていただけます?」


 ミーナの頑張りにより、例のアップルパイの準備が間に合ったらしい。私はテーブルに運ばれてきたそれを手で示しながら、リヒト王子ににこりと微笑んでみせた。

 婚約者候補歴イコール年齢という関係なだけあって、リヒト王子と私は気安い間柄。冗談には冗談で返すのはいつものこと。


「えっ」


 けれど今日は、その後が違った。

 『陽だまり』のアップルパイを前に、リヒト王子が明らかに驚いた表情をする。声まで上げたくらいだ、彼に与えた衝撃は相当だったはず。


(してやったり!)


 思わずドヤ顔が出かけて、慌てて口元に手をやる。ヒロインを(いじ)めない悪役令嬢未満が、王子にそんな顔をしてどうする。

 ここは優雅にうふふと笑っておこう。今の私は美少女なので、口元に手をやった理由をそれで繕えると思いたい。


「アップルパイがお好きだと伺いましたので、どうせなら珍しい庶民の店の物をと用意させましたの」

「庶民の店……って、もしかして『陽だまり』のアップルパイ?」

「あら、珍しいと思ったのにご存じでしたのね」


 反応からしてそうでないかと思ったが、やはりリヒト王子はこのアップルパイの存在を知っていたようだ。私はあくまで偶然を装っておく。あなたのために買ってきましたというのは、ヒロインの領分だと思う。未来の彼の恋のために、そのときめきは残しておいてあげたい。


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