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異界者の選択  作者: 百矢 一彦
第一部
7/62

地蛇


 洞窟を出て4日目、

レジーナの気さく過ぎる性格にも慣れ、ギンコも前より自然に接してくるように感じ、旅は順調に進んでいた。

熊やオオカミなどにも途中で遭遇したが、ほとんどは向こうが逃げて行った。


昼前に少し大きめの河に出た、川面は崖下になっていて流れも強い、

どうするのかと見ていると、レジーナが木に掛かっているツルを一本切って来て、その先に適当な石をくくり付けると、ぐるぐる振り回し、向こう岸の木に投げつけ、あっという間にツルを渡してしまった。


ギンコもレジーナも何事も無いように、そのツルの上をピョンピョン渡っていく。

かなりの高さ、下は濁流である、シグルはびびってなかなか渡れずにいた、

ギンコとレジーナが、何をしてるんだ、早く来いとばかりにこちらを見ている。


仕方なくシグルは、ツルにぶら下がり、足を絡めて恐る恐るわたり始める、蜘蛛子が命綱よろしくツルに糸を輪っか状に掛けてくれた。

「あいつは何をしてるんだ?」とレジーナがいう、

「多分、ああやって渡るつもりなんだろう」とギンコが冷たく返した。

「はあ?バランス感覚の強化魔法が使えないのか?」

「いや、使えるのだろうけど、知らないんだろう」

「な、あれはおまえの主であろう、教えてやればいいではないか」

「面倒くさい」

レジーナはギンコの顔をみると、ヤレヤレと首を振った。


シグルが半分ほど渡り終わると、蜘蛛子が糸を対岸の木に飛ばし、シグルを引っ張ってくれた。

無事渡り終わったシグルは、蜘蛛子凄いな、助かったよと喜んでいる。

その様子をギンコとレジーナは冷めた目で見ていた。


河を渡ると、植物の種類が変わり始め、動物たちの数も種類も増えたように感じ、環境が変化してきた事が判るようになった。

木と木の間隔も広くなり、密林と言う感じではなくなってきている、所々湿地帯のようになっていて、開けた場所も出てきた。


大きなヘラ鹿が目の前を通る、元の世界の象ほどの大きさがあるのじゃないかと思う程立派だ、

大型の鳥が突然草むらから飛び立ってビックリしたりと、シグルは周りの景色に気を取られ、遅れ気味になった。

ギンコと先に進んでいるレジーナが、早く来いと手を振っている。


これは不味いとシグルが足を速めようとしたとき、突然、蜘蛛子がマントから飛び出し、シグルの胸の当たりに糸を回したかと思うと、高い木の枝に糸を飛ばしシグルの体を持ちあげた。

