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社畜・イン・ファンタジー ~異世界ブラック冒険譚~  作者: 揚げたてアジフライ
第四章 銀雪と矜恃
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第75話 情報収集、そして旅路の始まり

大っっっっっ変にお待たせしました。いつもよりは少し長めです。

ブックマークを継続してくださった皆様、ありがとうございます。

 エリカやカタギリと別れ、屋敷を出た俺達はすぐに旅の準備のために買い出しへ向かった。


 ぶっちゃけ、道具類なんかはマークに殆ど任せっきりだったので、恐らく料理を担当することになるであろう俺は、寒さを少しでも和らげるためにスパイスなんかを多めに買い込んだくらいだ。

 あとは、寒さで普段よりカロリーを消費するだろうから、少し割高な砂糖菓子なんかも購入しておいた。


 科学による防寒対策がない分、凍傷なんかの知識はしっかり普及されているようで、ネットで知った程度の俺の付け焼き刃の知識は全く役に立たなかった。

 そもそも科学が無い分は、ある程度、魔法で補われているみたいだしな。


 旅の準備自体は初日だけで終わり、残りの時間は辺境コキュートスと、氷獄獣ブリザードビーストについて調べることにした。

 その辺の資料なんかは、やはりギルドの書庫が一番充実しているのでギルドを訪れたのだが、アリシアさんに氷獄獣の討伐に向かうと言った瞬間に、殺されるのでは無いかという程の剣幕で怒られた。

 しかし、何やかんやで心配してくれているようで、時間を見つけては書庫に顔を出して俺の勉強に付き合ってくれたのだが……。


 辺境と言われるだけあって、コキュートスについては情報がかなり少なかった。

 得られた情報と言えば、寒さのあまり魔物すら殆ど生息していない事、そんな厳しい環境の中で、一つだけ人の暮らす集落があるということくらいだ。

 恐らくは、その集落を拠点にして氷獄獣を捜索することになるだろう。


 一方で氷獄獣に関しては、半ば伝説となっている魔物のようで、信憑性はともかくとして情報だけは多かった。

 何でも、緑豊かな地であったコキュートスを一瞬にして極寒の地に変えたとか、一晩で国を三つ滅ぼしたとか、眉唾物の情報ではあるのだが……。


 しかし、実際に討伐に向かった冒険者の殆どが帰還しなかったという噂だけは事実であるようで、ギルド職員という立場を利用して、アリシアさんが色々と調べてくれた。

 討伐に失敗して、命からがら逃げ帰ってきた冒険者からギルドが聞き取った情報によると、氷獄獣は吹雪や雪崩を引き起こし、鋭い爪を強固な氷で更に強化して戦うと言う。


 まぁ、何日も時間をかけたところで得られたのはこの程度の情報だけだ。

 冒険者からの情報に関しては少しは役に立つとは思うが、所詮は又聞きの情報でしか無いので油断しない方が自分のためだろう。


                      ◆◆◆


 そして、いよいよ出発の日が訪れた。

 グスタの街の天気は快晴、正午を前にした街はいつも通り冒険者や商人達で賑わっている。

 宿まで迎えに来たマークとクロエを連れ、俺達三人はエリカの待つロックウェル邸へと向かっていた。


 この三日間で一番大変だったのが、里帰りから帰還するなり無謀な依頼を聞かされたクロエの説得だった。


 最初のうちは「私に相談する前に決めるなんてありえない!」とか「アンタ達は死にたいの!?」とか非難轟々だったのだが、そこまで言うなら俺達二人だけでも依頼を受けると伝えると、更に怒った様子で「ふざけないで!私も行くわよ!」と怒鳴られてしまった。

