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異界者の選択  作者: 百矢 一彦
第二部
51/62

隣の貴族


 シグルとレジーナが蜘蛛子の思念を聞いて駆けつけたのは、もうすべてが終わってからだった。


カオス状態の現場で、

「えーと、どれが最初の賊で、飛び出してきた二人と言うのはどれだ?」とシグルは痺れて痙攣してる男たちを仕分けた。


レジーナは、天使三人を見つけると、

「お前らは、ここでいったい何をしている」と説教を始めていた。


「この連中はどうする?、役所に突き出すか」そう聞いて来たのは新手の賊を縛り上げたテスラだ。


「いや、どうやらそいつらは領主代理とグルのようだ、それでは返してやるようなもんだからな、一度フェルダーンに連れて行って、ルイナさんに尋問してもらおう、こいつらの装備はフェルダーンを襲った奴らと同じようだしな」と答えた。

シグルは、ケモリンからの情報で、領主代理とその取り巻きが賊と結託してる情報を得ていたのだ。


「さて問題は、美女三人を助けに入った、この二人だ、どうしたもんか」

とシグルが顎を摩りながら考える、

「わらわが記憶を消してやろう、そのくらい簡単よ」

そうテスラが言う、

二人は、痺れながらも必死に首を横に振っていた。


その二人に目隠しをし、最初に襲って来た賊は、普通に街にたむろしている不良のようだったので、テスラに頼み、一部の記憶を消し、悪事が出来ないように暗示をかけ、その場に眠らせて放置する事にした、警備の役人に渡しても、賄賂を受け取るのが関の山だったからだ。

新手の賊は、シグルがワープ魔法でフェルダーンに護送し、ルイナの特殊警備隊に引き渡した。


そして二人の痺れを魔法で解いてやり、宿に連れて帰り事情を聴くことにした、

美女三人もなぜかレジーナに連れられて付いてきていた。

レブラは、黒い翼を消すと、憮然としてさらにその後を歩いていた。



シグルが連れて帰った男二人を見て、留守番をしていたピテシアが、

「あら、お隣のお部屋の人といつお知り合いに?」と言ってきた、

あ、こいつらが隣の国の貴族か、とシグルは改めて二人の顔を見た。


一人は、まだ二十代前半に見える金髪の若者で、優男風だ、名前はクラークと言った、

もう一人は、三十代の経験豊富そうな顎髭を生やした男で、名前はダンツ。


「で、お隣の国の貴族であらせられるお二人さんは、あそこで何をしていたんですか、偶然あの場所にいた訳ではなさそうですが」

とシグルは、悪者では無さそうな二人に、普通の口調で聞いた。


「いや、我々はクランタ領の治安調査に来ていたのだ、最近治安が悪化してると聞いていたのでな」

とダンツが話し始めた。


クランタ領は、隣の領主プレイベン卿が、この夏から代理に変わって統治する事が決まっていたのだそうだ、所が、急遽中央の意向で延期されたそうだ。

その延期が決まったのと同時期から、クランタで女性が拉致されているという情報が入って来たらしい。


「どうもこれには裏がありそうだと思い、このような姿で調べていたのだ、そこに、拉致して下さいと言わんばかりの美女を見かけたので、後を付けていたという訳さ」


延期されたとはいえ、いずれは自領が統治する事になっている地、女性をさらう様な獣人の類が潜り込んでいるのを中央が隠しているのであれば、何らかの手は打たねば、と考えていたらしい。


「で、あんた達は、あの賊を何者と思ったのかな?」

と、シグルは試すように二人に質問した。


「それが・・、あの動き、只者では無いのは判るが、獣人でもなかった、いったい何者なのか」

そう言ってダンツは首を傾げた。

「うーん最初の連中は只の暴漢だったが、後からの連中は、中央の特殊部隊に近い装備をしてたな、でも、あいつらは今、獣人の街に行ってるはずだ、こんな田舎で人さらいするとは思えないけど」

と軽い口調でクラークがそう言う、

「馬鹿な、中央がなぜそのような事をする必要がある、それは考えられん」

とダンツが言う、

「ですよねー」とクラークは貴族らしからぬ態度で応じた。


「ふむ、俺の調べによると、クラークさんの考えが正しいかな、どうも領主代理は領内で女性がさらわれる事を知っていて、わざと放置したようだ、となると中央から何らかの指示があったと考えるのが自然だ」

そうシグルが言う、


「そんな、女性をさらうなど、中央でなにかあったのか」そう言って押し黙るダンツ、

「自分は、帝都から帰って来たばかりなのですが、あまり変わった様子は無かったかなあ、なんでも魔石を扱う商人がいて、接待が面倒だとかなんとか中央の役人が言ってたかな、それ位だな」

そうクラークが言う。


魔石を扱う商人、うーん、何か関連があるのか?、今はまだわからないな、


「仮に、中央がこの地で人さらいをしていたとして、あんたらはどうする気かな?」

シグルは二人に軽い口調で聞いてみた、


「そ、それは・・、何としても阻止せねばなるまい、中央とて表沙汰には出来ないはず、手荒な手段を取ったしても、何も言ってこれまいからな」とダンツが言う、

「でも、あいつらのあの装備、滅茶苦茶強いですよ、自分は訓練を見学しましたけど、どう体を鍛えれば、あの魔具のスピードと衝撃に耐えられるのか、不思議で仕方ありませんでしたよ。あれを相手にするなら、それこそ獣人でも連れてこないと」

クラークが両手でお手上げのポーズを取り、そう言う。


「貴様、それでも騎士の端くれであろう、何という事を言う、自分達で何とかしようと思わんのか」とダンツ

「ダンツさん、勝てないケンカをしたって誰も得しませんよ、不利なら不利なりに策を講じないと」クラークは物怖じすることなく言った。

「だからと言って獣人を連れてくるなど、それこそ中央に付け入る理由を与えるようなものだ」

とダンツは腕組をして、目をつぶってそう言う、


「ダンツさん、これは中央の方が法を犯してるんですよ、それを相手するのに、中央が押し付けている獣人排除を聞く必要はないでしょう、何か言ってくれば、逆に人さらいの証拠を突きつければいいんですよ、それに、それが出来ないなら、・・ばれなきゃいいんです」

そうクラークは、頭の後ろに両手を回し、背もたれにもたれて何食わぬ顔で言った。


これは、思ったより面白い連中だ、シグルがそう思っていると、


「ところで、あなた達はいったい何者なんです?、あの翼のお姉さんたち、人族じゃないんでしょ」

とにやけた顔でクラークが聞いて来た。


シグルは、ん、とちょっと考えて、

「俺達は、新しい回復薬を売って歩いてる商人だ、回復薬の他にも色々開発してて、あの翼は試作中の魔具なんだ」ちょっと苦しいか、と思いながらそうすっとぼけた。


「魔具?、魔法道具?、あれが?・・いやいや、それは無いでしょう」クラークが食らいつく、

「いいや、魔具だ、まあ信じられないなら、・・・テスラを呼ぶだけだが」と最終手段に出た。


「あ、信じます、あれは魔具です、間違いない」クラークは途端に態度を変えて言った。


「まあ、あれだ、俺達は幅広く商売をしてて、場合によっては傭兵の手配もしている、なるべくばれない連中をそろえる事も出来るぞ」

シグルは、そう言って二人にニヤッと笑って見せた。


「よく覚えておきます」クラークはそう言って、立ち上がり手を差し出してくる、

シグルはその手を握り返し、二人を解放したのだった。


二人が部屋を出た後、

さて、あっちはどうなってるかな、とシグルはレジーナの部屋に向かった。





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