魔族の王女
「シグル念のために結界だ」
レジーナがシグルの方に近寄ってそう言って来る、
シルの目が青く光る、体をを炎の竜巻で覆い、それとは別に火の玉を操り魔族を攻撃し始めた、
「不味い、あの目のシルは止められん、洞窟が崩れるぞ、我らはともかく娘騎士が耐えられん、一旦外に出よう」
レジーナはそう言って天井を見上げていた。
魔族の女もさらに魔力を膨張させていた、その赤い目がさらに光を増す、空間から杖を取り出すと、赤黒い炎を出し、シルの炎に対抗していた。
天井にひびが走る、今にも崩れそうだ、
(主よ、我が天井を支える、今のうちに外に)そう思念を送って来たのは蛇太郎だった。
シグルは(頼む)と思念を送ると、ピテシアを抱きかかえ、レジーナとレブラに、
「二人とも、俺の腕に捕まれ」そう言って、瞬間移動を駆使して外へと向かう。
魔族の女が、杖で地面を叩く、そこから地面は赤く燃え上がり、溶岩のように煮たぎっていく、
「何してくれちゃってるんだ、あの女」シグルは外への道を急いだ。
シグル達が外に出て、抱きかかえてたピテシアを降ろす、
いや重かった、こんな鎧を着てよく動けるな、とシグルが変な所に感心していると、
採掘跡の入り口の奥の山から、小さな火山の様に溶岩が噴出していた。
その中から、赤い光と青い光が飛び出してきた。
ぶつかっては離れてを繰り返す、青い光の中にいるシルの方が若干押してはいるが、すぐに決着が付くようには見えなかった。
シグルは、これ以上騒ぎを大きく出来ないと思い、魔導書取り出す、
魔導書が光り、ページが開く、魔法陣を指で押さえ
「雹嵐」と唱えた。
空に大きな魔法陣が現れ、雷が鳴ったかと思うと、黒い雲が立ち込め、激しい雹が降り始める、
雹は地面に降り注ぐと、シューという蒸発音を発しながら、徐々に地面を冷やしていく、
赤い炎に包まれた魔族と青い炎のシルにも降り注ぐ、二人のそれぞれの炎が徐々に小さくなっていった。
「シル、戻れ」とシグルが大声で叫ぶ、
シルは、不満そうな顔をこちらに向けるが、徐々に小さくなる己の炎に、雹嵐の魔法陣の外へと避難した、
魔族の女も逃げようとするが、そうはさせじと、シグルはミスリルパイプの先から光の帯を出し、鞭のように振ると、光が伸びて魔族の女をぐるぐる巻きに捉えた。
雹は、勢いの無くなった魔族の炎を突き破り、直撃し始める。
「いて、いて、やめて、いて、いやー」と魔族の女が悲鳴を上げる、
やがて、雹が降りやむと、シグルが捉えた魔族は、魔力も尽き、さっきとは全く違った姿をしていた。
ふくれっ面でこちらを睨むその姿は、どう見ても十代前半の少女、角は生えているがまだ小さく、かわいらしい顔をしていた。
「なによ、あの蛇が、いきなりわらわの寝床を襲って来たのよ、冗談じゃないわ」
と魔族の少女がシグルの出した光に縛られたままむくれた顔で言って来る、
その顔の周りを、シルが出した火玉がグルグル回っていた。
魔族の名前は、テスラと言った、話を聞いてみると、どうやらこちらも配慮が足りなかったようだ。
テスラは、ただ、ここで身を隠していただけで、何もしていないという、実際村への直接的な被害は無いと聞いていたし、悪気があった訳ではなさそうだった。
いきなり、蛇太郎がテスラが寝床としていた洞窟に現れたので、テスラが魔力で呼び寄せたアンデットや、この地で従者とした魔物達が驚いて逃げ出したのだという。
「あの蛇、思いっきり殴ってやったら、暴れだしてわらわの部屋を無茶苦茶にしたのよ、わらわが怒るのも無理無いでしょ」そう言う。
まあ、確かに、とシグルも苦笑いしていた。
「それじゃ、そもそも、どうしてここにいる?」と聞くと
なんと、テスラは、この地の元領主に召喚魔法で魔界から呼ばれたのだという、その目的というのが、タクマの殺害なのだそうだ。
タクマにボコボコにされ、悪事をばらされた元領主は、タクマを恨み、独自に召喚魔法を研究して魔族召喚の儀式を行ったようだ。
ただ、テスラは事情を聴いて、あまりに身勝手な元領主に愛想をつかし、肝心のタクマの行方も判らないので、タクマの潜伏先だったというこの採掘跡で身を隠していた、と言う事らしかった。
それを聞いたレジーナは、怪訝な顔して
「魔族の娘よ、お主、まだ、何か隠しておろう、元領主の素人召喚魔法で、お主ほどの化け物を呼べるわけがなかろう」と言った。
「だ、だれが化け物よ、そっちのがよっぽど化け物でしょ、まったく」
とテスラは、又脹れっ面をした。
「いいから話せ」とシグルがミスリルパイプを光らせながら言うと、
「わ、判ったわよ」と事情を話し始めた。
テスラは、実は魔界の四大王国の一つ、マグタラと言う国の第三王女なのだそうだ。
今、跡目問題で揉めていて、王位の継承権を持つ兄弟姉妹で、従者を巻き込んだ勢力争いが起きていた。ステラも命を狙われる事がしばしばだったようだ。
元々、王位継承などに興味の無かったテスラは、ほとほと嫌気がさしていた、
そこに、テスラのメイドに召喚魔法の魔法陣が現れたのだそうだ、テスラはこれ幸いとメイドを押しのけ、自分から魔法陣に入りこの世界にやって来たのだという。
「こっちに来てみたら、結構魔族がいるみたいじゃない、だから念のため地下に籠ってたのよ、そしたらあんた達がきて、ようやく整えた私の部屋をいきなり・・・」
その後は、延々と恨み節が続いた。
「ふむ、それは我らも悪かったな、だが、お主のせいで近隣の村人が獣が獲れなくなって困っていたのじゃ、ゆるせ」とレジーナが言う、
「そう簡単に許せると思う、こっちは苦労して作った住処を壊されたのよ、責任取って頂戴」
とテスラは頬を膨らませて言う、
「わかった、俺の従魔が壊したんだ、ちゃんと直させるから、それで機嫌を直せ、ここにいていいから」
シグルも困った顔でそう言った、
「駄目よ、そんなんじゃ、手下も居なくなっちゃったんですからね」テスラがそう言う、
「じゃ、どうして欲しいんだ」とシグルが言うと、テスラはその言葉を待ってたとばかりに、
「わらわもあんた達と一緒に行くわ、わらわを護衛して頂戴」と言った。
「調子に乗るな」シルが又火玉を出す、
「ひい、な、なによ、仕方ないでしょ、あんた達、魔族に強そうなんだからいいじゃない」
少し涙目でテスラは言う、
「フハハハ、よかろう、魔族よ、その角は隠せるのであろうな、ワシらの仕事を手伝うなら連れてってやろう、ただし、順位は一番下じゃ、元王女に務まるかのう」
レジーナは楽しそうに笑いながらそう言った。
「だ、大丈夫よ、なんとかなるわ、言っとくけど炊事はできないわ」とステラが答える。
シグルは、また面倒な事に、レジーナめ、面白そうかどうかで物事決めやがって、と遠くを見ていた。
シルは、フンと鼻を鳴らし、横目でテスラを見る。
レブラは「こ、これは、どう報告すればいいのか」と悩ましい顔をしていた。
そしてピテシアは、まだ夢の中だった。




