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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃
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第78話 辺境の地コキュートス

大変にお久しぶりです。

このまま順調に更新できると良いのですが……。

 名も無き山の中腹での野営を無事に終えた俺達は、コキュートスへ向けて出発していた。

 夜通し降り続いた雪は昨夜よりも深く積もり、足場を更に悪くしている。


「相変わらず雪がチラついているが、この程度なら問題なさそうだな」


「うん、エリカのおかげでスタミナもついたし、何も無ければ今日中にアイスジェイルに着くんじゃないかな?」


 あの後も天候が悪化することは無く、周囲の散策に出たエリカが、鹿に似た動物を狩ってきたのだ。

 おかげで俺達は久々にまともな食事も取る事ができ、悪天候でまともに料理もできなかったここ数日に比べると、天と地ほどに豪勢だったと言える。


わたくしはたまたま見つけた獲物を狩ってきただけですが、ヨシヒロさんの料理は本当に素晴らしかったと思いますわ!」


「エリカが狩って、マークが捌いて、俺が料理する。謎のチームワークだったよね」


「うう、食べるだけだったのがちょっとだけ申し訳ないわね……」


「……ま、その分クロエは夜に【防寒ウォーム】の魔法を使って十分に活躍したんじゃないか?」


 マークの言う通り、登山中の野営で凍死しなかったのは、準備がしっかりしていたのもあるが、半分以上はクロエの【防寒】のおかげだろう。

 吹雪の中、洞窟で野営することになってようやくその魔法を使った時は、思わずひっぱたいてやろうかと思ったが、どうやら一定の固定した空間にだけ効果が及ぶ魔法なので、移動中は使えなかったらしい。

 他にも色々と魔法を覚えたらしいので、実際に見るのが楽しみだな。


「まぁ、今回覚えたのは都合のいいことに炎属性の魔法ばかりよ。戦闘面ではきっと役に立つはずよ!」


「うちのパーティで魔法攻撃ができるのはクロエだけだ。氷獄獣戦では頼りにしてるぜ?」


「そうだね!遠距離攻撃ができるクロエがいれば戦略も広がるし、文字通り百人力だよ!」


「ふふん!褒められて悪い気はしないわね!」


 クロエは色んな意味で素直だから、こういう時は結構扱いやすい。

 それを本人に言ったら絶対に怒るだろうから、そんなことは伝えられないが……。


「私達もクロエさんを頼りにしていますから、クロエさんも私達を頼ってくださいね?」


「そうね。私達はパーティなんだから、助け合わないと!」


 そう、俺達は互いに命を預けたパーティなのだ。

 特に、最年少でもあるのに重い過去を抱えたクロエは、俺やマークが色々な意味で支えていかなければならないだろう。

 勿論、戦闘面では頼ることになってしまうが、そこはクロエが言うように助け合いだろう。


「気を引き締めていこう!コキュートスはもう、目と鼻の先だ!」


 一歩、また一歩と進むたびに降りしきる雪は強さを増していく。

 吹きすさぶ風が俺達の体を底から冷やし、次第に体力を奪っていった。


「もう少し、もう少しの筈なんだ……!」


 名も無き山の俺達の下ってきた斜面は、コキュートスに面しているにも関わらず一年を通して殆ど天候が荒れることは無い。

 それにも関わらず、俺達が進むにつれて吹雪の勢いは増すばかりだ。

 これは、つまりコキュートスの地に踏み入っているということなのだろう。


 だが、しかし―――


 猛吹雪の影響で視界はほぼゼロ。

更に、深く積もる雪と厳しい気候が俺達を蝕み、俺達を死の国へと誘っている。

 俺の後ろに続く三人も同じように足取りは重く、全員に体力の限界が見え始めていた。


「皆、大丈夫か……!?」


「俺とエリカはどうにかなると思うが、クロエは消耗が激しい。どこか吹雪が少しでも避けられる場所を見つけて、ビバークすることも視野に入れてくれ!」


「ごめんなさい。でも、もう少しなら進めると思うわ……!」


 そうは言うものの、クロエの足取りは覚束ない。

 ただでさえ体力が奪われている上に、強風で小さな体はバランスを保つだけでも厳しい筈なのだ。

 それでも、クロエは俺達に合わせ、一度も音を上げることなくじっと着いてきた。


「そうだね……。このままでは全員が倒れるだけだ。先に見える岩場で、少しでも天候がマシになるまで休息を取ろう」


 幸いにも、最悪の視界の中でも目に付く程の大きな岩陰が前方にある。

 あの陰に入ることができれば、小休止くらいはできるだろう。

 だが、あまり長くもいられない。この気候では、長時間同じ場所に留まるだけで体力が奪われる一方だ。

 肝心のクロエの魔法ウォームも、消耗している今は頼ることができないだろう。


「クロエ、もうすぐだ!あと少しだけ頑張ってくれ……!」


「だ、大丈夫よ!もう少し……ってきゃっ!」


「っと、危なっかしいな……」


「あ、ありがと……」


 大丈夫と言った拍子に雪に足を取られたクロエが転びそうになるが、隣を歩いていたマークが支えたことで事なきを得る。

 この調子なら、クロエをサポートしながらでも岩場まで辿り着けるだろう。

 しかし、本当に大きな岩場だ。まるで壁のようにそびえる黒い影は、吹雪の影響もあってか終わりが見えない。

 最悪の場合、迂回して進むことも考えないといけないかもしれないな。


「あの、少しいいでしょうか……?」


 ゆっくりと進む俺達の後ろから、エリカが声を掛けてくる。

 何かあったのか、それともエリカも体力が厳しいのだろうか。


「どうした、エリカ!何かあったか!」


「いえ、問題があるわけでは無いのです。ただ、あの岩場が、私には人工的な物に見えるのですわ……」


 エリカはそう言うが、ただでさえ悪い視界のせいで、俺には大きな岩にしか見えない。

 だが、盗賊シーフでもあり、俺達より格段に視力が良いマークならどうだろうか。


「マーク、どう思う?」


「ああ、エリカにもそう見えるのか。少し前からそんな気はしてたんだが、俺もこの吹雪で確証が持てなくてな……」


「ええ!?そんな大事な事、なんでもっと早く言わないのよ!」


「仕方ねえだろ!俺だって確実じゃない事を言ってぬか喜びはさせられねえよ!」


「まぁまぁ、お二方とも落ち着いてください!ですが、これで私も確証が持てましたわ。あれは確実に人工物だということが……!」


 ここにきていつもの調子を取り戻した二人が口論を続ける中、エリカは確信をもってそう告げる。

 ともあれ、マークも含めて二人がそう言うのだから、間違いはないのだろう。

 俺は、安堵と喜びを込めて後ろに続く三人に向き直る。


「どうした、ヨシヒロ。何かあったのか?」


 ここにきてようやく、勘の悪い俺でも気付いたのだ。

 辺境の地であるコキュートスには、ただ一つだけ人の暮らす都市がある。

 そう、それこそが、目の前に見える(・・・・・・・)人工物のことだ。


「ああ、そうだ!あの大きな岩壁こそ、要塞都市アイスジェイルだったんだよ!」


ちなみに、ビバークと言うのは、登山なんかで悪天候の際に、緊急的に岩陰なんかで一夜を過ごすことです。

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