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異界者の選択  作者: 百矢 一彦
第一部
5/62

出発


次の日、

「お主、この先どうするつもりじゃ?」

といきなり魔石先生が切り出してきた。


「へ?、まだしばらくここに居るつもりですが、・・・駄目ですか?」

卓は不意を突く質問に戸惑いながら答えた。


「別にここにいつまで居てもかまわぬのじゃがな、一度、森の外も見てきた方が良いかと思うてな、

外でやってみたい事とかは無いのかの?、人族とは群れる生き物のはずじゃが」


そう言われて、卓は確かに自分の思考は少し変わってるかもしれないと思った。

やってみたい事という訳では無いが、せっかく覚えた物づくりの魔法を生かしてみたいとは思っていた。

それに、一つ気になる事が無い訳でも無かった。

前に魔石先生が言っていた転移の魔法についてだ。


はたして元の世界に戻る魔法があるのか、この世界に自分の他に転移してきた者がいるのか、もしいるならそれは会って話してみたいとも思っていた。


「うーん、ここでの暮らしに不自由は無いのだけれど、確かにここがどういう世界なのかは気になります。街に住むなら物づくりを生かして道具屋でもやってみたいですね、それに俺の他に元の世界の人間がいるのなら会ってみたいとは思います」

と卓は正直に今の気持ちを話した。

「ただ、出られますかね、俺にこの森」とちょっと不安そうに外を見た。


「ふむ、森を出るだけなら、もう何とかなるじゃろう、新しい護衛も付いたようじゃからのう」

と狐の方を向いて魔石先生は意味ありげに言った。

ギンコは肩をすくめてみせたが、卓は気づかずにいた。


続けて「よいか、儂は今、お主に思念を使って意思を伝えておる、じゃが、外の世界ではこの世界の言語が出来なければどうにもなるまい、そこで、この森を五日ほど西に行った所に湖がある、その畔に麒麟族の男が暮らしているはずじゃ、まずはそこに行って言語習得の魔法を教わるとよいじゃろう。」


「キリン族?」、キリンって首の長いあのキリン?


「麒麟族はの、聖獣である一角獣の流れをくむ格式高い一族じゃ、物静かで博識じゃ、魔法についても詳しいからのう、色々教わるとよいじゃろう、まあ儂と同じで世間には疎いからの、何でも判るという訳には行くまいが、外に出る前に会っておけば役に立つだろうて」


あ、キリンって麒麟の方か、そうだよねえ、あの首は不便そうだものなあ、と首の長い人型を想像していた卓は、ふと、あれ、麒麟も結構首が長いよねと、ビールのマークを思い出しながら、またもや変な想像をしていた。


