表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃
96/137

第89話 天高く

すみません、お待たせしました。待たせた割にあまり長く無いのですがお許しください。

今話で氷獄獣編は完結、閑話を挟んで章題のマーク編へと移行していきます。


追:久々に1日で1000PV超えてました。ありがとうございます!


『オオオオオオォォォォォンッッッ!!!』


 辺りへと、死神の呼び声が木霊する。

 全身に傷を刻み、多量の血を滴らせながらも、その獣は、確かに、力強く立ち上がっていた。


「嘘だろ……!?」


「流石に、もう戦う体力なんて残ってねえぞ……!」


 驚愕の声を上げた俺に向けて、マークがそう返答する。

 ふと、辺りの面々を見渡す。

 皆が致命傷とはいかずとも、あちこちに傷を負っている。

 既に、戦うだけの体力と魔力を残したメンバーは、誰一人としていないだろう。

 立ち上がった氷獄獣ブリザードビーストの姿を見た皆の表情が、絶望の色に染まっていた。


「……前衛が時間を稼いでる間に、後衛から撤退するしかない」


 当たり前ではあるが、それが俺の下した結論だった。

 このまま戦えば、どれだけ事が上手く進んだとて相打ち、もしくは、殆どの確率で全滅するのが関の山だ。

 そうであれば、プライドも、誇りも、全て捨て去って逃げ去るべきだろう。

 エリカの思いは十分に理解しているが、命を失ってしまえば、そこには何も残らないのだから。


「まだ強化魔法の効果は続いているから足止め自体は無理ではないだろうが……」


「……それでも、最終的に誰かが残って、氷獄獣の相手をしなければなりませんわ」


 そう、どれだけ上手く撤退できたとしても、恐らく全員逃げることは不可能だ。

 どう考えたとしても、誰か一人が残り、足止めを続けなければ、撤退した傍から氷獄獣の強襲を受けてしまうだろう。

 そうであれば、誰かが最後までこの場に残り、殿を務める必要がある。


「―――俺が殿を務める」


「なっ……!?そんな、流石に今の体力でそれは無茶だよ、サトウ君……!」


「それは重々承知です。でも、このメンバーで殿を務めるのなら、俺が最適なのも事実でしょう」


 単純に総合的なステータスや、防御の技術だけで言えば、俺より上のメンバーは何人もいるだろう。

 だが、殿戦となれば話は別だ。

 並以上の耐久ステータスに加え、ターゲットを取り続ける為の【挑発タウント】、詠唱さえ間に合えば、恐らく敵のどの攻撃も防ぐことができる【硬化】。

 技術でこそ一歩劣るが、この3つの相乗効果で、俺はこの討伐隊の誰よりも殿を上手く務めることができる筈だ。

 問題として、上手く全員を逃がすことができたとしても、俺だけは逃げることができないことが挙げられるが、この状況で、俺一人が犠牲になって他全員が助かるのであれば、それを選ぶべきだろう。


「くっ、他に方法は無いのか……!?」


「ごめん、マーク……。もしまた会えたら、今度はその剣技の秘密を教えてくれよな……!」


 この戦いで、全員が、今持ちうる全てを使い果たして善戦した。

 だが、それだけ捧げてもなお、伝説の魔物には一歩及ばない。

 自身の実力不足に後悔を抱きつつも、後方部隊へ撤退指示を飛ばそうとしたその時だった。


『―――アオオオオオオォォォォォン!』


 再び、辺りへと氷獄獣の遠吠えが響き渡った。

 そして、気高さすら感じるその声と共に、氷獄獣の周囲を、視覚化できる程に強力な魔力が立ち込める。

 迸る強大な魔力に、氷獄獣の周囲の景色を次第に歪めていく。


(くっ、まずい……ッ!)


