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異界者の選択  作者: 百矢 一彦
第一部
1/62

洞穴

今日から新作スタートです。



「ひえー、参ったな、ドシャ降りになってきた」


神崎卓(こうざきすぐる)、28才、この歳になっても定職を持たずフリーターを続けている、

歴史好きの彼は、バイト料を溜めては バイクで史跡巡りをするのが趣味で、なかなか定職につけないでいた。

この日は、テレビで見た山城跡に興味が湧いて、散策に来ていた。


さっきまでいい天気だったのに、急に空が暗くなったと思ったら、激しい雨が降り出し、

近くにあった小さな祠の軒下まで避難してきたところだ。

「通り雨かな」と上空の雲を見上げた時だった、いきなり稲光が走った。

あたり一面が光ったかと思うと、そこには神崎卓の姿は跡形もなく消えていたのだった。




薄暗い洞穴の中だった。

意識を取り戻した卓に判るのはそれだけだった、

体を起こそうとしても、体が重くて動かなかった、頭の中が何かに圧迫されているような感覚で、何も考えられない、ここは何処だ?何が起こったんだ?・・・・

それだけ虚ろな意識の中で思うと、また深い眠りについた。


どの位眠っていたのだろうか、目を覚ますといくらか体が動くようになっていた、

あたりを見回すと、岩肌に湧き水が流れているのが判った、その水を手ですくい口にする。

スッと体が軽くなるのが判った、だが、まだ体は怠い、そのまま横になっていると又眠りについてしまっていた。

そんな事を何回か繰り返し、卓の感覚では三日程経った頃、なんとか立ち上がり、体を動かすことが出来るようになっていた。


水しか口にしていないのに、不思議と飢餓感は無かった、

ただ、それでも腹は空いている、フラフラと洞窟の外に出てみると、幸いなことに見た事の無い木の実がたわわに実っていた、よく見るとそれも数種類ある。

卓は何の躊躇もなく、手あたり次第食べた、すっぱみのある小粒の実や、マンゴーのような大きな甘い実もあり、なんとかお腹を膨らませることが出来た。


お腹が膨らむと冷静さが戻り、今の状況を考える余裕が出てくる、

はて、いったいここは何処で、どうして自分はここにいるのだろう?

あたりを見回すと、うっそうとした密林の中だ、しかも見た事の無い植物や虫がいる。

夢にしてはリアルすぎる、しかもさっき食べた果実は、味わった事の無い物だった。


突然、ホッホーとけたたましい鳴き声が響いた、声の方を見ると見た事の無い色鮮やかな大きな鳥が飛び去っていく・・・、


うーん、信じがたいが、今までの世界とは違う世界に迷い込んだのだろうか、

確か、雷が落ちてそのまま気を失って・・・、あの光の中に人の形をしたものを見たようなきがするが、


あれこれ考えてるうちに、一つの結論に達した、

考えても判らない、とにかく生き残る事に集中しよう、だった。



卓は、洞穴に戻ると自分の寝ていた周りを観察する、すると雷に打たれた時に背負っていたバックパックが転がっていた。

助かった、これがあるだけでもありがたい。

バックパックの中には、サバイバルナイフが入っている、その他に、ライターとアウトドア用の小さな鍋、それと少量ながら調味料とスナックが入ってるはずだ。


洞穴の様子を観察すると、意識が朦朧とする中飲んでいた岩清水は、洞穴のかなり上の方から湧き出ていて、途中の岩にくぼみが出来ていてそこを通って下まで垂れていた。

よく見ると、そのくぼみの中に、薄緑の半透明の物体がいた。


卓は、その物体を知っていた、


(これはゲームや異世界物の漫画にでてくる、スライムだ・・)

しばし唖然となってその様子を観察する、時々プルルンと揺らぎはするものの動き出す気配は無かった、

(俺が寝てる間も危害は無かったのだから放っておいても平気かな)