卓も内心これからどうしようと考えてはいた、方針が決まればあとは実行するだけだ。

出発は三日後と決め、準備に入った。


まずはスライムのスラジューと蜘蛛子に一緒に着いて来るかどうか尋ねた、二匹とも着いて来る気充分の思念を送って来た。

ギンコは魔石先生も言っていたように、護衛してくれる様子だった。


後は妖精達である。

「お前達はここに残るか?ここのが住みやすいだろ?」と聞いてみると

二十匹近くいた妖精達はぴょんぴょん跳ねながら騒いでいたが、結局六匹だけが卓の周りをぐるぐる回り始めた。

「ああ、お前たちは着いて来るんだな、でもお前たちの世話はどうすればいいのか判らないぞ、いいんだな?」と念を押すと、さらにスピードを上げてぐるぐる回りだした。

「そうかそうか、じゃ一緒に行こうな、これからも俺を癒しておくれ」そう言うとさらに動きが激しくなった。

その様子をギンコがビックリした様子で見つめていた。


服装は、今まで来ていたシャツとワークズボンをラインの蜘蛛糸で補強してある、その他にカーキ色の蜘蛛糸で作ったマントを用意した。

蜘蛛子は、出来上がったマントの内側に自分でポケットのような住処を取り付けていた。

スラジューはバックパックの中のゴミを体に取り込み、綺麗に掃除している、移動中はその中に入っているつもりのようだ。

妖精達はマントのフード部分の居心地を確かめているようだった。

ギンコはその間、暇そうにあくび混じりでこちらの様子を窺っていた。


卓が三日間と時間を作ったのは、何がでるか判らない森を抜けるのに、攻撃魔法に不安があったからだった。

何か一つぐらい使える攻撃用の魔法が欲しいと思った卓は、魔法の為の道具をつくることにした。

卓のイメージだと、魔法使いは杖やスティックを使ってその先から魔法を出すものだ、だが、それでは丘で試したファイアーボールと変わらない、とんでもない山火事を起こす危険もある。

そこで、長さが60センチ程の頑丈な筒状の棒を作る事にした、筒の中に魔力を込め、瞬間的に膨脹させることで銃のように魔法を打てないだろうかと考えたのである。


魔石先生にお願いして、この世界で一番固いとされるミスリルの原石を出してもらった、それを加工して出来上がった筒状の棒は、元の世界のちょっと細めの鉄パイプのような見た目だった。

手元側の穴は塞がっているとはいえ、ほとんどパイプの見た目に抵抗を感じた卓は、握り部分に魔物の革を張り、なんとか格好を付けようと思ったが、やはり鉄パイプである事には変わりなかった。


ま、しょうがないかと見た目を諦めて、いつもの丘で実験する事にする。

鉄パイプを握りしめ、筒の中に火の魔力を込め、ぐっと力を籠め膨脹させる、

すると思惑通り、小さな火の玉が筒の先から飛び出し、かなりの威力で小さめの岩を砕いた。


これなら使えると満足した卓は、「よし、頼むぞ鉄パイプ」と呟いていた。

このミスリルで作った円筒が、後に伝説の武器として語り継がれようとは、この時の卓は思ってもいなかった。


そして、出発の日。


かさ張るので置いて行こうと思っていた武器や道具類を、妖精達がピョンピョン跳ねながら消している。

ん?、食べた?、そういう訳じゃないよな、とビックリして見ていると、

「妖精はな、自分の隠れ家として異空間を作る事ができるのじゃ、危険が迫るとその中に逃げ込む、何人も破壊不可能な空間じゃ、その空間にお主の荷物を入れて運んでくれるようじゃ、よかったのう」

魔石先生がそう言って、うんうんと妖精達の行動を満足気に眺めていた。


いよいよ出発となり、すっかり道具類が消えて、以前より少し広くなった洞窟で、魔石先生が何処から出したのか杖を手にして語りだした。


「それでは、餞別として儂の加護をお主に与えよう、道具を作る際は大いに役立つはずじゃ」


魔石先生がそう言うと、手にした杖から光が走り卓の額に当たる、その光が卓の体全体に広がった後、静かに消えていった。


「それとな、お主が転移者という事はなるべく秘密にした方が良かろう、麒麟殿には判ってしまうだろうが、特に上位神が関係しているかもしれぬという事はくれぐれも内密にな、」

いつも穏やかな口調の魔石先生が、強い口調で念押ししてきた。

まあ、目立たないようにした方が無難だよな、下手な権力争いとかに巻き込まれたく無いしな、と卓は軽く受け止めていた。


「よいか狐よ、そちは従魔の契約をしたのだから、あるじは裏切れまい、この事肝に銘じて置け」

とギンコに向かって、さらに強い口調で言う、

ギンコはビビったのか、肩をすくめて首を下げた。

「よしよし、大丈夫だよな」と卓がギンコを撫でまわす、狐は更に縮こまっていた。


「それでは、お世話になりました。」


「うむ、達者でな」


何が何やら訳の分からないままこの世界に送り込まれ、なんとか生き残れたのはこの洞穴と魔石先生のおかげだ、卓は心からの感謝を短い言葉に乗せ、三か月の間過ごした洞穴を後にした。





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