第81話 協力
思ったより遅くなりました。
忙しかったのと、ポケモンマスターを目指していたことが原因です。
明日で仕事が一段落着くので、次回も早めに投稿できればよいのですが……。
「ぜえ、はぁ……ッ!このドチビ!調子乗りやがって……ッ!」
「うっさいわね!アンタだってそんなに身長高くないじゃない!はぁ、はぁ……ッ!」
とまぁこんな感じで、一触即発と言った雰囲気も次第に落ち着き、今はクロエとドルフが、子どもみたいな言い合いをしている程度だ。
二人ともかなり疲れてきたようなので、放っておけばそのうち喧嘩も収まるだろう。
ちなみに、エリカは割と早い段階で冷静さを取り戻したものの、「取り乱してしまってお恥ずかしい……」と言って、今は壁の方を向いて小さくなっている。
「とりあえず、喧嘩はここまでにしよう!」
俺がそう提案すると、アッシュの方もそうだそうだと大きく頷いて同意する。
「ヨシヒロさん達の対応は俺がするから、とりあえずお前は頭を冷やしてこい!」
「ふん!言われなくても、こんな奴らはもう顔も見たくねえな!」
アッシュにそう言われたドルフは、未だ不機嫌そうな様子で街の方へと向かって行く。
本当の殴り合いになりそうだったさっきと比べれば、ドルフの方もだいぶ落ち着いてはきたのだろう。
「ほんと、失礼な奴だわ!」
「ええ、やはり失礼ではありますわね。先程は私も取り乱してしまいましたので、お互いに冷静になってお話合いができれば良いのですが……」
「二人とも、俺のために怒ってくれたのは嬉しいけど、もしも問題が起きたら情報収集が出来ないじゃないか……。エリカの言う通り、冷静に話し合いをしないと……」
「むう、それでも、言われっぱなしなのも癪じゃない!」
「まぁ、それはそうなんだけどさ……」
実際、二人が俺のために怒ってくれたことは嬉しかった。
何故か勝手に決闘する流れになっていたことは頂けないが、二人の行動も俺への信頼からくる行動だと思えば、どうも簡単に許してしまう。
そもそも、二人が噛みつかなければ、俺も言い返そうとしていた訳だしな……。
「すまないな、ヨシヒロさん達。ドルフも悪い奴じゃないんだが、少し喧嘩っ早くてな……。今まで色んな冒険者を見てきた分、アンタ達のことも信用しきれないんだと思う」
「いえ、こちらも悪い部分はありましたから……。とりあえず、中で皆さんのお話を聞いても?」
「ああ、勿論だ。あのジェイクさんの紹介とくれば、断る理由なんてないさ」
そう言ったアッシュは、詰め所へ続く大きな扉を開けて俺達を中へと招く。
ドルフとの一悶着はあったものの、ここまで順調に事が進んでいるのは、ひとえにジェイクさんのおかげだ。護衛部隊にも便宜を図ってくれたようで、本当に感謝しかない。
「とりあえず、ここが部隊の待機所だな。住人達からの依頼でもなけりゃ、殆どの奴らがここで寛いでるよ。まずはアンタらをこの部隊の現隊長に紹介するから、このまま着いてきてくれ」
「なるほど、中はギルドに似てるかな……?」
案内された先には、やや薄暗い室内にテーブルがいくつか置かれており、冒険者然とした格好の男女が、何やら賑やかに話をしている。
俺達が入室すると、何人かがこちらを振り返ったが、すぐにまた話に戻った。
大方、ジェイクさんから話が伝わっているので、それ程に興味を示さなかったのだろう。
「失礼します、隊長!ジェイクさんのお客人を連れて来ました!」
狭い室内に置かれたテーブルの隙間を抜け、待機所の奥に位置する扉を、案内役のアッシュがノックする。
木製のドアが小気味良い音を立てると、中から予想外の声が返ってくる。
「あいよー。入ってもらいんしゃい……」
そう、部屋の中から返事をしたのは、貫禄のある低い声でも、老獪な渋い声でもなく、なんとも気の抜けたような│女性の声だったのだ。
「ええっ!?護衛部隊の隊長って、女の人だったんですか!?」
「……んん?ああ、知らなかったのか。うちの隊長は女だよ。腕っぷしはこの部隊随一だけどな」
「なんというか、護衛部隊の隊長なんて言うから、勝手にオークみたいな大男をイメージしてたなぁ……」
厳しい環境の辺境の地で、屈強な大男達を束ねるのだから、それはもう貫禄やら実力を求められることだろう。
しかし、聞こえた声は女性で、しかも声音からするにかなり若いように思える。
