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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃
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第87話 葛藤

大変お待たせしてしまい、申し訳ないです。


今回、後半はマーク視点でのお話となります。

なお、次話を目途に氷獄獣戦が完結する予定です。

今回、章タイトルを少し回収していますが、本番はこの戦いが終わった後に展開していく予定です。


また、引き続き過去話の加筆・修正も進めておりますので、そちらもよろしくお願いします。

(現在24話まで修正済み)

と言うか、最初の方の話、文章量が少なすぎてびっくりしますね。

それぐらいの方が読みやすいんでしょうか……?



「みんな、ここからはフェイズ2に移行しよう……!」


 後衛組の到着の後、俺が全体へ飛ばしたのは、そんな指示だった。


 フェイズ2とは、後衛部隊を、役割ごとに更に細分化することである。

 まず、氷獄獣の魔法攻撃の迎撃の役割を担うグループ、次に、前衛や中衛を強化魔法バフでサポートする役割を担うグループ、そして最後に、大火力の魔法で攻撃を担うグループの3つに分類する。

 最後の役割を担うのは、上級魔導士アークウィザードであるクロエとマーリンの2名だ。


 そもそもとして、作戦会議の時点で、半端な火力の魔法は、恐らく殆ど無効化されるのではないかと言う意見があった。

 だが、魔法のプロフェッショナルとも言える上級魔導士は、一般的な魔法職10人分の実力があると言われている。

 その為、半端に火力面へ人員を分散させるのではなく、サポート面に多く人員を集中させ、火力面は上級魔導士の二人だけが担うることになったのである。


「支援部隊は前衛に強化魔法を!前衛は全力でクロエ達の攻撃の隙を作って!」


 ベルの号令に、俺達前衛へ向けて強化魔法が唱えられる。

 温かい光が俺達を包み込み、身体がぐんと軽くなった。


『グルルルルアッ!!!』


「相変わらず重いけど……ッ!」


 【挑発タウント】の効果によって引き寄せられた氷獄獣ブリザードビーストの攻撃が、俺を狙って放たれる。

 強力な攻撃であることには変わりないが、向上したステータスのおかげで、これまでよりも楽に攻撃を受け止めることができた。

 左手に構えた盾で鋭い爪の一撃を受け流し、硬化した拳で応戦する。


「偉大なる四元素の一柱、炎帝イフリートよ!我が魔力を糧にその身体を太陽と化し、我が敵を焼き払え……!【大火球ファイアインパクト】ッ!」


 クロエの詠唱が響き渡り、巨大な火球が放たれる。

 地を這うようにして放たれたその炎は、寸前まで俺達の相手をしていた氷獄獣へと直撃する。

 そして、強大な炎の一撃は、氷獄獣の白銀の毛皮を焼き焦がした。

 大きなダメージは与えられていないが、これまで鉄壁を誇っていた氷獄獣の守りに、文字通り穴が空いたのだ。


「マーリン、今よ……!」


「ああ、分かってるさ!偉大なるナイトウォーカーの血族たる私が命ずる。我が身に宿りし聖霊達よ、その姿を宝石と成せ。そして今、高貴なる輝きが、汝の身体を貫かん……!【水晶槍撃クリスタルランス】ッ……!」


 防御の薄くなった氷獄獣の身体へと向け、陽光を受けて輝く槍の連撃が放たれる。

 マーリンの一族に伝わると言う、宝石魔術の一撃だ。

 聖霊が変化した、硬く鋭い、槍のような水晶の連撃は、氷獄獣へ着実にダメージを与えた。

 白銀の巨体から血が滴り、足元の雪を赤く染めていく。


「いいぞ、後衛組!このまま同じ戦法を続けるぞ!」


 マークがそう叫び、氷獄獣の攻撃を的確にかわしながら素早い連撃を放つ。

 ダメージを与えることが目的ではなく、少しでも前衛へターゲットが集中することを防ぐ為の遊撃だ。

 いくら強化のおかげで防御しやすくなったとは言え、攻撃が集中してしまえば万が一のこともあり得る。

 マークを始めとした中衛部隊のそんな動きのおかげで、俺達前衛の4人も、適度に息を入れながら戦闘を行うことができていた。


『グ、グルルルルルアア……ッ!!!』


 近接攻撃ばかりを行っていた氷獄獣が、煩わしいとばかりに魔法を発動する。

 氷塊や雪弾が次々と発射されるが、その攻撃も、後衛の魔法部隊によって次々と叩きとされていった。


(順調だ。順調だけど……!)


