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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃
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第79話 壁際決死行

どうにか、前回の宣言通りに投稿出来ました。

少し長くなりましたが、少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。


「そう、あの岩壁こそが要塞都市アイスジェイルだったんだよ!」


 俺は、確信を込めてドヤ顔で三人にそう告げる。

 いやはや、「な、なんだってー!?」と驚く三人が目に浮かぶようだ……。


「まぁ、そりゃ子どもでも分かることだろうよ」


「流石に、エリカが人工物って言った段階でその発想に至ったわよ?」


「ヨシヒロさん、申し訳ないのですが、わたくしも同じですわ……」


 俺の思惑は大きく外れ、三人は揃って呆れたような目を俺に向ける。

 恥をかいた俺は兎も角、体力の消耗はあるものの、全員が何事も無く目的地まで辿り着けたことは大きい。

 これから氷獄獣という強敵と戦う上で、少しでも戦力を温存しておくに越したことは無いからな。


「それにしても……」


「ああ、防壁だけで言えば、グスタの街よりも上だろうな……」


 近づく程にそれが理解できる。

 高く積まれた石壁は果てが見えない程で、黒く堅固なその見た目からも、材質もただの石レンガでない事が伺える。

 そうでなければ、この厳しい環境で、伝説に謳われるような氷獄獣を相手にできないのだろう。


「しかし、街の入口は何処なのでしょうか……?」


「確かに、さっきから延々と壁沿いに進んでいるのに人の気配すら無いね……」


「おいおい、せっかく街を見つけたのに、このまま凍死しちまったら元も子もないぜ?」


 確かにマークの言う通りだ。

 アイスジェイルの外壁に辿り着いたは良いものの、このまま吹雪に晒し続けられれば、俺達はこのまま凍死しかねない。

 せめてこれが石壁でなく、本当に岩場であったのなら、少しでも吹雪を避けて休息がとれたのだが……。


「うーん、誰か、何か見えたりしない?例えば、人影とか、灯りとか……」


「少なくとも、俺には見えねえな。進行方向は延々と壁が続いているだけだ」


「そうか、まずいな……」


 マークの視力で何も見えないのだから、少なくとも近い範囲では、この先には何もないのだろう。

 かと言って、この場で立ち止まり続ける訳にはいかない。

 せめて、このまま進むか、来た道を戻って逆側を探索するか、決めなくては……。


(進むか、戻るか、一体どうする……?)


