第二章 40 | 一冊の本を求めて ③
◇ narrator / 来次 彩土
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四月十一日 放課後。
真弾学園高等部 昇降口近く自動販売機。
待ち合わせのために空の下の真弾学園に降りてきた。
そして毎度のごとく昇降口近くの自動販売機で清光が来るのを待つ。
まったく、僕らは自動販売機で会わないといけない決まりでもあるのか?
でも教室の近くとかで話してるとどんな噂されるか分からないし、アイツのためにわざわざ他にイイ感じの場所を探すのもなんかムカつくからイヤだしなぁ……
ちなみに噂っていうのはぜんぜん変な意味じゃなくて、神様の御業を持つ者同士で、且つ今は協力関係を敷いているので、神達や他の候補者達にその事が勘ぐられるのは後々の事を考えるとデメリットだよね、だから人目の付くところで関わるべきじゃないよね、的な意味である。
……あれ? なんでこんなムキになって否定しているのかしら? 私ったらおかしいわ。
──もしかして、私って清光くんのこと……キライ?
「──やぁ、大変だったみたいだな」
「──それな、マジで大変だったわ」
背後から掛けられた声にため息をつきながら返す。
だったというか現在進行形で大変である。
神書館での騒動から四日が経ち、今日は月曜日だ。
結局マリアと仲良くなることについては、今も達成できていない。
マリアは相当ショックだったのか、騒動の翌日の金曜日・四月八日は学園を休んでいた。
そして土日を挟んでの今日、月曜日になると、明らかに初対面の時とは態度が変わってしまっていたのである。
「ずあー…。どうしたらいいか分かんねえ」
「──今回は悪かった。君が行けばもっと良い方向に転がる線も全然あってね、だから任せっぱなしにしてしまった」
「──そんな素直に謝られるといつもよりキモチワルイなお前…」
「俺が普段からキモチワルイみたいに言わないでくれないか?
君よりは全体的にマシだと思うし。特に容姿とか」
「お前いちいち僕の容姿を貶さないと話せないのか!?」
「いや今回は君の方から突っかかってきたじゃないか」
まぁそれはそうである。
自分で思ってるよりも心に余裕がないのかもしれない。
「……とりあえず読ませない事を達成できたなら良いと思うぜ?
彼女と『仲良くなった方がいい』のは、その方が君の課題がスムーズに進むからで、神様の力が出て行く理由とは関係ないからな」
「それ僕にとっては全然よくなくない?
てかやっぱりそうだよなぁ…。
明らかに僕へのレクチャーだけおかしいんだよ、というか態度が全体的におかしいし」
「……へぇ、やっぱりその線に入ってるのか。
じゃあ保険を打っておいて正解だったな」
「──はぁ? なんだよそれ」
「いや別に? なんでもないさ。
……で、彼女の様子はどうなんだ? 今日は登校してきたんだろ」
「……あぁ、それは────」
╳ ╳ ╳
同日。昼休み。
神選学園(空の上)。
先週の金曜日から大幅なカリキュラムの変更があった。
A~Dクラスの面々、あと裏ではおそらくGクラスもだろうが、願能持ちの生徒は通常授業よりも神器の具現化が最優先事項となった。
そのため通常授業は午前中まで、午後からは空の上の学園にて具現化の訓練を積んでいる。
なんでも教室の時間を止める機能には厳しい制限があり、ケイナが駆け回って使用時間の延長申請を行っているらしい。
その申請が通るまでは通常の時間の流れの中での訓練となった。
とりあえず昼休みからは空の上の教室に移動して、自分のクラスに荷物を置こうとした、けれど。
「──あっ! キスキさんこんにちは! 木曜日ぶりですね。
もしかして今からお昼ご飯ですか?」
「──え、うん。そうだけど……」
教室に来てみると、僕とレンが普段座っている──いや。
普段というにはまだ木曜日と金曜日の二日間しか座ってないけれど。
とにかく僕らが普段使っている席の隣にマリアが座っていた。
「(……え、なにあれ。キスキお前マリーさんと揉めてたんじゃないの…?)」
「(いや、まぁそのはずなんだけど……)」
横からレンが小声で話し掛けてくる。
神書館での騒動はレンとマコトにも共有してある。
だからレンのこの反応は当然だ。
むしろおかしいのは今も僕にニコニコな笑顔を向けているマリアの方である。
「──どうしました? ……荷物。置かないんですか?」
「──いやぁ? 置く、けども……。
なんだろう。なんとなく、今日はこっちで授業受けようかしら…?」
「……え? ちょっ。じゃ、じゃあ俺も今日はこっちかなーー……」
僕は本能に従って彼女の目を見ないようにしながら話す。
なんとなくマリアの隣には居づらい。彼女には一段前の席で授業を受けてもらうとしよう。
そして僕はいつもより一段後ろの席に荷物を置いた。
するとレンも僕に続いて一段後ろの席に荷物を置く。
それに続いてマリアも荷物を一段後ろの席に置いてきた。
つまりは僕の隣の席に──あれ……?
