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何故か王子とのデートイベントが起きました。(1)

 おかしい。何かがおかしい。

 私は疑問符が浮かびまくる頭のまま、リヒト王子に手を引かれて港町を散策していた。


「今日は外国船が入港する日なんだ。だからいつもより賑わっているんだよ」


 人混みの中を、私ごとすいすい移動して行くリヒト王子。先程から手を繋いでいるのはそうやって歩くためなのかもしれないが、端から見ると私たちはデート中にしか見えない気がする。


(リヒト王子、モニカはどうしたの!?)


 リヒト王子は入学式を境に、モニカと急速に仲を深めるのではなかったのか。彼が私に会いに来ていたときは、仕事の合間を縫ってだった。そんな多忙な彼がモニカに時間を割くとすれば、当然減らすのは私との交流だと思ったのだが。


(ああでも、常識的に考えれば彼女とのデートはまだ早いか)


 ゲームシナリオに気を取られ過ぎていた。今日は入学してからまだ二週目の休日。クラスメイトの域を出ない関係で、いきなりデートに誘う真似はしないか。

 港町の視察を兼ねていたなら、なおさらだ。今日の予定は、前回の外国船入港日に既に決まっていたのかもしれない。モニカと出会っていないのなら、彼女との予定を入れようもない。

 港町には色々な言語が飛び交っていた。リヒト王子は数カ国語が堪能なのか、様々な装いの人たちと交渉。彼らから珍しい品々を買っている。――うん、その格好いいところはモニカに見せてあげて?


「ヴィオ。これなんてどう? きっと似合うよ。贈らせて欲しいな」

「え、あの……?」


 ゲームでのデートは港町ではなく城下町だったなと思い返していた私は、いきなり意見を求められて戸惑った。心ここにあらずなのを見抜かれて、わざとそうされたのかもしれない。だってほら、この王子腹黒だから。

 でもそこがまたいい、何度も言うが。と心の声で高々に言いつつ、目の前に差し出された銀のヘアピンに目を落とす。

 銀のヘアピンには銀細工の小花が三つ咲き、そのすべてにアイオライトに似た色の染料が塗られていた。うん、誰が見てもこの状況、自分の瞳の色の装飾品を恋人に贈る男の構図である。


「……」


 私はつい無言でヘアピンを見つめ続けてしまった。


(どうしよう。正解がわからない……)


 そうだろうなとは思っていたがこのお忍び視察、私と彼は仲良しな恋人設定らしい。

 普通の仲良しな恋人なら、素直に受け取るのが正解だろう。色恋沙汰に縁のない私でも、さすがにそれはわかる。

 で、ここで問題だ。

 それなりにお値段の張る品、加えて贈ると言っているのが王族。これは、カムフラージュだから遠回しに断るのが正解なのか。それともカムフラージュだからこそ、彼に買わせるのが正解なのか……。

 恋人役をさせるつもりなら、最初に口裏合わせをしておいて欲しい。……私が大根役者なことを予想して、敢えて言わなかったのかもしれないが。

 それにしても彼の方は素晴らしい演技力だ。恋人とのデートを楽しむ青年にしか見えない。


「ありがとうございます。後日、私からも何か贈らせて下さいませ」


 結局、私は遠回しに「後日、代金を支払う」と彼に返した。


「君から貰えるなら、君が刺繍を施したハンカチがいいな」

「……っ」


 リヒト王子が繋いでいた手を掲げ、私の手の甲にキスを落とす。

 これは「カムフラージュだからこそ、彼に買わせる」のが正解だったということだろうか。一応受け取ったわけだし、ぎりぎりセーフと思いたい。


(それはそれとして、いちいち心臓に悪いっ)


 顔が火照っている。鏡がなくても赤くなっているのがわかる。

 それに、顔以上にキスをされた部分が熱い。

 銀のヘアピンを包んだ箱を店主がリヒト王子に差し出すまで、私はひたすら顔と手に氷を当てている想像をして待っていた。


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