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異界者の選択  作者: 百矢 一彦
第一部
12/62

魔導書


「しかし、シグルの接近戦は無茶苦茶だな、あれでは普通なら、二、三回死んでおるわ」

レジーナは取り巻きのオークを片付け、シルに話しかける。

「スマートじゃない、でも熱くなるのは悪い事じゃ無い」

シルはそう言うと、珍しく少し笑った。


二人はシグルの方に近づき、

「単独では行くなと言ったはずだが」とレジーナが話しかける。

「そんなつもりは無かったんだが」とシグルが渋い顔をすると、

「結果オーライ」とシルが言った。


気が付くと、三人は周りを、蛇太郎から逃げ帰って来たオーク達に取り囲まれていた。

「さて、どうでるのかな」とレジーナが油断なく見渡す。

オーク達は、血にまみれて倒れているオークキングの姿を見て戦意は無くなっているようだった。


「確か、こういう時に使えそうな魔法が書いてあったな」

とシグルは妖精に預けてあった、カイルの魔導書を手にした。

何処に書いてあったかなと、ページをめくろうとすると、魔導書が光り出し、シグルが探そうとしていたページが勝手に開かれた。

そのページの右上に魔法陣が書いてあり、光っている。

シグルは、その魔法陣を指で押さえ、その魔法の名前を口にした。


「支配」


すると、オーク達の上空にいくつもの魔法陣が現れ、薄紫の光が降り注ぐ、するとオーク達はシグルに向かって膝まづいていた。

この魔法は、戦意を喪失した相手を精神支配する魔法で、従魔使いだけが使える特異な魔法だった。


シグルはオーク達に向かって言った

「この中に、他族の女を犯した者、さらった者はいるか、いるなら前に出ろ」

10体ほどのオークがシグルの前に出てきた、この魔法の下では嘘やごまかしが出来ない。

シグルは、その10体のオークの首を躊躇なく刎ねた。

「後の者は元の土地へ帰り、静かに暮らせ、他族を襲う事は禁ずる」

シグルがそう言うと、オーク達は無言でそれぞれ散っていった。


「いいのか帰して」とシルが言う、

「いいんじゃないのか、あれだけの数を相手にするのは骨が折れる」

レジーナは、面白い物を見た、と思いながらオーク達の後姿を見ていた。


五人の女性をエルフの里の近くまで伴い、里の女性に衣服を用意して迎えに来てもらって里に入った。

皆放心状態だが、後は里の者に任せるしか無かった。


シグルは、この戦いで自分の価値観が少し変わった事、この世界で生きて行くのは、思っていたよりかなり大変で、精神力も必要という事を実感し、今までのルンルン気分を諫めていた。



次の日、エルフの里では祝勝会が開かれていた、食べ物は果実や木の実が中心でささやかだったが、酒は結構美味かった。

エルフ達にとってみれば、犠牲者ゼロの奇跡のような勝利だ、多少浮かれても仕方のない事だった。

シグル達を迎えに来たエルフも、あの時の態度はどこ吹く風でシグルに酒を注ぎに来る、みな地蛇の凄さを大げさに言い合い、感謝の言葉を口にした。

いつもクールなシルも、酒は好きと見えて、少し赤らんでいた。

「シル。結構いける口なんだな、ここの酒はなかなかいけるな」

そうシグルが言うと、

「うん、初めて飲んだが美味しい」と答えてきた。

初めてなのかよ、シグルはふと疑問に思い「シル、お前、歳はいくつだ」と聞くと「18」と答えが返って来た。

未成年かよ、と驚いた表情をすると、

「普通の狐ならおばあさん」と付け加えてきた。

まあ、そうかな、と納得したシグルだった。


そしてこの人は、

「ガハハハ、いや、あの魔導書をいきなり使いこなすとは、流石、儂が見込んだだけの事はある、だが、あの接近戦はなんだ、今度儂が仕込んでやる」

使い方は扉のページに書いてあっただけなのだが、レジーナはどうやら絡み酒の気があった、言葉使いも普段に増して親父口調だった。


「で、これからどうする気だ、お主といると面白そうだからな、儂も付き合ってやる」

「本当は小さな町で、道具屋でも開いてのんびり暮らそうと思っていたんだが、どうもそう言う情勢でも無いみたいだな、とりあえず人族のいる街に行ってどんな様子か見てみたい」

「それじゃあ、帝都にでも行って見るか、儂も随分とご無沙汰だからな、どう変わったか見てみたいわ」

「以前、行った事があるのか?」

「昔、人族に関わってたからな、結構詳しいぞ」

「レジーナって、人族じゃ無いよね、いったい何族なの?」


「儂か、儂は、そうだな、竜人の親戚みたいなもんじゃな、ワハハハ」

「ワハハハ、って、なんかすごい事言ってないか」

竜人とは、獣人の中でも最上位種で、聖獣である龍の流れを汲み精霊にも匹敵するとカイルに聞いていた。


「まあ、そう気にするな、今はちとラビス様に世話になっとるがの、何にも属さない自由人だ、今は大した力も無いしな、ナハハハ」

シグルは、そう言われると余計気になるな、とは声に出さずに、その後も楽しい酒を飲んだ。


その翌日、二日酔いの為、出立はお昼近くになってしまった、

長老から、「お礼の品だ」と言われ、エルフの秘薬、なる物をもらった。

なんでも、息さえあればどんな怪我も直せる薬だとかで、その製法は秘中の秘だそうだ。


こんな貴重な物をとシグルは遠慮したが、これは里の皆の気持ちだと言われ、有難く頂戴する事にした。

エルフ達に見送られながら里を後にする。


シグルは、エルフの秘薬をスラジューチョッキのポケットに入れておいたのだが、後から探しても見つからなくなってしまった。

スラジューに聞いてみると、(おいしかった)という思念が帰って来た。

こいつのポケットには貴重品は入れられないと思ったのだった。




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