第84話 情報共有、マークの秘策
思ったより仕事が忙しく、投稿がギリギリの時間になってしまいました。
また、今回で作戦会議のパートまで行く予定でしたが、それを含めると文字量がかなり多くなってしまうため、少し短いですが分割させて頂きます。
紛糾した会議は、エリカの固い意志によって最善の結果を迎えた。
一番の難関と思われたモリス老より、アイスジェイルの護衛部隊の全面的な協力を取り付けることが約束されたのだ。
「……という訳で、ここからは氷獄獣討伐の為の、具体的な作戦会議に移ろうと思うのだが」
会議室の全体を見渡すように一瞥し、モリス老がそう話を切り出す。
確かに、参加するメンバーが決まったのであれば、実際に戦闘する際の役割や、動き等をこれから詰めていく必要がある。
「いや~、私はもう疲れちゃったかな~。それは、また明日に持ち越そうよ~」
なんとも力の抜ける声で、そんな発言をしたのは、隊長であるベルだった。
確かに、長時間に渡って会議を続け、参加者の面々にもやや疲れが見える。
それを意図したのかは兎も角として、ベルの発言には一理あるのが事実だ。
「俺は良いと思いますが、皆さんはいかがでしょうか?」
ベルの発言に続き、俺は参加者へそう問いかける。
実際、俺の頭の中もかなり煮詰まっていたので、この提案は有難かった。
「……まぁ、それもそうか。儂も、それで構わんぞ」
「うむ、ベル殿の言う通り、今日の所はこれで解散でもよかろうよ」
モリスとガンテツが賛する。
それに続くように他の参加者達も同意を示し、本日の会議はここで終了となった。
皆が銘々に席を立ち、会議室を去っていき、俺達3人だけが部屋に残された。
「……じゃあ、俺達も帰ろうか」
「そうね!殆ど喋ってないけど、聞いてるだけで疲れちゃったわ……」
「どうなることかと思いましたが、最善の結果を得られたこと、嬉しく思いますわ。これも、皆様の協力あってこそ……。改めて、感謝を申し上げますわ……」
宿へと帰る道すがら、エリカが深々と頭を下げる。
「いや、今回の結果は、間違いなくエリカの強い意志があってこそだよ。俺達だけじゃ、きっとモリスさん達の言葉で折れてた。あそこで折れなかったエリカがいたからこそ、護衛部隊の人達の協力を得ることができたんだ」
「ヨシヒロさん……。それは、私も同じです。私だけでは、きっと、どこかで心が折れてしまっていました。私のことを信じてくださっている皆さんがいたからこそ、私も折れることなく意思を伝える事ができたのです」
少し照れくさそうに、そう言葉を返すエリカ。
お互いに足りない部分を補い合う。
きっと、そんな当たり前のことができるのが、理想のパーティなのだろう。
成り行きでリーダーをやっているとは言え、俺ももう少ししっかりしなくては。
「……あれ、マークじゃない?」
クロエの指差す方向に目をやると、ちょうど、マークがどこかから帰ってきた様子だ。
何やら麻袋を抱えていることから、何かしらの収穫はあったのだかもしれない。
こんな僻地でもしっかり仕事をしてくれる辺り、やはり頼りになる。
「ただいま。マークは先に帰ってたんだね」
「おう、お帰り。俺の方もある程度情報は集まったが、そっちはどうだった?」
宿の居室へと戻ると、やはりマークは先に帰ってきていた。
どうやら、愛用のナイフの手入れをしているようだ。
「聞いて驚きなさい!なんと、アイスジェイルの護衛部隊から全面協力の約束を貰ったわ!」
「……へぇ、それはすげえな。まぁ、大方ヨシヒロとエリカが頑張っただけで、クロエは座ってただけなんだろうが」
「うぐっ……!な、何よ!どうせ、そっちだって大した活躍してないんでしょ!」
図星をつかれたクロエが、苦し紛れにそんなことを言い放つ。
すると、今までナイフの手入れをしていたマークも、クロエへと向き直った。
「……はぁ?お前の百倍役に立つ情報仕入れてきたっての!」
「何よ!私の本領は戦いで発揮されるんだから!マークの千倍派手な魔法で大活躍するわ!」
「クロエみたいな後衛は、俺達前衛がいないと一瞬でやられちまうだろうが。クロエなんて、魔法職の中でもことさらに貧弱なんだからよお!」
「……なによ!」
「……お前こそなんだよ!」
バチバチと火花を散らすクロエとマーク。
はぁ、何でこの二人はこんなに相性が悪いのだろうか……。
先頭の時は抜群の連携を見せているのに、どうにも普段の二人は、出会った時から変わらず口喧嘩ばかりしている。
「ちょっと、二人とも落ち着いて!マークも、何か情報を仕入れて来たんでしょ?それを聞かせてよ!」
「お、おう。そうだったな。俺が仕入れてきたのはこれだ」
冷静さを取り戻したマークは、小さな麻袋を取り出す。
袋の中からは、からからと軽い音が聞こえるが、一体何が入っているのだろうか。
「これは、木の実……?」
俺が手渡された麻袋を開くと、中に入っていたのは、小さく、乾燥した茶色い種子のようなものだった。
