【4】宿屋のエリナ
自分がウトウトしていた事にぼくは気付き、ベッドから起き上がると。もう一度お金を取り出してテーブルへと列べてみた。
銀貨が30枚に銅貨が13枚。それは変わらないのだが。よく見てみるとその貨幣には違いが有る事に気付いた。
実は銅貨や銀貨は刻印や描かれている物が違っていた。ドルトリアの紋章が刻まれている物でも人物の顔が違っている物も有り
「先々代から代が替わる毎に王の絵が変わっているのか。けれどこの紋章の違うヤツは何だろ?このクジラの紋章なんて珍しいな。」
そんな独り言を言っていると
「それはユーロシア王国の刻印ね。捕鯨で国を興した海沿いの国よ。」
ぼくの頭越しにエリナがそう言って。唐突な声にぼくは慌ててエリナに向い声を上げた。
「いきなり入って来ないでよ。ビックリした!えっ?じゃあこっちの剣の十字架の紋章は?」
「その剣十字のはフランティア公国で、こっちの盾と牙がゲンシュタット帝国の物ね。帝国の銀貨や銅貨はあんまり使うとスパイと間違われるから気を付けた方が良いわよ。」
「他所の国の貨幣も使えるの?」
「使えるに決まってるでしょ。銅も銀も金も同じ何だから。絵の違いなんて関係ないわよ。」
(この世界には為替の概念が無いのか。)
そんな事を考えながら。ぼくはエリナの話しにウンウン頷いて感心していると。エリナは不思議な顔で
「エヴァンス。あんた何にも知らないのね。ドルトリアを知らない。ユーロシアを知らない。フランティアも、ゲンシュタットも知らない。一体どこの国に居たのよ?めっちゃ田舎町とか?石器とか使っているような。」
「いや。田舎町じゃ無いけど凄く遠くなんだ。」
「銅貨や銀貨も知らないし。物々交換していたの?」
「銅貨や銀貨も有ったけど。紙に印刷された紙幣って物を使ってたんだ。」
「紙なんかに書いたら、破れちゃうし、皆が作れるから危ないじゃない。何言ってんの? ホント不思議な子。でも可愛いし気に入っちやった。」
そう言ってエリナは、ぼくの頬に柔らかい唇を付けて。ぼくは何をされたのか判らなかったが嫌われた訳では無いので、ホッとしながらも恥ずかしくて
「わっ、止めてよ恥ずかしい!」
と、ぼくはエリナを引き離した。そうするとエリナは笑いながら
「ホント、エヴァンスって可愛いわ。アタイと結婚しましょ!そうすれば、二人で宿屋をして暮らしていけるわよ。」
そう言うエリナの屈託の無い言葉に。僕は正直に戸惑った。この何の伝も無い異世界で、凄くありがたい言葉だと思った。
エヴァンス(10才)
銀貨30枚
銅貨13枚
木綿の服×2
柔らかい靴×1
青い布×1
皮の袋×1
【人脈】
露店商人の男 ジダン
宿屋の娘 エリナ