第二章 20 |『邂逅』②
◇ narrator / 来次 彩土
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「………なるほどのぅ? そうか、お主は──」
どうしてかは分からない。
言ってしまえば勘だ。
ただ、そんな気がするという直感を感じた。
ケイナやヘルメスを初めて見た時に、人では無いと本能的に感じたのと同じように分かった。
そして続く言葉から、間違いないのだと確信する。
「──最高神の力のどれかを持っておるね……?」
やっぱりこの神が今の最高神、ゼウスか。
「……えぇ、自分では分不相応というか、人選ミスってるんじゃないかというか、まだ全然だなと思ってるんですけどね。それでも一応 持ってます」
ケイナから、現状大々的に引き継がれている神の御業は最高神のモノだけなのだと聞いた。
今回のヘルメスのように、神様の側から突発的に継がせようとしない限り、今の人間が最高神以外の神の力を宿す事はありえない。
この神もそれが分かってるからこそ『最高神』の力を持っていると判断したのだろう。
それが分かった瞬間に嫌な予感が走った。
そして同時に清光の言葉を思い出す。
『……いいか?
もしもこれからヤバいと思うような事があったら、
"なにも聞こえてないフリ"をするんだ。
"言っている意味が分からない"って反応はダメだ。
そしてそれを悟られるなよ? いいな?』
これから清光の言うヤバい事が起きるという確信がある。
なぜなら、
僕が宿してる神の御業は最高神の物だけじゃない。
恐らくヘルメスの力を持っているのがバレるのはマズい。
『言っている意味が分からない』っていう反応はダメで、
『なにも聞こえてないフリ』をしろって?
無茶を言うなよ清光。
こんなに真正面から向き合ってるんだぞ?
どんな難聴系主人公ですら無理がある。
……なら物理的に距離を取らないといけない。
そのヤバい事が起こる前に会話を打ち切り、この場を離れないとダメだ。
これも勘でしかないが、もう既にギリギリな気がする。
考えろ、会話を切りながら、悟られずに距離を取れる、無理の無い一言を。
なら──、
「──ところですみません。トイレどこですかね?」
╳ ╳ ╳
「……ふむぅ、トイレとな? お腹でも痛いのかね?
であればこのまま真っ直ぐ進んで右に曲がり、空中回廊を通って行けば、突き当たりが男子トイレになっておるよ」
「なるほどありがとうございます。ご丁寧に助かりました、では失礼します!」
よっし! だいぶ無理矢理ねじ込んだけど普通に教えてくれたぞっ!! このまま逃げるしかない。
「あぁそうそう、教室に行きたいのなら一度下へと降りるのが良いと思うのぅ。
上へ行く程に、神に近い者や神との縁を結んだ者しか入り込めない造りになっとるのでな。
当然来たばかりの生徒達が探す教室も、下にしか存在しないのじゃよ」
「なるほどありがとうございます。ご丁寧に助かりました、では失礼します!」
すごい丁寧に教えてくれるじゃんこの神……
なんでヘルメスはこんな良い神と敵対してるんだろう?
まぁいいとにかく距離だ。今は何よりも、聞こえてないふりが通用するだけの距離を開ける必要がある。
僕は最高神にお辞儀をして、踵を返して早足で距離を取る。
その後ろから、神様が独りごちるのが聞こえてきた。
「それにしても、今回はだいぶ早いのぅ。
まだ正式な試練は1つとして行われてないというのに、この段階で既に2つも集めている者がおるとは」
「───……………。」
これか。
清光の言っていたヤバい事はこれだ、間違いない。
僕は勘違いをしてた。
さっき話していた時に、僕が神の御業を2つ持ってる事はバレていたのだ。
ただそれが、ヘルメスの力だとはバレてないというだけ。
そしてこのまま聞こえてないフリをして離脱しなければ、それを悟られる可能性があったのだろう。
つまりこの神は、僕が最高神の力を2つ集めたと勘違いしているという事か。
けれどギリギリだが、聞こえてないフリが通用する程の距離を稼ぐ事ができている。
最高神が割と小声で呟いてくれたのも助かって、どうにかこのまま離脱できる筈だ──、
「──お主、しばし待たれよ。止まれ」
「──────ッ…………。」
そのまま立ち去ろうとしたが、今度は聞こえないフリなんて通用しない程に強く、大きな声で呼び止められた。
同一人物の声だという事はなんとなく分かるが、声音が急に若々しくなった感じがする。
これは無理だ。このまま立ち去るなんて事は通用しない。
振り返って話をするしかない。
でも清光はあの時、『悟られるな』と言った。
誤魔化すしかない、僕に出来る事で、どうにか誤魔化すしか。
なら──、
『( ───変われ…… )』
僕は願能を使って自分の表情を塗り替えた。
焦ってテンパりまくった顔面を色を変えて誤魔化し、さも平然とした表情に造り変える。
そして深呼吸をして、恐る恐る背後を振り返った。
「──なんでしょうか? ……ていうかなるほど。急に若々しくてびっくりしました、凄いですね」
「いや本来の見た目はこちら だよ。
我ら神の見た目や価値観は神に上がった時に固定されるが、私ほどに古株となると、たまに老人として振る舞いたい時というのがあるのだ。
言ってしまえば趣味だね。ところで──」
まずい。
どこまでバレてるんだ? 何を間違えた?
そもそもヘルメス、貴方こうなる可能性を先に言っとくべきだったんじゃないのか!?
くそっ、本当にまずいぞ、どうする?
ヤバい、ヤバい、ヤバいッ──、
「──君の名前をまだ聞いてなかったな? 教えてくれるだろうか?」
「──え? 名前、ですか……?」
若々しくなった最高神との距離は7、8メートル程。
心臓が破裂しそうなほどにバクバク言っていて、顔を能力で誤魔化してなければ、冷や汗も掻きまくっていただろう。
もう少し近ければ気取られていたのかもしれない。
いや、それとも実は全部気付いてたりするのか?
でもこうなると、どっちにしろ僕はバレてない方に賭けるしか道は無い。
「──自己紹介が遅れてすみません。
……来次 彩土って言います」
僕の願能は色を変える事しかできない。
だから声音が震えてたりするとどうしようも無い。
名前を言うだけの本当に単純な自己紹介でも、最大限に気を遣い、どうにか絞り出した。
「──そうか、キスキハニね。……なるほど?」
最高神の表情は特に変わり映えせず、そこから何かを読み取る事はできない。
ひたすら無感動で刺すような視線を突きつけてくる。
ていうか「なるほど」ってなに? 超 怖いよやめてよ……
さっきおじいちゃんだった時の方が愛嬌あって良かったよ?
お願いします。戻して、お願い……
「……キスキハニ。その名前覚えておこう。
君はなかなかに優秀なようだ、私の後を継いでくれる事を祈っているよ。
呼び止めて悪かったね、……行くといい」
「──もちろん、やれるだけの事はやるつもりですよ。
こちらこそお時間頂いてすみませんでした、……失礼します」
僕は再びお辞儀をして踵を返した。
どうにかこれで、やり過ごす事ができただろう。
でも──、
『私の後を継いでくれる事を祈っているよ』
その言葉からは本気度を、芯を感じた。
私の後を? それはどういう意味で言った言葉だったのか。
やり過ごせたと判断するのは、まだ早いのかもしれなかった。
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