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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃

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第82話 混戦、作戦、大舌戦?

お待たせしました。

次話くらいまでは近いうちに更新できると思います。

それ以降はかなり大雑把なプロットしかないので、時間がかかるかもしれないです。


「いやー、すまんねー。アタシ達、普段は会議なんてしないもんだからさ。この部屋って殆ど物置なんだよねー」


 部隊長のベルの私室での一幕を終え、俺達は半ば物置のような会議室へと通される。

 どうやら慌てて片付けようとしたらしいが、流石に間に合わなかったのか、部屋の隅に物を押しやっただけに留まっている。

 室内はかなり広く、中央には立派な円卓が鎮座しているが、やはり長らく使われていないようで、埃が薄く積もっている。


「けほっ、けほっ!これ、会議の前に掃除が必要なんじゃないのかしら?」


「まぁ、アタシも、せっかく立派なのに使ってなくて勿体ないとは思ってるけどねー」


「なら、少しは管理しなさいよ……」


「あははー、男ばっかりだし、アタシも掃除なんてしないからねー。たまに見かねたアッシュが掃除してくれるけど、流石に一人じゃここまで手が回らないみたいだねー」


 なんとなく、アッシュ君が便利に使われているような気がする。

 突然、俺と一緒に喧嘩を止める羽目になったり、色々と苦労人気質なんだろうな……。


「ま、とりあえずテキトーに座ってよー。埃っぽいけど、設備だけは整ってるからさー」


「お、確かに椅子はフカフカだ。円卓もかなり高級そうなのに、ただひたすらに勿体ない……」


「ええ、かなり高価な素材が使われてますわね。もしかすると、わたくしの家で使っているものよりも良い材質なのではないでしょうか……」


「エリカが言うなら間違いないわね。ほんとに、宝の持ち腐れと言うか……」


 やや呆れる俺達の横で、ベルはやや照れくさそうに笑っている。

 まぁ、男所帯なら多少汚くなるのは仕方ないのかもしれないが……。


「あー、そういえば、そろそろ皆が集まるんじゃないかなー」


 ベルが思い出したようにそう呟く。

 確かに、部屋の外が少し騒がしくなってきた。

 かなり広い部屋ではあるが、どのくらいの人数が集まるのだろうか。


「そういえば、隊長さん。今回の会議は何人くらいが参加する予定なの?」


「んー、ベルで良いよー、サトウ君。急だったのもあるし、参加するのは4人いる幹部のうち3人と、隠居した元護衛部隊の爺さん連中から1人だけかなー。あ、勿論、サトウ君達とアタシもねー」


