第87話 葛藤
大変お待たせしてしまい、申し訳ないです。
今回、後半はマーク視点でのお話となります。
なお、次話を目途に氷獄獣戦が完結する予定です。
今回、章タイトルを少し回収していますが、本番はこの戦いが終わった後に展開していく予定です。
また、引き続き過去話の加筆・修正も進めておりますので、そちらもよろしくお願いします。
(現在24話まで修正済み)
と言うか、最初の方の話、文章量が少なすぎてびっくりしますね。
それぐらいの方が読みやすいんでしょうか……?
「みんな、ここからはフェイズ2に移行しよう……!」
後衛組の到着の後、俺が全体へ飛ばしたのは、そんな指示だった。
フェイズ2とは、後衛部隊を、役割ごとに更に細分化することである。
まず、氷獄獣の魔法攻撃の迎撃の役割を担うグループ、次に、前衛や中衛を強化魔法でサポートする役割を担うグループ、そして最後に、大火力の魔法で攻撃を担うグループの3つに分類する。
最後の役割を担うのは、上級魔導士であるクロエとマーリンの2名だ。
そもそもとして、作戦会議の時点で、半端な火力の魔法は、恐らく殆ど無効化されるのではないかと言う意見があった。
だが、魔法のプロフェッショナルとも言える上級魔導士は、一般的な魔法職10人分の実力があると言われている。
その為、半端に火力面へ人員を分散させるのではなく、サポート面に多く人員を集中させ、火力面は上級魔導士の二人だけが担うることになったのである。
「支援部隊は前衛に強化魔法を!前衛は全力でクロエ達の攻撃の隙を作って!」
ベルの号令に、俺達前衛へ向けて強化魔法が唱えられる。
温かい光が俺達を包み込み、身体がぐんと軽くなった。
『グルルルルアッ!!!』
「相変わらず重いけど……ッ!」
【挑発】の効果によって引き寄せられた氷獄獣の攻撃が、俺を狙って放たれる。
強力な攻撃であることには変わりないが、向上したステータスのおかげで、これまでよりも楽に攻撃を受け止めることができた。
左手に構えた盾で鋭い爪の一撃を受け流し、硬化した拳で応戦する。
「偉大なる四元素の一柱、炎帝イフリートよ!我が魔力を糧にその身体を太陽と化し、我が敵を焼き払え……!【大火球】ッ!」
クロエの詠唱が響き渡り、巨大な火球が放たれる。
地を這うようにして放たれたその炎は、寸前まで俺達の相手をしていた氷獄獣へと直撃する。
そして、強大な炎の一撃は、氷獄獣の白銀の毛皮を焼き焦がした。
大きなダメージは与えられていないが、これまで鉄壁を誇っていた氷獄獣の守りに、文字通り穴が空いたのだ。
「マーリン、今よ……!」
「ああ、分かってるさ!偉大なるナイトウォーカーの血族たる私が命ずる。我が身に宿りし聖霊達よ、その姿を宝石と成せ。そして今、高貴なる輝きが、汝の身体を貫かん……!【水晶槍撃】ッ……!」
防御の薄くなった氷獄獣の身体へと向け、陽光を受けて輝く槍の連撃が放たれる。
マーリンの一族に伝わると言う、宝石魔術の一撃だ。
聖霊が変化した、硬く鋭い、槍のような水晶の連撃は、氷獄獣へ着実にダメージを与えた。
白銀の巨体から血が滴り、足元の雪を赤く染めていく。
「いいぞ、後衛組!このまま同じ戦法を続けるぞ!」
マークがそう叫び、氷獄獣の攻撃を的確にかわしながら素早い連撃を放つ。
ダメージを与えることが目的ではなく、少しでも前衛へターゲットが集中することを防ぐ為の遊撃だ。
いくら強化のおかげで防御しやすくなったとは言え、攻撃が集中してしまえば万が一のこともあり得る。
マークを始めとした中衛部隊のそんな動きのおかげで、俺達前衛の4人も、適度に息を入れながら戦闘を行うことができていた。
『グ、グルルルルルアア……ッ!!!』
近接攻撃ばかりを行っていた氷獄獣が、煩わしいとばかりに魔法を発動する。
氷塊や雪弾が次々と発射されるが、その攻撃も、後衛の魔法部隊によって次々と叩きとされていった。
(順調だ。順調だけど……!)
