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異界者の選択  作者: 百矢 一彦
第一部
13/62

森の大精霊


 エルフの里を出て、二日歩き、見通しのいい丘の上に出ると、

「シグルよ、人族の町に行くには、あの山脈を越えねばならん」

とレジーナが指さす先に、まるでアルプスの様な山脈が見えた。

シグルは、あれは今の装備では越えられないだろう、と思ったが、それは元の世界基準の考えだなと直ぐ思い直した。

「あそこには龍がいる。今日はこの辺りで野宿しよう、多分、明日には迎えが来る」

レジーナは上機嫌なドヤ顔でシグルにそう言った。


お迎え?誰が誰を?、シグルはいくつも疑問が湧いたが、もういちいち聞く気にならなかった、

ある意味、この男の順応性は高かった。


そしてその夜は、風も無く静かな夜だった、

そろそろ蜘蛛子のハンモックで寝ようかと思った頃、霧が森の方から立ち込めてきた。

普通では無い霧なのはシグルにも判った。

霧がすっかり三人を覆うと、レジーナとシルが膝まづいていた。


「いよいよ森を出るのですね」と何処からともなく奇麗な女性の声が聞こえ、霧の中に人の形が浮き出て来た。

服も肌も髪も、全部真っ白な女性の姿だった、

「あなたが異界の人ですね、私はこの森を庇護しているラビアと申すものです」

シグルは、そう言ってきた相手が、人の形はしているが人ではない事はすぐ判った、実態がそこにある感じがしない。

「はい、すぐる、と言います」と流石に緊張して自己紹介した。

妖精達が姿を現し、ピョンピョン嬉しそうに跳ねている。


「直々のお出まし、少々驚きました」とレジーナが言う、

「あら、だって、あなたが私に黙って森を出ようとするのだもの、来ない訳にはいかないでしょ、それに、一度彼にも会ってみたかったから」

と少しいたずらっぽい言い方でラビスが返した。

「いや、それは」とレビーナが言葉に詰まっている。

「では改めて、レビーナ、森の巡回警護の任を解きます、後は思うように生きて下さい」

「ありがたく」ラビスの言葉にレビーナが頭を下げる。

「シル、あなたも引き続きシグル殿に付いて行きなさい、ちゃんと連絡はよこすのよ」

「はい、ラビス様の仰せの通りに」と答えるシルの顔は高揚していた。


ああ、やっぱシグルの発音かぁ、とシグルは頭をよぎったが、そこはスルーして、

「ラビス様の計らい、感謝しています」とシルを付けてくれた事へのお礼を言った。

「あなたは上位神によってこの森に現れた、それは保護を依頼されたという事です。ですが、ここより先は私の力は及びません、心して進んでください。

シルはまだ未熟者だけれど、よろしくお願いしますね、妖精達も可愛がってあげて下さい。あなたがこの世界で幸多いことを願っています。」

そう言い終えると、大精霊ラビスは霧と共に静かに姿を消した。


「ぷはー、びっくりしたあ」とシグルが気の抜けた格好をしていると、

「大精霊ラビス様が直接会いに来てくださったのだから、もっとありがたく思って」とシルが言う。

「よし、ラビス様の許しも出た、これで何の気がねもいらないな」

とレジーナはこぶしを握っていた。


その後、

「そうか、やはり上位神様の召喚者であったか、ただの転移者とは魔力の質が違うと思っていた」

とレジーナが言うので

「ああ、それ、魔石の精霊に秘密にした方がいいと言われたんだ」と返すと

「ああ、心得ている」とレジーナはいつになく真剣な表情で答えた。


次の日、

朝飯を食べて、シグルがどうしても上手く出来ない空間魔法の練習をしていると、

「思ったより早かったな」と言いながらレジーナが山脈の方を見ている。

釣られてシグルもそちらを見ると、鳥が二羽こっちに向かって飛んでくるのが見えた。

その鳥は、こちらに近づくとドンドン大きく見えるようになり、鳥では無くドラゴンだと判った。

更に近づいてくると、一匹のドラゴンの背中に人影が見えた。


「レジーナ、久しぶりい、元気だったあ?」

まだ幼さの残る少年だった。

「リョウキ、久しいのう、少しは成長したか」

レジーナが親し気に返事をした。


二匹のドラゴンが地上に降りると、かなりの高さがあるドラゴンの背中から少年がひょいっと飛び降りた、そして嬉しそうにレジーナに駆け寄ると

「父様が、連れの人と一緒に挨拶に来いだってさ」と言った。

「ああ、そのつもりだった」とレジーナが答えると、少年はさらに嬉しそうにニカッと笑った。


シグルが初めて見るドラゴンにビビっていると、

「それは小型の飛竜、ただの魔獣で人語はしゃべれない、人族はアイバーンと呼んでいる」

とシルが解説してくれた。

ただの魔獣っていいますが、かなりの迫力だよ、これ。

シグルは心の中でそう思ったが、シルのシラッとした態度に言えずにいた。


「紹介しよう、この子はリョウキ、現龍王の末の子だ」

とレジーナが紹介してきた、

「龍王の子?、本当は龍なの?」シグルは挨拶より前に素朴な疑問の方が先に口に出てしまう。

「竜人だな、人の形で生まれる、が、そろそろ龍体にも成れる様になる頃だな」

レジーナはそう言うと、リョウキの方を向いて、どうなんだ?と目で聞いた。

「まだ成れないんだ、力を入れると魔力が漏れちゃう」

少し下を向いて、いじけたようにリョウキは言った。


「ふーん、難しいんだな、俺はすぐる、龍に成れたら見せてくれ、よろしくな」

「うん、僕はリョウキ、父上が変わった人族がいるって言ってたけど、シグルの事なんだね」

素直そうないい子だなとシグルは思った。だが、やっぱり発音は出来ねえのかよ、と心の中で叫んでいた。


シルの紹介も済ませると、

「地蛇はここから先は着いて来るのが大変じゃろう、召喚獣にするといい」

とレジーナが言う、

「召喚獣?、そうか、そう言えばあの本に載っていたな」

とシグルは魔導書を取り出した。

召喚獣にすると、魔法陣を書くことで、従魔を離れた場所から呼び出すことが出来る、

大型の従魔にはよく使われていた。


「蛇太郎、顔を出してくれ」シグルがそう言うと、ゴゴゴという音と共に土の中から巨大な蛇の頭が出てきた、これにはリョウキがびびった、飛竜達もおののいている。

「蛇太郎、これからお前を召喚獣にしたいと思う、いいよね?」シグルがそう言うと、承知、という思念が帰って来た。

魔導書が勝手に開き、描かれている魔法陣を指で押さえ「召喚、蛇太郎」と声に出した、

すると蛇太郎の文字が入った魔法陣が浮かび出て、蛇太郎の額の中にはいって行った。


「これで大丈夫だろう、蛇太郎は俺が呼んだ時以外はここで自由にしていてくれ、あんまり暴れるなよ」

そう言うと、心配ない、という思念を送って、巨大な地蛇は土の中に戻っていった。

その始終を見ていたリョウキの目は、キラキラと輝きパァと見開いていた。


「さて、それではお父上の所へ参ろうか」レジーナのその声で、レジーナとリョウキ、シグルとシル、二組に別れ飛竜にまたがった。

飛竜は「クワァ~」と一声あげると、翼を広げ、空へと舞い上がった。



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