第二章 15 | 神様の世界・12庭《オリュンポス》
◇ narrator / 詭弁の神
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「うぅわぁあああああぁ!! すっごい……、えぇ、めっっちゃいい眺めじゃんこれヤッバイなぁ。ヤバい、ほんとテンション上がる……」
「なるほど、お前は喜ぶタイプだったか。
私の時はめちゃくちゃ怖かったし、高所恐怖症だったから慣れるまでは地獄だったがな……」
下の世界を眺めながらはしゃぐなんて事、私には到底できなかった。
神を脅して交渉をしてくる事といい、肝が据わっているというか怖いもの知らずというか。
「まあ正直言えば僕も高いところめっちゃ好きってわけじゃないですし、普通に怖いっちゃ怖いんですけど、だとしてもこの風景は興奮しますよ……写真取ってもいいです?」
「別にいいがそれも情報規制の対象になるから気をつけろよ?
願能持ち意外に嬉々として見せて見ろ。
お前が写真を見せる際のテンションに合わせ、スマホ内の他の画像が変わりに相手に伝わる形になる。場合によってはアダルト画像を布教する変態になるからな……?」
「なんだそれ嫌すぎる。地獄じゃないですか……」
「その場合本当に地獄を見るのは18禁画像を見せ付けられた相手だがな。
家族とかに自慢したら色々終わるからほんと気をつけろよ? ソースは私だ……」
「いや急に学生時代のトラウマ? を共有されても反応に困るんですけど。
でもなんかご愁傷様です、きっと良いことありますよー」
そう言いながらひたすらにスマホのカメラで写真を撮り続けている。
こいつ適当言ってやがるな? スレスレで嘘という訳でもないようだから許してやるが。
「──さて、景色を堪能したのならさっさと教室に進むがいい。
自然とお前に相応しい教室に着く筈だ。まぁ恐らくはBクラスだろうがな」
「それって場合によってはGに行く可能性もあるんですか?」
「いや、Gには通過しなかった生徒しか行く事はない。
だから毎回ギリギリ2桁に届く程の人数しか集まらないのだよ、少数精鋭っぽくてかっこいいだろ?
今からでも迎えてやるぞ? 考え直すか? 来次彩土」
「──やめてくださいよ、約束したでしょう。
僕が受けるのは貴方との個人的な授業だけで、Gに行く事はない。そして貴方から学ぶ事や受け継いだ力は、最高神を目指す為にも利用させてもらうって」
そう、その変わりにお前は神々へのリークをやめ、私は空の上へとお前を送った。
私は完全な形ではないにしろ、当初の目的をある程度達成する事ができた。
だが──、
「私はそれでいい、それで充分 目的に添うのだからな。
だがお前は、いや、色々仕向けた側である私が言うことでもないだろうが、お前は本当にあの条件で良かったのか?
……後悔は無いのか?」
「────………無いですよ、全然。
そろそろ教室に行ってきます。送ってくれてありがとうございました、ヘルメス」
「…………これからは敬語でなくていいぞ。
お前は私と対等な立場で交渉をしたのだからな。
そして本気度は違うとしても、共通の目的を持ったパートナーだろう。
───だから仲良くやろうぜ、兄弟」
「誰が兄弟だやめろ。距離の詰め方がエグいんだよ」
少し怒気を含んだ声でそう言うと、来次彩土はもう一つの学園へ続く門をくぐって行った。
あの先には学園へ続く巨大な橋があり、そこからは絶景が見える。
それで少しは気が紛れるだろうか。
見えなくなった後ろ姿を思い出しながら、同時に僅かな後悔を感じていた。
『────………無いですよ、全然』
当然そこは嘘だろう。
経験上、一種類の神の力を抱えるだけでも相当にシンドい事を知っている。
だというのに。
いまや最高神の力が「左手」に、ヘルメスの力が「口」に、相反する二つの御業が宿ってしまった。
だというのに───、
『送ってくれてありがとうございました、ヘルメス』
「だというのに、そっちの方は嘘じゃないのか。
そもそもお前の転送を止めていたのは私だろうが。
そのうえで、元凶に『ありがとう』だと? 馬鹿め──」
以前は苦手だった下の世界の風景も、今となっては好きになっている。
なぜならここから見える下の世界と同じように、小さな迷いや後悔も、本当にちっぽけな物だと感じる事ができるから。
「──やはりお前はどんな時でも優しいな、ハニ……」
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◇ narrator / 来次 彩土
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「ていうか学校っていうよりは『城』だよなぁ、これ……」
下の世界の学園も中高一貫のエスカレーター式だけあって相当に広い造りだったが、ここは比較にならない程に広い。
見た目やカラーリングなど、下の世界の学園と所々 似た部分はあれど、スケールが明らかに段違いだ。
特に全体的に高さが違い過ぎる。近い建物で八階、遠くに見える建物だと……あれは何階の高さがあるんだ…? 数えるのも億劫になるほどに高い。
それらが連なって『城』といった外観を成していた。
その城の中でも取り分け高い建物が中心にあり、見た目としては完全に『塔』だった。
城の中心に、突き抜ける程に高い塔がある。
「うおぉ、てっぺん見えないのかぁ、すげえなぁ……」
塔は高さが凄まじく、頂上が見えない程だった。
途中から分厚い雲が邪魔をして塔の先を見る事ができなくなっている。
塔の側面には違う時間帯を差した二つの巨大な時計が付いていた。
「なんだあの時計デカ過ぎるだろ。それに2つも要る?
──ていうかあの雲の上に、まだ何かあるのか……?」
見えない以上 確かな事は言えないが、塔の頂上には何か他にもある気がする。
僕は雲の上に気を惹かれながらも、自分の教室を探して歩き始めた。
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