 俺はパーティのリーダーとして他の皆の命を預かっている身だ。

 適当な判断は出来ない。この場で出来る最善策を考えろ……。

 こうして止まっている間にも吹雪は俺達の体力を奪っていくのだから。


「……どうする、ヨシヒロ?」


 見かねたマークが声を掛けてくるが、まだ答えは出ていない。

 しかし、このまま立ち止まっていても変わらないのも事実なのだ。


「……ごめん、来た道を戻ろう。俺に、皆の命を預けてくれ!」


 恐らく、このまま進んだところで、街へ辿り着く前に全員が力尽きるだろう。

 俺達よりもかなり視力が良いマークがこの先に何も無いと判断したのだから、俺達を救う一手になり得る物は存在しない。

 これは、今まで命を預けてきた相棒マークへの信頼でもあると同時に、一種の賭けでもあった。


「ああ、勿論だ!二人も、それでいいか?」


「ええ、それしか無いものね。ううっ、街に入ったらココアでも飲んで温まりたいわ……」


「ええ、無論ですわ!私達のリーダーは、ヨシヒロさんなのですから!」


「皆、ありがとう……!せめて、クロエの消耗が少しでも減るように、俺達が庇うように進もう!」


 こうして、俺達はクロエを石壁側に置き、逆側で吹雪を防ぐようにして進んでいく。

 アイスジェイルの石壁を見つけ、壁沿いに進み始めてから、それ程に時間は経過していない。

 恐らくは、もう少し歩けば、石壁を見つけた辺りまで辿り着けるだろう。


「当たり前だけど、全く吹雪が止む気配がないね……」


「そりゃそうさ。コキュートスの空が見えるのは、年に数日だけって話だぜ?」


「ああ、そうなんだ。そりゃあ、よほど運が良くなきゃ晴れそうにもないね……」


 少しでも気を紛らわせるように、他愛無い会話をしながら進んでいく。

 吹雪で凍える身体に鞭を打つように足を進める俺達の体力も、次第に限界が近づいていた。


「クロエ、まだ大丈夫そうか……?」


「……ごめん、ダメかもしんない。体力とかじゃなくて、幻聴が聞こえるの……」


「おいおい、本気でヤバいんじゃないのか?俺達の声以外は、吹雪の音しか聞こえないぜ?」


「少しだけ休みますか?気休め程度にはなるかもしれませんが……」


 俺達は揃ってクロエの方へ向き直る。

 心なしか顔色は先程よりも良くなったようにも見えるが、思ったよりも事態は深刻らしい。

 確かに、長時間は無理だが、一度足を止めて小休止くらいはするべきかもしれない。


「不甲斐ないわ。迷惑を掛けてばっかりね……」


「そんなこと無いさ!むしろ、クロエの出番はこれからだよ!なぁ、マーク!」


 落ち込んだ様子のクロエに、俺は明るく振舞う。

 同時にマークに話を振るが、その視線はずっと進行方向を見つめるままで、返事は無い。

 まずいな。もしかすると、マークの方も限界なのかもしれない。


「……ふふっ、ははははははッ!」


「お、おい、マーク!どうしたんだ、大丈夫なのか!?」


 慌てて俺も反応するが、マークは視線の先を指差したまま笑い続けている。

 ダメだ、クロエの幻聴の次はマークの精神崩壊か……?


「……馬鹿、俺の指差してる方をよく見てみろよ!」


「ええ、何言って……ってあれは!」


「間違いないですわ!あれは人工的な灯りです!こちらに近づいてきますわ!」


 マークの指差す先からは、確かに二つの灯りが揺れながら向かってきていた。

 それも、人が歩くような速度ではない。

恐らくは、乗り物のような何かでこちらへ走ってきているのだろう。


「……おーい!あんたら、こんなところで何してんだ!」


 白く大きな動物に引かれたそり(・・)のような乗り物には、一人の男が乗っていた。

 かなり大きなそれは、俺達4人が乗ってもまだ余裕がありそうな程である。

 恐らくは、この男性はアイスジェイルの住人とみて間違いないだろう。


「すみません。俺達はアイスジェイルを目指して歩いていたんですが、入り口が見つからずに迷っていて……」


「おいおい、コキュートスにそんな装備で来たのも驚きだが、よく無事に生きてたなぁ、兄ちゃん達は……」


「これでも、十分すぎる程に準備してきたつもりだったんですがね……。そうだ、もし良ければ、街まで乗せて行ってもらえませんか?仲間の一人が、かなり消耗していて……!」


 消耗した様子の俺達をぐるりと見渡した男は、深く頷いてドンと胸を叩く。

 そして、俺達に向けて豪快な笑みを向けた。


「おうよ!こんな所に置いていく訳にもいかん!勿論、街までかっ飛ばして送ってやらあ!」


「あ、ありがとうございます!本当に助かります!」


「いんや、こんな辺境だからこそ、助け合わなきゃ生きていけねえからな。まぁ、適当に後ろに乗り込んでくれや。街の入り口は真逆の方向だが、白雪狼スノーウルフのスピードならそこまで掛からねえさ!」


 そう言って、男はソリを引く白雪狼と呼ばれた生き物の背をわしゃわしゃと撫でる。

 確かに、かなり大型で長い毛に覆われてはいるが、よく見ると狼に見えなくもない。

 俺が気持ちよさそうに撫でられる白雪狼を見つめていると、男がそれに気づいたのか声を掛けてきた。


「ああ、白雪狼が珍しいか。こいつらはコキュートスの固有種でなぁ。かなり知能が高いのに人懐っこい性質をしてるから、俺達アイスジェイルの民はこいつらと一緒に暮らしてんのさ」