強化魔法により、戦線の維持はそれ以前と比べると楽にはなっている。
近接部隊の奮戦によって、クロエ達が攻撃する隙も確かに作られていた。
そして、時に大炎塊が、時に水晶の槍が、氷獄獣の身体を焼き、貫き、ダメージを蓄積させている。
だが、やはり何かが足りない。
戦況面では明らかにこちらが有利となり、氷獄獣へのダメージも着実に稼ぐことができている。
それでもなお、氷獄獣を倒す為には、今一歩、足りていないのだ。
どれだけ大魔法が直撃しようとも、どんな渾身の一撃を受けようとも、その数秒後には、確実にダメージを受けた様子があるにも関わらず、氷獄獣が立ち上がる。
いくらこのまま戦いを続けたとしても、氷獄獣の気分一つで雪崩が起こり、俺達の討伐隊は壊滅してしまうだろう。
(どうすればいい、何か作戦は……!?)
煙玉の使用によるフェーズ1、後衛部隊の支援を組み込むフェーズ2。
他にもマークの【聖縛鎖】等、細かい策は戦闘の所々で講じてきた。
各々で何か隠し玉はあるかもしれないが、ここまでで、戦況を大きく変えられるような策は、全て尽きてしまったと言えるだろう。
このままでは、十中八九、敗北する。
部隊全員の命を預かる立場として、撤退の文字が頭に浮かび始めた時だった。
「―――マーク・マルティネス!」
葛藤する俺を他所に、辺りへと凛とした声が響き渡る。
声を上げたのは、エリカであった。
◆◆◆
「―――マーク・マルティネス!」
戦場に、エリカの凛とした声が響く。
その声が告げたのは、他の誰でもない、俺の名前だった。
(なんだってんだよ……)
俺の名を呼んだ理由は分かっている。
決闘の際の口ぶりからするに、俺の正体を知っているからだ。
どう考えても、俺に剣を取れと言うのだろう。
だが、俺が剣を取る事が許される訳がない。
剣から逃げ、生家から逃げ、既に5年が経過していた。
そんな俺が剣を握ったところで、一体何が変わると言うのだろうか。
一族の落ちこぼれである俺の剣戟など、氷獄獣に通じる筈も無いのだから。
「ここで剣を取らねば、貴方は一体どこで剣を振るうのですか……!」
諦めにも似た感情に包まれる俺を鼓舞したのは、エリカのそんな言葉だった。
俺と同じく、生まれた家によるしがらみに運命を左右されたエリカ。
俺とは異なり、その運命から逃げず、正面から戦うことを選択したエリカ。
(ああ、俺はなんて情けねえんだ……!)
自身の矜持と仲間の命、どちらが大切かなど、言葉にするまでもない。
剣術の道からも、家柄からも、その使命からも、全てから逃げて来た。
そんな俺を、相棒だと慕ってくれる男がいる。仲間だと言ってくれる奴らがいる。
ここで剣を取らねば、俺はまた全てを失ってしまう。
「畜生、随分遠回りしちまったが……!」
「マーク様、これを使ってください……!」
最早使い慣れてしまった愛用のナイフを仕舞い、エリカから手渡された片手剣を握った。
ほぼ5年ぶりに実践で使う筈の剣は、何故か不思議な程に俺の手に馴染む。
大きく息を吸い込むと、冷たい空気が、俺の昂った気持ちを冷ましてくれるような気がする。
「―――我が名はマーク・マルティネス!今ここに、強大なる敵を打ち破らんこと、偉大なる我が血筋と、我が盟友に誓おう……!」
この宣誓をするのも、何年振りだろうか。
自らの愚かさと未熟さから捨てた筈のその名も、今では俺の背中を押してくれているようだ。
そう、俺の名はマーク・マルティネス。
偉大なる剣神を輩出した、騎士の名門であるマルティネス家の一員だ。
高いカリスマ性を持ち、祖国の聖騎士団の団長であり、近代の剣聖と謳われる父。
父をも超える高い技量を持ち、次代の剣聖とまで噂される長男。
純粋な技術においては兄に一歩劣るものの、二人を上回る程の剛剣を使う次男。
そんな兄弟の末弟として育てられたのが俺だった。
高い技術を身に付けた兄と、人並み外れた剛力を身に宿した兄。