何が起きたのか判らず、シグルが必死に枝にしがみ付く、間髪入れず今までシグルがいた場所の地面から、大きな口が飛び出してきた。

それは、凄まじい大きさの蛇の口だった、胴の太さは大木よりも太く、頭だけで人間の大きさがある。


いち早くギンコが駆け戻り、シグルがいる木の下で身構える、その後、レジーナがジャンプ一番大蛇に切り掛かった、首元に傷はつけたがダメージは無い。

ギンコの体中の毛が逆立ち、目が燃えるように赤くなった、すると風が湧き立ち、ギンコの体を包む様に渦を巻いたかと思うと、もの凄いスピードで大蛇に体当たりを喰らわす。

大蛇はたじろぎ、地面の中に潜っていった。


「油断するな、地蛇だ、こいつの大地魔法はやっかいだ」

レジーナが声を上げる、シグルには何を言ってるのか判らないが、やばいという事だけは判った。


しばしの沈黙の後、地響きと共にシグルが捕まっていた大木が大きく揺れ始める。

なんだよ、あくまで俺狙いなのかよ、やばいじゃん。

シグルは出来る限りの身体能力向上の魔法を自分に掛け、木から飛び降りミスリルパイプを手に持った。

木の根元が盛り上がり、大木が倒れる、その盛り上がりがまるで波のようにシグルに迫って来る。


レジーナはこれは不味いと少し慌てて、地面に剣を差し「走れ稲妻」と声を上げた、

するとレジーナの剣から波の様に動く盛り上がりに稲光が走った。

シャーー、と声を上げて大蛇が飛び跳ねるように地面から飛び出る、そこにギンコが発した風の刃が切り掛かった。

大きく口を開けて苦しむ大蛇、その開いた口をめがけて、シグルがミスリルパイプで火の玉を打ち込んだ。


大蛇は大木をなぎ倒しながらもがき苦しんでいるようだが、致命傷には程遠い様子だった。

その後もレジーナとギンコが攻撃を繰り返すが、あまり効果が上がらない、

こいつの弱点はさっきの稲妻か?、

それならばとシグルは、この世界に来たときの落雷をイメージしながら、ミスリルパイプに魔力を籠める、

レジーナとギンコが大蛇から離れたタイミングで、腕を伸ばしパイプに力を強めた。

「いけ、電磁砲だ」

ミスリルパイプの先から光が迸る、光はシグルの狙い寸分たがわず大蛇の口元に命中した。


大蛇は痙攣しながら大きな音を立てて横たわった。

「なんだ、いまのは」レジーナがビックリした顔でシグルの方を見る、

「び、びびった」ギンコは硬直したままだった。

当の本人シグルも、「こりゃたまげた」と呆けていた。


少し落ち着いて、レジーナが大蛇の止めを刺そうと剣を構えようとするのを、ちょっと待ってと手で制してシグルは大蛇の顔の前に進んだ、

「おい、意識はあるか?、もし、俺の仲間になるというなら命は助けてやる、どうする?」

と大蛇に向かって話しかけた。

大蛇は薄目に開けた瞼を、一度瞬きさせた。

よし、とシグルが大蛇に向かって手の平を向ける、確かな手ごたえの圧が手の平に帰って来た。


その様子を、ギンコとレシーナは驚愕の表情で見ていた。


しばらくすると大蛇は弱々しく動き出した、

「お前の名前は今日から蛇太郎じゃたろうだ」シグルがそう言うと静かに土の中に潜っていく、シグルは満足そうに笑っている。


「地蛇だぞ、ワームとは訳が違う、あれを従魔にしたなど聞いた事が無い、それにあの魔法はいったい何だ?」

レジーナが呆れたようにギンコに言う

「我の方が聞きたいくらいだ、我の役目はあいつの監視なのかもしれん」

ギンコが引きつった顔で答えた。


いやあ、ぶっつけ本番であんなに上手く行くとは思わなかった、それにダメもとで聞いてみたが、あんな強力な魔獣、いや魔蛇かな、とにかく強力な仲間を作れて、ラッキーだよなあ。

シグルは、自分のしでかした事をよく理解せずに、無邪気に喜んでいた。



その後、しばらく沈黙のままシグルの前を歩いていたギンコとレジーナだったが、突然レジーナが笑い出した。

「フフフ、面白い、面白いぞ、あのような場所に人族が現れたので、気になって様子を見に来たが、儂の想像をはるかに超えていた」

ギンコはしらけた顔でレジーナを見る、

「よし、儂もあ奴に着いて行くと決めたぞ、しばらくお前に付き合ってやろう」

ニコニコ顔に戻ったレジーナは続けて言った、

「まあ、断っても無駄だろうから、好きにすればいい、我の手には余りそうだし」

ギンコは、はぁとため息をついた後、元気なく答えた。


「だがな、麒麟に会うのは御免だ、儂はこの先の様子を見て来るとするよ」

そう言うとレジーナはシグルの方に振り返り、(また会おう)という思念を送り、方向を変えて森の中に消えていく、シグルは、あの人は一体何者なのだろうと思いながら、その後姿を見送った。


ギンコの(こっちだ)という思念で先に進むと、少し開けた場所に、小さな畑とこじんまりとした山小屋が見えて来た。

どうやら予定より早く目的地に着いたようだった。





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