全く用途が分からないが、マークがわざわざ手に入れてきたのであれば、何かしら役に立つものなのだろう。
「ああ、ペトスの実って言ってな。情報通りなら、これを使えば、氷獄獣との戦いを有利に進められる筈だ」
そう言うと、マークは、ナイフを使ってペトスの実の固そうな殻を割る。
すると、中からは綺麗なオレンジ色の果実が顔を覗かせた。
「うーん、これでどうやって戦いを有利にするワケ?足元に転がしてすっ転ばせるくらいしか使え無さそうだけど?」
「……んな訳ねぇだろ。まぁ、使い方はこの中にある果実を割ってみれば分かる筈だ」
「……なんか嫌な予感がするわ。ヨシヒロ、ちょっとやってみてよ」
「ええ、俺がやるのか……?」
そう言ったクロエは、手のひらで転がしていたオレンジ色の果実を、ナイフと共に俺へと手渡してくる。
見た目はなんてことない綺麗な果実で、これをどうにかした所で、伝説にも謳われる氷獄獣をどうこうできるとは思えない。
そんな思いを抱きながらも、俺は果実へナイフを突き立てた。
「……うっ、なんだこの匂い!?」
ナイフを突き立てると同時に、部屋の中へと広がる刺激臭。
なんとも形容しがたいその臭いが俺達へもたらしたのは、単なる不快感だけではなかった。
「……っくち!な、なにこれ!?くしゃみが……っくち!止まらな……っくち!」
「……けほっ、けほっ!なんですの、この臭いは!?涙が止まりませんわ……!」
玉ねぎを切りながら胡椒を空中にまき散らし、同時にアンモニアの原液を辺りへぶちまけたかと思うような目・鼻・喉への三重苦。
ちゃっかりゴーグルのようなものを付け、手拭いで口と鼻を覆って被害を逃れたマークだけが、部屋の中で静かに笑っていた。
「……げっほ!ま、窓を開けて!」
「ははっ!どうだ、これでペトスの実の特徴は十分に分かったんじゃないか?」
「……げほっ!い、いや、確かに俺達には効果覿面だったけどさ……!」
「そうよ!……っくち!これで、氷獄獣をどうにかできるとは思えないわよ?」
確かに、くしゃみ、鼻水、涙の三重苦が与える苦しみは俺達にとっては苦痛でしかない。
だが、それだけでどう戦いを有利にすると言うのだろうか。
俺達は、あくまでも部屋の中という密室でこの果実を割ってしまったが為にこうした被害を被ったが、実際の戦いの場は開けた屋外だ。
いくらペトスの実を使った所で、その刺激臭は風で流されてしまうのがオチだろう。
「……まぁ、このままの状態だったら、その通りだな」
「つまりは、マークはこれからこの木の実を、実戦で使えるように加工するってこと?」
「流石ヨシヒロ、察しが良いな。その通りだ」
「でも、氷獄獣なんて言う格上の魔物に、そんなイタズラみたいな方法が通用するのかしら……?」
「確かに、それもそうだよね……」
マークは、ペトスの実を実践用に加工すると言う。
その一方で、クロエの言う事も理解できる。
何度も言うように、氷獄獣は伝説とも言える魔物である。
そんな相手に、こんなちっぽけな木の実を使って、どうやり合うと言うのだろうか。
「まぁ、その部分をカバーするのが、俺が仕入れてきた情報に繋がってくるって訳だ。氷獄獣には、ある特徴があると言われていて―――」
そして、マークが語った情報は、俺達を納得させるには十分なものだった。
確かに、その特徴が情報通り当てはまるのであれば、マークの秘策は、氷獄獣と戦う上で大きな打点足りえるだろう。
無論、それを鵜呑みにして頼り切りになってしまえば、もし失敗した際に、こちらが手痛い反撃を喰らってしまうので、二重、三重に策を練っておく必要はあるだろうが……。
兎も角、この情報は、明日の作戦会議で共有し、実際の戦闘でどう活用するのか、考えていく必要がある。
「そんな情報、どこから仕入れたの?」
ふと、クロエがそんなことをマークへ尋ねる。
確かに、それは俺も気になっていた。
こんな僻地で人も少ない上に、流石のマークであっても知り合いなどいない筈だ。
一体、どうやって、誰から情報収集を行ったというのだろうか。
「まぁ、伝手って程じゃないが、盗賊には盗賊なりのルートってのがあるのさ」
そう言って、マークはにやりと笑った。
エリカとの決闘で見せたあの剣技と言い、まだまだ謎が多い男である。
まぁ、何にしても、頼りになることは間違いないのだが。
「まぁ、お互いの情報共有はそんなところかな」
「ええ、マーク様の作戦も含め、どう活かしていくかは、明日の作戦会議で煮詰めていくとしましょう」
そんなこんなで、お互いに仕入れた情報を共有し、夜は更けていく。
なお、室内でペトスの実を割り、異臭騒ぎを起こした俺達は、宿の女将から死ぬほど怒られたのであった……。
次話、作戦会議パートは明日投稿予定です。
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5/17追:本日昼以降に、久々の登場人物紹介と共に次話を投稿します。