「了解、ベル。その割には結構参加してくれるんだね。もっと忙しいものかと思ってたよ」


「ま、護衛部隊って言っても、この辺境じゃ大して仕事もないんだよねー……。周辺の見回りと門番、猟師の護衛と、たまーに魔物の討伐依頼があるだけだからさー」


「へぇ、当たり前かもしれないけど、やっぱり魔物も出るんだね」


「そりゃあ、殆ど開拓もされてない辺境だしねー。アイスジェイルの近くに現れるのはほんとに稀だけど、少し離れた林まで向かえば、かなり強い魔物でいっぱいだよー?」


 この街までの道中、俺達は運良く魔物に遭遇しなかったが、やはり魔物もいるらしい。

 こんな過酷な環境では、魔物も少ないのかと思っていたが、そんなことは無いみたいだな。

 それにしても、動物を狩りに行くだけで護衛が必要なんだから、この世界は本当に大変だよな……。


「―――ご歓談中失礼します、隊長!参加する皆様をお連れしました!」


 コンコンとノックの音が響き、アッシュと共に数人の男達が入ってくる。

 背格好は様々だが、どの男も一筋縄ではいかないような圧と凄みを感じる。


「あいあい!ご苦労さん、アッシュ。今日は色々あって疲れただろうし、上がっちゃって大丈夫だよー」


「はい、ありがとうございます!それでは、失礼いたします!」


 敬礼したアッシュは、きびきびとした動作で部屋を出て行く。

 まぁ、喧嘩の件も含めて色々と苦労を掛けたのだから、今日はゆっくりして欲しいところだ。


「はいはいー、皆さん席に着いてねー。会議を始めるよー」


 なんとも間の抜けたベルの声音とは裏腹に、静まり返った会議室は緊張感に包まれる。

 歴戦の猛者を思わせる男達は、その言葉を契機として、静かに席へ歩を進めた。


「……それじゃあ、作戦会議、始めよっかー!」



                ◆◆◆



「……それで、この者達が氷獄獣ブリザードビーストに挑みたいなどと抜かす冒険者達だと?」


 緊張感の支配する会議室で、初めて口火を切ったのは、隻眼の老人だった。

 還暦をゆうに超えているように見えるが、服の上からでも分かる程に身体からだは引き締まっており、その瞳は静かに、しかし冷酷に俺達を見据えている。


「うん、モリスの爺様。この人達がそうだよ。それじゃあ、サトウ君、自己紹介でもしてもらおうかな」


 これまでの様子とは違い、少し緊張したようにも見えるベルが、俺に話を振る。

 参加した面々を見るに、モリスと呼ばれた老人が、隠居した元護衛部隊という人物なのだろうか。


「ヨシヒロ・サトウです。アルクス地方、グスタの街で冒険者をしています。今回は、氷獄獣の討伐の為にこの街を訪れました」


「……何の為に?アンタら冒険者の馬鹿げた蛮勇に、アイスジェイルの護衛部隊を付き合わせると言うのか?」


「それは、私からお話させて頂きますわ。実は―――」


 モリスの問いに対し、エリカが代わって答える。

 グスタの街の貴族達の腐敗、それを正す為にも、凋落した自らの家を再興する必要があること。


「……それが、儂らの街を守る護衛部隊の若者達が、命を張る理由になるとでも?人情馬鹿のジェイクや、若造のベルはそれで納得したのかもしれんが、儂はそのような理由では賛同できんな」


「まぁ、モリスの爺さんの言う事はもっともだよなぁ。確かに何となく手伝ってもいいかと思ってたけど、氷獄獣ともなりゃ命懸けだしな!」


 モリスの言葉に続き、一人の青年が声を上げる。

 やや軽薄そうな口調とは異なり、降り積もる雪のように白い髪と、深紅の瞳が少し神秘的にも見える。

 傍に杖を立てかけているのを見るに、魔法を使う職業なのだろう。

 恐らく、この青年が護衛部隊の幹部の一人である筈だ。


「でもさー、マーリン。もし氷獄獣を討伐できたら、英雄だよ?いつも言ってるように、こんな街から抜け出して、都会で有名になれるんじゃないのー?」


「おっ、それもそうか……。部隊の奴らは分からねえが、俺だけなら手伝うのもアリかもしれねえな……」


「ふん、馬鹿者が。流されてばかりおるから、いつまで経っても半人前なのだ」


「な、何ィ!?こうなったら、意地でもこいつらと一緒に氷獄獣を討伐して、俺を認めさせてやらァ!」


 マーリンと呼ばれた青年が勝手に盛り上がり、勝手に味方になった。

 色々とちょろすぎるし、参加した理由も俗っぽいが、仲間が増えるのは有難い。


「ありがとう、マーリン。改めて、ヨシヒロ・サトウだ。協力感謝するよ」


「おう、俺はマーリンだ!この杖を見りゃ分かると思うが、【上級魔導士アークウィザード】をやってる。あとは、この護衛部隊の幹部もやってるぜ。つっても、誰もやりたがらねえからなんだが……」


「ふうん、アンタも【上級魔導士】なのね。私はクロエ。同じ職業同士、よろしく頼むわね」


「ほう、おチビもそうなのか!中々やるじゃねえか!よろしく頼むぜ!」


「チビは余計よ!」


「まぁまぁ……。何にしろ、上位職が増えたのは有難いじゃないか」


「むぅ……。それもそうね……」


 マーリンがどんな魔法を使えるのかは分からないが、この過酷な地で活動する部隊の幹部なのだ。

 いくら成り行きでその地位にいるとしても、実力が伴っていなければ周囲が反対するだろう。

 クロエとの相性は心配だが、心強いことに変わりはない。


(とりあえず、マーリンが味方なら、残りの幹部は2人か……)


