3.なんとかなった……かな?
お待たせしました!
「祐希、冬翔! お前ら急にいなくなるから心配したじゃねーか」
「ごめん。急に冬翔が変なこと言うからさびっくりしちゃって」
教室に戻ってくると、葉月が心配そうな表情で出迎えてくれた。だが、明らかに視線をそこかしこから感じる。
(絶対、私が女だって疑われてるよね……)
内心でため息をついてしまう。なんで初日からこんな目にあわなきゃいけないのか。幸運の女神は私には微笑まないらしい。
「で、お前女なのか?」
「っ! そ、そんなわけないじゃん」
葉月の言葉にドキッとする。やっぱり冬翔の発言は葉月にとっても気になるものだったらしい。ちらっと、冬翔を見ると目が合う。冬翔がかすかに頷いたためとりあえず任せることにした。
「ごめん、僕の間違えだったみたい。祐希に怒られちゃった」
わざと周りに聞かせるような声量で冬翔が言った。うん、ちょっと上目遣いっていうのが冬翔の可愛らしさを引き立てていて少しムカつく。なんで女の私より可愛いという言葉が似合うのか謎である。
冬翔の言葉に葉月をはじめとするクラスメイトたちがホッとしたように息を吐いた。うん、そんなに気になっていたんだね。私になんか注目しなくていいんだけど。むしろ、今の騒動のことを忘れてもらえないかな。
「なんだ。そうだよな! 冬翔があんなこと言うから本当に女かと思って動揺しちゃったじゃねぇか」
「まさか信じたの!?」
葉月が笑いながら言うのを、ジト目で睨む。
「悪いな。だってお前よく見ると結構中性的な顔立ちしてるからよ」
「失礼な! 好きでこんな顔立ちしてるわけじゃないのに」
わざと怒ったふりをする。ごめんね葉月。ちょっと申し訳なくなるが平穏な高校生活のために怒られてくれ!
「僕も間違えちゃってごめんね」
「ほ、ほんとだよー、もう。いらぬ誤解を生んじゃったし」
あ、ちょっと顔が引きつった。気付かれてないといいけど。いや、冬翔だけは気づいたみたいだ。笑いをこらえてるのか唇の端がヒクついている。
「へぇ〜、なんか面白いことでも言ったかな?」
笑いながらちょっと詰め寄ると怒っていることが伝わったのか、今度は冬翔の顔が引きつった。
「い、いや。なんでもないよ。ま、まあ男ってわかったし良かったってことで!」
「いや、冬翔以外誰も疑ってすらいなかったからね!?」
「そ、そうだね、ひゅ〜」
「口笛吹けてないし!」
雑な口笛に突っ込むと、もう笑ってしまった。本当は怒りたいけど、冬翔だとなんだか怒る気が失せてしまう。なんでだろう。
そんなことを考えていると、葉月が不思議そうな表情を浮かべていた。
「なんかお前ら雰囲気変わったな。さっき何話してたんだ?」
「そ、そう? 別に僕が男だって説明しただけだよ」
「で、さっきまで女の子だと思ってたからちょっと気を使ってたけど、男の子だったから遠慮しなくていいかなって思って」
「そうか。まあ、仲良くなったならいいことだよな」
ちょっと納得していない表情を浮かべているが、しょうがない。しばらくこのまま振舞っておけばきっとこの違和感もなくなるだろうし。
なんとか男の子だと印象付けられたが、冬翔にバレてしまったことでこの先の高校生活が不安になってしまった入学式だった。