表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃
82/137

第77話 雪の進軍

更新が遅れてしまい申し訳ございません!

ようやく更新ですが、何やら絶妙に長くなってしまいました。


「ぐおおおおおお……ッ!」


 名も無き山の麓にある山小屋で竜車を預けた俺達は、極寒の雪山の中を歩いていた。

 吹き荒ぶ風雪が身体に打ち付け、俺達の体温を次第に奪っていく。


「大丈夫か、ヨシヒロ!?」


「いや、死ぬかも分からん……」


 先導するマークが息も絶え絶えの俺に声を掛けてくる。

 いくら田舎育ちとは言え、超ゆとり現代っ子の俺は、流石に吹雪の中を歩くなんて初経験だ。


「皆様、少し先に洞窟が見えますわ!吹雪が止むまで、そこで小休止致しましょう!」


 エリカの指差す先には、確かにポッカリと空いた洞窟が見える。

 プライドの高いクロエは口にはしてないが、きっと俺以上に体力を消耗しているだろう。


「とりあえず、お茶でもいれるよ……」


「あぁ、そうしてくれ……」


 流石のマークも疲れたようで、焚き火を起こすと、その場にどっかりと座り込んでしまった。

 小さな鍋にお湯を沸かし、自作の野草ティーパックを沈めていく。

 少し経つと、鍋からハーブの良い香りが漂ってきた。


「お待たせ、みんな。熱いから気をつけて」


 沸かしたお茶をカップに注ぎ、全員に手渡していく。

 少しでも寒さを和らげる為に、今回は少しだけ生姜に似た味の野草を入れている。


「あれ?なんでか分かんないけど、体がポカポカするわ!」


「ええ……。これは、ジャージン草を入れているのでしょうか……?」


「うん、そうだよ。お婆ちゃんの知恵袋ってやつかな?」


 所謂、生姜湯的なものだ。

 この世界には、名前が異なるだけで元いた世界と同じような味や見た目の植物が多い。

 そのおかげで、【毒耐性】を手に入れた時のサバイバル生活では随分食料探しが楽だった。


「ふぅん、秘伝の味って奴か?何にしろ、今の状況にはピッタリだな」


 マークが静かに生姜湯風ドリンクを飲みながら俺に笑いかける。

 まぁ、俺が出来るのなんて壁になる事と料理することくらいだからな。

 せめてこのくらいは役に立たなくては。


「皆様、一息着いたところで、今後の方針を話し合いませんこと?」


「ああ、そうだな。この吹雪じゃまともに進めない。時間を有効活用するか」


 エリカの提案を、参謀役とも言えるマークが受け入れる。

 確かに、ただダベっているだけでは時間が勿体ない。


「早朝に出発して、今が午後3時。まだ名も無き山を半分登ったところだから、下りも含めて残りが3/4だな……」


「うーん、大体9時間掛けて進んだのは1/4の距離か……。多分、今日はここで野営する事になるかな?」


 かなり時間を掛けて進んだのは、登りの約半分の距離だけだ。

 恐らく、この吹雪が止む頃には日が暮れ、進むことは不可能だろう。


「そうですわね。明日の朝に少しでも吹雪が収まっていれば良いのですが……」


 洞窟に吹き込む冷えきった風が焚き火を揺らす。

 このまま焚き火が消えてしまえば、この極寒では死を意味することになる。


「……ヨシヒロ、少しでも風を抑えるために、雪で壁を作る。手伝ってくれ」


「うん、一応、小さいけどスコップは持ってきたんだ。これを使おうか」


 とは言え、完全に洞窟の入口を塞ぐことなど不可能だ。

 それに、この作業は必然的に吹雪の中で行うことになってしまう。


「ふぅ、こんなもんか……」


「これで、少しでもマシになればいいんだけどね……」


 小一時間掛けて完成したのは、入口を半分程塞ぐ形で作られた雪の壁だ。

 吹き込む風は少しマシになったものの、その凍えるような気温は変わらない。


「こんな調子で、コキュートスまで辿り着けるのかしら……」


 壁の隙間から吹雪く雪原を眺めていたクロエのそんな独り言が、洞窟の中でやけに響く。


 そして、吹雪が止まぬまま、次第に夜は更けていった。


                  ◆◆◆


 視界に広がるのは一面の銀世界。