「一体、どのような方なのでしょうか……」
「とりあえず、ここで話してても仕方ないよ。ジェイクさんから話を通してもらってるんだから、早く入れて貰おう」
未だに驚きは隠せないが、俺は意を決して目の前の扉を開く。
すると、そこには誰もいなかった。
「やーやー、遠路はるばるよく来てくれたねー。この街の護衛部隊を代表して、歓迎するよー」
誰もいない筈の隊長の部屋からは女性の声だけが響いてくるが、どこを見渡しても、本棚や執務机と高級そうなソファだけが置かれているだけで、やはり誰も見当たらない。
「うん……?誰も、いない……?」
「ううん、違うわ、ヨシヒロ。あのソファをよーく見てみて?」
部屋をキョロキョロと見渡していた俺は、クロエに言われたように、机の陰になっているソファをじっと眺める。
すると、誰もいないと思っていたそこからは、ひょっこりと、金色のアホ毛のようなものが生えているのだ。
「ありゃ、この体勢じゃ見えないかな?小さいのも困りものだねー。よっこらしょっと……」
アホ毛の主から声が聞こえたかと思うと、それはもう、幼女としか言いようのない、金髪碧眼の小さな女の子が机に身を乗り出してきた。
「おいっすー。アタシがこの街の護衛部隊の隊長を務める、ベル・フォン・リベラだよー。よろしくねー」
絹のように艶やかな金髪をツインテールにしたその幼女は、少し気怠そうな様子で、こちらに手を振る。
いや、流石に、この子は隊長じゃなくてその娘とかで、部隊ぐるみでドッキリを仕掛けてきてるとかじゃないのだろうか。
どうみても10歳くらいにしか見えないし、腕っぷしが強いとは思えない。
「えーっと、アッシュさん?この子は、隊長の娘さんとか、お孫さんですか……?」
「あー、そう思うのも無理はねえか……。そこの幼女にしか見えねえお方が、正真正銘、うちの護衛部隊を束ねる最強の隊長なんだよ……」
「ふふーん。強そうに見えないかな?かな?」
机に身を乗り出した体勢のまま、ベルと名乗った幼女はニマニマとこちらを見つめてくる。
まぁ、魔法があって、魔物がいるようなファンタジー世界だから、最強の幼女がいてもおかしくないのだろうか……。
「あー、ベルさん、ごめんなさい。ジェイクさんからある程度は伝わっていると思いますが、改めまして、俺がこのパーティのリーダーをしている、ヨシヒロ・サトウです」
「うんうん、キミが氷獄獣を倒しにきた命知らずの冒険者達のリーダーなのかー。なんか、想像してたよりも平凡で、なんというか、特に言う事もない見た目だねー」
「うっ、地味なのは認めますが……」
確かに、俺は不細工ではないと思うがイケメンとはお世辞にも言えず、平々凡々な見た目で、背が高くもなく低くもないという、全くもって特徴のない姿をしている。
現実にいた頃も、特に目立つような功績も残さず、ブラック企業の奴隷としてこき使われていた人生だった。
なんだったら、ここまで生きてきた中で(一回死んだのかもしれないが)、冒険者として活躍している今が、一番輝いているかもしれない。
「まぁ、大事なのは見た目じゃなくて実力だよねー。アタシも、こんな見た目だけど、加護と地道な努力のおかげで、今やこの街でもトップレベルの実力をゲットした訳だしー」
「うちのリーダーは、確かに地味で平凡でやつれてるけど、防御に関しては超一流なのよ!」
「そうですわ!ヨシヒロさんは、防御だけは完璧なのですから!」
「いや、君らの発言の方が俺を傷つけてるけどね……」
褒めているのか貶しているのか分からない二人の発言に、俺は思わず溜息をつく。
しかし、見た目幼女のベルだが、意外にも俺達をすんなりと受け入れてくれたようで、変に頑固な偏屈親父が隊長を務めていた可能性を考えると、結果として良かったのかもしれない。
まぁ、ここまでスムーズに事が進むのも、ジェイクさんという存在があってこそだろうし、本当に、この街では彼の存在がかなり大きいのだろう。
「んでー、ジェイクのおっちゃんから聞いたけど、氷獄獣の情報が欲しいんだっけー?」
「あ、はい!俺達3人と、今は別行動してる奴の合計4人で、氷獄獣の討伐のためにコキュートスまで来ました。氷獄獣とゆかりのあるこの街なら、何か有益な情報が得られるかと思って……」