 完全に、撤退時期を見誤ってしまったと思った。

 この魔力の昂り、氷獄獣が最終手段である雪崩を引き起こす準備に入ってしまったと思ったのだ。


 撤退は不可能、防ぐ手段などある訳も無い。

 遠吠えが止み、俺が覚悟を決めて氷獄獣と相対した瞬間だった。

 氷獄獣が大きく跳躍し、そのまま俊敏な動きで険しい雪山を駆け上がる。

 そして、その頂点まで至り、降り注ぐ日差しを背に、こちらを一瞥した。

 深く、慈しみすら感じる声を最後に、氷獄獣は、これまでの傷すら感じさせない動きで、氷狼山の奥地へと走り去っていく。


「ああ……」


 なんと気高く、美しいのだろう。

 きっと、氷獄獣にとって、俺達を全滅させるタイミングなど、いくらでもあった筈なのだ。

 だが、何度となくあったその機会はついぞ訪れず、俺達は見逃された。

 その行動の裏にあったのが、俺達への憐憫だったのか、ただの気まぐれだったのか、一体何であったのかは分からない。

 だが、ここまでの死闘を演じてなお、俺の心の中にあったのは、氷獄獣への畏怖と、その気高さ、強さへの経緯だった。


「助かった、のか……!」


 こうして、氷獄獣の討伐という決死行は幕を閉じる。

 天高く、どこまでも澄み渡る空だけが、俺達を見守っていた。




◆◆◆




 討伐作戦に失敗し、アイスジェイルまで戻ってきた俺達は、各々の疲れもあるだろうとのことで、その日は解散となった。


「―――ごめん、エリカ……!」


 そんな中、宿へと戻った俺がまず始めにとった行動は、全力の土下座である。

 何せ、エリカのお家事情を解決する為に武勲を立てると言う目的は、これで全てがパーになってしまったのだ。

 この敗走は、仮とは言え部隊のリーダーを務めていた俺の実力不足が原因と言えなくもない。

 いくら強大な魔物が相手であったととは言え、もっと俺の実力があれば、もっと綿密な作戦を立てることが出来ていれば、もっと上手く立ち回ることが出来ていれば、万に一つとは言え、勝機があったかもしれない。


