ダストドラゴン
隊列の中央まで来ると、シグルは結界の範囲を広げ数台の馬車を結界の中に入れて様子を見た。
警護隊が槍を構え、ダストドラゴンを囲んでいる。
警護隊も、風の魔法で体を覆っているが、シルのそれを見慣れているシグルには陳腐なものに見えた、
一人隊長のウシャルだけが力強い風を纏っていたが、それでもダストドラゴンに近づけづにいる。
カイキルとキャラバン隊隊長のマルディンがシグルの方に結界を張りながら小走りに近づいて来る、シグルが結界の中に入れると、
「どうだ、耐えられそうか?」とマルディンが聞いてきた。
「判りませんが、やれるだけやってみます」とシグルは答えた、逃げ道のある答え方をするのは、元の世界からのシグルの癖だ。
「それにしても、ダストドラゴンに遭遇するとは、運がない」
カイキルは、砂塵竜という名前を使わなかった、龍という名にこだわりがあるのかも知れない。
「あまり時間は掛けたく無いな、私が龍体化するか」とカイキルが言う、
「いや、それでは戦闘範囲が広がりまする、馬車の事を考えるなら得策では無いのでは」とマルディンが止めた、
「では、どうする?」
「何か足止めができればいいのですが、翼を打てば風魔法が弱まると聞いています」
「やはり、やり過ごすのが正解だったようだな、守備隊にも面子があるからな、仕方あるまい」
「損して得を取る事を覚えなけば、ウシャルも将としてはまだまだです」
お二人共、余裕がありそうですが大丈夫なのか、とシグルは冷や冷やしながら聞いていた。
熊の獣人が、体をコマの様に回転させて、風の影響の少ない足元を狙って斧を打ち込む、それに気を取られたダストドラゴンの正面から、鼻っ面にレジーナが剣を突き立てる、が、やはり皮膚はかなり硬そうだ。
ドラゴンの上方では、小さな竜巻が何度も龍の翼にぶつかっていくが、シルも苦戦しているようだった。
三人に後れをとるなとばかりに、数人の獣人も攻撃を加える、ウシャルもジャンプして龍の頭を槍で狙うが、どれも風が邪魔をして思うように攻撃できていなかった。
攻撃を受けたダストドラゴンは、広範囲に送っていた風を、自分の周りに集中しだした、シルの風の鎧の巨大番である、獣人達は、ますます周りを飛び跳ねるだけになっていった。
シグルは、レジーナに大きな魔法は打つなと言われたが、あれじゃ味方が邪魔で、どの道打てなかったなと思っていた、だがこのままでも埒が明かない。
「あのドラゴンの弱点とか無いんですか?」
とカイキルとマルディンに聞く、
「砂漠を住処としてるので、寒さには弱いと聞いてはいるが」とマルディンが答えた。
寒さか、ならば
「じゃあ、俺が氷結魔法を掛けてみます」とシグルが言う、
「氷結魔法?、生半可な魔法ではあの巨体には効かぬぞ」
とマルディンが言うと
「いやいや、シグル殿頼みます、結界は私が引き継ごう」とカイキルが言った。
シグルはミスリルパイプを手に前に出た。
「雷を打ち込んだが、あまり効いてなさそうじゃ、なにか手立てはないのか?」
レジーナは風の渦から少し離れて、熊の獣人に聞いた、
「こいつは本来罠をしかけて仕留めるのが常套手段だ、何も用意してなければかなりきつい」
熊の獣人が答える。
「誰か睡眠魔法か、魔法薬はもっていないのか?」
「さっき山猫族が弓で打ち込んでたが、風ではじき返された」
「ちっ、手詰まりじゃな、シルがもう少し奴の翼を削るのを待つしかないか」
ダストドラゴンの風の鎧を、唯一シルだけが通り抜け攻撃を加えていた、かなり傷も目立ち始めている。
そんなシルに、ドラゴンも苛立ったのか、体を反転させ首と尻尾で攻撃を試みていた。
シルが尻尾の攻撃を避けて、地上に降りた時、ダストドラゴンの足元の地面から、巨大な蛇が現れた。
みるみるドラゴンの体に巻き付き、その羽を抑え込む、一瞬ダストドラゴンを覆っていた風が弱まった。
「地蛇を呼んだか」レジーナは、まあ、これでは仕方ないかと成り行きを見守った。
熊の獣人はその横で、何が起こったのかよく判らず、口を半開きにしたまま動けずにいた。
シグルは、氷結魔法をダストドラゴンにだけ掛ける方法を考えていた、後方から掛けると味方まで凍らせてしまう恐れがあったからだ、それには、なるべく近くに寄るしかない、出来れば直接触れたかった。
あの風を止めなければそれは無理、ならば、頼りになる仲間を呼ぶしかないか。
シグルは地面に手を付き、ようやく覚えた召喚魔法陣を頭に浮かべる、地面の下に蛇太郎が来たのが判った。
「蛇太郎、一瞬でいいから、あのドラゴンの翼を抑えてくれないか」と思念を送る、
すると、(それでいいのか、あの程度のトカゲ、我だけで仕留められるぞ)と思念が帰ってくる、
「え、そうなの?」シグルはビックリして聞き返した、(無論だ)と思念が帰って来た。
「あ、でも、今回は風を止めるだけでいい、いろいろあって、止めは他に譲りたいんだ」
シグルがそう言うと、(面倒くさい)と言う不満の思念が帰って来たが、そのまま蛇太郎がダストドラゴンの方に向かって行ったのが判った。
蛇太郎が翼を抑え込む、風が止んだその瞬間、よし、とシグルは瞬間移動でダストドラゴンの首元に移動し、ミスリルパイプを突き立て、「氷結」と叫んだ。
蛇太郎は、素早くその場から離れ土の中へ戻って行く、ミスリルパイプを中心にダストドラゴンの体が白っぽく変色していき、動きが極端に鈍くなっていく。
「こんなもんか」シグルは魔力の加減を確かめると、その場から離れた。
突然の出来事に、しばし唖然としていた周りの獣人達が、誰かの「今だ」の掛け声で一斉に攻撃を仕掛けた、
ダストドラゴンは、起こす風もかなり弱まり、ほとんど抵抗も出来ずに、体中に警護隊の槍を受けた、そして止めとばかりに警護隊長のウシャルが風を纏って大きくジャンプし、その眉間に槍を突き刺した。
横たわったダストドラゴンの周りで、「何が起こったんだ」と警護隊や獣人の武闘家がガヤガヤと話している。
少し離れた場所で、シグルがちょっと目立ち過ぎたか、と思っていると、
「まあ、いずれ判った事だ」とレジーナが近づいてきて言った。
「あれは、氷結魔法と言う奴か?」熊の住人が驚いた表情で聞いてきた。
「ああ、そうだと思う、結構使えるな」とシグルが答える。
おかしな答え方をする奴だ、と熊の獣人は思ったが、それ以上聞くことはやめて、
「俺の名はグランジム、グランと呼んでくれ、ご覧の通り木こりだ」と名前を名乗った。
シグルはシグルで、木こり?斧を持ってるだけで全然木こりには見えねえよ、と思ったが、
「シグルだ、よろしく」と挨拶を返した。
「もう少しで風を止められた」と、不機嫌な顔でシルがいつの間にかシグルの後ろに立っていた。