 シュタイナーとの一戦で精神的にも成長したと思ったのだが、クロエのツンデレ的な言動は相変わらずのようだ。


「……まぁ、なんやかんやでクロエも来てくれて助かるよ」


「ああ、そうだな。クロエの魔法があれば、少しは楽になる、と思いたい……」


 もしクロエが参加しなければ、エリカと俺達だけでは攻撃方法が近接のみになってしまう。

 それに、クロエの火力は俺達のパーティの中でも随一だ。

 ただでさえ無謀な挑戦なのだから、少しでも攻撃手段は多い方がいい筈だ。


「ふん!アンタ達にとっては幸運なことに、休みの間も修行してた私は、新しい魔法も覚えたの!感謝してよね!」


 俺達の言葉を受けたクロエは、照れ隠しとばかりに顔を赤くしてそう言った。

 なるほど、どうやら帰省中にもクロエはしっかりと修行していたらしい。

 魔法なんて、そう簡単に覚えられるようなものでは無かった筈だが、そこはクロエの才能の賜物か、余程の修行をしたと言ったところだろうか。


「クロエの覚えた新しい魔法のことは後々聞くとして……。少し先に見える城が、エリカの待ってるロックウェル邸だよ」


 そう言って、俺は未だに見慣れない巨城を指差す。

 俺の示す先にあるものを見て、クロエも目を丸くして驚いているようだ。


「え、ええっ!?あれって、ギルド本部の建物とかじゃないの!?」


「ああ、俺達も初めて来た時は驚いたぜ。なんせ、案内された先が家じゃなくて城なんだからな……」


「まぁ、広いのは城だけじゃなく、庭もなんだけどね。多分、隅々まで探索しようと思えば、日が暮れるんじゃないかな……」


「大戦士カタギリ、噂は少し聞いてたけど、とんでもないわね……」


 そんな会話をしながら数分歩き、ようやくロックウェル家の門の手前に辿り着く。

 既にエリカの準備は整っているようで、何やら豪奢な馬車の横でカタギリと話をしているのが見て取れる。


「おーい、エリカ!お待たせ!」


 俺は門の前で待つ二人に手を振って呼びかける。

 その声に気づいたのか、二人もこちらを向いて大きく手を振り返してきた。


「もう、遅いですわよ!」


「ごめんごめん、準備に手間取ってね!」


 俺は、プリプリと怒るエリカを宥める。

 実際、ギリギリまで依頼を渋っていたクロエを説得していたので間違いではない。


「まぁ、それはいいですわ。それで、そちらの方がクロエ・ベルヴィルさんかしら?」


「え、ええ!私が上級魔導士アークウィザードのクロエよ!アンタは、カタギリさんの娘のエリカね!」


 何故か緊張した面持ちでクロエはそう返答する。

 そう言えば、クロエって地味に緊張しいの人見知りなんだよなぁ……。


「ええ、わたくしがエリカ・ロックウェルですわ!冒険者ランクはB、職業は重戦士ヘビーウォーリアです。よろしくお願い致しますわね?」


 そう言って手を差し出すエリカに、ガチガチに緊張したクロエも倣って握手をする。

 どうやら、なんとか上手く打ち解けられたようで、俺達もホッと胸を撫で下ろす。


「ええ!私が加わったからには、氷獄獣だろうがドラゴンだろうが、ちょちょいのちょいよ!」


「それは頼もしいですわ!お三方は、前衛のヨシヒロさん、後衛のクロエさん、遊撃のマークさんと、バランスの良いパーティですわね。それも、実力は折り紙付きですもの。もしかすると、本当に氷獄獣でさえ軽く倒してしまえるかもしれませんわね!」


