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好感度“反転”、思った以上に地獄説  作者: 袋池
Chapter.2 【信仰国家リュミエール公国】
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06.芽吹き

「リュミエール聖騎士団、心得その一ィッ!!」


「「光教の戒律には死を賭してでも従うべし!」」


「リュミエール聖騎士団、心得その二ィッ!!」


「「弱き民草を守る為に剣を振るうべし!」」


「リュミエール聖騎士団、心得その三ンッ!!」


「「邪悪な魔族に鉄槌を! 光の神の鉄槌を!」」


 ──数十名の男達の怒号が、リュミエール公国に響き渡る。その中には、“俺”の声も含まれていた。

 リュミエール聖騎士団、第一部隊。公国の主戦力ともいえる団体の中に、俺は混じっていたのだった。


「……うむ!! 皆、腹から声が出ていて何よりである!」


 俺を含めた主力部隊、数十名を指揮するのは目の前で腕組みをするこの男。

 他の騎士達と同じく厚さ数センチにも上る分厚い鎧を着用し、表情の一切を読み取れない無骨な兜を被るこの男こそが、聖騎士団の団長。

 ラダム・バッグハートだった。


「特にライト! お前は元傭兵という話であったが、信仰心にも厚い男であるな! 傭兵上がりで経典の内容を諳んじたのはお前くらいであるぞ!」


「ア、アハハ……どもっす……」


 暑苦しい。声だけでもう暑苦しい。

 かつての仲間、リスティリアに近づく為に俺の取った方法は潜入。聖騎士の見習いとして堂々と神殿に取り入ろうというわけだ。


「我輩と切り結ぶ実力もまさに見事。お前という人材が聖騎士を選んだ事、嬉しく思うぞ!」


 仮面で目を引き、騎士団長と互角に戦う程の腕前を見せる。その考えは一先ず成功したようで、こうして気の良い言葉を投げかけてくれる程度には信頼を勝ち取れた。

 先日ルナに話した通り俺は「元二刀流の傭兵」という設定を使い、聖剣と市販の剣を二本背負う事となったのだが問題無く動けたようで一安心だ。


「今日も第一部隊は国内の警邏だ。一番隊から五番隊、各自に割り振られた区間を見て回るように」


 ラダムの言葉に、それぞれの騎士が敬礼を返す。

 魔物退治にでも駆り出されるかと思っていたが、主力である第一部隊は国内を離れる業務には就かないようだ。

 今は着々と情報を集め、リスティリアに近づく機を狙う。こういう頭を使う作業は得意ではないが、仲間の呪いを解く為に背に腹は代えられないだろう。


          ☆☆☆


 俺がリュミエール公国の騎士団に入って、早二ヶ月半。上官であるラダムは勿論、周囲の騎士からも奇異的な目で見られる事は減っていった。

 今日も警邏の仕事を終え、現在は宛がわれた神殿の傍にある小屋で落ち着いている。


「最近、楽しそうだニャ」


 ベッドに腰掛け、一息ついた所でルナが口を挟む。


「そう見えるか? ……そうかもしれないな。何せ、久しぶりの外界だ」


「ふふ、そういう顔も久しぶりに見るニャ。名前を隠せば、案外行けるもんだニャァ」


「あくまで好感度が反転したのは俺という個体じゃなくて、“ソレイユ”っていう概念みたいなもんだからな」


「……このまま、ライトになっちゃうかニャ?」


 ルナのつぶらな瞳を向けられ、一瞬息を呑む。だがそれも束の間、やはり俺は首を横に振った。


「人を騙し続けるってのはどうやら向いてないらしい。騎士団の連中、気の良い奴らばっかりだからさ。……なるべく嘘は、付きたくないよ」


「そうかニャ」


 俺の刹那の葛藤を感じ取ったかのようにルナは一言優しく言った。少しも揺らがなかったといえば、嘘になる。

 魔王を倒した瞬間から、ルナ以外の全てが俺を嫌悪した。街に入る事は出来ず、どんな田舎の村に行ったって石を投げられ、騎士を呼ばれ、殺されかけた。背中を、命を預けた仲間にさえ──。


