中央の情報
シグルは、そんなレジーナ達の様子を横目で見ながら、
「中央の人間が、このような所で何をしているのか、心当たりはないのか?」
とクラークに聞く、
「うーん、目的はわからないが・・・、中央の人間と言っても、裏側の仕事の人ですからね、良くない事なのは確かでしょうな、若い女性の拉致もおそらく」
クラークもお調子者の顔を潜めて、真剣な顔で答えた。
「特殊部隊が関わっていて、裏の人間が指揮を執ってる、となると女性拉致は、中央が密かに領主が不在なクランタ領を狙って行ってるとみていいな、その為にプレイベン卿への領土譲渡も遅らせたとみていいだろう、問題は、何の為にそんな事をしているかだな」
とシグルが言う、
「噂ですが、中央で魔石を取り扱う商人が、いい歳をして無類の女好きだと聞いた事があります、一部では、魔石を手に入れるために女性が必要なんじゃないかとの噂もあるほど、多くの女性を買いあさっているとか、その魔石商が最近大量の魔石を売りに出したとか、こうなると無関係とは思えませんね」
クラークはそう言って立ち上がると、
「ちょっと失礼します、私の方でも少し調べてみましょう」と言って部屋を出ようとする、
「あ、皆さんの部屋はご用意してあります、調べ物が終わるまで滞在して頂いて結構ですよ」
と振り返り、そう言ってウインクして部屋の外に出て行った。
クラークが出て行ったあと、残っていた執事に、
「すまぬが席を外してもらえるか」とレジーナが言う、
執事は、「かしこまりました、御用の際は、そこのベルをご利用ください」と言って部屋を出て行く。
それを確かめて、レジーナは
「で、さっきの続きじゃが、あの司祭の話を聞かせてくれ」と改めてエクシアに聞いた。
「はい、それが、レジーナ様が森に降りられて以後、ハシスアベブ様が休眠されると、ハシスアベブ様を祭っていた司祭たちは急速に求心力を失い、祭殿を保つのもやっとという有様になりまして」
エクシアは、言いずらそうにそう話し始めた。
それでも、司祭ブレン・オブリアンは生涯ハシスアベブ神を祭り、信者たちの為に尽くしたのだという。
だが、その息子は、司祭になる事を拒み、すべては大天使レジーナ・ネイストのせいだとレジーナを恨んで生涯を送ったのだという。
エクシアも、その息子の事しか把握しておらず、その子孫までは判らないという事だった。
「そうであったか、ブレンは良き司祭であった、儂もよく覚えておる」
レジーナは寂しそうな顔でそう言った。
「まあ、それと、今度の件は関連性はないだろう、とにかく対策を練ろう、丁度情報屋さんがこの町に来たみたいだし」
とシグルは言った、蜘蛛子がザラードがこの町に入ったと思念を送って来たのだ。
「ああ、そうじゃな」とらしくない表情でレジーナは答えた。
シグルは、小鳥ゴーレムを取り出すと、メモを持たせザラードの許に飛ばした、
そして、「俺はちょっと出て来る」と一人で屋敷を出ようとした、
だが「我も行く」と言ってシルが付いて来る、レブラは何も言わず烏の姿になると、すでに屋敷の外で待機していた。
シグルは、たまには一人で歩いたいんだけどな、と思いながらも、二人の行動に笑みをこぼしていた。
テスラは、横目でこちらの様子を窺いながら、出された茶菓子を一人黙々と食べている、
元天族4人は、その横で暗い表情で沈黙していた。
指定先にザラードは馬車を止めて待っていた。
「俺がこの町に来たとどうやって知ったかは判らないが、便利な物だな」と小鳥ゴーレムを指に止めてザラードが言う、
「っま、その辺は企業秘密だ、で、例の魔石の出所だが、何か判ったのか」とシグルが聞く、
「ああ、苦労したぜ、まあ、大元の正体は判らないが、魔石を売りに出した奴は判った、ドラデアと言う商人でな、50過ぎの禿げ親父だ。女好きで有名らしいんだが、どうもそれには裏があるようだ」とザラードが言う、
クラークの言ってた事と符合する、信用はできそうだなとシグルは思った、
「裏と言うのは?」シグルは話の先を即した。
「ドラデアの魔石の購入先なんだが、ドラデアの手下に金を積んで聞いたんだが、帝都の北にある砕石所跡に暮らしてるらしいんだな、なんでも地下の魔物を手下にしているそうだ。恐ろしく強いのは間違い無いところだな、そいつが、魔石を渡す代わりに金ではなく、女と酒を要求してくるらしい」
とクラークは言う、
シグルは、砕石跡を住処にしてるのか、どっかで聞いた話だなと苦笑いした、
「そのドラデアという商人と、中央の特殊部隊と繋がりがあるという話は聞かなかったか?」
とザラードに聞いた、
「おや、そっちもそれなりに色々調べたんだな」とザラードはにやけた表情になる、
「こっから先は、少々お高くなるぜ」ともったいぶる。
「判った判った、少々の無理な注文は聞くよ、続きを聞かせろ」とシグルは言った、
「これは、城の兵に聞いた話だが、その砕石所跡の主が、先日直接城に現れたんだそうだ、そして、大量の魔石の報酬に、城に居る召喚魔法で現れた異界人の女を要求して来たんだそうだ、そりゃあ城中大騒ぎになったそうだぜ」
なんだって、
シグルはザラードの言葉に、流石に驚きを隠せなかった。
まさか、召喚された日本人が、そんな形で巻き込まれてるとは思っても見なった。
「それで、帝国はなんと答えたんだ?」シグルは少し慌てた口調で聞いた、
「もう一人の男の異界人の手前、流石に最初は断ったみたいだが、どうも、もっと高く売りつけようという勢力もあるらしくてな、未だに揉めてるらしい、取り合えず、その女と見合った女を見つけようとしてるという噂だ、どうもそれに特殊部隊が絡んでるらしい」
これは、のんびり構えてる訳には行かなくなったな、とシグルは焦りを感じていた、
「それでな、今、帝都では、光魔法か、聖魔法の付与された武器の需要が増えている、出来れば報酬はそれで頼みたいんだが、ある程度数も欲しい」とザラードは含みのある笑顔で言って来る、
「光魔法か聖魔法、という事は」とシグルが言うと、
「ああ、相手はおそらく魔族だ、帝都中央もそれに気づいてると言う事だな」とザラードが言う、
「判った、なるべく早く揃えよう」シグルはそう答え、クラークの屋敷に急いだ。