第二章 38 | 最初の課題 ②
◇ narrator / 来次 彩土
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「────今から君たち全員に、神様の武具を具現化してもらう」
「……神様のぶぐ? っていうのはなんですか? どうしてソレをぐげんか……? するのが課題なんでしょうか?」
ケイナに聞き返すように、どこからともなく声が聞こえた。
クラスメイトの誰かだろう。
他の生徒も同じ疑問をもっているらしく、教室中がケイナに向かって視線を投げる。
「そうだね、順を追って話そうか。
まずはこの鍵器と、コレに繋がっている神器というモノの説明からだね」
ケイナは自分の手元にある鍵器を見せながらそう言った。
そのまま黒板に視線をやると、チョークで書いたわけでもなく用語やら図形やらが浮かび上がった。
実は液晶になっていて映像が流れているのかと思ったがそうではなく、彼女が思考した内容がリアルタイムで勝手に浮かび上がっていく謎仕様のようだ。
またぞろ空の上の不思議アイテムらしい。
「この鍵器はね。
世界中の神話、英雄譚で語り継がれる神器という武具に繋がっているんだ。
名前の通り、神器へと繋がる鍵であり、自らの器を変えて神器を具現化する、とても貴重なモノなのさ」
説明を聞きながら自分の鍵器とやらを触ってみる。
見た目としてはただの白い筒だ。
これが神器とやらに繋がっていて、自らの形を変えるという。
「まぁ全ての神器が武具かといわれると違うけどね!
ひたすらに持ち主の徳を上げるモノや、使い道が不明なマイナーなモノなど、多種多様な神器がある。
……日本で有名なモノだと『三種の神器』かな?
今回の課題では武具に限定して具現化を行ってもらうが、時間がある時にその手の器を現すのも問題ないので、興味のある者は挑戦してみてくれたまえ!」
ケイナは話しながら黒板に説明を追加していく。
……へぇ、神器は神具と呼ぶ場合もあるらしい。
神器を具現化する行為を『現す』とも言うのか。なるほどなるほど。
「神器を具現化する工程はシンプルだ。
まずはその神器を扱っていた神や英雄を深く知る事。
次に神器そのものの用途・形状・質量・伝説を記憶して、ソレが手元にある様を具体的に想像する事だ。
これに成功すれば、鍵器は君たちが思い描いた神器のカタチを取ってくれる」
ケイナはそう言いながら手元の鍵器を僕たちに見えるように突き出した。
そのまま目を閉じて、もう片方の手を白い筒に添わせる───と。
白い筒は形を変えて、次の瞬間には純白の長剣に成っていた。
それを見てクラス中がザワつく。
ケイナは得意になったのか、もう一度手をかざして双剣に、その次は歩行を支えれそうな大きさの杖に、その次に白いシルクハットに形を変えた。
最後にシルクハットを回しながら頭に乗せてウインクする。
それを見てクラス中からパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
まるでマジックの一部始終を見せられたようだ。
「こういう風に1つの鍵器でいくつもの神器を現す事もできる。
つまり鍵器を持つ者ならば、理論上 世界中の神様の神具を具現化し、操ることができるわけだね。
君たちの才能や努力、神器との相性にもよるが、可能性は平等にあるのさ!」
ケイナは頭のハットを元の白い筒に戻すと、思い出したかのように話を続けた。
「──あ、けれど本当の意味で世界中の神器に繋がっているというわけではなくてね?
例えば本体が行方不明な器、本体の持ち神が鍵器との繋がりを拒否した器、単純に危険だからという理由で神々に繋がりを切られている器などがあるのさ。
今回はこちらで現在 鍵器と繋がっている神器をピックアップしまとめておいたので、この資料の中から好きな器を選んでくれたまえ」
「──さて、ではなぜ急にこの課題を君たちにこなしてもらう事になったのか、その理由だね。
こちらは大きく分けて ふたつある」
ケイナはこちらを振り向いてそう言うと、指を一本立てるジェスチャーをしながら話を続けた。
「ひとつめ。今から49日後の5/26日に、各国の神選学園の生徒を集めて『神具祭』という催しをする事になってね。
君たちにコレに参加してもらう事になったからだ」
どうやら急になにか行事をする事になったらしい。
春休みに届いた年間スケジュールには五月にイベントなんてなかった筈だ。
……いや待てよ、神具祭? なんだっけ、なんか聞き覚えというか見覚えがある気がする。
「神具祭は毎年恒例のお祭りでね。
去年までは19歳からの参加が義務だったが、16歳からの参加に変更になった。
さらに開催時期も毎年10月だったのが今年から5月開催に変更になってね……。君たちも参加する形になった。
神具祭に参加するには神器の具現化が絶対条件だからね。
だから急遽この課題をこなしてもらうことになったというわけさ」
19歳から16歳に変更という事は、今まで大学生以上の学生のみ参加のイベントだったのに、今年からは高校生からの参加になったという事か。
なんだか大人の仲間入りをしたような嬉しさがある。
やったぁ! 今年の高校生ラッキーじゃん! 楽しいお祭りだといいなぁ……
「ふたつめ。私としてはこちらの理由が大きくてね。
実は神器を具現化した生徒はその神器の持ち神から加護を受けられるんだよ。
なにか危ない目に遭った時に助けてくれたり、道を示してくれる時もある。
なにかしらの理由で急に神々が代替わりする時も候補者に上がりやすくなるし、空の上で就活するのにも便利だからね!
在学中に多くの神器を現せるようになっておくといいだろう!」
なるほど、神器を具現化できるようになると色々と得らしい。
ていうか空の上で就活できるんだなぁ──なんて思っていると、先日水族館で会った海馬に振り回されてた先輩が頭をよぎった。
そういえば公美崎先輩も神選学園の卒業生で働いていたんだった。
「……さて、言うまでもなくマリーさんはこの課題のサポート役として転校して来たわけで、私や彼女だけでなく他の神達も全力で君たちを導くつもりだが、うん…。
……最後に大切なお知らせがあるので、みんな心して聞いてくれたまえ──」
ケイナの言葉が小さくなっていく。
どうしたんだろう、すごく嫌な予感がする。
「──この神器の具現化というのはね。
1つの神器を現せるようになるまでに平均で4ヶ月、早い者でも3ヶ月は掛かるとされている。
しかし『神具祭』までは残り49日。2ヶ月弱ほどの時間しかない。つまり──」
考えてみれば当然である。
各国の神選学園とは違い、日本校のカリキュラムは始まったばかりだ。
去年まで大学生からしか神様になるための授業をしてなかったということは、数年単位で明確な差があるということ。
「──圧倒的に時間が足りない!
なので全員死に物狂いで頑張ってくれたまえ!!」
五月に突然増えた『神具祭』という行事、祭りという名称に油断したけれど、現実はとても厳しいらしかった。
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