 山の中腹から見下ろした景色は、青空の下(・・・・)にどこまでも続いている。


「やっと、ですわね……!」


 時刻は正午前、明け方まで続いた猛吹雪はようやく収まり、先日までとは打って変わって、空模様は快晴だった。

 洞窟から飛び出したエリカは、大きく伸びをして辺りを眺めている。


「少し遅くなったけど、早速出発しよう!」


「ああ、今のうちにできるだけ進んでおこう。いつ天気が崩れるか分からないからな……」


 再び先導を開始するマークに続いて、俺達も荷物を背負って歩き出す。

 積もったばかりの新雪に足を取られるが、この程度であれば、準備した魔法の付与された登山靴のおかげで楽に上がることができる。

 かなり値は張ったが、買っておいてよかった。


「少なくとも、頂上を越えて下りには差し掛かりたいわね……」


 なぜかと言えば、下りにさしかかれば、コキュートスに面した名も無き山の南側は、何故か吹雪かないという噂だ。

 その一方で足下が険しく、滑落の危険があるとの事だが、【吸着スタック】の魔法が付与された登山靴があれば、殆どの事故は防ぐことができるだろう。

 この情報は、俺がアリシアさんを通じてギルドから仕入れた情報なので、恐らくは正確なものである筈だ。


「ああ、そうだな。登りさえ終われば、後は雪原を気をつけて降りるだけだ。


「うん、とりあえずは、頂上を目指して登山になるね」


「……なぁ、クロエは大丈夫か?体力が無いなら俺かヨシヒロがおぶって上まで運んでやるぜ?」


 マークがすかさずとばかりにクロエを茶化す。

 ほんとに、この二人はある意味で相性抜群だよな……。


「うっっっさいわね!アンタの体力なんて、私と大して変わらないじゃないの!」


「ほぉ……?さっきまで息切れしてたくせによく言うじゃないか?」


「まぁ、打たれ弱さって面ではマークもクロエもどっこいどっこいだよね……」


「おい!確かにその通りだが、純粋な体力ならこいつよりもあるっての!」


 柔らかい新雪の上を、俺達は賑やかに進んでいく。

昨日の吹雪の影響でかなり足を取られるが、加護によって強化されたステータスのおかげでどうにか進むことができる。

とは言っても、唯一の魔法職であるクロエは少し厳しそうではあるが……。


「まぁ、クロエだけじゃなくて他のみんなも無理しないように進もう。体力だけは馬鹿みたいに多い俺に合わせてたら、流石にバテちゃうからね」


 いくらクロエ以外が前衛職とは言え、壁役かつ【不眠不休】スキルのおかげで殆ど疲労しない俺と比べれば、あくまでも普通の人より体力があると言った程度だ。

 特にマークなんかは、あまり体力が多くないタイプなので、恐らくは既にかなり消耗しているだろう。

 仮にもパーティのリーダーを任されているのだから、その辺はしっかり管理しなくては。


「ええ、そうですわね。差はあっても皆様、必ず体力に限りがあるのです。無理はせず、適時休みを取りながら進みましょう」


「……あー、リーダーとして言うべきことをエリカに言われちゃった気がするけど、とりあえずみんな気をつけて行こう!」


 なんとなく締まらないが、どうにかパーティにそんな声を掛けて雪を踏みしめて進んでいく。

 深く積もった雪に足を取られ、平坦な道を歩く何倍も体力が奪われた。


 それでも、俺を先頭にしたパーティは、一歩、また一歩と山道を進んでいく。


「……中々の眺めじゃないか」


 一足先に山の頂き(・・・・)へと辿り着いたマークが、その先に続く景色を眺めながらぽつりと呟く。


「これは……凄いとしか言えないな……」


 少し遅れて、クロエとエリカを伴った俺も名も無き山に到着する。

 高く険しい冬山の頂点から見える景色は、ただ荘厳で、神秘的ですらあった。


「あの、コキュートスの中央にうっすらと見えるのが、唯一の集落と言われるアラドブルクなのでしょうか……」


「ええ、吹雪のせいで少し霞んではいるけど、恐らくそうなんじゃないかしら?」


 エリカ達が眺める方向へ目を向けると、確かにうっすらとはではあるが、明らかな人工物の影が見える。あれは、要塞か何かだろうか。


「……ああ、あれが恐らくはアラドブルクだろうな。ヨシヒロはどう思う?」


