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何故か王子とのデートイベントが起きました。(4)

 ぽちょん

 二人で釣り糸を垂らす。

 ぼんやりと、糸の動きを見守る。


(平和だ)


 月並みな感想が、私の頭に浮かんだ。


(前世であったな、こういうの)


 一緒の空間にいて、それもすぐ近くにいるのに個々で過ごしている。友人宅に行って、お互いがそれぞれ漫画や小説を読み耽っている、そんな感覚。ある程度、気安い間柄でないとできない貴重な体験だ。

 初対面同然の相手とでは、無言の時間は気まずさを作ることにしかならない。それなりに付き合いのある相手であっても、今度は相性というものもある。何より会話が好きな者と読書好きの者とでは、こういった遊び方は成り立たない。


(まずいわ……今の私だと、誰を見てもリヒト王子と比べてしまいそう)


 なまじ前世で社会人を経験していたのがいけない。この一見何でもなさそうな時間の価値を、身に染みて解ってしまっている。

 ランセルの姉は、先日ろくに顔も知らない相手に嫁いだと聞いた。彼女に限らず、この世界の貴族ではそれが普通であることを知っている。

 だから余計に、リヒト王子の行動がどれだけ愛情深いかがわかる。愛情といっても彼も私と同じで、抱いているのはおそらく『家族愛』という種類なのだろうが。


(でもよく考えてみれば、そもそも貴族はすぐ結婚するわけで。寧ろ家族愛で正解……?)


 燃え上がるような感情もなく、相手を想って一喜一憂したり夜に眠れなくなったりもなく。

 未来図を思い描けば、夢のような楽園ではなく、今の直線上にあるようなお互いが歳だけを重ねた日常の光景。


(うん……私は、するならそんな結婚をしたい)


 ちらりと、リヒト王子の横顔を盗み見る。

 私たちの間には、確かに愛情はあって。そして私には、この先もずっと彼の傍にいたいという気持ちもある。


(足掻いてみようか?)


 よくある悪役令嬢の物語のように、私も足掻いてみようか。私は悪役令嬢未満だけれど、何かは変わるかもしれない。変わらないかもしれないけれど、もう何もせずにはいられなくなっている。


(よし、それならモニカに接触してみよう)


 ゲームでは、ヴィオレッタはモニカとの直接的な接点はなかった。それを作るだけでも、きっとやってみる価値はある。


「あっ、殿下」

「うん、掛かってる――――釣れた!」


 盗み見ているはずが、反応を示したリヒト王子の釣り糸に、つい声を掛けてしまった。

 リヒト王子が釣り竿を操り、見事小魚を釣り上げる。

 針から外された小魚は、水の張られたバケツの中へ。魚がパシャッと水を跳ね上げる音がした。

 穏やかな、穏やかな日常のひとコマ。


(うん。私は、これがいい)


 バケツからリヒト王子に目を戻せば、前世で見た近所の子と同じような笑顔と出会った。


「これを漁師さんに持って行くと、屋台の串焼きと交換してくれるんだよね。僕がヴィオの分を釣るから、君も僕が食べられるように頑張って」

「まあ、それは責任重大ですのね」


 茶化して言ってきた彼に、こちらも大袈裟に返してみせる。

 こうして流れる時間が好きだ。そう自覚してしまったのだから、これは明日から頑張らねばなるまい?


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― 新着の感想 ―
[一言] 王太子と釣りというデートイベント…何気に情報が多い! でも海の上なら護衛もそんなにいらないし、盗聴も毒殺の心配もなくて安心と言えば安心かも。 一人になれる貴重な時間でもあるし。アウトドア趣味…
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