カムマラの老人2
「恐らく隠しても無駄でしょう、私は地球という星の日本という国から来ました」
シグルは、この老人に聞きたい事があった、その為にはこちらの素性は正直に話した方がいいと思っていた。
シルはその脇で、又、少し硬い表情になっていた。
「ふむ、日本か、最近多いの」
老人が、ボソっとそう言った。
多い?、何それ、俺の他にも日本から転移した人が一杯いるって事?
シグルはビックリして老人の次の言葉を待った。
「二年ほど前にも、人族の国コーエン帝国で召喚があっての、その際現れた四人の異界人が、日本から来たと言っていたという話じゃ」
四人、そんなにいるのか、これは何が何でもコーエン帝国に行ってみなければ、シグルはそう思った。
「その四人は、今どうしてるか判りますか?」とシグルが興奮気味に聞く、
「詳細には判らぬが、二人は帝王に使えていると聞く、一人は教会に入って薬の精製に精を出していて、もう一人は帝国を逃げ出したと聞いておるぞ」
「逃げ出した?、何処に行ったかは判りませんか?」
シグルは、知らず知らず身を乗り出していた。
「まあまあ、そう急くな、儂にもそこまでは判らぬ、予想は付くがな、それより、儂にも話を聞かせてくれ、そなたがいた日本という国についてな」
老人は聞くのはこちらじゃとばかりに、乗り出すシグルを制して、質問してきた。
元の世界の歴史や伝説、魔法の有無、化学力がどういう物なのかから、政治の仕組み、学校の制度迄、話は多岐に渡った。
中でも、詳しく聞いてきたのは、日本の宗教と神話、それに日本人の宗教観についてだった。
「ふむ、つまり日本では多種多様の神がいるとされているのに、宗教心はそれほど強くないという事かの」そうホンヘイ老人はシグルに確かめる、
「そういう感じかなあ、個人によって差はあるけど、ほとんどの人は信じて無いと思う、そのくせお参りとかお呪いとかはするんだよなあ」とシグルは日本での生活を思い出しながら話す。
脇に居るシルも興味津々で聞いていた。
「もし日本に、森の精霊が現れたら、どういう扱になるかの?」
「そりゃ、精霊って概念もあるけど森の神様だろうなあ、精霊と神様の違いがあいまいでよく判らないけど、へたすると、聖獣も神獣とか言って神様扱いかも知れないな、実際お稲荷さんは狐の神様だし、犬神様なんてのもある」
シグルの言葉に、シルはピクッと反応していた。
「なるほどのう、もしかすると日本の人族のそういった考え方が、召喚魔法に乗りやすいのかもしれんな」
と老人は一人頷き納得していた。
「実はの、この世界は、一般に思われているより、召喚された生き物が多い、と儂は思うておる」
質問が一段落着いた所で、ホンヘイ老人は語りだした。
「初代龍王の言い伝えがあるのだが、それによると、初代龍王は神の力によってこの世に現れ、その力を持って相争っていた獣人を制定した、とあるのじゃ」
ホンヘイ老人の説だと、その初代龍王というのは、龍の沢山いる世界から、この世界に召喚されたのではないか、でなければ、数があまりにも少ない理由が付かないと言うのだ。
そうだったと仮定するなら、他にも不思議な力を持った獣人や魔人が、召喚された者の子孫と考えれば説明が付く、そして、歴史上明らかに召喚者と思われる人族はたくさんいたのだそうだ。
「魔族召喚、と言うのを知っておるか?」ホンヘイ老人が聞く、
「はい、以前に聞いた事があります」とシグルは答えた、
「人から見て、魔族とは何か?それは人と違った姿をして、恐ろしい力を持った物であろう、だがな、突然召喚された方から見たら、その召喚魔法を使った術者はどう写るか、己の復讐の為に自分の生活を断ち切った愚かな憎むべき相手であろう、中には術者を殺した者もいよう、手あたり次第暴れまわった者もいたかもしれぬ、その原因となった術者の復讐相手を殺した者もいよう、その力でこの世界で楽しく暮らしいる者もいるかもしれん、だが、復讐を誓って何処かに身を潜めた者もおるかもしれぬのよ」
老人は、多すぎる召喚はいい事は無いという。
召喚魔法というのは、召喚したいという願いを神にゆだねる魔法で、召喚自体は神が承認して神自身が行うのだと言う、人の召喚と魔族の召喚では担当する神が違っていて、召喚の基準も違っているらしい、そう考えるとそれとは別に、龍の様な特別な生き物を召喚させる神がいても不思議ではない、と老人は言う、
「いや、でも、俺は神様に会いませんでしたよ」とシグルは言った。
「それは、そなたが特別なのであろう」とホンヘイ老人が答える。
「それは、何でそう思うんです?」とシグルが聞くと、
「それはな、儂が経験者じゃだからだよ、儂はこの世界は、三つ目の世界じゃ」
え、じいさん、転移者?・・・それも二回もしたの?
シグルは自分が転移したと判った時よりビックリしていた。
「フホホホ、儂の元々の世界は、占いや呪術はあっても、この世界の様な激しい魔法は無かった、そこで立身出世を願う田舎の若者じゃった、最初に転移した世界では魔法を与えられて、色々やらかしたのだがの、最後は山の中で若い者に魔法を教えて暮らしておったのよ、それが、またこの世界に転移してしもうた、二度目の世界では、歳をとらなかったのじゃがな、ここに来たときは心は枯れていて、気が付くとご覧の様な爺になっていたわ」
うわ、それは、ちょっと大変かも、自分も可能性あるのだろうか、出来れば普通に暮らしたい。
シグルはそう思っていた。
「この姿で神が転移させたのだから、この姿で何か成す事があるのやもしれんのう」
老人は、肩をすぼめてお道化た格好でそう言った、やる気は無さそうだ。
「それでな、二度目の転移の時、ここの神と話して思ったのじゃ、神と言うのは世界ごとに別れておるが、異世界の情報は掴んでいると、そして、他の世界の生き物や魔法などの現象を、自分の世界に意図的に知らせているのではなかろうか、転移して来たり、転移していった者が違う世界を受け入れやすいようにな。そなたの元の世界にも龍の伝承があるのであろう?、儂の元の世界にもあった、実際には見た者が無いのにな」
シグルも、それは確かに、異世界同士の何らかの繋がりはあるのだろうとは思っていた。あまりにこの世界の龍の彫り物が元の世界の伝承の龍と似ていたからだ。
だとすると、ゲームに出てくる魔獣は神様が意識的に流したという事になるのか、うーん、それはどうだろう。
そして最後に、シグルはどうしても聞いておきたい事があった。
「元の世界に帰る方法は有るのですか?」
「儂の知る限り、己の意志で異界に転移する方法はない、あるとすれば」
「あるとすれば?」
「神の気まぐれだけじゃろうな」
何だよ、期待して損したじゃねえかよ、まあ、予想はしてたさ、爺さんここにいるんだし。