「うーん、なるほどねー。意気込みは素晴らしいと思うけど、氷獄獣は生半可な覚悟じゃ、挑んでも死んじゃうだけだよー?」
「ええ、死ぬつもりはありませんが、私達は、その覚悟でここまで参りました。命を懸けてでも、氷獄獣を倒さねばならない理由があるのです!」
「……ふぅん。その理由ってやつ、アタシに話してもらえるかな?情報の提供はそれ次第かな。場合によっては、力尽くでもお家に帰ってもらうことになるよー。だって、むざむざ死にに行くような真似はさせらんないからねー」
ベルは、先程までと変わらない軽い声音で話すが、その言葉にはどこか重みが感じられる。
実際に、これまで無謀にも氷獄獣に挑んだ冒険者達の多くは、その命を儚く散らした。
恐らく、街の安全を守る部隊の代表として、戦いに身を置く者の一人として、命を無駄にするような真似は見過ごせないのだろう。
「ええ、分かりましたわ。これは私の、私の家の個人的な事情なのですが――」
◆◆◆
「――という訳で、私は、この務めを必ず果たさねばならないのです」
没落寸前の自身の家の事、グスタの街の腐敗した貴族達の事、俺に話した全てを、エリカは包み隠さずにベルへと告げた。
そして、その内に渦巻く様々な感情を飲み込むように、エリカは大きく深呼吸をする。
「……うん、そっかそっかー。ずっとこの街で生まれ育ったアタシには、貴族とかのドロドロした話とかは分かんないけど、キミ達の熱意は伝わってきた気がするよ。ジェイクのおっちゃんも、キミ達のそういう所を見抜いて、アタシ達に話を持ち掛けてきたんじゃないかなー。そうじゃなきゃ、詳しい理由は分かんねえけど、これから来る冒険者達の力になってやってくれー!なんて言わないもんねー」
「まぁ、ジェイクさんがそんなことを……?」
「うん、おっちゃんは、基本的にそういう無謀な冒険者達は、痛い目を見せてでも止めろっていつも言ってるんだけどねー。キミ達は、名誉とか報酬とかを目当てにしてる冒険者達とは違うって思ったのかなー?」
俺達とジェイクさんが会話をしたのは、吹雪の中で遭難しているところを拾ってもらってから、街に送り届けてもらうまでの短い間だけだ。
それだけの会話で、出会ったばかりの俺達をそこまで信用するのは早急な気もするが、それを実現してしまう程に、エリカの熱意と真剣さは、ジェイクさんの心を揺さぶったのだろう。
「……という事は、護衛部隊の皆さんは、俺達に協力してくれるってことですか?」
「うん、そだねー。情報だけじゃなくて、討伐作戦にも全面的に協力するよー。部隊の全員がキミ達に好意的って訳じゃないけど、ジェイクのおっちゃんとアタシが一喝入れれば、みんな協力してくれるさー」
「ええっ!?情報だけじゃなく、討伐にまで参加してくださるのですか!?」
「うん、流石に俺も驚いたけど、この土地で戦い慣れた部隊の人達が参加してくれるなら、討伐もかなり現実的になってきたかもね!」
そう、いくら俺達4人が、グスタの街で株を上げている冒険者とは言え、この人数で氷獄獣に挑むことは、本当に無謀としか言えない挑戦だったのだ。
流石に、護衛部隊の全員が協力してくれるとまでは思わなかったが、どちらにしても、情報収集と同時に、討伐作戦に協力してくれるメンバーを臨時で募集する予定だった。
そこに来て、ベルからのこの提案は、俺達にとってはまさに渡りの船なのである。
「ってことでー、皆を集めて作戦会議と行こっかー。アッシュは、幹部メンバーを会議室に集めといてー」
「はい、隊長!行って参ります!」
トントン拍子に話が進んでいく中、ベルの提案で作戦会議が開かれることになる。
指示を受けたアッシュは、綺麗に敬礼をすると、そのまま回れ右をして幹部メンバーとやらの招集へ向かって行った。
「なんだか、ここまで来ると夢みたいですわね……」
「確かに、そうかもね。でも、俺も覚悟を決めて頑張るよ」
「ま、伝説って言ったって、相手も体力に限りがある魔物なんだし、案外どうにかなるんじゃないかしら?」
こうして俺達は、アイスジェイルの護衛部隊からの協力という最高の戦果を得ることができた。
そして、それぞれの思惑を胸に、物語の舞台は作戦会議へと移っていく―――
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