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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃
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第76話 勇者の伝説と西の国

テンプレですよね。和風の国とか、勇者とか。

 コキュートスへ向けてグスタの街を出発してから、既に5日が経過した。


 現在は、南にあるアブダイル山脈を越え、ガンドル地方の穀倉地帯を走っている。

ガンドル地方はその土地の多くを小麦畑が占めており、中央にある農業大国のデメトリアを中心として、各地に小さな村が偏在するという平和な地方だ。


 肝心のコキュートスであるが、このガンドル地方の南端にある、名も無き山脈を越えてようやく辿り着くそうだ。

 名も無き山脈は、穏やかな気候のガンドル地方に面しているにも関わらず、一年を通して気温が氷点下を下回る厳しい冬山とのことである。

 コキュートス程では無いものの、厳しい環境であるため、名も無き山脈を越えることが出来ずに諦める冒険者も多いという。


「「キュイイイイッ!」」


「……よし、今日はこの辺で野営するぞ!」


 竜車の手綱を握ったマークが走竜ドラゴランナーを止め、俺達に声を掛けた。

 流石に長旅であるため、マーク一人だけに御者を任せることは出来ないと、残りのメンバーで唯一手綱を握った経験のあるエリカが、マークと交代で竜車の操縦を担当している。


「今日だけで結構走ったね、残り半分と少しか……」


「ああ、明後日にはガンドル地方を抜けて、名も無き山脈の麓に着く。竜車はそこにある山小屋に預けて、残りの一週間は徒歩での行軍だ」


「キュイ、キュイッ!」


 走竜の一匹が、竜車から降りた俺にじゃれついてくる。

 走竜はラプトルに角を生やしたような、わりと凶悪な姿ではあるが、家畜化されてしまえば人懐っこい性質らしい。

 野生ではプライドが高いという割にはそんな素振りも無く、一日目の夜にはもう顔をベロベロと舐める程に懐いていた。


「なんだか、二匹ともヨシヒロにだけ異様に懐いてるわよね……」


「ええ、家にいる時はかなり大人しい子達なのですが……」


 顔を舐め回される俺を眺めながら、クロエとエリカがそんなことを口にする。

 確かに、俺以外の三人にはここまでじゃれついたりしない。精々、大人しく撫でられているか、軽く匂いを嗅いでいる様子しか見たことが無い。


「うーん、まぁ可愛いからいいんだけどさ……。とりあえず、夕飯の準備が出来たから熱いうちに食べちゃおうか!」


 後ろの走竜に頭をガジガジと甘噛みされながら、調理を進めていた俺は、鍋から料理をよそって取り分ける。

 極寒のコキュートスが近いだけあって、この辺りは日中でも肌寒い上に、夜になると殆ど冬のような気温になってしまう。


 そこで調理に役立つのが、事前に購入してきた唐辛子と香辛料達だ。

 干しエビや煮干しで出汁を取り、塩と味噌に似た調味料で味を整え、唐辛子や香辛料を加えた鍋で肉や野菜をグツグツと煮込んでいく。


「はい、お待たせ!なんちゃってチゲだよ!」


 そう、俺が作っていたのは具沢山のチゲ風スープだ。

 勿論、調味料も食材も揃っていないので本格的な物には及ばないと思うが、それでも体は温まるし、かなり具材を入れたから腹にも溜まる筈である。


「へぇ、聞いたことがない料理だが……」


「ねぇ、何だか刺激的な匂いがするんだけど、また変なもの入れてないでしょうね!?」


 以前、俺が採ってきた毒草の料理で痛い目を見ているマークとクロエは、かなり訝しげに匂いを嗅いだり、スープの入った器を眺めたりと、かなり警戒している。


「安心してよ!今回はちゃんと市場で買ってきた食材ばっかりだから!」


「ええ、隣で調理するのを眺めていましたが、どの食材も普通のものでしたわよ!」


 俺の言葉をフォローする様に、エリカもそう声を上げてくれる。

 そして、俺を除いた三人は、少し緊張したような面持ちでスープに手を付けた。

 いや、俺の料理ってどんだけ信用無いんだよ……。


「「「……これはッ!」」」


 スープを口にした三人は、揃って目を丸くして声を上げる。

 うーむ、美味しいのか、そうでないのか微妙なラインの反応だな。


「えーと、どうかな……?」


「美味い!やっぱり、まともに作るとヨシヒロは料理のセンスがあるんだな!」


「ええ、少しピリっとするけど、ミソを使っているからマイルドで食べやすいわ!」


「ええ、初めて食べる味ですが、作り方を教えて頂きたいくらいですわ!」


 どうやら、特製のチゲスープは好評ののようである。

 やっぱり、寒い夜は温かいものか辛いものに限るよな。冷たい夜風の中だからそれも尚更だ。

 ちなみに、味噌に似た調味料は、そのまんまミソというらしい。

 何でも、西の国に伝わる伝統的な調味料だとか。


「喜んで貰えて良かったよ!かなり多めに作ったから、どんどんお代わりしてね!」


 そう言って、俺も自分の分をよそって料理に箸をつける。

 うん、やっぱり、辛いものを食べると体が温まるな。

 これから寒さは厳しくなる一方の筈だし、香辛料なんかを多めに買って正解だった。


「……あ、そう言えば、勇者の伝説についてまだ聞いてなかった!」


 俺は、ロックウェル家で聞いた話をふと思い出す。

