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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃

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EXその4 世直しお嬢様

次話から章タイトル通りの本題に移っていくので、個人的な箸休め回です。

今後の話に特に関わってくる訳でも無いので、読み飛ばしても特に問題はないです。


「あー、なんか事件でも起きないかしら……」


 グラスの中の氷をカラカラとかき混ぜながら、そんなことを呟いたのはクロエだった。

 アイスジェイルでの一件を終えた俺達は、束の間の休息を謳歌していた。

 とは言っても、特にすることも無く、暇を持て余した俺達3人は、いつの間にかギルドに併設された酒場へ集合していたのであるが。

 いつもは休みの日を設けても何やら裏で動き回っているマークですら、今日は珍しく、テーブルに突っ伏したようにだらけていた。


「おいおい、勘弁してくれよ。流石の俺も動きたくねえぞ……」


「まぁ、それもそうだよね。今回ばっかりは俺も疲れたよ」


 慣れない雪中行軍に加え、格上の魔物との死闘。

 肉体的な疲労は兎も角として、精神的な疲労までは俺のスキル【不眠不休】であっても軽減できない。

 クロエには悪いが、今日ばかりは死ぬほどゆっくりさせてもらいたいところだ。

 そんなことを思いつつ、目の前のコーヒーを啜ろうとカップを持ち上げた時だった。


―――ドゴーーーーーン!


