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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃
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第85話 氷狼山へ

更新が遅くなってしまい申し訳ございませんでした。


VS氷獄獣。残り2話~くらいで完結できると良いなぁと思っています。


 あの作戦会議から、早くも一週間。

 俺達は、氷狼山ひょうろうさんへと向けて、白雪狼スノーウルフのソリに乗って移動していた。


 この一週間を、俺達は、ひたすらに作戦の見直しと、鍛錬の時間に費やした。

 実際の討伐には参加しない、先代の隊長達であるモリスやジェイクが、直々に戦闘訓練を付けてくれたのだ。

 二人とも、かなりの達人だったようで、魔法使いであるクロエ以外の三人は、毎日ゲロを吐いて倒れるまでみっちりとしごかれた。

 戦闘訓練に参加しなかったクロエも、マーリンや遠距離部隊と共に何やらやっていたので、あちらも恐らく何かしらの訓練をしていたのだろう。


「良い景色だな……」


「ええ、天候が荒れずに良かったですわ」


 この一週間、嵐の前の静けさとでも言わんばかりに、アイスジェイル近辺の天候は快晴続きだ。

 結構当日である今日も、風すらなく、視界も開けている。


「……よーし、全員ストップだよ~!」


 先頭を走るベルが、後ろを走るソリへと向かってそう声を上げる。

 どうやら、無事に目的地へと辿り着いたようだ。


「……足元も大丈夫そうだな」


「ああ、護衛部隊謹製のスノーブーツのおかげだな」


 ソリを引くのと同じ白雪狼の素材で作られたこのブーツは、俺達の雪の上での移動をかなりスムーズなものにしてくれていた。

 流石に、多少は足が雪に沈み込むが、これがあれば、戦闘面もかなり楽に進められるだろう。


 氷狼山も中腹に差し掛かったこの場所は、周囲と比べてもなだらかな傾斜と、広い台地が広がっている。

 モリスの経験談や、アイスジェイルに残る記録から、この付近で氷獄獣が多数目撃されている。

 情報に相違なければ、そろそ氷獄獣と遭遇してもおかしくない筈だ。


「うーん、この辺りの筈なんだけど……」


 俺達を先導するベルが、辺りを見回しながら、そんなことを呟く。

 ソリを降り、この地帯を歩き始めてから、一時間程が経過しただろうか。

 俺達の頭の上を、大きな影が横切った。


 そして、行軍の最後方まで移動したそれは、雪を大きく巻き上げて着地する。


『グルルルルルル……!』


 衝撃に振り向いた俺達の視界の先に映ったのは、白銀の獣だった。

 白銀の毛並みを風で靡かせ、獰猛な瞳でこちらを見つめている。

 体長3メドル以上はあるだろうか。

 まるで氷のように透き通る爪と牙は鋭く、太陽を反射して輝いている。

 