「いえ、良かったんですの―――」


 エリカからの返って来たのは、意外なことにそんな言葉だった。

 その顔に浮かんでいるのは、怒りでも、悲しみでもない。

 どこか晴れやかにも思える表情で、エリカは言葉を続ける。


「今思えば、少し先走り過ぎたのかもしれません。氷獄獣と戦うことができたこと、その上でこうして生きれ居られること、その全てが奇跡の産物のように思えるのです」


「それでも、この作戦は失敗してしまった。エリカに申し訳ない気持ちに変わりはないよ……」


 没落の危機にあるロックウェル家を、武勲を挙げることで立て直す。

 それが、今回の旅におけるエリカの目的だった。

 だが、その為に必要であった『氷獄獣の討伐』が失敗してしまった今、状況は振り出しに戻ってしまったのだ。


「いえ、良いんですの。冒険者として活動する中で、色々知ってきたつもりでしたが、やはりわたくしは、どこか世間知らずだったのかもしれません」


「……何か、御家再興の為の当てはあるのか?」


 どこか達観したような様子のエリカに、そう尋ねたのはマークだった。

 確かに、エリカはこの先、どうするつもりなのだろうか。

 氷獄獣程でなくとも、グスタの街でも有数の貴族であるロックウェル家を再興する為には、それ相応の功績が必要になる。

 この旅をきっかけに、何かその手段を見つけ出したと言うのだろうか。


「いえ、明確にそれがある訳ではありません。ですが、街に帰った後は、少し旅に出ようと思っていますわ―――」


 そうして、エリカが語ったのは、次のようなことだ。

 まず、己の世間知らずを改善する為、各地を旅して知見を広める。

 そして、その各地で困っている人々を助けていきたいのだとか。


「何と言うか、エリカらしい結論だと思うよ」


 エリカが語る今後のことは、決して大それたことではない。

 だが、己の欠点を見つめ直し、それを補う為に最善の行動を取る。

 更には、自分だけでなく、その先で人助けまで行っていきたいと言うのだ。

 実に、誇り高く、人情深いエリカらしい結論だと言えるだろう。

 そして、果てしない道ではあるが、その旅を続ける中で、きっと、少しずつではあるが、ロックウェル家の名誉も回復していく。

 この先、俺達とエリカが関わる機会は少なくなってしまうかもしれないが、その目的を全力で応援しようではないか。


「……そう言えば、マーク様」


「ああ……?なんだってんだ?」


 話が一段落すると同時に、エリカが再びそんな言葉を切り出す。


「貴方が秘密にしていらっしゃること、ヨシヒロ様達にはお話したんですの?」


「うっ、いや、それはだな……!」


「あ、そうだよ、マーク!帰ってきたら教えてくれるって言ったじゃないか!」


「そうよ!あんな剣技が使えるなら、最初から手ぇ抜いてんじゃないわよ!」


 口ごもるマークに、俺とクロエが詰めてかかる。

 あまりの疲労感と、エリカのことがあったのですっかり忘れてしまっていたが、マークが戦いの中で見せたあの達人級の剣技や、生家であるマルティネス家について、無事に帰還できた際には秘密を話してもらう約束だったのだ。

 まだ一年と付き合いは無いが、それでも俺とマーク、そしてクロエは、幾度となく命を預け合ったパーティである。

 そんな大切な仲間を相手に、いつまでも重大な秘密を隠し通して良いと言うのだろうか。

 いや、そんなことがあって良い筈が無い。


「さぁ、まずは、マークの生まれた家について話してもらうよ!」


「マルティネス家って言ったら、ダルク地方でも有数のお貴族様じゃない!アンタ、そんなところのお坊ちゃまだったわけ……!?」


「……ああ、もう、めんどくせえ!今日は俺だって疲れてんだ!流石に勘弁してくれ!」


 そんな捨て台詞と共に、マークは詰め寄る俺達を華麗にすり抜けて部屋を飛び出す。

 まぁ、確かに、【不眠不休】のスキルがある俺ですら疲れ切っているのが事実だ。

 それに、今話す機会を逃したとて、マークはきっと近いうちに真実を語ってくれるのだろう。


「私、温泉入ってくるわ……」


「良いですわね。私もお供しますわ!」


「ああ、行ってらっしゃい」


 浴場へと出かけて行った二人を見送りつつ、俺は物思いに耽る。

 氷獄獣の討伐と言う、本来の目的は残念ながら失敗してしまった。

 だが、今回のことをきっかけに、エリカと深い絆を結び、更には伝説級の魔物と戦って生還すると言う貴重な経験まで積むことができた。

 パーティとしても、クロエは新たに強力な魔法を覚え、マークは封印していた剣技を解放し、戦力は急上昇したと言えるだろう。


「何だかんだ、良い旅だったのかな……?」


 幾度となく命の危険を感じる場面はあったものの、こうして俺達のパーティは全員が無事に帰還する事もできた。

  残念ながら俺は目立った活躍や成長は無かったが、それだけでこれ以上ない成果だと言えるだろう。


(まぁ、何にしても、もう少し修行しないとだなぁ……)


 総合的に見れば二人の成長は喜ばしい事なのだが、今回のことをきっかけに、俺は二人から一歩出遅れた形ではある。

 そうなれば、やはり少し無理をしてでも二人に追いつく為の修行をする必要があるだろう。


「なんにしても、今は休息だ……!」


 そんなこんなで、新たな力、新たな出会い、様々な思いを胸に、アイスジェイルの一件は幕を閉じるのであった―――


氷獄獣を討伐するかどうかはかなり悩んだ部分ではあるのですが、やはり伝説とも言われるような魔物を相手取った際、これが結果としては無難な落としどころなのではないかと思っています。


話が大きく切り替わる為、次話で本編とは少し外れた番外編を挟みます。

大体のプロットはあるのでそこまで投稿が遅くはならないと思うのですが、仕事もあるので、申し訳ないですが頻繁な更新はあまり期待しないでください……。


少しでも面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等頂けると励みになります。

また、具体的な次話更新予定はこちらに追記しますのでよろしくお願いします。


6/8 追:特に問題なく進めば明日9日か、10日には次話投稿できそうです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