第73話 エリカの真意
お待たせしました。
時間が取れたら、土日のどちらかにもう一話投稿できればなぁと思っています。
「私が、ここまで今回の依頼にこだわるのには、ロックウェル家の現状が一つの理由です」
「ロックウェル家の現状……?」
少し考え込んだエリカが発した言葉に、俺は思わず疑問の声を上げる。
そう言われたところで、俺にはロックウェル家のことどころか、カタギリが有名な大戦士だったということですら最近になって知ったのだ。
家の裏事情のような、そんな細かい部分なんて俺にとっては知る由もない。
「……悪いが、俺もさっぱりだな。エリカ、もう少し詳しく頼む」
マークも俺と同じであるようで、エリカに向かって話を促した。
「確かに、お二人の疑問もごもっともですわね。これは、当事者である私達ロックウェル家の者と、グスタの街の一部の貴族しか知らないような事なのですから……」
「……それで、その事情とやらが今回の一件に関わってくると?」
「その通りですわ。ロックウェル家は、私の祖父の代、つまり先々代までは平民の家系だったのです。それが、父の代になって突然貴族位を与えられることになった。何故だか分かりますか?」
俺達の問いに答えるように、エリカは淡々と言葉を続けていく。
その様子を、少し離れた席からカタギリが静観していた。
「……いや、俺はアルクス地方の生まれじゃないもんでな。詳しくは知らない」
「俺も同じく、この地方の出身じゃないから分からない、かな……」
別に嘘は言っていない。アルクス地方の出身でないのは真実だ。
まぁ、そもそも、この世界の生まれですらないのではあるが……。
「ロックウェル家が父の代から貴族となったのは、ひとえにその功績によるものですわ。お二人とも、父であるカタギリの噂は、少しくらいは聞いた事があるのでは?」
「ああ、この地方の生まれで無い俺でも、カタギリさんの武勇伝は昔よく聞いてたもんだ」
「俺も、その凄さは何となく分かってるつもりだけど……。それと今回の件に、何が関係してくるのかな……?」
実際にその武勇伝とやらを聞いたわけではないが、アルクス地方全土を束ねるギルド本部の軍事顧問代表であること、城と見紛う程の豪邸に住んでいること、ギルドの酒場でのあの人気っぷり等から考えても、かなりの人物であることは俺でも理解できる。
だが、その事とエリカが今回の依頼にこだわる事が、どう関係してくるのだろうか。
「それが関係大有りなのですわ。父はかつて伝説とも言われる程の武勲を上げ、一代でアルクス地方でも有数の大貴族へと成り上りました。……ですがその父も今や引退の身、現在のロックウェル家は、何も功績を残せていないのですわ」
「……それって、何か問題なの?何か、貴族はそれ相応の功績を上げないといけないルールがあるとか?」
俺のいた世界ではノブレス・オブリージュなんて言う言葉があった。
身分の高い者は、それ相応の義務を果たさなければいけないというフランスの言葉だ。
この世界においても、貴族であるためにはそういった義務を果たさなければならないのかもしれない。
その義務というのが、エリカの言う功績を上げるというものなのだろうか。
「いや、確か貴族として高い納税は求められるが、そういう決まり事は無いぞ……?」
俺の疑問に、マークがそう答える。
そうであれば、どうしてそこまで功績を残すことにこだわるのだろうか。
高額な納税のためにその報酬が欲しい?いや、この生活ぶりを見るに、金銭面で不自由は無いはずだ。
「これは、私の、いえ、ロックウェル家次期当主としてのプライドの問題なのです。お二人は、今のロックウェル家が他の貴族達から何と言われているか知っていますか?」
「いや、貴族の事情までは俺には分からねえな……」
「同じく、世間に疎いもので……」
エリカの問いに、俺達は揃ってそう答える。
周囲の貴族達から何と呼ばれているのか、恐らくそこにエリカの真意があるのだろう。
「……大戦士カタギリの実力で成り上った称号だけの貴族、そのカタギリが引退した今、ロックウェル家は衰退するだけだと、一部の貴族達の間で蔑まれているのです」
「そんな事、言わせておけばいいんじゃないのか?実際、街に出れば誰もが褒め称えるような大英雄だろう?」
「そうだよ!酒場での人気っぷりったら無かったし、いろんな冒険者にとっての憧れの的じゃないか!」
まぁ、その比率と言うのが若干男に偏り過ぎている気もするのだが……。
