第二章 13 | 候補者の計りごと ③ / セカンドネゴシエーション ②
◇ narrator / 詭弁の神
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勝った。
いや、正確にはもう負ける事はないと言うべきか。
この状況になった時点で、どうあれ私の望みは叶えられる。
来次彩土がGクラスに落ちるのなら、これから先 いくらでも時間を掛けヘルメースを継がせる為の準備ができる。
逆にこの状況を切り抜ける程の策を、来次彩土が私に見せつけたとしよう。
それはつまり。
お前が私よりもヘルメースに相応しい事を『証明』した事になる。
お前は既に、初日に私の『詭弁』をはねのけた。
今回の『計略』にも対処できたなら。
その時点で少なくとも詭弁と計略はお前に移す事ができるだろう。
そうなればあとは『雄弁』と『伝令』を移すだけで条件は整う。
私の目的はほとんど達成されたと言える。
先程の校内放送は確かに焦ったが、あの程度の言の葉ならば、まぁ誤魔化せない事もない。
おかげでパーフェクトゲームと呼ぶのは難しくなったが、それでも私の勝ちは揺るがない。
「来次彩土、そろそろお前の答えを聞こう。
このまま何もできずにGクラスに来るのか?
それとも何か、この状況を切り替える手段をお前は用意しているのか?」
「──これだけ大掛かりな事をして『危険分子』ってのを炙り出したんだから、Gクラスってのは凄く居心地が悪そうですね」
窓脇に移動しながら、来次彩土は小さな声で呟いた。
諦めからくる諦観の言葉だろうか。
欲を言えばこの状況を打ち破る方に行って欲しかったが仕方ない。
諦めると言うのなら、あとは私が導けば良いだけの事。
「……まぁそうだろうな。
お前のように無理矢理落とされた者とは違い、真に異端な者ばかりが集まる事になる。
良かったな、きっと動物園並みに賑やかな学園生活が待っているぞ?」
「その誘い文句は全然ソソられないな。
僕どっちかと言うと水族館の方が好きなんですよね、昔から姉によく連れて行ってもらったりしたんです。
あ、そういえばあの空の上の世界に水族館ってあります?」
「? ……まぁ あるにはあるさ。
こっちでは伝説上の生き物として扱われている生き物も居たりする」
「へぇ それは見てみたいな。とりあえずそこには行くことにしようか」
なんだ? このなんの意味も無いような会話は。
なんでそんな世間話をするような風で佇んで居られる……?
「──待て、一体なんの話をしているんだお前は?
私の質問に答えろよ、来次彩土」
「いや任せっきりは良くないかなって思って。
僕の方でも少しくらい、回る場所の候補を考えておこうかなと」
「……本当になんの話をしているんだお前は?
私に分からない話をするな、そして質問に答えろ。
お前はどうするのだ…?」
煙に巻くような物言いが癪に触る。
ようやく窓の外に向けていた視線をこちらに向けたと思えば、来次彩土は短く言った。
「空の上には絶対に行くって言ってるんですよ。
──ヘルメス、窓からグラウンドを見てください」
「…………なに?」
手を振る仕草で窓の側に進むように促して、同時に自分は窓から数歩分距離を取った。
それに従って窓から外を覗けば、その瞬間 来次彩土の考えに気付かされる。
「────これは、そうか」
「今、貴方の網膜に映る色だけを変えています。
やろうと思えば一瞬で、他の人にも見えるように浮かび上がらせる事ができる。
空の上の沢山の神様にもきっと見えるでしょうね」
「……あくまで私を脅そうというのか。
そして空の上に送れというのだろう?
だとしてもさっきの放送と同じだよ、やりたければやればいい。
お前を通過させない事の方が何倍も大事だ」
言葉だけでなく視覚的な物的証拠まで突きつけられるのは確かに困る。
神々を誤魔化せたとして、私もタダでは済まないだろう。
疑われてしまえば、その後 最高神派の神々に常にマークされる事になる。
それでは今までより格段に動きにくくなってしまうのだから。
確かにこれは私もキツいが、だとしても引く訳にはいかない。
「別に脅そうなんてつもりはないんです。
でも貴方もできるならこれ以上かき回されたくはないでしょう?
それに僕が完全に勝つ事もできないみたいですからね。
もうお互いに、100%思い通りになる事はない。
……だからこそ、対等な立場で交渉がしたい」
「──交渉だと?」
なるほど。
私の計略を完全に破る事はできずとも、全て思い通りになるつもりもないという事か。
「貴方の狙いは分かってます。
だから『詭弁』を貰いますよ。
そしてこれから先、最高神を目指しながらヘルメスに成る為の準備もすると約束する。
……なので僕を、空の上の世界に送ってください」
「──ほぅ?」