「……ごっふお!?」


 とんでもない轟音と共に、ギルド入り口のドアが勢いよく開け放たれたのだ。

 思わず噴き出したコーヒーにむせ返りながらも、俺は入り口の方へと振り返る。

 すると、視線の先にいたのは、思わぬ人物だった。


「―――ヨシヒロ様達!探しておりましたわ!」


 派手過ぎないオレンジ色のロングドレスに、ショートカットに整えた赤毛が良く映える。

 一見して華奢なお嬢様にしか見えないその少女は、あまりにも不釣り合いな、背丈ほどもある大戦斧を背中に携えていた。

 更には、その服装もただのドレスでは無く、バトルドレスとでも言うべきか、要所要所に金属製のプロテクターが取り付けられている。


「―――エリカじゃないか!探してたって、何かあったのか?」


「ええ、皆様に、少し頼みたいことがありますの」


 そう、俺達を訪ねて来たのは、つい先日まで一緒に旅をしていたエリカだった。

 確か、グスタの街に戻ってきて早々に、世の中を知る為の旅とやらに出発した筈だったが、もう帰って来たのだろうか。


「あら、エリカじゃない。旅はもう良いの?」


「ああ、いえ、クロエ様。そうではないのです。少し込み入った事情がありまして……」


「なるほど。その事情とやらの為に、わざわざグスタまで戻って、私達を訪ねて来たってワケね!」


 ううむ、何やら訳アリらしいが、どうにも嫌な予感がする。

 とは言え、氷獄獣ブリザードビーストとの戦いでエリカが尋ねてきたとあっては、流石に無下にもできないのが正直なところだ。

 ここは、覚悟を決めて話を聞くしかないだろう。


「ええと、それで、エリカ。用件ってのは何だったの?」


「はい、少し気がかりな案件がありまして―――」


 エリカの話によると、現在、ガンドル地方の各地で、原因不明の失踪事件が多発しているのだと言う。

今はまだ大事になっておらず、特にギルドへ依頼が出ている訳でも無いが、この事件をどうしても調査したいのだとか。


「ううん……。ただの家出とか駆け落ちとか、そういう訳じゃないんだよね?」


「ええ、それは間違いありません。失踪した人は皆、なんのきっかけもなく、突然居なくなってしまったと現地で伺いました」


「と言うと、人攫いの類が濃厚か……?」


「ええ、失踪しているのが、子どもや女性に偏ってることからも、その説が高いと思っています」


「……確かに犯罪の匂いはするが、今の段階でそれに介入する意味があるのか?」


 確かに、マークの言う通りではある。

 ギルドに依頼が出されているなら兎も角、現段階では事件かもしれないという域を出ない。

 俺達は探偵や駐屯騎士団ではないのだ。

 そうであれば、やはり正式に依頼として話が挙がるまで、様子を見るべきなのではないだろうか。


「……マーク様の言う通りなのかもしれません。ですが、やはり、今多くの人が困っていると言う状況を、そのままにしてはならない思うのです」


 どこか決意に満ちた表情で、エリカがそう宣言した。

 そして更に言葉を続ける。


「何より……」


「何より……?」


「何より、ギルドより先に事件を解決できれば、きっと皆様から感謝されますわ!」


 ここで自身の名誉や、ロックウェル家再興の足掛かりと考えない辺りが、実にエリカらしい。

 最初は気が乗らなかったが、どうしようもなく善人であるこの少女を、とことん手伝いたくなってしまった。

 いささか急ではあるが、このお嬢様の世直し旅に、付き合ってみようではないか。




◆◆◆




 調査の為にガンドル地方を訪れてから数日。

 結果から言うと、俺達は捜査も含めてとんとん拍子に事件を解決することができた。

 半ば素人同然の盗賊団が、食い扶持に困って人攫いをしていたのである。

 あちこちに足跡やら馬車の移動跡を残し、不審な人物もそこかしこで目撃されていた。

 そんな訳で、俺達としても容易に盗賊団のアジトを見つけ出し、攫われていた人々を助け出すことが出来たのである。


「なんと言うか、拍子抜けでしたわね……」


「ああ、獄王の刃が関係しているかもしれないとか思ってたんだが……」


 俺達パーティが参加した理由の半分は、この失踪事件の裏で、魔王信奉者である【獄王の刃】が暗躍している可能性があると思っていたからだ。

 とは言え、蓋を開けてみれば、前述したように素人盗賊団の仕業だった訳だが……。


 何にしても、幹部であるシュタイナーと戦った研究本部での一件以来、奴らに関する情報はとんと途絶えてしまった。

 だが、獄王の刃に対する特殊対策部隊などと言う大層な役割を担っている俺達しては、いい加減に自分達でも何か動いた方が良いのかもしれない。

 まぁ、何か動きがあった際にはギルドから俺達へ声が掛かる筈なので、それが無いと言うことは、奴らに関する有力な情報が無いと言うのが正直なところなのかもしれないが……。


