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真相を知りました。(2)

「ふふ。やっぱり『陽だまり』のアップルパイは美味しいな」


 私の()(ろん)な目つきには気付いただろうに。それでいて素知らぬ顔で、今日もこの席に上っていた大好物をリヒト王子は華麗なフォーク(さば)きで口に運んだ。

 『陽だまり』のアップルパイは、現在うちの邸の使用人たちの間で大人気となっている。リヒト王子のお気に入りの品が庶民の店で、しかもお手頃価格で買える……流行らないわけがない。

 そんなわけで初回購入日から数ヶ月経った今でも、邸には常にストックがある状態だ。突然の来訪、しかもそれが店がやっていないような時間帯でもアップルパイを出せたからくりが、そこにあった。


「纏まったといえば、モニカとランセル。彼らも区切りが付いたから、これで心置きなく言えるよ。僕はずっと君に会いたかった――――菫ちゃん」

「…………え?」


 その名前をリヒト王子が口にしたのはあまりにも唐突で、私は一瞬何を言われたのか理解が遅れた。

 そして私でない『私』の名前を呼ばれたことに気付き、私は息を呑んだ。


「君の方は、多分学園の入学式のときに記憶が戻ったんだよね? 僕の方は、ヴィオに初めて会った四歳のときに思い出したんだ。菫ちゃんのこと、それからこの世界が君が好きだったゲームであることに」


 リヒト王子が、手にしていたデザートフォークを置く。

 両手をテーブルの上で組んだ彼が、真っ直ぐに私を見据える。


「僕はゲームの攻略対象。もしかしたらゲームシナリオの強制力が発動して、モニカと結婚することになってしまうかもしれない。君に前世の記憶が戻ったのがわかったけど、僕が――()(ひと)が彼女を選んだと思われたくなかったから、これまで言えなかった」

「理人――」


 リヒト王子の話す、『理人』。私はその人物に心当たりがあった。思わず彼を凝視する。


「理人……」


 心当たりがあるどころじゃない。『あな届』ファンブックを予約するため隣の家のおばさんに電話をかけたとき、彼女の息子である理人も電話の向こうにいた。

 後日その場にいた理由を、彼は笑いながら語った。会社にいるはずの私からかかってきたものだから、おばさんは緊急事態と思い電話に出る前に自分を近くに呼んだのだと。漁師の仕事から帰ってきたところを血相を変えたおばさんに呼び止められ、何事かと思えば内容は「ファンブックの予約」。電話を切った後、「確かに菫ちゃんには緊急事態だね」とおばさんと一緒に爆笑したとも言っていた。

 そのときの理人の様子がありありと蘇り、それが引き金となって先日の白昼夢の続きが再び像となる。


『でも、リヒト王子はさ――――理人に似てるんだよ。だから好き』


 そう迷いなく『私』は答えた。問いかけてきた彼――(あお)(いし)理人を振り返りながら。


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