 強化魔法により、戦線の維持はそれ以前と比べると楽にはなっている。

 近接部隊の奮戦によって、クロエ達が攻撃する隙も確かに作られていた。

 そして、時に大炎塊が、時に水晶の槍が、氷獄獣の身体を焼き、貫き、ダメージを蓄積させている。


 だが、やはり何かが足りない。

 戦況面では明らかにこちらが有利となり、氷獄獣へのダメージも着実に稼ぐことができている。

 それでもなお、氷獄獣を倒す為には、今一歩、足りていないのだ。

 どれだけ大魔法が直撃しようとも、どんな渾身の一撃を受けようとも、その数秒後には、確実にダメージを受けた様子があるにも関わらず、氷獄獣が立ち上がる。

 いくらこのまま戦いを続けたとしても、氷獄獣の気分一つで雪崩が起こり、俺達の討伐隊は壊滅してしまうだろう。


(どうすればいい、何か作戦は……!?)


 煙玉の使用によるフェーズ1、後衛部隊の支援を組み込むフェーズ2。

 他にもマークの【聖縛鎖ホーリーバインド】等、細かい策は戦闘の所々で講じてきた。

 各々で何か隠し玉はあるかもしれないが、ここまでで、戦況を大きく変えられるような策は、全て尽きてしまったと言えるだろう。

 このままでは、十中八九、敗北する。

 部隊全員の命を預かる立場として、撤退の文字が頭に浮かび始めた時だった。


「―――マーク・マルティネス!」


 葛藤する俺を他所に、辺りへと凛とした声が響き渡る。

 声を上げたのは、エリカであった。




◆◆◆




「―――マーク・マルティネス!」


 戦場に、エリカの凛とした声が響く。

 その声が告げたのは、他の誰でもない、俺の名前だった。


(なんだってんだよ……)


 俺の名を呼んだ理由は分かっている。

 決闘の際の口ぶりからするに、俺の正体を知っているからだ。

 どう考えても、俺に剣を取れ(・・・・)と言うのだろう。

 だが、俺が剣を取る事が許される訳がない。


 剣から逃げ、生家から逃げ、既に5年が経過していた。

 そんな俺が剣を握ったところで、一体何が変わると言うのだろうか。

 一族の落ちこぼれである俺の剣戟など、氷獄獣に通じる筈も無いのだから。


「ここで剣を取らねば、貴方は一体どこで剣を振るうのですか……!」


 諦めにも似た感情に包まれる俺を鼓舞したのは、エリカのそんな言葉だった。

 俺と同じく、生まれた家によるしがらみに運命を左右されたエリカ。

 俺とは異なり、その運命から逃げず、正面から戦うことを選択したエリカ。


(ああ、俺はなんて情けねえんだ……!)