 後で聞かせてもらう筈だったが、準備で忙しかった上に、旅の途中でも戦略なんかを練っていたせいで完全に忘れていた。

 剣と魔法のファンタジーな異世界といえば、やはり勇者が付き物だろう。


「ああ、そう言えばそんな約束だったか……」


「え、ヨシヒロって勇者の伝説も知らないの!?」


 クロエが驚いたように声を上げる。

 アルクス地方の隣にあるダルク地方の出身であるクロエも知っている事からして、きっと勇者というのは世界的に有名な存在なのだろう。

 まぁ、あまりにも昔の話だから日常的に語られない御伽噺みたいなものなんだろうけどな。


「勇者と言うのは、大体200年前に世界が魔王に支配されていた時代、唐突に現れて数年で世界を救ったって言う伝説の人物だ」


「ユウキ・サトウって名前らしいわね。同じ家名でも、勇者と硬いだけのヨシヒロじゃ、天と地ほどの差があるけど……」


 うるさいな、ほっとけ。

 ともかく、ここまでの情報からするに、恐らく勇者の正体は俺と同じ日本人だろう。

 きっと、何かしらがあってこちらの世界に召喚されてしまったのだ。


「ふーん、他にはどんな話が伝わってるの?」


「そうですね……。龍を従えていたとか、大剣の一振で山を砕いたとか、伝説には事欠きませんが、現実的なもので言えば、西の国の建設ですわね」


「へぇ、西の国は勇者が造ったのか!」


 同じ日本人が作ったのであれば、味噌が伝統的に伝わっているのも頷ける。

 きっと、勇者が自分の知識を捻ってどうにか作り出したのがあの味噌もどきなのだろう。


「ああ、そう言えば、オーエドは勇者の国だったな。オーエドでは、カタナと呼ばれる武器を持ったニンジャが闊歩していて、死ぬ時は必ずハラキリをするそうだぜ」


「……え、なんて???」


訳知り顔のマークが語るトンデモ話に、俺は思わず聞き返してしまう。

なんだ、その間違った海外の日本観みたいな情報は……。

それが事実なのであれば、勇者の国は相当なキテレツ文化が蔓延っているようだ。

いや、日本人としては嘘だと信じたいが。


「後は、オーエドのあるカラクサ地方では他の地方と違って、お米を主食で食べるみたいね」


「ええ、わたくしも1度食べたことがありますが、パンとはまた違って美味しいですわよ!」


「へぇ、お米が主食なのか!それはいつか絶対に行きたい情報だなぁ!」


 この世界に来てからというもの、主食はパンやパスタなんかの小麦製品ばかりだ。

 最初の頃は米を探して歩き回ったものだが、グスタの街では見当たらなかった。

 しかし、西の国オーエドには、なんとも幸運なことに米が存在するらしい。

 これは、日本人としては絶対に見逃せないだろう。


「なんだ?ヨシヒロは米に拘りでもあるのか?」


「そりゃもう!なんてったって米の国で生まれたからね!」


「はぁ?オーエドの出身だったのか?確かに名前的には違和感がないが……」


 おっと、なんか盛大な勘違いをされているな。

 あと、うっかり米の国とか言っちゃったけどそれだとアメリカじゃないか。

 とりあえず、今は話すべきじゃないと思うので誤魔化しておこう。


「あー、いや、俺の出身地でも米が主食なんだ……。オーエドの出身って訳じゃないよ」


「……よく分からねえが、カラクサ地方以外でも米が栽培されてんだな。ま、お前の出身地についてはいずれ聞かせてもらうぜ?」


 俺が何かしら誤魔化していることに気づいているマークは、白い目で俺にそう問いかける。

 クロエやエリカだけなら騙せそうだったのに、やっぱりマークには敵わない。


「まぁ、私は何でもいいけどね。そのうち話してくれれば」


「ええ、誰しも話したくないことはあるものです。でも、ヨシヒロさんならいつか話してくださる筈ですわ」


 うーん、謎の信頼と期待感が痛い。

 まぁ、話しても問題ないんだけど、きっと信じて貰えないんだよなぁ……。


「うーん、いつか機会があれば話すよ。とりあえず、食事も終わったし、明日に備えて寝ようか!」


 すっかり空になった鍋を片付けながら、俺は話を変えるためにそう促す。

 少し不満そうな感じもあったが、どうにか納得してくれたようで、各々が片づけを手伝ったり、寝床の準備をし始めた。


「恐らく安全だとは思うが、念のために交代で見張りをするぞ。まずは俺が担当するから、俺が起こすまでは三人は休んでいてくれ」


 そう言って、マークは焚火の傍に座って本を読み始めた。

 恐らく、コキュートスに関する資料に目を通しているのだろう。


「そうだ、マーク。冷え込むからお茶を入れておくよ」


「ああ、ありがたい。お前のお茶は不思議と美味いからな」


 電気の無いこの世界の夜は暗く、寒く、長い。

 盗賊シーフのマークはこんな状況にも慣れているだろうが、俺であれば不安になる。

 であれば、少しくらいはハーブティーでリラックスして欲しい。


「それじゃあ、お休み」


「ああ、次はヨシヒロを起こすから、それまではゆっくり眠ってくれ」


 ハーブティーの入ったカップを傾けながら、マークは再び本に視線を戻す。

 俺もマークに挨拶だけすると、そのまま寝袋へと向かって行くのだった。

次回もできるだけ早く投稿したいですが、土日の予定次第です。

ブックマークや評価、感想を頂けるとより一層やる気がでるので何卒……。

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