キャラバン隊2
「こりゃ、キャラバンって規模じゃ無いな」
出発の朝、シグルはその隊列の予想以上の大きさにビックリしていた。
相当量の荷物をシグルは預かっている、その他にこの量は驚きだった。
資材は、あの後も追加され、食料も加えられて大きな倉庫一つ分を超える程になった、
亜空間の巨大コンテナに入れた資材も一度元に戻し、種類ごとに分類して複数のイメージコンテナに入れ替えている。
なぜなら、最初の方法で亜空間に入れると、取り出す時にコンテナのイメージしか浮かんでこず、細かく取り出すことが出来なかったからだ。
この魔法は、袋に、一つ一つ入れた時と違い、入れる物を細かく認識しない場合、中身のイメージは出てこないらしく、その時イメージした入れ物ごとしか取り出せないようだった。
「コウラルさん、凄い隊列ですけど、何人ぐらいいるんですか?」
シグル達の世話役を買って出てくれたコウラルにシグルが聞く、
「技術者や職人、各専門家で200人程、警護は向こうに着いてからの守備隊の補強もかねてるだで100人隊が付いているだ、その他に便乗している商人が30、守備隊に志願した武闘家の皆さんが数名いると聞いただ、救護や料理人も入れて総勢350人ほどじゃねえかね」
350人か、その他に荷物積んだ馬車もある、まるで小さな村の引っ越しだな、
「この規模で砂漠を超えるのは、おそらく初めてだと思うだ、この規模なら野盗に襲われる心配もねえだな」
コウラルはそう言って笑っていた。
馬車の数もかなりの数だ、馬車と言っても、普通の馬車よりかなり大きかった、引いているのは馬では無く、巨大なトカゲだ、トカゲ車と言うのが正確なんだろうか、
この荷車は、砂地に入ると、車輪を取って、ソリの様になっている底面を付けて走るのだそうで、負担は大きくなるが、このトカゲは難なくそれを引っ張る力があるそうだ、足も水かきのようになっていて砂に潜らないらしい。
守備隊は、二足歩行のトカゲに鞍をつけて乗っていた、トカゲの名前はエオプラと言うらしく、手が短く、足が異様に発達していて、尾が長く、ほぼ背中を水平にして走っている。いかにもスピードの出そうな体系だ。
トカゲと言うより元の世界の恐竜に近かった。
シグルは、ラクダに乗って月の砂漠をイメージしてたので、ちょっと興ざめしたが、流石は異世界、この位で驚いてじゃ駄目だな、と気合を入れ直していた。
レジーナは、いつもの露出多めの鎧ではなく、薄い布地の白い長袖の中東の民族衣装の様な上着に、太めのズボンの裾を皮ひもで縛り、革製の履物を履いていた。かなりイメージが変わったが、これはこれでとても似合っていた。
シルは、上着はやはり薄手の長袖だったが、下半身は今までと変わりなかった。
二人共、暑いのは苦手だと言っていたので、その対策なのだろう。
魔法を使えば、それなりの暑さ対策は出来るはずなので、気分の問題なのかもしれない。
なにしろ、二人共一応は女性だ。
シグルはそれほど暑さを気にする必要は無かった、なにしろスラジュージャケットは温度調整機能付きだった、暑い時はヒンヤリと背中から冷やしてくれる、何この万能服、もう他の服は着れません。
シャツだけは薄手の物に取り換えたが、その上にスラジュージャケット、下半身は相変わらずこの世界に来たときのままのカーゴパンツにトレッキングシューズだ。ちなみに、クリーンの魔法で清潔には保たれている。
蜘蛛子もいつの間にかスラジュージャケットの肩口にポケットを作ってもらい、そこに納まっていた。
妖精達は暑さは関係ないのだろうか、姿を見せないので確かめようが無かった。
昨日の夜、レジーナとシルの二人には、隠蔽の魔法を掛けた。
ここからは、人族として行動した方がいいだろうとレジーナが言ったからだ。
シグルが獣人じゃ無く人族でいいのか、と聞くと、いずれ人族の町に行くのなら今から人族としてふるまった方がいい、という事だった。
レジーナは、とにかく天族に自分の存在を知られたくない様子で、念入りに頼むと言って来た。
シグルもここからは他の人との関りも増えるだろうから、その方がいいだろうと思っていた。
シルも、主が言うなら、と素直に従ってくれた。
ただ、人族がこのキャラバンで目立たない存在かというと、そうでは無かった。
「おや、なぜこのキャラバンに人族がいる、いつの間に龍の国に入った?」
と訝しげに聞いてくる獣人もいた。
「我らは昔、龍王に恩があってな、少々魔法が使えるので恩返しにはせ参じた」
とレジーナはその度に、いけしゃあしゃあと噓八百を並べ立てた。
天族ってえのは、嘘つくのに罪悪感はないんだろうか、とシグルが疑問に思う程だった。
だが、余りに堂々としているおかげで、怪しまれずに済んだのは間違いなく、
カイキルと口裏を合わせていたし、一緒にいるコウラルもなかなかの狸で、上手く口を合わせてくれていた。
先頭が動き出して、しばらくしてから、最後尾に陣取ったシグル達を乗せた馬車がようやく動き出した。
後方の、青くそびえ立つ山々を見ながら、さて、この大事業のどの辺りまで関わっていいものだろうか、とシグルは思案していた。