「「「いやぁ、それ程でも……」」」


 べた褒めするエリカに、俺達は揃って照れてにやける表情を隠せない。

 俺もこちらの世界に来てから、かなり功績を挙げてきたつもりだが、こんな風に正面から褒められる機会なんて中々ないからな。


「まぁ、それはさておき、ですわ。皆様も、旅の支度はよろしいのでしょう?」


 手のひらをくるりと返すように話を本題に持って行ったエリカが、こちらに向けて語り掛ける。

 おお、急な話の展開に若干取り残されそうだ。


「ああ、勿論だ。物資の準備も、氷獄獣やコキュートスに関する予習に関してもバッチリだぜ」


「ええ、こいつら二人に聞いてから、しっかり炎属性の魔法も特訓してきたもの!」


「あ、ああ!俺も、ギルド職員のツテを使って、しっかり勉強して来たよ!」


 自信満々に答えるマークとクロエに若干押されながらも、俺もそう答える。

 いや、アリシアさんの力を借りて、本来なら知ることが出来ないような情報まで詳しく教えて貰ったんだ。

 きっと、この知識は役に立つ筈だ……と思いたい……。


「それは頼もしいですわね!それでは、早速ですが出発いたしましょうか」


 俺達の返答を聞いたエリカは、門の前に停められた豪奢な馬車へと向き直る。

 いや、馬車と言う表現は正しくない。

 何故なら、本来は馬がいるであろう場所にいたのは、小型の竜(・・・・)だったのだから。


「へぇ、竜車か。流石に、実際に乗るのは初めてだな……」


  俺の世界の知識で言えば、ラプトルと呼ばれていたような小型の竜に手綱が付けられた馬車を見て、感心したようにマークが声を上げる。

 この世界の移動は馬車が主流であるが、どうやらこの乗り物は見た目のまんま、竜車と言うらしい。


「話には聞いたことがあるけど、竜車なんて本当に存在したのね……」


 マークとクロエの話によると、竜車はそれを引く走竜ドラゴランナーを手懐ける手間と継続して育てるためのコストが割に合わないので、殆ど使われることが無いそうだ。

 だが、走竜は破格のコストに見合ったスピードを出し、馬車の数倍の速さで走ることができるため、上流貴族や王族では御用達であるとのことだ。

 そんな物を用意できるとは、流石はこの地方の軍事を束ねるロックウェル家だけはある。


「そういえば、走竜はプライドが高くて、乗せる奴を選ぶなんて話を聞いた事があるが、その辺は大丈夫なのか?」


「ええ、その点は問題ありませんわ。うちの走竜は、お父様自らが捕らえて、プライドをへし折っていますから」


 なるほど、どうやら竜車を引くこの2体の走竜は、カタギリさんによってプライドをズタズタにされる程の何かをされているらしい。

 大方、戦ってボコボコにしたか、純粋なスピード勝負で勝ったかのどちらかだろうが……。


「ああ、そうなんだ……。何にしても、目的地に早く付くならそれに越したことは無いよ」


 なにせ、目的地は辺境と呼ばれる極寒の地、コキュートス。

 厳しい気候の影響で、途中で馬車が使えなくなることを考えると、普通に進めば到着まで一ヵ月近くは掛かる距離なのである。

 それを、寒さに弱い竜種であるので馬車よりも速い段階で使えなくなるとはいえ、僅か二週間程でコキュートスで拠点にする予定である集落に辿り着くのだから、それはもう革命と言っても遜色ない程のスピードなのだ。


「……あんちゃん達、エリカをよろしく頼むぜ?」


 竜車に乗り込む俺達に向け、カタギリは少し不安そうな面持ちでそう語り掛ける。

 いかに伝説とも言える大戦士の血を引いているとは言え、エリカは僅か17歳の少女なのである。

 それも、ロックウェル家にとってはかけがえのない一人娘なのだ。

 それを、同じく伝説として語られる強大な魔物の討伐に挑ませる事になるのだから、きっと内心は引き止めたい思いでいっぱいだろう。


「……いえ、お父様、心配はいりませんわ。私は、必ずやあの氷獄獣を討伐し、無事に帰還してみせます!」


「うおおおおッ!エリカッ!!立派な戦士の心構え、俺は親父として嬉しいぞッッッ!!!」


 男泣きするカタギリと熱い抱擁を交わすエリカ。

 なんと言うか、俺達には窺い知れない男の世界だ。

 いや、カタギリはともかく、エリカは見た目は華奢な美少女なのであるが……。


「あー……。とりあえず、荷物を積み込んだら出発したいんだが、問題ないか?」


 そんなロックウェル親子の様子をよそに、呆れた様子のマークは頭をワシャワシャと掻きながらそう告げる。

 確かに、依頼クエストに出発するために集合したのに、一向にその気配が無い。


「あっ、そうだね!そろそろ、準備を整えて出発しよう!」


「そ、そうね!相手はあの氷獄獣なんだから、しっかり荷物を確認しないと!」


 マークの言葉をきっかけに、俺とクロエは、担いできた荷物を忙しなく荷台に積み込み始める。

 帰ってくるまでひと月以上かかると思っていたため、その荷物の量はかなりのものだ。

 まぁ、いくら竜車を使ってコキュートスまで辿り着いたところで、すぐに目的の氷獄獣を見つけられるとは限らない。備えあって憂いなしと言うやつだ。


「……うん、俺達の用意した荷物に関しては、問題ないと思うよ?」


 荷台に積み込まれた麻袋を一つずつ確認しながら、俺はそう答える。

 少なくとも、俺とマークで示し合わせた必要な荷物は揃っている筈である。


「私が用意した物資に関しても、抜けている物はありませんわ。準備は万全と言えるのではないでしょうか?」


 エリカも同じように自身の積み込んだ荷物を確認し終えると、そう返答した。

 どうやら、物資に関しては完全に準備が整っているようだ。

 これなら、今すぐに旅に出たとしても支障は無いだろう。


「ああ、そうだな。じゃあ、リーダーさんよ、出発の音頭を頼むぜ……?」


 マークが俺にそう語り掛ける。

 いつものパーティのリーダーは確かに俺だが、今回の作戦のリーダーも俺になってしまった。

 パーティのリーダーになる人物は、何かに特化したプロフェッショナルの冒険者で無く、悪く言えば器用貧乏な万能タイプの冒険者が最も適切であるらしく、今のメンバーの中で最も平凡なステータスの俺が選ばれることになったのだ。


