第8話 朝、社畜、ギルドにて。
埃っぽいベッドの上で目覚めた俺は、異世界生活の2日目を迎えた。
流石に、夢の中で寝起きするなんてことはそうそうない筈だ。
そろそろ、本格的に異世界に来てしまったことを認めるべきかもしれない。
眠気で働かない思考の中、ステータスの確認をしていなかったことを思い出す。
曲がりなりにもクエストをクリアしたのだ。
少ない数とは言え、一応魔物も倒したのだから、多少の経験値は入っているはずだ。
「……【ステイト】!」
俺がそう唱えると、目の前にステータスが表示される。
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<<<ヨシヒロ・サトウ>>>
冒険者ランク:F レベル:1
職業:冒険者
筋力:F 20
耐久:D 130
敏捷:F 32
知力:E 60
器用:E 77
運 :F 0
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クエスト前から比べると、耐久と知力の値が申し訳程度に上がっている。
耐久の上昇は1日中歩き回った影響、知力の上昇は、スライム捜索のためにかなり熟考したからだろうか。
経験値バー等は表示されていないのでどの程度経験値を稼げたのか分からないが、少なくともレベルは上がっていない。
ちなみに、ステータスの評価基準は、
S:特級、A:上級、B:中級、C:下級
D:初級、E:平均、F:駆け出し
といったようなレベルで分類されており、能力値の上昇に合わせてランクも上がっていくとのことだ。
つまり、俺のステータスはほぼ全てが平均か、駆け出しレベルでしかない。
それにしても、クエストで1日潰したにも関わらず、ステータスの上昇は本当に微々たるものだ。
恐らくは戦闘以外の行動も経験値として反映され、ステータスが向上しているのは有難いが、この上昇値では殆ど誤差のようなものだろう。
これがゲームなら、地道にクエストやら戦闘を繰り返せばいい話だが、現実問題、丸一日潰してこの成果ではかなり厳しい。
(うーん、ゲームか……)
RPGの感覚でいくなら、目的地が同じか、近いクエストをまとめて受けるのが効率的だ。
しかし、あくまでもそれはゲームの話であり、移動時間やら準備にも時間がかかる以上はそれほど現実的な作戦ではない。
そもそも、1人の冒険者が依頼の独占をすることを防ぐために、冒険者ランクに応じて受注できる件数は決められているのだ。
ゲームのように、張り出されたクエストを全部受けて、何となく完了させていく方法は使えない。
とまぁ、ここまで色々と考えてはみたが、複数の依頼を受けるのが効率的なのはやはり間違いないだろう。
というか、1回である程度まとまった収入を得ることができなければ、このままジリ貧で昨日のような貧乏生活を続けることになるのだ。
今の俺の冒険者ランクでの最大受注件数は、最大で3件である。
そして、幸いにも低ランクほど依頼の件数は多い。
この中から難易度と報酬のバランスを考えて、目的地も極力近いものを3件選ぶ。
『ヒヤル草 30本の納品 報酬:500エル』
まず1つ目が、この依頼だ。
内容としては、回復ポーションの原料となる薬草の採集。
10本の納品依頼の場合は150エルと少額の報酬であることから、収集の難易度も低いはずである。
『霧カスミ 10本の納品 報酬:700エル』
次の依頼が、早朝の朝靄がかかる時間にのみ咲く花である、霧カスミの回収だ。
霧カスミは、様々な道具の原料になるが、魔物も生息する森林地帯にのみ分布しているため、収集は冒険者以外には難しく、定期的に冒険者へ採取依頼が出される。
これに関しては、採取時間が限定的である為か、ヒヤル草の採取依頼よりも報酬金が高い。
『大芋虫の撃退又は討伐 報酬:1000エル』
そして最後に、山村へ続く道を塞ぐように居座った、大芋虫の討伐である。
この魔物自体の戦闘力はほぼ皆無だが、異常なまでに体力が多く、倒すにしても撃退するにしても相当な時間がかかる。
苦労と報酬があまり釣り合わないため、人気のない依頼だそうだ。
だが、この依頼だけで1000エル。つまりは2泊分の資金が一気に手に入る。
多少の苦労でその金額を受け取れるのであれば、これを狙わない理由は無い。
クエスト3件を達成できれば、報酬は占めて2200エル。
装備を整えるには流石に足りないが、これだけ資金があれば数日は生活出来る。
そして、目的地も全てが、グスタの街の北、山の麓にある林が広がる付近だ。
効率よく回ることができれば、一度の探索で全て達成することも可能であるだろう。
一方で、スライム討伐の際に掛かった時間を考えると、ソロで3つの依頼を同時進行するのは、かなり大変であることも事実だ。
しかし、会社では毎日マルチタスクなんてレベルじゃない山積みの仕事に追われていた。
この位の量であれば、多少時間が掛かっても、1人で捌ききれると思いたい。
(少しでも時間は節約したい。すぐにでも準備を開始しよう……)
ギルドで受注を完了させた俺は、残った50エルを使い果たして、乾パンのようなものを購入した。
極力荷物を減らすため、食料は保存の効く乾パンと、先日貰った果実の残りのみに留めておく。
あまり荷物があっても、移動に時間を掛けてしまうだけだからだ。
更に、情報不足で痛い目にあった前回を教訓にして、ギルド内で、目的地や生息する魔物、採集予定の植物の情報まで細かく頭に叩き込む。一応、これで準備は万端の筈だ。
どこまでいけるかは分からないが、極力街に戻らず、クエストを全て終わらせてしまいたい。
最悪の場合、数日程度であれば徹夜も辞さない覚悟はしている。
そんなこんなで準備を終えた俺は、目的地を目指し、グスタの街を出発するのだった。