ともかく、かつて俺達と同じような普通の冒険者だったカタギリは、かつての獄王の刃掃討作戦をはじめとした戦いで無双とも言える程の活躍を見せ、伝説となった。
そのような功績を残した英雄が称えられるのは当然のことだが、非難されるようないわれはないだろう。
恐らくは、周囲の貴族からの蔑みの声と言うのも、嫉妬や逆恨みの類の筈だ。
「それでも、私は現状が許せないのです!かつて父は、たった一人で誰にも認められる伝説を残しました。しかし、私はただこの屋敷の中で燻っているだけ……。だからこそ、私は次
期当主の身でありながら、何も成し得ていない自分の不甲斐の無さが許せないのですわ!」
凛とした佇まいで俺達にそう告げたエリカの瞳には、後悔や決意、様々な感情が渦巻いているように感じた。
だが、その瞳は俺達だけを真っすぐと見据えている。
「うおおおおおッ!エリカッ!よく言ってくれた!俺は父親として鼻が高えぜ!」
真剣な表情で俺達が見つめ合っていた空気をぶち壊すかのように、男泣きしたカタギリの大声が大食堂へと響き渡る。
全く、今は結構真面目なシーンだった筈なんだけどな……。
「はぁ……。ともかく、そこまでの決意があるなら、少なくとも俺はエリカを手伝うよ!」
「おいおい、ヨシヒロ。勿論俺も依頼を受けるに決まってるだろ?勝手に薄情者にしないでくれよな……」
やれやれとばかりに溜息をついてそう言った俺に続くように、マークも声を上げる。
何はともあれ、これでようやく話がまとまった。
ついに、俺達は三人で氷獄獣の討伐に挑むことになる。
「お二人とも……!感謝しますわ……!」
エリカは、涙ぐんだ瞳を拭いながら、俺達に笑顔を向ける。
案外、親子揃って泣き上戸なのかもな。
全くと言っていい程に似ていないと思っていたが、意外な共通点かもしれない。
「……ただし、俺達三人のうち、誰か一人にでも命の危険が及ぶようであれば、即刻依頼は中止して帰還するぞ?」
そんな事を考えていると、マークが釘を刺すようにそう注意する。
確かに、それが最低限の条件だ。仮に勝ったところで、誰かの命が奪われるような事があれば、残った者は何一つとして喜ぶことは出来ないだろう。
「うん、そうだね。命あっての物種ってやつだ。もし何かあって帰還する事があっても、もっと修行してから何度でも挑もうじゃないか!」
「ええ、勿論ですわ!氷獄獣は油断しなくとも命取りになるような強大な魔物です。お二人を危険な目に合わせる訳にはいきませんもの!」
「危険な目に合ってほしくないのはエリカもだからね?まぁ、俺は守りだけが取り柄みたいなものだから、手が届く範囲で二人を守るつもりだけど……」
あ、まずいな。柄にもなく恥ずかしい事を言ってしまった気がする……。
マークが素直に聞き流してくれると良いのだが……。
「おう、しっかり守ってくれよな!俺達の騎士サマ!」
案の定、マークはしっかりとその言葉を拾って俺を茶化しにくる。
こういう所はやっぱり抜け目ないけど、おかげで空気が緩んだ気がする。
「あー、もう!うるさいな!あんまり煽ると、マークに向かって全部攻撃を流すからな!」
「おお、そりゃ怖い。くれぐれも、騎士サマを馬鹿にしないように気を付けますよ……っと!」
「おい、マーク!いい加減にしつこいぞ!」
唖然とするロックウェル親子をよそに、俺達は今にも取っ組み合いになりそうな口論を始める。
勿論、俺も本気で怒っている訳でもないし、マークも面白がっているだけなのだが……。
「ふふ……!お二人とも、本当に仲がよろしいのですわね!」
「「……いや、それはない!」」
何故か、エリカに対するそんな否定の言葉ですらぴったりとハモってしまった。
別に、確かに仲は良いと思うし、冒険の相棒としても信頼しているのだが、実際に他人から言われてしまうと何となく気恥ずかしくて否定してしまう。
「はぁ……。まぁ、ともかく、よろしく頼む……」
「そうだね、よろしく、エリカ!俺達二人が、全力でサポートするよ!」
「ええ、こちらこそ!悔いの残らないよう、全力で挑みましょう!」
そう言って、向かい合った俺達は握手代わりに拳を突き合わせた。
エリカの真意も、ロックウェル家の裏事情も俺達には計り知れない部分があったが、きっと、この依頼を成功させた暁には、皆が笑い合っているような気がする。
そんな未来が実現する様に、俺も全力で依頼に臨まなければ……!
なんだか、章タイトルからしばらく逸れた話が続きますが、この話が終わり次第、メインのストーリーへと移っていく予定です。