「ほぼ100%間違い無いと思うよ。コキュートスにある唯一の集落がアラドブルクで、グスタの街程ではないけど、城塞都市って話だったから」


 恐らく、あの要塞を中心として街が広がっているのだろう。よく目を凝らせば、石造りの堅牢な建物がちらほらと目に映る。

 情報が確かであれば、あの要塞の名前は『アイスジェイル』。

 冬将軍の異名でも呼ばれ、確か対氷獄獣の前線基地として建てられた筈だ。


「ともかく、後は下るだけだよ。コキュートスに入ると一気に天候が荒れる。今日は少し手前休もうか」


 名も無き山の登りは猛吹雪、下りは険しい雪道、そしてコキュートスの地に本格的に突入すれば、これまでの比にならない程の極寒と風雪が吹き荒れる。

 そうであれば、名も無き山のある程度の場所で休息を取ってからコキュートスへ進むのが最適解である筈だ。


 【吸着】の魔法が付与された登山靴のおかげで、俺達は危なげなく山を下っていく。

 険しい山道ではあるが、付与された魔法のおかげで滑落の心配もなく進むことが出来た。


「っと、この辺かな……」


 いつの間にか先頭を進んでいたマークが立ち止まる。

 確かに、これ以上進めば吹雪が酷くなるのは目に見えている。

 実際、少し前から雪がチラチラと舞い始めていた。


「そうだね。今日はこの辺りで野営しようか」


「わかりましたわ!」


「うう、やっと休めるのね……」


 俺の合図に、余裕の表情を浮かべたエリカと、すぐにでも倒れそうなバテバテのクロエが声を上げる。 クロエに至っては、俺が声を掛けてすぐに近くにあった岩に腰掛けてしまった。


「あの岩陰にテントを設置しようか。多分、吹雪にはならないだろうけど、少しでも風除けになる筈だ」


「ああ、そうだな。テントは俺とヨシヒロが担当する。クロエはここで周囲の警戒、エリカの方は、体力があれば周辺の探索をしてきてくれ」


 基本的には、名も無き山には魔物は生息していない。であれば、周囲の警戒は無意味なのかというと、そうとも限らない。

 何故なら、稀ではあるがコキュートス側から魔物が登ってくる可能性があるからだ。

 恐らく、マークとしてはかなり消耗しているクロエを休ませたいという気遣いの面が大きいのだろうが、警戒を怠ることもできないのだ。


「ええ、分かったわ。幸いにも、ここは少し高台になっているし、索敵もしやすいから」


 そう言って、腰かけていた岩場から少し上がり、クロエが辺りを見渡し始める。

 十中八九何も無いだろうが、念のためという奴だ。


「それでは、(わたくし)は周辺の探索に出かけますわ。何か、食料になるような動植物が見つかれば良いのですが……」


「そうだね。見つけるのは厳しいかもしれないけど、極寒ではあっても不毛の地って訳じゃないから、もし何かあれば採取してきてくれるとありがたいかな……」


「エリカ、魔物がいる可能性もゼロじゃない。対敵したら、無理をせずに戻って来いよ!」


「ええ、分かりましたわ!それでは、行って参ります!」


 荷物を下ろし、大剣と採取用のポーチだけを携帯する形になったエリカは、これまでよりも軽い足取りで出掛けていく。

 エリカの行く先には森が見えているし、上手くいけば何か食料が手に入るかもしれないな。


「……それじゃあ、俺達もテントの設置に取り掛かるか!」


「うん、そうだね。それが終わったら、俺は料理の準備でもしておこうかな?」


俺とマークは、岩陰にテントを設置していく。

厳しい冬山の行軍も終わりに差し掛かり、俺達に束の間の休息が訪れる。


いよいよ、明日の朝になればコキュートスへと突入することになるのだ。

コキュートスに入ってしまえば、厳しい気候と魔物との戦闘でろくに休むことは出来ないだろう。

そうなれば、恐らくはこの野営が最初で最後のまともな休息になる。


「とりあえず、今日くらいはゆっくり休めるといいなぁ……」


俺のそんな言葉が、冷たい風に乗って流れていった。

あと数刻もすれば日が暮れる。その前に、野営の準備だけはしておかなくては……。


次回は、できれば明日に投稿したいと思っています。


台風が凄いみたいですね。

明日のお仕事も休みになりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