 白銀の巨体に、鋭い爪と牙を持つ狼のような魔物。

 俺達が対峙しているのは、間違いなく氷獄獣だった。


「……全員、隊列を組んで!後衛部隊は、迅速に後方待機!」


 唐突な氷獄獣の登場に、隊員達が竦む中、ベルが迅速に指示を飛ばす。

 そして、その声を聞いた討伐隊は、事前に決めていた通りの陣形を作り上げた。


『アオオオオォォォォン……ッ!!!!』


 地の底から響くかのような恐ろしい遠吠えと共に、氷獄獣がこちらへと駆け抜ける。

 快晴の氷狼山、俺達の戦いの火蓋が切って落とされた。




◆◆◆




『アオオオオォォォォン……ッ!!!!』


―――ギィン。


 遠吠えと共に振り下ろされた一撃を最初に受け止めたのは、ベルの大剣だった。

 身の丈を越える程に巨大なその両刃剣は、強力な爪の攻撃を見事に防ぎきる。


「さっすがに、重いなぁ……!」


 氷獄獣の一撃をいなしたベルは、華麗なバックステップで後退する。

 あの攻撃をベルだけに任せる訳にはいかない。


「……蛮族よ、我が盾を見よ!……【挑発タウント】ッ!」


『グルルルッ……!?』


 【挑発】が発動し、氷獄獣の注意をこちらへと引き付ける。

 どうやら、相手が格上の魔物であっても問題なく作用しているようだ。

 魔法の効果によって強制的に意識を逸らされた氷獄獣は、煩わしいとばかりに俺へと飛びかかった。


「ぐぅッ……!?」


 想像以上の重い攻撃に、俺は勢いを殺しきれず、後ろへと弾き飛ばされる。

 その隙を逃さず、氷獄獣も再度こちらへと攻撃の手を伸ばす。


『グルルルルルッ……!』


「……あっぶない!」


 無防備な俺へ向け、鋭い爪が襲い掛かる。

 その一撃を、俺は斜め横へ向かって前転し、間一髪で回避する。

 だが、獰猛な息遣いは、明らかにまだこちらを狙っている。

 次の一撃は、かわせない。


「神よ、その偉大なる力を以て、かの者に聖なる守りを……!【神聖盾ホーリーシールド】……!」


 ベルの詠唱によって、俺の視界の前に白く、大きな盾が出現する。

 聖なる力を纏ったそれは、氷獄獣の鋭い一撃を、いとも容易く弾き返した。


「……ありがとう!助かった!」


「……お互い様だよ~!私がピンチの時はよろしくね~!」


 ベルのおかげで間一髪救われた俺は、どうにか体勢を立て直す。

 前衛を務めるのは俺を含めてたったの4人。

 その中の一人でも欠けてしまえば、恐らく戦線が一気に崩壊してしまう。

 改めて気を引き締めて望まねば、文字通り命取りになる。


(どうにか戦線は維持できてる、けど……!)


 前衛の経験が豊富な俺とベルが最前で戦い、エリカとアッシュがそのサポートをする。

 そして、俺達が必死の思いで作った僅かな隙を縫って、中衛部隊のマーク達が攻撃を行う。


 だが、事態は全くと言っていい程に膠着状態だった。

 こちらの攻撃が、まるで通用していない。

 どれだけ、どんな攻撃をしようとも、氷獄獣はまるで意に介していないのだ。

 このままでは、何も進まない。

 それどころか、こちらの体力だけが削れるばかりだ。


「くそ、効いちゃいねえ……!」

 

 そんな悲痛な叫びを上げたのは、攻撃から離脱したマークだった。

 マークによる【毒の牙(ポイズンファング)】は、確かに氷獄獣の分厚い毛皮を貫いた。

 にも関わらず、いくら時間が経過しようとも、氷獄獣の動きが鈍ることは無かった。

 生半可な攻撃は全て弾かれ、搦め手である毒すらも無効化される。


 こうなれば、切り札を一つ切るしかない。


「……マーク!フェイズ1に移行しよう!」


「ああ、俺もそう思ってたところだ!ヨシヒロ、合図は頼むぞ!」


 フェイズ1とは、氷獄獣のある特徴を突くことだ。

 マークの仕入れてきた情報によると、氷獄獣は、他の魔物の数百倍鋭い嗅覚を持つ。

 だが、鋭すぎる嗅覚は、時に弱点とも成り得る。

 

 その弱点を突くために、マークが用意したのがペトスの実だ。

 ペトスの実を乾燥・粉末状にし、その他刺激物と混ぜ、煙玉へと加工。

 マーク秘伝の方法で加工された煙玉は、多少の風では吹き飛ばされず、一定期間、その煙を着弾箇所に滞留させる。

 実際、登山で使われるクマ避けのスプレーにも、赤トウガラシ等から抽出した成分が使われることもあるので、それ以上の刺激物であるペトスの実は、猛獣避けにはピッタリと言えるのではないだろうか。


 ただし、一度使ってしまえば恐らく警戒されてしまうため、文字通り一回きりの秘策。

 だが、数分、いや、数十秒だけでも氷獄獣の動きを止められれば、こちらも渾身の一撃を加えることができる。


「フェイズ1、始動!全体、構え……!」


 俺の号令を契機に、近接攻撃役である、前衛と中衛の全員がある物を装着した。

 俺のアイデアを基に、ガンテツ達が鍛冶師集団が作成したガスマスクだ。

 これがあれば、こちらだけが視界を確保しつつ、煙玉の影響も受けず、一方的に攻撃が可能となる筈だ。


「これでもッ……!喰らえ……ッ!!!」


 マークの投げた煙玉が放物線を描き、氷獄獣の胴体に命中する。

 そして、着弾した煙玉が割れると、中から赤い煙が辺りへと立ち上った。

 情報が正しいものであるのならば、これで多少なりとも動きを封じられる筈だが……。

 距離を取りつつ、氷獄獣の様子を伺っていた時だった。


『……グゴゴッ!?オアアアアアアアアァァァンッ!?!??』


 赤い煙を大きく吸い込んだ氷獄獣が、苦悶の表情で悲鳴を上げた。

 嗅覚だけでなく、煙と刺激成分により視覚まで潰された氷獄獣が、怒りに身を任せるかのように暴れ狂う。

 だが、その動きは、これまでの鋭いものとは異なり、確かに鈍化していた。

 

