第86話 奮戦
少し短くなってしまいましたが更新です。
新しく評価、ブックマークをして下さった皆様、継続して読んでくださっている皆様、ありがとうございます。
しばらく仕事が忙しくなってしまうので、週に1話~程度しか更新できないかもしれません。
その代わりと言ってはなんですが、過去話をプロローグから修正していっています(現在12話まで)。
多少なりとも読みやすく、また、矛盾なども無くしつつ、文章量も増やしていくつもりですので、もしよろしければ、また時間のある時に読み返してもらえると嬉しいです。
『……グルルルルロアアアアアアアアッッッ!!!!!』
その瞳を怒りの色に染めた氷獄獣が、ゆっくりとこちらへ足を進める。
そして、先程自身に苦痛をもたらした相手を覚えていたのか、マークの方へと一気に駆け出した。
(詠唱は間に合わないけど……ッ!)
幸か不幸か、マークの立ち位置は、俺と氷獄獣の直線状だ。
このまま進んでくれば、氷獄獣と俺が数秒後にも衝突することになる。
【挑発】でのターゲット取りや、【硬化】による防御力の向上は望めないが、それでもマークが直接氷獄獣とやり合うよりは、耐久の高い俺が攻撃を受けた方が安全だろう。
『グルルアッッッ………!』
駆け抜けた勢いのままに、凶悪な爪を振るう氷獄獣。
頭上から振り下ろされる爪を受け止める為、俺は両手をクロスするようにして、左手に装備した盾でその衝撃を受け止める。
そのまま衝撃を殺し、上手く弾き返してから体勢を立て直す。
そのつもりだった。
「さっきより、威力が……ッ!?!!?」
奮闘も束の間、俺は勢いを殺しきれず、遥か後方へと吹き飛ばされる。
想定以上の威力だ。攻撃を受け止めることはできるが、その重さが尋常なものではない。
恐らく、前衛の4人以外では、そのまま攻撃を喰らってしまうだろう。
このまま氷獄獣を野放しにすれば、中衛部隊が壊滅する。
マークの寸前にまで、氷獄獣が迫った瞬間だった。
「これでも、喰らいやがれッ……!」
『グルルル……ッ!?』
三本の光の鞭が放たれる。
放たれた光の鞭が、氷獄獣の身体を拘束し、その動きを停止させる。
密かに詠唱を開始していたマークが、【聖縛鎖】発動したのだ。
「ナイスだ、マーク……!」
「一回きりの秘策だったんだが、仕方ねえ……!」
光の鞭は、確かに氷獄獣を拘束した。
だが、【聖縛鎖】のような、弱化魔法や、状態異常をもたらす魔法は、使えば使うだけ相手が耐性を付けてしまう。
ましてや、氷獄獣は圧倒的に格上の存在なのだ。二回目以降は恐らく無効化されてしまうだろう。
『グッ、グルルルルア……ッ!!!』
拘束から逃れようと、氷獄獣が身をよじらせる。
マークの作り出した隙は、時間にしてみればほんの数秒。
だが、それはこの戦いにおいて、大きな一瞬である。
歴戦の勇士達は、その一瞬の隙を、絶対に見逃さない。
「……おぉりゃああああああッ!岩盤砕きッッッ!!!」
拘束された氷獄獣へ向かって、上段から放たれる、大戦斧の一撃。
エリカによって放たれた渾身の攻撃は、辺りに大きな衝撃を与えながら、白銀の身体へと吸い込まれていく。
そして、エリカの奥義の直撃を受けた氷獄獣は、その巨体を雪の中へと沈めることとなった。
『グ、グロロロロロロアアアッ……!』
荒い息遣いと共に、氷獄獣がよろめきながらも立ち上がる。
その身体には、大戦斧によって与えられた傷が、確かに刻まれていた。
「効いてるぞ……!」
「ええ、やりましたわ……!」
少しずつではあるが、着実にダメージを与えることができている。
悔やみきれないことに、一名の犠牲は出てしまったが、他の隊員達は皆が健在だ。
このまま継続してダメージを与えられれば、討伐も可能なのではないだろうか。
俺の頭の中に、一筋の希望の光が差し込んだような、そんな時だった。
『……オオオォォォォンンッッッ!!!!』
辺りへ地の底から響くかのような、恐ろしい遠吠えが響く。
そして、その遠吠えに呼応するかのように、氷獄獣の周囲へと、雪や氷の塊が浮かび上がり始めた。
モリスから聞いていた氷獄獣の特徴の一つだ。
追い詰められた氷獄獣は、その魔力によって雪や氷を操り、更には雪崩まで引き起こす。
一歩間違えば、俺達は雪崩で全滅してしまう。だからこそ、相手に隙を与えてはいけない。
(そう思ってたけど……ッ!)