 自身の矜持プライドと仲間の命、どちらが大切かなど、言葉にするまでもない。

 剣術の道からも、家柄からも、その使命からも、全てから逃げて来た。

 そんな俺を、相棒だと慕ってくれる男がいる。仲間だと言ってくれる奴らがいる。

 ここで剣を取らねば(・・・・・・・・・)、俺はまた全てを失ってしまう。


「畜生、随分遠回りしちまったが……!」


「マーク様、これを使ってください……!」


 最早使い慣れてしまった愛用のナイフを仕舞い、エリカから手渡された片手剣を握った。

 ほぼ5年ぶりに実践で使う筈の剣は、何故か不思議な程に俺の手に馴染む。

 大きく息を吸い込むと、冷たい空気が、俺の昂った気持ちを冷ましてくれるような気がする。


「―――我が名はマーク・マルティネス!今ここに、強大なる敵を打ち破らんこと、偉大なる我が血筋と、我が盟友に誓おう……!」


 この宣誓をするのも、何年振りだろうか。

 自らの愚かさと未熟さから捨てた筈のその名も、今では俺の背中を押してくれているようだ。


 そう、俺の名はマーク・マルティネス。

 偉大なる剣神を輩出した、騎士の名門(・・・・・)であるマルティネス家の一員だ。


 高いカリスマ性を持ち、祖国の聖騎士団の団長であり、近代の剣聖と謳われる父。

 父をも超える高い技量を持ち、次代の剣聖とまで噂される長男。

 純粋な技術においては兄に一歩劣るものの、二人を上回る程の剛剣を使う次男。

 そんな兄弟の末弟として育てられたのが俺だった。


 高い技術を身に付けた兄と、人並み外れた剛力を身に宿した兄。

 兄達の名声は、やや年の離れた俺に期待が注がれるには十分すぎるものだった。

 だが、その期待に反して、俺はなんの才覚にも恵まれなかったのだ。

 父のようなカリスマも、長兄のような技量も、次兄のような筋力も無い。


 どれだけ修練を重ねようとも、手に入らない才能。

 物心ついたころからの修練と勉学で手に入ったのは、他者より多少素早いだけのステータスと、書物を読みふけったことによる知識だけであった。


 それを自覚してからも、数年は努力を続けた。

 先を行く父や兄弟に追いつくため、様々な戦術も頭に叩き込んだ。

 そしてある時、次兄との決闘に、正攻法とは程遠い形で勝利した俺を、師範役を担っていた祖父は激しく叱責した。

 その勝利は、高潔なマルティネス家で評価されるものでは無かったのだ。


 そこから先の俺は、もう酷いものだった。

 半ば逃げ出すような形で家を出奔し、グスタの街へと流れついた。

 そして、家名を伏せ、剣ではなくナイフを振るい、盗賊シーフとして冒険者になったのだ。

 意味など無かった。時には裏の仕事を担うことすらあった。


 そんな俺を変えたのが、今や相棒と呼べる程になったヨシヒロ・サトウの存在だ。

 最初に接触したきっかけは、ただの暇つぶしだった。

 街で噂のルーキーと聞いて、退屈な生活に何か変化があるかもしれないと思ったのだ。

 だが、そんな目的で近づいた男は、笑える程に常識が無く、驚くほどに変わった奴だった。

 ただの興味本位でパーティを組んだ筈が、いつしかその男の人柄に惹かれていたのである。


 そして、その男や、男が惹き寄せる仲間達は、こうして、俺に再び剣を握らせるまでの、大きな存在となっていた。


(今思えば、俺らしくもねえ……!)


 きっと、今の俺であれば、どれだけ否定されようが、あの時の戦法を崩さなかった筈だ。

 結局、人間と言うのは、持ちえた能力だけで戦うしかないのである。

 だからこそ俺は、持ち得る力を全て使って、今こそこの戦いに勝利をもたらして見せようではないか。


「マーク……!それで、良かったんだよね……?」


 剣を握った俺に驚いた様子の相棒が駆け寄ってくる。

 この戦いが無事に終わった暁には、ちゃんと話をしてやろう。


「ああ、勿論だ。お前がこのパーティの盾なら、俺はこのパーティの剣になってやる」


この膠着した状況を打破する為には、もう一手が不足している。

そして、俺の剣こそが、その一手となる筈だ。

いや、俺の剣で、逆転の一手を生み出さなければならない。


「さぁ、ラストスパートだぜ……!」


 俺は右手の剣を改めて固く握りしめ、氷獄獣へと向き直る。

 今までより一層大きく、恐ろしい声を上げた氷獄獣が、こちらへ向かって駆け出す。

 それを機に、氷獄獣との戦いの最後の火蓋が切って落とされるのであった。


次話、今週中には上げられるようにします。

詳細な日時はこちらの後書きに追記しますので、お手数ですがご確認下さい。


話の中に登場した、マーリンの『宝石魔術』について説明しきれなかったので、以下に設定を置いておきます。


【宝石魔術】

ナイトウォーカ―の一族に伝わる特殊な魔法。

ナイトウォーカーの一族は、代々『聖霊』と呼ばれる特殊な存在をその身に宿す。

そして、聖霊達は宿主の魔力を糧に様々な姿の宝石へと変化させる。

込められた魔力量や、宿主の意図によってその姿は異なるが、宝石を基にする為、高い攻撃力と防御力を誇る。

なお、生み出された宝石はすぐに消滅し、聖霊の姿へと戻ってしまうので、この宝石を利用して金策を行うことは出来ない。


また、少しでも面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等頂けると励みになります。


5/29 追:本日投稿が難しいかもしれません。間に合えば夜、無理であれば明日中の投稿を目指します→5/30夜までに投稿します。


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