第83話 議論の行方
お久しぶりです。
ブックマーク等継続してくださった皆様、ありがとうございます。
話としては殆ど出来上がっていたので、どうにか続きを書きました。
裏で『マジック★ソルト』という別の転生モノも書き始めたので、よろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです。
「……若造が何を言おうが、儂は絶対に討伐などと言う愚行を認める訳にはいかんな」
俺達を射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつけながら、モリス老はぴしゃりと言い放つ。
確かに、無謀な挑戦であることは間違いない。
しかし、赤の他人である俺達が討伐に向かったところで、恐らく、この街に大きな影響は無いはずである。
そもそも、アイスジェイルではかなり上の立場のようであるし、無理にでも部隊からの参加を止めてしまえば、失敗しても死ぬのは俺達のパーティだけなのだ。
「……というか、そもそもこのお爺ちゃんは誰なのよ!」
静まり返った空気に耐えかねたのか、クロエがそんな声を上げる。
この会議に参加している時点で上の立場の人間だとは分かっているが、確かにどこの誰なのか全く分からない。
未だ衰えの見えない肉体と獰猛な瞳から、元はかなりの冒険者だったことが窺えるばかりだ。
「あぁ〜!そういえばバタバタしてたから紹介もしてなかったね〜!」
「しっかりせんか!隊長のお主がそのように抜けておるから、舞台全体が弛んどるんだ!」
「いや〜、メンゴメンゴ〜。ってことで自己紹介頼むよ、モリスの爺様〜」
「……ふん。儂はアイスジェイル護衛部隊の先々代隊長、モリス・ランバードだ」
低く、力強い声が重苦しく響く。
水を打ったように静まり返った会議室で、誰かが息を飲むような音だけが聞こえた。
「もぉ〜、それだけじゃ言葉が足りないよ〜!モリスの爺様はね―――」
まるで重苦しい空気を和ませねばとばかりに、ベルはやや大袈裟なほど明るい声で話し始める。
曰く、モリス・ランバードは鬼神と呼ばれた歴戦の勇士であった。
曰く、街に迫る百の魔物を一人で仕留めた。
曰く、剣を振るう速度は音を置き去りにする程だった。
曰く、あまりの速度で振るわれる斬撃に、斬られた相手は死ぬまで気づかなかった。
曰く、剣の一振りで敵に十を超える裂傷を負わせることができた。
(いやいや、全盛期の〇〇さん伝説じゃねーんだぞ……)
ベルの口から次々と語られる嘘のような話に、俺は思わず心の中でツッコミを入れる。
いや、ここが剣と魔法のファンタジー世界である時点で、そこそこ信憑性が出てくるのが怖いところではあるのだが……
「……流石に斬った相手が死ぬまで気付かんのは無理があろうよ」
「あれ〜、そうだっけ〜?うちの先々代隊長であるモリスの爺様なら有り得そうだと思っちゃったよ〜」
「ふん、流石に死ぬ前には気付いておった筈だ。まぁ、その数秒後にはあの世行きだろうがな……」
(いや、殆ど変わらないじゃねーか……)
モリス本人から出たトンデモ発言に、俺は思わず心の中でツッコミを入れる。
気付くのが死ぬまでだろが死ぬ数秒前だろうが、無茶苦茶な腕前であることには変わりない。
それ以前に、ベルの話す全盛期のモリス伝説よりも、今の何気ない会話の中に、聞き捨てならない単語があった筈だ。
「って、ちょっと待ってください!モリスさんが護衛部隊の先々代隊長!?」
「あれ、そーいや言っとらんかったっけ〜?」
「いや、初めて聞きましたよ、そんなこと!」
「あらら〜、じゃあ改めて紹介するよ〜。この怖い顔のがうちの先々代、モリス・ランバードの爺様だよ〜」
「……ベル殿、少々敬意が足りませんぞ」
ベルの発言を窘めるように発言したのは、少し長い白髪を後ろに流し、首元で結わえた着流し姿の男性。
モリス老程ではないが、かなりの高齢に見える。
だが、やはりと言うべきか、細身ではあるが引き締まった身体をしており、ただのご隠居では片付けられない雰囲気を醸し出していた。
「……んあ?今まで静かだったのにどうしたよ、ガンテツの親方?」
「いや失敬。某の盟友であるモリスのこととなると、どうも口調が乱れますな……」
マーリンのそんな問いに、ガンテツと呼ばれた男は、やや照れくさそうに頭を掻く。
気難しそうな雰囲気から一点、ガンテツは好々爺然とした柔らかな表情を浮かべていた。
「ふむ、ベル団長だけに紹介を任せておっては話が逸れてしまいそうじゃ。某からもモリスについて紹介しておこうではないか」
「……ガンテツ、お前の好意は有難いが、手短に頼む」
「応とも、盟友。旅の冒険者さん方、よく覚えておくといい。この男、モリス・ランバードこそ、この街で唯一、氷獄獣と戦って生き残った男!そして、あの伝説の魔獣に手傷を負わせ、退けた伝説の英雄なのだ!」
「……はぁ、お前の話はいつも大袈裟だ。見ての通り、右眼と左脚を無くして無様に隠居しているのが事実だろうに」
『氷獄獣と戦って生き残った』
それだけでも、俺にとっては驚愕の事実だ。
だが、それだけでなく、身体の一部を失いながらも、氷獄獣を打ち払った。
グスタの街で得た信憑性が定かでない情報とは違う、まさに生き証人という訳だ。
それも、実際に戦った経験まである。
ガンテツの話も、多少の脚色はあるのかもしれないが、全て真実であってもおかしくはない。
