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異界者の選択  作者: 百矢 一彦
第一部
10/62

エルフ


出発の日、

「私からシグル殿にこれを贈ろう」そう言ってカイルから一冊の本を贈られた。

「これは?」と聞くと、カイルが書き溜めた魔法に関する本だそうで、色々な魔法の発動方法が書いてあるから、これからの魔法の精進に役立てて欲しい、との事だった。


この時は、シグルは、カイルや魔石の精霊が、世の人々、特に魔法使いにとって、どれほど偉大な人物なのかを理解していなかった。彼らに会う事がどれほど名誉で、難しい事か、ましてや教えを乞うなど普通では考えらず、人族が彼らを賢人と呼んでいる事など知る由も無かった。


「いろいろお世話になった上に、このような貴重な本を頂いて、感謝のしようもありません」

シグルは丁寧に感謝の気持ちを伝えたが、その本「カイルの魔導書」が一国にも値する価値があるとは思ってもいなかった。

「これからのシグル殿の旅に役立ってくれれば、私も嬉しい。」

カイルは、含みの無い笑顔でそう言っていた。


「私も、外の状況を知っておきたい、使いの鳥を時々送るので無理のない程度で教えてくれれば助かります」

最後にそう言われ、シグルは快諾した、そして、

「それでは行ってきます」とふかぶかと礼をして、人型のシルを伴いカイルの小屋を後にした。


カイルはシグルを見送った後、

「これは世の中が変わるかも知れぬ」そう呟くと、いつもの微笑みを浮かべながら小屋の中に引き返して行った。




シグルとシルは人族の国があるという北に向かい歩き出す、シルはレジーナがいない時は終始無言だった。

さっきまで無かった狐の耳が頭に付いている、その事をシグルが聞くと、

「耳の制御は難しい、周りを警戒しようとすると出てきてしまう」

と淡々と説明された。

どうにも会話が続かない、うーん、なんか空気が重たいなあと思いはじめた時、初めに会った時と同じように木に寄りかかりこちらを見ているレジーナに気が付いた。

だが、あの時とは違い、連れがいるようだった。


「ほほお、三日見ないだけで随分と雰囲気が変わったな」

そう言うレジーナの予想通りの口調にシグルは笑みがこぼれ、

「おかげ様で言葉も判るようになりました、よろしくお願いしますね」

とこちらの言葉で改めて挨拶した。

「なんか思ったより硬いなあ、こちらこそよろしく頼むよ」

ニカッという感じで笑うと、レジーナはシグルの肩をポンポン叩いた。


「それでな、少し厄介事がある。この先にあるエルフの里の近くにオークが集結している、いつ襲撃されてもおかしくない状態だ、それで助っ人を頼みたい」

そういうと、後ろに立っている二人のエルフの男の方を向いた。


エルフは、「人族だな」「ああ人族だ」と珍しい動物でも見るようにシグルを見ていた。

シグルも思わず、「エルフだ」と声を出していた。

シルは無言でエルフ達を視ていた。


「レジーナ殿から、あなたは強力な魔法と従魔を持っていると聞いた、我々に協力して頂けないだろうか、もちろんお礼は用意する」

言葉は丁寧だったが、何処か疑いながら話しているのが伺えた、

シグルがシルの方を見ると、「主の思うようにすればいい」と言う。

レジーナに、私からも頼む、と言われ、自分に出来る事はしましょう、と承諾した。


エルフ達の後を追い掛ける、かなりのスピードだ、木の多い場所は枝から枝に飛び移る、テレビで見た忍者のようだ。

三日前のシグルだったら絶対ついて行けなかった、だが、今のシグルは余裕でついて行けた。

「変わるものだな」とレジーナに声を掛けられる、まったくだ、とシグル本人もビックリしていた。


丸太で防護柵が作られた臨戦態勢のエルフの集落に付いた。

エルフ達はシグルの姿を見ると、皆、ヒソヒソと何か喋ってるのが判る、

「ふん、助けに来たというのに、これだからエルフと言うのは」

とシルが不満そうに言う、

「そう言うな、ここの連中はほとんど外部との接触が無いんだ、村を出る前のエルフとはそういう物だ」

レジーナが諭すように言った。

「そもそも、森の掟は弱肉強食、ここの連中だって金が欲しい時は毛皮目的でキツネを狩る、オークにやられたとしても因果応報だ」

シルにしてみれば、同族を狩る事のある相手なのだから、当然の反応なのかもしれない。

「たしかにな、だが、オークの所業は目に余る、あやつらは、女と殺戮を楽しむために村を襲うのだ、特別な奴が現れた時にだがな」

レジーナは怒りの表情をにじませそう言った。


シグルも、マンガなどでオークという存在は知っている、ほとんどは人族やエルフの女性をさらい犯す存在として書かれていた、レジーナの表情を見ていると、この世界でもそういった類の存在なのだろう、だが、一方でシルの言う事ももっともだとも思っていた。


長老の間に案内されて、挨拶をする。

長寿の種族の長老だ、流石に威厳があったが、緊急事態の為か多くを語らず、よろしく頼むと頭を下げるだけだった。


その後、木の上にある小屋に案内され、ここを使ってくれと言われる。

ここで準備をしてくれ、という事らしい。

シグルは妖精に頼んで、日本刀を出してもらう、ミスリルパイプと併用するつもりだ、

妖精は人前ではほとんど姿を見せない、この時もパッと姿を隠してしまった。


バックパックは邪魔になりそうなので、スラジューにはここで留守番してもらうつもりでいた、

だが、スラジューから(僕も行く)と思念が送られてきた。

バックパックから出てきたスラジューは、以前より動きが早く、まるでダウンベストのようにシグルの体に取り付いた、しかも、見た目まで皮のジャケットの様になっていく。


これは?、こんな事が出来るようになったのか?、

そうだ、と検索ができる事を思いだし、スラジューを検索してみた。

種族が「マジックスライム」となっている、スライムの上位種なのだろうか?

そして技能には、薬品精製、毒物精製、身体防御魔法、収納魔法、水魔法、の他に、擬態、と言うのがあった。

シグルの経験値が、従魔であるスラジューに影響を与えて、進化したようだった。


それじゃあ蜘蛛子の方はどうなってる?、と蜘蛛子も検索してみる。

種族は「鬼姫蜘蛛」、技能は、毒牙、隠密、探査、指揮、魔法飛糸、となっていた、

指揮?、子分でも指揮するのかな、と見た事無いスキルに興味がわいたが、今は後回しにする事にした。


その様子を見ていたレジーナが、

「そいつらはあの森で生まれ育ったからな、元々の魔力量が違う、まだまだ成長するだろうよ」

と言って来た。

あの森は、凄い所のようなのだが、シグルは初めにそこにいたので実感が湧かなかった。








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