「──リスティリアとは会えそうかニャ」


 ルナの言葉に、意識が戻る。そう、今いるこの国の何処かにリスティは居る筈なのだ。


「恐らく、な。俺がどれだけ有用かってのは十分に見せつけた。後はお偉いさんが動くのを待つしかないんだけど」


 もう十分に種は撒いた。

 聞けばこの光教は今、民の救済を掲げるハト派、魔物の撲滅を掲げるタカ派で方針が真っ二つになっているらしい。早々に俺に接触したのは、タカ派のマグニコアという男。マグニコアと対峙するハト派のトップは、リスティだった。

 タカ派にとって単騎で相応の働きが出来る俺は、魔物撲滅の広告塔となる貴重な物件だ。対してハト派にとって有益は少ないが、タカ派に取り込まれる面倒は避けたい。

 出たとこ勝負の賭けには勝った。後は、どう動いてくるか。


「リスティは。……リスティは、呪いを受けてるんだろうか」


「無駄な期待は止めるニャ。どれだけの魔法の使い手であったとしても、魔王の呪いには抗えないニャ」


 俺とリスティが出会ったのは、今から十年以上も前だ。

 僅か一年という時間をこの国の神殿で共に過ごし、学んだ。俺よりも五歳程度年上だった彼女は、まさに姉のように接してくれたのだ。

 しかしこの国を出てまた別の国に飛ばされてからというものの、一度も出会ってはいない。魔王討伐後、リュミエール公国には近づく事さえも出来なかったからだ。それだけ光教は聖騎士を投入し、俺の抹殺、及び聖剣の奪還に躍起になった。


「随分と会ってないからかな。少し、怖いんだ」


「ソレイユ……」


「わかってる。命を預けた仲間でさえ、あの変わり様だったんだ。リスティだけは変わってないなんて、有り得ない」


 どれだけ口にした所で、覚悟は変わらない。わかっている。そんな言葉で、どうして納得が出来るのだろうか。

 自分は何もしていないと叫びたい。もうずっと会っていないけれど、魔王を倒せたのは君のお陰だとリスティに伝えたい。


「ソレイユが他人に優しいのは知ってるニャ。だけど、ソレイユ自身が傷つきすぎだニャ。……少しくらい乱暴な手を使ったって、誰も責めないニャ」


 ルナが言う事は、一つの選択肢として思い浮かんだ事でもある。

 勇者として魔王の討伐を果たした俺は、恐らく世界で誰よりも力を持っている。この国の聖騎士たちを相手取り、リスティを攫い、呪いを解呪する。それも多分、無理じゃない。


「それは、しないよ」


 自分に言い聞かせるように。だがそれ以上に確固たる信念を持って俺は言う。

 半ば押し付けられるようにして勇者になった俺だが、これだけは譲れない。


「言ってみただけだニャ」


「本当、ルナには頭が上がらないよ。いつもありがとうな」


 俺の言葉にうにゃうにゃとよく分からない鳴声を挙げるルナの頭を撫でながら、俺は思案する。

 やるべき事はやった。確実に流れは俺に来ている事もわかった。

 ならば後は魔王討伐と何も変わらない。確固たる信念を持ち、戦う。あの頃のように背中を預けられる仲間はいないが──それでも、俺には光明が見えていた。

 その時、俺の耳に木製の扉を叩く音がする。


「夜分遅くにすみません。此方に、聖騎士のライト様はいらっしゃいますか」


 聞き覚えのない、男の声。敵意は感じられないが、用心の為に扉越しに応答する。


「ええ、此処におりますよ」


「──私、フロストバイン枢機卿の使いの者でございます。ライト様さえ良ければ、今から共に晩酌でも如何でしょうか」


 男の声に、目を見開く。

 俺の撒いた種は、こうしてしっかりと芽吹いたらしい。

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