例えるならば、武の極地。
或いは人としての限界点。
平和な日本社会で、戦いとは無縁の生活を送ってきた俺でも分かるような、圧倒的な格の違い。
一目見ただけでそう思ってしまう程に、モリス老の放つ強者としてのそれは強烈だった。
「ひ、氷獄獣と戦った……!?それも、手傷を追わせて退けた!?」
「ああ、そうだとも、冒険者さんよ。元は世に名の轟く冒険者であり、先々代護衛隊長でもある。まさに生ける伝説がこのモリスという訳だ!」
「ええ……。只者じゃなさそうな感じはあったけど、お爺ちゃんがまさかそんなに凄い人だとは思わなかったわ……!」
「うむ、盟友モリスの偉大さが理解できたようで何よりである!」
まるで自分の事かのように満足気なガンテツと呼ばれる男性
会議に参加しているメンバーから推測するに、消去法でこの人が幹部の最後の一人なのだろう。
兎も角、恐らく真実である異様な程のモリス老の功績に、普段は斜に構えたようなクロエも思わず舌を巻いて驚く。
「う~ん、オヤカタのおかげで説明が省けたよ~。ま、私がモリスの爺様を呼んだのはそーゆー訳だよ~」
つまりは、現団長であるベルは、その伝手を最大限に活かし、最も頼りになる情報源を呼び出したのだ。
「……はぁ、お前の話はいつも大袈裟だ。見ての通り、右眼と左腕を無くして、無様に隠居しているのが事実だろうよ」
「いやはや、やはり我が盟友は謙虚であるな!兎も角、冒険者さん方よ。これで、少しは自分達の目的の無謀さに気づいたのではないかな?」
ガンテツ氏に突きつけられた現実。
確かに、その通りだ。
これまで見てきた中でも、武人としては至高の存在であるモリス老。
そのモリス老が、自身の片目と片腕という犠牲を払って尚、退けるだけに留まった。
それ程の圧倒的な力を持つのが氷獄獣なのだ。
恐らく、いや、間違いなく今の俺達では勝てない。
それどころか、全滅する可能性が高いだろう。
アイスジェイルの護衛部隊の幹部がどれ程の実力を持つのかは分からないが、その力を借りた所で、相手にもならないのではないか。
自分の中にあった傲り。
『獄王の刃』を始めとする厳しい戦いと、これまでの冒険で得た成果は、俺の中に確かな慢心を生むには十分過ぎるものだった。
シンと静まり返った会議室と、窓から吹き込む冷気が、俺の心の中にあった何かまで醒まし、暗い感情が頭を過ぎる。
「……なぁ、やっぱり、俺達では―――」
そこまで言いかけた時だった。
「―――いえ、それでも譲れません。無茶で無謀と笑われようと、どれだけ無理だと言われようと、それを達成することが、ロックウェル家に定められた宿命。ここで皆様にご協力を得られないのであれば、私一人であっても成し遂げてみせましょう……!」
エリカが、ぴしゃりと言い放つ。
そうだ、俺達の知るエリカは、一度決めたことは決して曲げないし、諦めない。
短い付き合いの中でも、その意思の固さは分かっていた。
そうだ、ここで自分だけが折れる訳にはいかない。
「……まぁ、という訳です。俺達は、皆さんから協力を得られずとも、討伐へ向かいますよ」
「ヨシヒロさん……!つまりは、私と共に戦って下さると……?
「そりゃあ、勿論。だって俺達は、パーティなんだからさ。クロエも、同じ気持ちなんじゃないかな?」
「当たり前じゃない!この街の護衛部隊から協力を得られようが、そうじゃなかろうが、やることは変わらないわ!」
何を当然のことを、と言わんばかりに胸を張ってそう答えるクロエ。
やはり、俺なんかと違って、みんな頼りになる仲間ばかりだ。
護衛部隊からの全面的な協力はこれで難しくなってしまったが、どうにか策を考えるしかないだろう。
そんなことを考えていた時だった。
「……モリスの爺様、いい加減、折れてあげてもいいんじゃないの~?最初から、この子達に協力するつもりで会議に参加したんでしょ?」
ふわぁ、と大きく欠伸をしたベルが、衝撃的な発言をする。
最初から協力するつもりだった。
いや、そんな筈はない。
そうであれば、これまでの舌戦はなんだったと言うのか。
「……ふう、仕方あるまいな。元より、こ奴らがどれ程の意思を持って、氷獄獣の討伐に挑むのか、それを知る為に参加した会議だ」
「ははは、盟友よ。このような若者達も、嫌いではあるまい?」
「……まぁ、否定はせん。何より、この阿呆共を放置して、むざむざ死なせるのも夢見が悪いでな」
ベルの発言に毒気を抜かれたかのうように、モリスとガンテツの二人はそう言葉を告げる。
「えーと、と言うことは……?」
「氷獄獣の討伐、アイスジェイルの討伐部隊の全面的な協力を約束しよう」
これまでの厳しい表情から一転、柔和な微笑みを浮かべたモリスは、そう答えた。
こうして、意外な形を持って、アイスジェイルでの一幕は終わりを迎える。
それも、護衛部隊の全面的な協力という、最善の結果を伴って。
敵が強大であることに変わりはないが、これ以上ない助力と言えるだろう。
エリカの為にも、ここは結果を残せるように努力しなければ……。
次話は超雑なプロットしかないので、いつになるかは分かりませんが、できれば近くに更新できるよう努力します。
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5/15追:裏の更新が間に合えばこちらも5/16に更新できればと思います。




