銀狐
卓は、前の世界にいた時、城や寺院の模型を作るのが好きだった、自分の尋ねた城の模型作るのは面白く、元来凝り性だったため、かなりち密に作り込んだりしていた。
自分の部屋の棚などもDIYで作った経験もある、元々物を組み立てたり作るのが好きだったのだ。
そんな卓にとって、魔石先生直伝の錬金魔法や、成型魔法、加工魔法は面白くて仕方無いものだった、金属を扱っているうちに、自然と木材の加工も出来るようになっていた。
初めは鍋やフライパンを作り、剣や槍先にも挑戦した。
弓は木材と組み合わせ、強力なものが出来たが、持ち運びや狙いやすさでクロスボーの方が役に立った。
そして、固い鋼と柔軟な鉄を合わせ、卓としてはかなりこだわった日本刀もどきも作った、我ながらなかなかの出来と自負していた。
洞穴を広く掘り出し、作業台や物置棚も作った、明かり用の穴を掘り、簡単な窓も作った。入り口には木製の屋根をを付け、引き戸も取り付けた。徐々に変わっていく洞穴に魔石先生も面白がっているようだった。
その他にも驚くことに、蜘蛛子の出す糸を使って布も作れるようになっていた、スラジューの作る薬草ジュースも自分で作れるようになり、さらに効果が強い薬も作れるようになっていた。
この時点で、もし街に出るような事になったとして、ここがどんな世界でも食べては行けるだろう、と思うようになっていた。
加速度的に腕を上げた卓は、自分の作った武器や道具を使いこなすべく、他の魔法も試すようになっていた。
錬金の訓練のおかげで、自分の魔力を制御できるようになったので、少々の遠出は魔石先生からも許しが出ている。
岩肌の出た丘の上が卓の魔法実験所になっていた。卓は初め、ゲームや漫画に出てくる魔法を試してみようと、火の玉をイメージしながらファイアーボールと叫んでみたのだが、これが予想以上の威力で、大きな岩を吹き飛ばしてしまった。
それ以来、攻撃魔法は自嘲する事にした、怖くて使えないのだ。
「うーん、なんか工夫が必要だな」とは思ったものの、今の所は必要性を感じないので、後回しにすることにした。
その代わり、身体を強める魔法に力を入れた、力を強めたり、早く動けたり、身体を固くしたりと独学でかなりの身体能力を高めることが出来るようになっていった。
目の機能は特に重要で、夜目や動体視力の強化はかなり役立った。
自分で作った日本刀もどきに、炎を乗せる事も、風の力を乗せる事も出来るようになった、だが、これはあまり役にたたない事も判った、なぜなら何もしなくとも卓の作った刀の切れ味は抜群だったからだ。
従魔は中々増えなかったが、虫や小動物なら従魔にならなくとも言う事を聞いてくれることが判った、
蜂の巣を見つけた卓に、蜂が蜜を分けてくれたのだ。小鳥たちも積極的に辺りの偵察をしてくれる。
危険な魔獣がいる場合は容易に避けることが出来た。
食糧事情も良くなっていた、妖精達がジャガイモに似た芋の密生地を教えてくれたのだ。
妖精達は、力を使う時は様々な色に変わるが、普段は深緑色をしていた、危険が迫ると保護色になり、さらに警戒すると見えなくなる。
何が楽しいのか判らないが、卓がなにかするとピョンピョン跳ね回り、喜んでいるように見える。
見てるだけで癒されるので、卓は放っておく事にしていた。
卓は、ここでの生活にすっかり慣れ、不自由も無かった。
丘から見える景色は、果てしなく密林が続いている、ここを出るのは容易では無かろうとも思っていた。
ただ、単調な食事と風呂だけは何とかしたいと考えていたが、積極的に出て行こうという気にはなれなかった。
そんなある日、気が付くと洞穴の前にちょこんと狐が座っていた。
こちらを幾分警戒している様子だが、逃げようとはしない。
卓は、これは従魔を作るチャンスと、初めての哺乳類の訪問に興奮した。
銀色の綺麗な毛並みの狐だ、「やあ」と卓が言うとビクっとしたがやはり逃げない。
「綺麗な毛色だね、どうだ、俺の仲間にならないか?」と尋ねると困ったような表情をする。
それでも逃げないならその気はあるのだろうと、卓は狐に手をかざしてみた。
狐は明らかに困惑し躊躇していたが、しばらくして手の平に圧を感じた。
「おお、これでお前も仲間だな」と卓はわしゃわしゃと狐を撫でまわした、その間、キツネは硬直したままだった。
「そうだ、名前を付けなくちゃな、そうだな狐だからな、オーソドックスにコンと言うのはどうだ?」
そう言われた狐は明らかに嫌そうな顔をする。
「気に要らないのか、それじゃ・・・・」
いくつか名前の候補を上げるがどれも気に要らない様子だった。
「ふーん、なかなか気難しい奴だな、じゃあ銀狐なんだからそのままギンコでどうだ?」
すると、仕方ないそれで妥協する、という感じの思念が伝わって来た。
「そうか、ギンコでいいか、そうかそうか」
また、卓がわしゃわしゃと撫でまわす、キツネはひたすらジッと我慢していた。
そんな様子を見ていた魔石の精霊は、キツネの姿に少し驚いた様子をみせ、
「そろそろ頃合いかのう」と呟いていた。
少し前、
木の陰から卓の居る洞窟を窺う銀色の狐の姿があった、狐は数日前から、風変わりな人族を探していた。
(ようやく見つけた、あれが変な魔力を持った人族で間違い無いようね。まったく、どうして我が人族なんかの面倒を見るしかないのか、いくらラビス様のご命令とはいえ業腹だわ)
狐は誰かの命令でしぶしぶここに来たようだ。
(それにしても冴えない風貌の人族だこと、なんなのあのだらしない無精ひげは)
しばらく様子を観察した狐は、意を決したかのように洞穴の方に向かって歩き出した。
そして、その様子をさらに遠くから観察する影があった。
「お、キツネの奴、直接会いに行ったか、人族嫌いのあいつにしては思い切ったな」
その後の従魔の儀式を確認すると
「ヒャハハハ、従魔になったのか?、これは笑えるぞ、後で少しからかってやらねばのう」
そう言って楽しそうに森の中に消えていった。