これまでの爪や牙による攻撃に、魔法攻撃まで加わってしまった。
俺達へと向けて放たれる雪の弾は視界を奪い、氷塊は着実にダメージを与えてくる。
流石に、相手の手数が多すぎた。
危険なのは承知だが、後衛からクロエ達を呼び戻すしか対処の方法はないだろう。
相手の魔法攻撃をこちらの魔法攻撃で相殺し、少しでも近接組が処理する攻撃を減らさなければ、こちらが攻勢に映ることは不可能だ。
「……マーク!」
「ああ、分かってる!後衛を呼びに行けばいいんだろう!?」
「流石マーク、頼んだ……!」
流石相棒、俺の考えはお見通しと言う訳だ。
そんな会話を最後に、マークはあっという間に部隊後方へ向かって疾走を開始した。
「前衛は変わらず、俺とベルが中心になって戦線を維持する!エリカとアッシュは俺達のサポートを!」
「わかりましたわ!」
「ああ、分かった!」
気合を入れなおす為にも、俺は前衛組へと改めて檄を飛ばす。
エリカとアッシュが、俺やベルの少し後ろに構えるように立ち位置を変えた。
「中衛の指示は、ピエールに任せる!攻撃よりも、相手の妨害と、俺達のサポートができるように動いてくれ!」
「ああ、分かったよ!任せてくれたまえ!」
マークが後衛を連れて戻るまでの最優先事項は、犠牲を出さずに戦線を維持すること。
相手の攻撃手段が増えてしまった今、下手に手を打つよりは、守備に努めるのが先決だろう。
「よし……!」
俺は、頬を手で叩くようにして気合をつける、
そして、青白い魔力を纏い、氷塊を操る氷獄獣へ、改めて向き直った。
『グルルルルル……ッ!』
氷獄獣も白銀の毛並みを逆立て、こちらを威嚇している。
ここから先は、防衛戦。俺の得意分野だ。
(とは言え、早めに帰ってきてくれよ……!)
俺は遥か後方にいる相棒へと向けて、心の中でそんな叫びを上げるのであった。
◆◆◆
『アオオオオォォォォンッ!!!』
氷獄獣の咆哮に呼応するかのように氷塊が宙へと浮かび、こちらへと射出される。
威力自体はそれ程大したものではない。だが、問題なのはその数の多さと、射出速度だ。
多数同時に発射されるそれをどうにか処理しても、すぐに第二波が襲い掛かる。
雪や空気中の水分を凝固させて作られる為、弾数は実質無限。
氷獄獣の魔力が尽きるまで、この弾幕戦は永久に続くのだ。
「くっ……!」
「流石に……!数が、多すぎますわ……ッ!」
俺は、エリカのサポートを受けながら、襲い掛かる氷塊と雪弾と格闘していた。
ただの遠距離攻撃だけならばどうにか対応できたかもしれないが、氷獄獣は時折こちらとの距離を詰め、威力の高い爪や牙での攻撃まで織り交ぜてくる。
致命傷に成り得る近接攻撃は、絶対に素で受ける訳にはいかず、それに対応しようと思えば、どうしても遠距離攻撃の対応が疎かになってしまう。
時折、中衛組による弱化魔法等も放たれているが、殆ど焼け石に水といった効果である。
俺達は、ジリジリとダメージを負い続けていた。
決して致命傷には成り得ないが、確実に体力は削られている。
このままの状態が続けば、前衛から誰かが離脱することは間違いない。
一人でも前衛の面子が欠けてしまえば、そこから一気に戦線が瓦解する。
『……オオオオオオォォォォォオオオオンッ!!!!』
一際大きく吠えた氷獄獣の頭上に、青白い魔力が収縮していく。
そして、数秒の後、俺達に向けて放たれたのは、これまでとは比にならない程に巨大な氷の塊だった。
恐らく氷獄獣側も、何かもう一押しあれば、この膠着を脱せられることに気づいてしまったのだ。
直径3メドルはあろうかというその巨大な氷塊は、これまでと殆ど変わらないスピードで、こちらへと射出される。
まともに受ければ前衛の誰かが大打撃を負い、かと言って俺達の誰かが受けなければ、中衛部隊が壊滅する。
(どうする……!?【硬化】は詠唱が間に合わない……!)
前衛の4人全員が、意を決したように前へと踏み出した瞬間だった。
ごう、と部隊の後方から轟音が響き渡る。
「―――【大火球】ッ!!!」
轟音と共に射出されたのは、氷塊と同じく巨大な火の玉だった。
大火球が俺達の頭上を飛び越え、氷塊と正面から衝突する。
轟音と共に水蒸気爆発が起こり、辺りを熱気が包み込んだ。
「―――クロエ!」
「待たせたわね!ここから先は、私達に任せなさい!」
「おうよ!あんな氷の弾くらい、俺達が全部撃ち落としてやるぜ!」
大火球の主は、後衛から駆け付けたクロエだった。
これまで見たことない魔法なので、これが旅の最中に言っていた、新しく覚えた魔法なのだろう。
何にしても、マークが最速で駆けてくれたおかげで、救援が間に合った。
それに、クロエと同じく上級魔導士のマーリンや、護衛部隊の精鋭達もいる。
今までは近接一手、防戦一方だった俺達に、新たに魔法という手札が加わったのだ。
「さぁ、反撃の時間だ……ッ!!!」
こちらの疲労も大きいが、これまでの交戦で、氷獄獣へのダメージは着実に稼げている。
あと一手、二手と大きな攻撃ができれば、目的である討伐も見えてくる筈だ。
きっと戦いは、ここから確実に、大きく動いていく―――。
戦いとしては、残り2話程度で終了させる予定です。
前書きにも記述した通り、次回更新は少し先になってしまうかもしれません。
詳しい更新日時が決まり次第、こちらの後書きの部分に追記したいと思います。
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5/26 追:次話、本日お昼頃までに投稿予定です。