「えーと、とりあえず、命を大事に……?」


 俺は、この世界に来てからのモットーを告げる。

 なにせ、いくらゲームのような異世界とは言え、命を失ってしまえば復活することはできないのだ。


「……まぁ、妥当というか、平凡なヨシヒロらしいか」


「超エリートの私が死ぬ訳無いけど、精々足を引っ張らないで欲しいわね」


 いつもの俺を知っているマークとクロエは、少し呆れながらも納得した様子で頷いた。


「……うーん、そんなに気楽で良いのでしょうか?」


 一方で、俺達のノリを理解できていないエリカ未だ疑問を顔に浮かべている。

 まぁ、俺達がここまで功績を挙げてきたのも偶然に近いものだ。

 エリカのように、疑問や不安が浮かぶのが当然の思考だろう。


「うーん、いいんじゃないかな?少なくとも、無理に気を張っているよりは自然体で動けると思うよ?」


 不安そうなエリカに向けて、そう返答する。

 半ば無理やりとは言え、この世界に来てからというもの、俺は常識やらステータスなんかを外れて、気合でクエストを達成してきた。

 いくら伝説にうたわれるような魔物とは言え、どこかに弱点はある筈なのだ。


「きっと、氷獄獣を倒す糸口だって、何度も戦っているうちに見つかる筈だよ」


 俺は、顎に手を添えて考え込むようなエリカに向けて声を掛ける。

 相手が生きている以上、どこかに隙はある筈なのだ。

 その隙を突くことができれば、きっと勝機を見出すこともできる。


「……そんなに簡単でいいのかしら?」


「ああ、無茶苦茶ではあるが、ヨシヒロの馬鹿を信じてもいいと思うぜ」


「ええ。こいつは馬鹿だけど、常識を蹴っ飛ばしてでも無理を通す奴よ。きっと、エリカの目的だって叶えてくれる筈だわ」


 同じパーティの二人にここまで言われたら、俺も張り切るしかない。

 確かに、今までの困難だって気合で乗り越えて来たんだ。

 きっと、今回のクエストもどうにか達成できるに違いない。


(まぁ、そう思わないとやってられないってのが本心だけどな……)


 ここはファンタジーな異世界ではあるが、ゲームの世界ではない。

 命を失えば復活する事など神の力を以てしてもきっと不可能だろう。

 そんな世界で生き延びるには、精々虚勢を張りながらも、出来る限りで努力をするしかないのだ。


「よし、準備は万端だね!それじゃあ、出発しようか!」


 そんな俺の合図を受けて、討伐作戦に参加する三人は竜車へと乗り込む。

 ちなみに、御者を務めるのは唯一竜車に乗った経験のあるエリカだ。

 それでも、長旅になるため、途中でコツを教わりながら、馬車の御者ができるマークが交代するらしいが。


「兄ちゃんもエリカも、無事に帰って来いよ!氷獄獣の討伐の暁には、これまでの比にならん程の豪勢な料理を用意しておくぜ!」


 そう言って、大きく手を振るカタギリの見送りを受けながら、走り出した竜車は街並みを流れるように進んでいく。

 俺達を乗せた竜車は、あっという間にグスタの街を出て、城門の外に広がる草原へと抜け出した。


 ちなみに、竜車はその維持コストからとてつもなく高級な乗り物らしい。

 その話に違わず、ふわふわのクッションで装飾された座席は快適を通り越して、最早眠気を誘う程だ。


(辺境の地であるコキュートスに、氷獄獣か……。一体、どんな困難が待ち受けているんだろうな……)


 俺は、流れる景色を視界に移しながらも、まだ見ぬ秘境へ思いを馳せるのであった。


次回は、出来る限り早めに投稿しようと思います(内容は短くなるかもしれませんが……)


少なくとも、この物語(社畜・イン・ファンタジー)が完結するまでは、どんな形であれ投稿を続ける予定です。

一応、今後の物語のプロットはありますので、気長に続きをお待ちいただけると幸いです。

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