「──では私もこちらに座りましょうか」
「「──え…。」」
「──なにか?」
「──いや、べつに……」
マリアの顔を直視できない。
無言の圧をヒシヒシと感じる。
レンに助けを求めようと目線をやると、すぐにそっぽ向いて、我関せず。といった態度を取りやがった。
──おい従者ぁ! てめぇッ……!!
「──ところでキスキさん、お昼ご飯はいつもどうされてるんですか?」
「──え、どうって?」
「お弁当とか用意されてるんですか? それともどこかで買われるのかしら」
「ま、まぁ大体いつも購買で買ってるけど──」
「──そうですか! 私今日、なぜだか分かりませんがうっかりお弁当を二人分作ってしまったのですが、キスキさん食べるの手伝ってくれませんか?」
「──え、なにそれちょっと待って、あの──」
なぜだか分からないままお弁当を二人分作っちゃう奴いるぅ?
──いねぇよなぁ!!?
明らかにおかしい言動に驚きながら再びレンの方に助けを求めるけれど、やはりこいつ目を合わせない。
ただ座って静かに息をしている。まるで置物のようだ。
──コイツ自分だけ安全圏にっ! 許せねぇッ……!!
「──なるほど。じゃあこの明松ってヤツが実はめちゃくちゃ食いしん坊なんだけど、コイツに手伝ってもらうのはどうだろう?」
「──おいふざけんな! めっちゃ小食だわッ……!!」
「おいおい遠慮するなよ、将来はフードファイターになりたいっていつも言ってるくせに」
「──ひとっことも言った事ねぇよそんなんっ! 捏造してんじゃねえぞ、このッ──」
「──残念ですが三人分はないので、明松さんとはまた別の機会にお話できたらなって思うんですが」
別にお弁当をレンに分けないにしても一緒にランチタイムを過ごす事はできるというのに、暗に二人にしてくれと言っているらしい。
けれどもそれは流石にレンも頷かないだろう。
木曜日の神書館での出来事を知っている以上、危険人物と僕を二人きりにするとは思えないし──
「よし分かった! マコトには今日キスキは来れないって言っとくから!」
「──はぁ…!?」
レンはそう言うと早足で教室を出て行った。
──ちくしょうあいつ逃げやがったッ…!!
「カガリさんって良い人ですね。お友達になりそうです。
──ダレカサントチガッテ」
「──え……?」
「いえなんでも。食べましょうか」
マリアはそう言ってカバンから弁当を二つ取り出した。
──いややっぱりおかしいよ! どうして偶然二つ作るんだよ!!
このままではヤバい! なにか怖い事が起きる気がするッ…!!
ていうかこの状況が既に怖いけどもッ───ハッ……!!
「そしたら飲み物 買ってこようかな!
ちょっと自販機まで行ってくる────」
「飲み物もこちらで用意しましたので。
どうぞお茶です。お弁当も冷めてしまいますし」
「──いやでも、その─」
「──なにか?」
「──いや、べつに……」
僕はもう抵抗できず、言われるがままにお弁当の包みを広げた。
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