第二章 16 | 神様の隠しごと ①
◇ narrator / 教える半神
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「──してやられたみたいだね、ヘルメス」
「……ケイナか。お前いつから見ていた?
覗き見とは趣味が悪いぞ」
ハニ君が門をくぐってからそろそろ五分程 経ったか。
あの子と別れてからずっと下の世界を眺め続ける君に、私はどうしても言ってやりたい事がある。
今 君が見ていた場所はどこだ?
どうせいつも通り、帰るつもりもない旧い家を見ていたんだろう?
そこまで思い詰めるのなら、何故もっとあの子と話してやらないんだ。
どうして深く触れ合おうとしないんだ、君は。
「……君達がここに到着した時から見ていたさ。
私がハニ君の通過を一番に祝福しに来るのは当然だろう?」
「ならばコソコソせずに出てくれば良かっただろう。何故そうしなかった?」
本来は君がそうするべきだと言う皮肉を正面から突きつける。
それでも君は怯まない。
皮肉だと分かった上で、何故そうしなかっただと? どこまでもふざけた男だ。
……全然あの子と似ていない。これっぽっちも似ていない。
「いや私も話し掛けようとウキウキで待っていたんだが、君が一緒だったからね。
……流石に私も気を使っただけの事さ」
「──…………。
それは要らぬ気遣いだな、馬鹿め」
ナジってナジって、ようやく声音に変化があった。
でも今の言葉は嘘じゃない。気を遣ったのは本当の事だ。
……いや、ヘルメースの力で嘘じゃないと分かったからこそ、君は動揺したのかもしれないけれど。
「ともあれ彼が無事に辿り付けてなによりだよ。
君の筋書きではどうせ通過させずにGに落とす予定だったんだろ? どうだい悔しいかい?」
「……ふんっ、そうだな。
あぁ悔しいさ、悔しいとも。悔しくて悔しくて仕方ないなぁ! 全く本当にやってくれたよ、あーあーヤダヤダ」
そういうヘルメスの表情には悔しさを感じる事はない。
どころか嬉しがっている風にも見える。
「……悔しくて仕方ないだって?
ヘルメスの立場で安い嘘を吐くなよ。
少なくともさっきハニ君と話している君は全く悔しそうには見えなかった。
むしろなかなか楽しそうだったぞ? 何時ぶりに見たかと思うほどに自然な笑顔だったとも。
……とても喜ばしい光景だったよ」
「今更 私に、──いや。
今更 僕に、何を期待しているんだお前は。やめておけ」
そう言いながら、視線を再び下の世界へとやる。
明確に話を切ろうとしているのが伝わった。
それでも君が視線を向けた先が、想像する通りやはり旧家だと気付いて、私はどうしても期待してしまう。
「私も別に君に期待などしていなかったさ。
……さっきまではね」
「勘違いだやめろ。私はもう行く、あいつは恐らくBクラスだろうから、会いたいのなら会いに行くがいい。
……あいつを頼んだぞ、ケイナ」
私に頼むな。
一度くらい向き合ってあげるべきだ。
いつまでそうしているつもりだ、この度を超えたコミュ障め。
いくらでも皮肉が浮かぶけれど、それらを言う事はない。
君の成そうとしている事を知っておきながら、それでもナジる私の方が間違っているのだから。
だとしても、やはり今日の君にはどうしても期待してしまう。
私は早足で歩き逃げるヘルメスの後ろ姿に、大きく声を掛けた。
「──それにしても分かりやすい嘘を吐いたものだよなぁ ヘルメス!
君、実はヘルメスに向いてないんじゃないか?
それともあえて分かりやすい嘘を吐いたのは、
もしかすると気付いてほしかったのかもしれないがね!!」
「………どの嘘の事を言っているのか分からないな。
普段から嘘ばかり吐き続けてると、こういう時 本当に困るよ」
「──Gクラスにハニ君を迎えたかったのは、神の座を継がせるだけが目的じゃないだろ!
君はあの子と堂々と触れ合える場所が欲しかったんじゃないのか!!」
「………何度も言わせるなよ。勘違いだ、やめろ」
振り返らないまま、ヘルメスは足早に去っていった。
私の『教える』神の御業は人に教える以上、色々な事が高い水準でできる。
しかし嘘を見抜く力は持っておらず、最後の言葉が嘘なのか、私には判別する事ができない。
それでも。
「全く白々しいな、バレバレだぞ。やはり君はヘルメスに向いてない」
『──だから仲良くやろうぜ。兄弟』
「何が兄弟だ、本当に分かりやすい嘘だよそれは。
それでいて、裏の本意があの子に伝わる事は確実に無い、とても卑怯な言葉だ。相変わらず本当に、やり口が小狡いな」
私は奴がさっきまで見ていた下の世界へと目を向ける。
そして同じ場所へと視線をやる。一件の染物屋へと。
「蛙の子は蛙というけれど、願わくばハニ君には、君のそういう部分が似ないでくれると嬉しいがね」
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