 一人は、モリス老の隣で厳しい表情を浮かべた大柄な男。

 もう一人は、貴族然とした洋服に身を包み、静かに会議を見守っている青年。

 2人共を引き入れることは難しいかもしれないが、少なくともどちらかは味方に引き入れたい。


「うーん……。どうしたものかな……」


「うん?どうしたのかな、ピエール君」


 これまで静観を保っていた青年がそんな事を呟く。

 そして、ベルにそんなことを尋ねられた青年……ピエールは、ニヒルな笑みを浮かべて立ち上がる。


「いやぁ!氷獄獣討伐、結構なことじゃないですか!流石、都会の冒険者さん達は違うなぁ!」


 やや大袈裟な動作を交えて、会議室全体に語り掛けるように、ピエールはそう声を上げる。

 一見、こちらに敵意は無いように感じるが、その言葉の真意はいまいち捉え辛い。

 これまでの様子を見るに、恐らくは深い考えがあってこのタイミングで話を切り出したのだろう。


「あー、ピエールさん?それは、俺達に好意的な意見と捉えていいんですかね?」


 俺は、ピエールに向かって、恐る恐るそう尋ねる。

 敵か味方か、そこだけははっきりさせておくべきだ。

 それに、敵だとしても、相手の性格や雰囲気次第では説得もできる。


「もおぉぉおちろんですよ!サトウさん!是非!是非ともこのボクを討伐隊に加えてください!」


「え、ええ……?それは勿論歓迎ですが、幹部のピエールさんが、そんなに簡単に決めてしまっていいんですか?」


「ええ!いいですとも!これは、このボクに訪れた、都会進出の千載一遇のチャンスッ!なのですから!」


「うん、う……って都会進出……?」


「あーあー、やけに静かだと思ったら……。出たよピエールの都会バカが……」


 マーリンが呆れたようにそう呟く。

 突然の出来事にポカンとしているのは俺達のパーティだけで、会議に参加した部隊の面々は、また始まったとばかりに呆れた表情を浮かべていた。

 言葉通りに捉えるのであれば、見た目はクールなイケメン貴族であるピエール青年が、都会に憧れる田舎者ということになるのだが……。


「むッ!ボクのどこが都会バカだ!こんな辺鄙へんぴな田舎から出たいという気持ちの何がおかしい!」


「いやいや、お前は仮にもこの部隊の幹部だろうよ……」


「いや、それは、しかし……。都会に出るのはボクの幼い頃からの夢なのだぞ……」


(なるほど、これはかなり付け入るスキがありそうだな……)


 田舎出身の若者が都会に憧れる気持ちは痛い程に分かる。

 なにせ、俺もそんな若者の一人だったからな。

 大学進学と同時に東京に出て、そのまま東京で仕事をすることになった。

 とは言っても、就職先は文字通り死ぬ程にブラックだったのだが……。


(それはさておき、だ……。このチャンスを逃す手はない……!)


「ピエールさん!俺達に協力してくれるなら、グスタの街までの旅費と当分の滞在費を用意します!」


「な、なんだって!?冒険者の街と名高いあのグスタに連れて行ってくれる……だと!?」


 食いつきは十分。

 グスタの街の知名度はかなりのものらしい。

 実際、今まで冒険してきた街の中では一番発展しているのも事実だ。


「……さらにッ!」


「さらに!?今の条件でも破格なのに、まだあるのですか……!?」


 これはこのまま押し切れそうだ。

 幹部と言えども所詮は都会に憧れる田舎の若者。

 ダメ押しの一発を決めてやる……!


「氷獄獣討伐が成功した暁には、グスタの街の知り合いに声を掛けて、合コンを開催します!勿論、参加する女性は選りすぐりの美人と約束しましょう!」


「はいッッッ!!このピエール・ベルモンド、どこまでもサトウさんに着いて行きますともッ!!!!」


「ちょろッ!?アンタ、それでいいの!?」


 沈黙を保っていたクールな姿から一転、ただの女好きな田舎者になってしまったピエールの姿に、クロエが思わずツッコミを入れる。

まぁ、確かに自分の欲に忠実すぎる気もするが、こちらに損は無い筈なので良いとしよう。


(合コンかぁ……。選りすぐりとか言ったけど、メンバーはどうするかなぁ……)


 なんとか、3人いるという幹部の内2人をこちらに引き入れることが出来た。

 俺自身が何かしたかと言われると微妙なラインだが、まぁ良いとしよう。

 ぶっちゃけ、今は氷獄獣よりも合コンのメンバーを探す方が難題だ。

 こちらの世界に来てからかなり経つが、まともな女子の知り合いときたら、パーティメンバーのクロエと、ギルドの受付をしているアリシアさんだけなのだから。


(まぁ、とりあえずその辺の問題は置いておくとして……)


 残る問題は、残った幹部の一人と、モリス老をどう説得するかだ。

 この二人に関しては、マーリンやピエールのように簡単に仲間に引き入れることは難しいだろう。

 現役を退いているとは言え、未だに大きな発言力を持つモリス老と、その派閥である幹部を敵にしてしまえば、討伐作戦の難易度は一気に跳ね上がる。

 なにせ、この二人が俺達を認めなければ、少なくとも部隊の3分の1は参加しないのだから。


「……んー、とりあえず、作戦会議に戻ろっか。モリスの爺様、ここまでで何か言いたいことはあるかな?」


 ピエールの登場によって緩んだ場の空気を締めるように、ベルが司会を進行する。

 そして、話を振られたモリス老は、やや弛緩した雰囲気の会場を一瞥いちべつする。


「……ふん。若造が何を言おうが知らんが、儂は絶対に認められんぞ」


―――凍り付く空気の会議室の中、作戦会議の第二幕が始まる。


誤字・脱字等ありましたらお知らせください。

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