「効いてるぞ!前衛と中衛は、この隙に渾身の一撃を叩き込め!」


「「「オオオオオオオオオオッ……!!!」」」


 これまで攻めあぐねていた軍勢が一気に盛り返し、暴れ狂う氷獄獣へと詰め寄せる。

 剣が、槌が、槍が、ナイフが、これまで傷ひとつ付かなかった氷獄獣の体躯へと、確かなダメージを刻んでいく。


「……行くよ!リベラ流大剣術奥義、氷山下ろし……ッ!」


「これでも、喰らえ……!【鉄拳】……ッ!!」


 軍勢の猛攻に続き、ベルと俺も渾身の一撃を見舞う。

 無防備な巨体に、大剣の一閃と、鉄の拳が全力を持って叩き込まれた。


『グ、グルルルル……ッ!!!』


 氷獄獣が身体を大きく震わせ、唸り声を上げる。

 煙が少しずつ晴れ、どうやら相手の視界も回復してきているようだ。

 まだ完全では無いものの、その二つの瞳は、確かにこちらへと向けられていた。


「行ける!もう一撃……ッ!」


 そんな氷獄獣へ向かって、一人の隊員が追撃を加えようと、更に接近する。

 相手は回復寸前。

 まずい、これ以上の深追いは犠牲に繋がりかねない……!

 

「待って!これ以上は……ッ!!!」


 先走った隊員を止めようと、俺がそう呼びかけた時だった。


『グオオオオオオオオオオオオン……ッッッ!!!』


 氷獄獣の白銀の体毛が、一斉に逆立つ。

 そして、地の底から響くような遠吠えと共に、凶悪な一撃が振るわれる。


 辺りが赤に染まった。

 そして、氷獄獣の視界の先から、隊員の姿が消える。


「は……?消えた……!?」


「一体、どう言う……!?」


 突如として氷獄獣の前から消え去ったその男に、隊員たちは銘々に驚きの声を上げる。

 違う、そうじゃない。


「違う、あれは……!」

 

 そう、氷獄獣の攻撃によって、一瞬にして、身体の大部分を消し飛ばされたのだ。

 まるで、鉄の槌で雪像を壊すかの如く、いとも容易く、人体が破壊された。


「う、うわあああああッ……!!?」


「に、逃げろ!撤退しろッ!勝てるわけがないッ……!!!」


 一瞬にして混乱に陥り、一人、また一人と、辺りに混乱が伝播した。

 この混乱を脱し、体勢を立て直す。

 そんな大それたことを、俺が出来るのだろうか。

 壊滅。そんな言葉が俺の頭の中へ浮かんだ時だった。


「落ち着いて、前衛を中心に立て直せ……ッ!!!」


 ベルの一喝が辺りへと響き渡る。

 その声は、隊員達を混乱から立ち直らせるには、十分なものだった。


 ベルによって、どうにか部隊全体が崩壊するという、最悪の事態は避けられた。

 だが、一瞬のミスによって、早くも一人の命が失われてしまったのだ。

 作戦ミス、代表としての責任、そんな言葉が頭へ浮かび、俺の思考と動きを鈍らせる。


『……グルルルルロアアアアアアアアッッッ!!!!!』


 俺達に死を齎す、白銀の死神が唸り声を上げる。

 死神は、明確にこちらを敵として認識してしまった。


 ―――こうして、氷獄獣との戦い、第二幕が始まる。


次話、できれば明日か、月曜日くらいには投稿できればと思っています。


少しでも面白いと思って頂ければ、感想、評価、ブックマーク等頂けると励みになります。


また、よろしければ裏で更新している作品も読んでいただけると嬉しいです↓


https://ncode.syosetu.com/n0167hq/

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