兄達の名声は、やや年の離れた俺に期待が注がれるには十分すぎるものだった。
だが、その期待に反して、俺はなんの才覚にも恵まれなかったのだ。
父のようなカリスマも、長兄のような技量も、次兄のような筋力も無い。
どれだけ修練を重ねようとも、手に入らない才能。
物心ついたころからの修練と勉学で手に入ったのは、他者より多少素早いだけのステータスと、書物を読みふけったことによる知識だけであった。
それを自覚してからも、数年は努力を続けた。
先を行く父や兄弟に追いつくため、様々な戦術も頭に叩き込んだ。
そしてある時、次兄との決闘に、正攻法とは程遠い形で勝利した俺を、師範役を担っていた祖父は激しく叱責した。
その勝利は、高潔なマルティネス家で評価されるものでは無かったのだ。
そこから先の俺は、もう酷いものだった。
半ば逃げ出すような形で家を出奔し、グスタの街へと流れついた。
そして、家名を伏せ、剣ではなくナイフを振るい、盗賊として冒険者になったのだ。
意味など無かった。時には裏の仕事を担うことすらあった。
そんな俺を変えたのが、今や相棒と呼べる程になったヨシヒロ・サトウの存在だ。
最初に接触したきっかけは、ただの暇つぶしだった。
街で噂のルーキーと聞いて、退屈な生活に何か変化があるかもしれないと思ったのだ。
だが、そんな目的で近づいた男は、笑える程に常識が無く、驚くほどに変わった奴だった。
ただの興味本位でパーティを組んだ筈が、いつしかその男の人柄に惹かれていたのである。
そして、その男や、男が惹き寄せる仲間達は、こうして、俺に再び剣を握らせるまでの、大きな存在となっていた。
(今思えば、俺らしくもねえ……!)
きっと、今の俺であれば、どれだけ否定されようが、あの時の戦法を崩さなかった筈だ。
結局、人間と言うのは、持ちえた能力だけで戦うしかないのである。
だからこそ俺は、持ち得る力を全て使って、今こそこの戦いに勝利をもたらして見せようではないか。
「マーク……!それで、良かったんだよね……?」
剣を握った俺に驚いた様子の相棒が駆け寄ってくる。
この戦いが無事に終わった暁には、ちゃんと話をしてやろう。
「ああ、勿論だ。お前がこのパーティの盾なら、俺はこのパーティの剣になってやる」
この膠着した状況を打破する為には、もう一手が不足している。
そして、俺の剣こそが、その一手となる筈だ。
いや、俺の剣で、逆転の一手を生み出さなければならない。
「さぁ、ラストスパートだぜ……!」
俺は右手の剣を改めて固く握りしめ、氷獄獣へと向き直る。
今までより一層大きく、恐ろしい声を上げた氷獄獣が、こちらへ向かって駆け出す。
それを機に、氷獄獣との戦いの最後の火蓋が切って落とされるのであった。
次話、今週中には上げられるようにします。
詳細な日時はこちらの後書きに追記しますので、お手数ですがご確認下さい。
話の中に登場した、マーリンの『宝石魔術』について説明しきれなかったので、以下に設定を置いておきます。
【宝石魔術】
ナイトウォーカ―の一族に伝わる特殊な魔法。
ナイトウォーカーの一族は、代々『聖霊』と呼ばれる特殊な存在をその身に宿す。
そして、聖霊達は宿主の魔力を糧に様々な姿の宝石へと変化させる。
込められた魔力量や、宿主の意図によってその姿は異なるが、宝石を基にする為、高い攻撃力と防御力を誇る。
なお、生み出された宝石はすぐに消滅し、聖霊の姿へと戻ってしまうので、この宝石を利用して金策を行うことは出来ない。
また、少しでも面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等頂けると励みになります。
5/29 追:本日投稿が難しいかもしれません。間に合えば夜、無理であれば明日中の投稿を目指します→5/30夜までに投稿します。