「でも、盗賊団のアジトに突入した時のエリカ、かっこよかったわよね!」


「ああ、慌てふためく盗賊達に向かって、『この家紋が目に入りませんか!』って言って、家紋の刻まれた大斧を掲げた所なんて、最高だったぜ」


「も、もう!戦わずにあの場を収めるには、あれが一番早かったんですのよ!」


 敵のアジトに突入するやいなや、最前に立ったエリカは、何を思ったのか、ロックウェル家の家紋を高く掲げたのだ。

 呆気に取られる俺達をよそに、次々と平伏していく盗賊達は、さながら水戸黄門のようだった。

 一応ここは山を越えて隣の地方である筈なのだが、それ程までにカタギリの武勲は凄まじいものであるらしい。

 兎も角、そう言う事情もあって、俺達は戦闘すらすることなく、今回の事件を解決することが出来たのであった。




◆◆◆




「「「カンパーイ!」」」


 酒場のとある一角で、冒険者達6人(・・・・・・)が杯を合わせる。

 グスタの街へと帰って来た俺達は、どこにでもあるような町酒場で打ち上げを行っていた。

なんと、俺達と共にグスタの街へやって来た、アイスジェイルのマーリンとピエールも一緒だ。

 観光目的でこの街に来たものかと思っていたのだが、どうにも、このままグスタの街を拠点にして冒険者デビューするつもりらしい。

 一応は部隊の幹部だった筈なのに大丈夫なのかと尋ねると、そこは僻地のアイスジェイルなので、自分達が抜けた所で人手は十分すぎる程に足りているのだと言う。

 彼らが冒険者になるのであれば、またいずれ、どこかで一緒に冒険をする日も来るかもしれない。


「それにしても、エリカはこんなありふれた酒場で良かったの?」


「ええ、一度こういう酒場に来てみたかったんですの。普段はお母さまがうるさいので、良い機会だと思いまして」


「へぇ、お嬢様は大変なんだな……」


「あら、マーク様だって、ダルク地方では有数の貴族ではありませんか」


「いや、ウチは男一家だからな。一番上は兎も角、二番目の兄貴なんてしょっちゅう飲み歩いてたよ」


「まぁ、エリカは一人娘だし、お母さんも心配なんじゃないかな」


「そう言うものなのでしょうか……」


 流石に子どもを持った事はないから気持ちは分からないが、親と言うのはいつまで経っても子どものことを心配するものだ。

 社会人になってからは兎も角、上京したばかりの学生の頃は、毎日のように母親から電話が掛かってきてうんざりしたものである。

 そう言えば、もう何年も実家に帰っていなかったが、田舎の両親は元気にしているのだろうか……。

 なんの前触れも無くこの世界に来てしまったので、時折そんなことも考えてしまう。


「……あー、ところで、サトウさん」


「急にどうしたの、ピーエル君」


 物思いに耽っていた俺に声を掛けて来たのは、目の前に座っていたピエールだった。

 何やら深刻そうな表情をしているが、一体どうしたのだろうか。


「合コン……!合コンの話はどうなったと言うんだい!」


「あー、そう言えばそんな話も……」


 氷獄獣討伐でピエールを味方に付ける為、確かに会議中にそんなことを口走った気がする。

 とは言え、冒険ばかりで人付き合いの少ない俺に、合コンを開けるほどの女性の知り合いなどいない。

 強いて挙げるのであれば、受付嬢のアリシアと、炎龍フレイムドラゴン討伐の際に一緒になった魔導士ウィザードのリーシャくらいのものである。

 だが、アリシアを紹介するのは個人的になんか嫌なので除外、リーシャもあの時以来、顔を合わせた際に挨拶をする程度なので、急に合コンに誘うことなど出来ない。

 という訳で、実質的に俺主催で合コンを開催することなど不可能という訳だ。


「えーと、じゃあ、これが合コンってことで……!」


「男女比!そして見知った顔が過ぎる!」


 俺の苦し紛れの提案に、全力で抗議の声を上げるピエール。

 クロエもエリカも、客観的に見ればかなり顔が良いタイプなのだが、流石に新たな出会いにはカウントしたくないらしい。全く、贅沢な男である。

 とは言え、彼らが協力してくれたおかげで、俺達が無事に帰ってくることが出来たのも事実なので、いずれは恩を返さねばならないだろう。

 怒られるのは承知で、合コンの件をアリシアに相談してみるしかあるまい……。


「……あによ!可愛いクロエちゃんのどこが不満だって言うのよ!」


「おっと、クロエさん、不満と言う訳ではないのですが……」


 顔を真っ赤にしてピエールへと詰め寄るクロエ。

 回っていない呂律に、焦点の定まらない視線、どう考えても酔っぱらっている。

 一応、この世界の成人年齢は16歳らしいので、飲酒自体は違法なのだが、俺の倫理観的には完全にアウトだ。


「ちょっと、誰かクロエにお酒飲ませたでしょ……!?」


「なんだよ、ただの果実酒だぜ?ジュースみたいなもんだろう?」


「雪国精神が過ぎる!体温上げる為に火酒をあおるようなアイスジェイルの人達と一緒にしないでよ!」


「ほーん、そう言うもんなのかねぇ……」


 そんなことを言いながら、クロエに酒を飲ませた犯人でもあるマーリンは、ブランデーのような酒を割る事すらせずにジョッキで呷っている。

 よく考えれば、ピエールもかなり度数の高い酒をハイペースで飲んでいるし、この二人の肝臓は、一体どうなっていると言うのか。


「うぶぶ、気持ち悪いわ……」


「うわ、クロエ!しっかりして!店員さーん、こっちにお冷ください!」


 真っ赤な顔から一転、今度は顔色を真っ青にしたクロエが、力尽きたように倒れ込む。

 隣では、マーリンの煽りに乗って飲み比べをしたマークも潰れているし、気づけばエリカは他の冒険者達と謎の腕相撲勝負を始めているし、もう大惨事である。

 スキル【毒耐性】のおかげか、前世と比べてもかなり酒に強くなってしまった俺達は、殆ど素面しらふのままに他の面子を解放する羽目になってしまった。


「こんな飲み会、もう散々だっ……!」


 そんなこんなで、寝息を立てるクロエを背負い、酔いつぶれたマークに肩を貸し、腕相撲大会で全勝して意気揚々のエリカの手を引いた俺は、悲痛な叫びを上げながら店を後にするのであった。

 

 数年後、各地で人助けを続けた彼女が、住民達の支持を得て立ち上がり、グスタの街の腐敗した貴族体制を立て直す革命を起こすことになるのだが、それはまた別のお話―――


次話、できれば今週中(恐らく土日)に投稿したいと思っています。


また、少しでも面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等頂けると励みになります。

よろしくお願いします。


6/11 追:書き終わりましたので本日昼頃に次話投稿します。

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