これは、違う世界に迷い込んだ事に間違いなさそうだ、そう確信するに充分なできごとだった。


何故この時、異世界に転移したという事実に、それ程驚かなかったのか、後から考えると不思議だった。


スライムから天井に視線を移すと洞穴の入り口の上の方に、大きな蜘蛛が陣取っていた。

手の平ほどもある大きな蜘蛛だ、ここの門番だと言わんばかりの立派な姿、

(ここが異世界だとすると、あれも魔物なのだろうか、なぜか俺に敵意は無さそうに感じるな、今まで俺が無事だったのだから、あれも害は無いんだろう)

そう思い、今度は奥の方を観察する。


洞穴の一番奥まった場所はテーブルの様に盛りあがっていて、その上にカボチャを二つ重ねたような岩が鎮座していた。

(うん?、まるで誰かが置いたように岩があるな、以前ここに誰か人間が来た事があるのだろうか?)と違和感を感じつつも、それ以上深く考える事はしなかった。


とにかく今は生き抜くことが先決だ、生きて行くには食料の確保である、とりあえず果実で腹はふくれたが、それだけという訳にはいかない、

バックパックを背負い、サバイバルナイフを手に散策に出る事にした。

川か池でもあれば魚が獲れる、そう考えてしばらく歩き回ってみたがそれらしい物は見つからなかった。

それならばと、途中で見掛けたうさぎを獲ろうと、蔦を切ってわなを作り仕掛ける事にした。


バイクでソロキャンプを趣味としていたので、よくサバイバルの番組を見たり、本を読んだりしていた、その知識を思い出しながら、数カ所罠を仕掛ける。

その後、焚火用の小枝を集めながら、このとんでもない状況を楽しんでいる自分に、我ながらと呆れていた。


素人が見様見真似で作った罠である、そう簡単には掛かるまい、一旦洞穴に戻るかと帰りかけると、なんとさっき仕掛けた罠に小さな角を持ったうさぎが掛かっていた、(まじか?上手く行きすぎじゃね)とおもいながらも、サバイバルナイフで止めを刺して洞穴に持ち帰る。


転がっていた岩で簡単な囲炉裏を作り、小枝を重ねて焚火の準備をしてからうさぎの解体に入った。

ウサギは太ももの部分がメインで、その他の部分の肉付きはよくなかったが、一人分ならこれで充分だった。

油が無いので、枝にさして焼くことにする。


何気に寄せていた余った肉の方を見ると、いつのまにかさっき見つけたスライムが寄って来ていた、

「うん?それが食いたいのか?、別に食っていいぞ」そうスライムに向かって言葉を発すると、スライムは肉片を体に取り込み始めた、なぜか、嬉しそうにしているのが伝わってくる。

(へえ~、スライムって何でも食べるイメージだが、生肉もたべるのか)

同じ洞穴の住人として、情がわいてきた。


もう一匹の同居人の蜘蛛の方を見ると、驚いたことに、既にうさぎの前足を糸でぐるぐる巻きにして、カリカリと食べている。

蜘蛛が肉を食べてる、一瞬ギョッとしたが、ここは異世界なんだと無理やり納得する事にした。


さて、それじゃあ俺も肉を焼くかと、焚火に火を付けようとバックパックから使い捨てライターを取り出し、カチッと発火ヤスリを回すと、ボウーーっともの凄い勢いでボイラーの様に火が飛び出した。

「うわっ」と思わず声出して、ライターを落としてしまった。


すると、

「おぬしが火を使おうとするから、火の妖精達が大騒ぎじゃ」

と背中の方から声が聞こえた。

パッと振り返ると、さっき見つけたカボチャ岩が、ギョロッと目を開け、こちらを見ていた。


ひえっ、驚いてしばらく声も出ない、唾を一度飲み込んでから、

「あなた様はどなた様」と聞いてみた。


「わしか?わしは、魔石の精霊じゃ」と直接頭に響くような声で答えてきた。




前作から一年以上たってしまいました、現代物のファンタジーを考えていたのですが諸事情により断念、また異世界移転物です。

前作と同じ神様に、前作とは違う世界に転移させられた主人公の話になります。

なるべく豆に投稿するつもりですので、よろしくお願いします。

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