「可愛らしい狼さんですわ!あのモフモフの毛並みを抱き枕にして眠ると気持ちが良さそうです!」


「はは、それは違いねえが、こいつらは暑さが苦手だから、お嬢ちゃんも一緒に外で寝ることになっちまうぜ?」


「うう、それは残念です。ですが、街に着いたら撫でてみてもよろしいでしょうか?」


「ああ、それくらいなら構わねえさ……っと、そろそろ出発するか!かなりスピードを出すから、飛ばされんように気を付けてくれや!」


「はい、よろしくお願いします!」


「よし!進め、エルにクロード!」


 俺の返事を合図に、先頭に座る男はソリを引く白雪狼に合図を出す。

 エルとクロードと呼ばれた2匹の白雪狼は、返事をするように軽く吠えると、一気にスピードを上げて走り出した。

 俺達が先程まで苦戦していたのが嘘のように進むソリは、猛吹雪を掻き分けながら走っていく。


「景色を楽しむ余裕なんて無いが、どうにか助かったな……」


 やれやれと言った様子のマークがホッとした様子でそう呟く。

 俺もそれに同意するように頷いて、辺りを見渡すが、やはり吹雪のせいで視界が悪い事も重なり、目に映るのは一面の雪とアイスジェイルを囲む壁だけだ。


「……そうだ、クロエは大丈夫か!?」


 助けられた安心感で頭から抜けていたが、クロエの消耗が激しかったのだ。

 だが、俺の心配をよそに、クロエは呆れたようにこちらに軽く手を振った。


「ええ、言ったでしょ。体力は問題ないって。それにしても、幻聴だと思ってたのがこの人の声だったみたいで良かったわ」


「そうだね。あの時は本当にもうダメかと思ったよ。マークまでおかしくなっちゃったかと思ったし……」


「おいおい、勘弁してくれ。俺はそこまでヤワじゃねえよ……」


 助かった安心感から、全員がリラックスした様子だ。

 そんな俺達を乗せたソリは、猛スピードで雪原を駆け抜けていく。

 先程まではただ冷たいだけだった吹雪や雪原も、なんとなく綺麗に見えた。


「いやぁ、あんな所でアンタらを見つけた時は肝が冷えたが、全員元気そうで何よりだな……」


「そういえば、えーと……」


 名前を聞いていなかったことに気づいた俺が口ごもっていると、男もそれに気づいた様子で反応する。


「おう、俺の名前はジェイクだ。アイスジェイル周辺の見回りを担当していてな。その途中でアンタらを見つけたって訳だ」


「なるほど、ジェイクさん、本当に助かりました!俺はヨシヒロ・サトウです。他の三人はパーティのメンバーで、冒険者をしています」


「なに、冒険者だって?するってえと、まさか、あの氷獄獣ブリザードビーストを倒しに来たとでも言うのか?」


 俺達が冒険者だと聞いた途端、ジェイクは怪訝な顔でそう尋ねてくる。

 やはり、伝説とも言える氷獄獣を倒すという事がよほどおかしいのだろうか。


「そうなのです。私達はアルクス地方のグスタの街から来ました。申し遅れましたが、私はエリカ・ロックウェルですわ」


「俺はマーク・マルティネスです。ジェイクさんが偶然通りがからなければ、俺達は凍死していた。本当に感謝しています」


「クロエ・ベルヴィル、です。本当に助かったわ、感謝します」


「そうか……。アンタらみたいな冒険者はたまにこの街を来るが、その殆どが討伐に出てから、そのまま帰ってこなかった。俺も止めはしねえが、せっかくここで助かった命を無駄にするような真似だけは、絶対にしないでくれ……」


 ジェイクは、低く、静かな声で俺達にそう告げた。

 確かに、討伐が厳しいことは事実だ。

 それでも、俺達にはエリカのためにやらなければならない理由がある。


「ええ、理解しております。それでも、私には絶対に成し遂げなければならない理由があるのです!」


「伊達や酔狂で来た訳じゃねえのは、アンタらの真剣な表情を見れば分かるさ。この街の護衛部隊であれば、何か力になれるかもしれねえ。街に着いたら、部隊の詰め所を尋ねるといいさ」


 エリカの顔をじっと見つめたジェイクは、そう答えるとソリのスピードを上げた。

 ジェイクの助言通り、討伐のためにも、コキュートスの地で暮らす人達からの情報収集は必要だ。

 街へ着いて休息が取れれば、明日の朝にでも詰め所へ向かうべきだろう。


「……そう、必ず、成し遂げなければならないのです」


 真剣な表情で呟くエリカの言葉が、冷たい雪に融けるように消えた。

 要塞都市アイスジェイルを目指した決死の旅は、もうすぐ終わりを告げる。

全然街に辿り着かねーじゃねーか!というツッコミが来そうですね。

自分も、思ったよりも話が進まずに困惑しています。


次回も、できれば近くに投稿したいですが、日曜日も仕事が入ってしまった影響で今週中は怪しいかもしれません。

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