第71話 エリカ VS マーク
ようやく投稿出来ました、お待たせしました……!
前回よりは少し長めかな、と……。
「それでは、始め!」
カタギリの宣言と同時に、決闘が開始される。
だが、両者とも睨み合ったまま膠着状態に陥っており、試合は動かない。
「……さっきまでの威勢はどうした、お嬢サマよ?」
マークは木剣を構えた体勢はそのままに、エリカを煽るようにそう言った。
一方のエリカは、少し眉をひそめたものの、そのまま冷静な口調で返答する。
「……そちらこ、突っ立ったままじゃなく、マルティネス家の剣技を見せて頂きたいですわ」
マルティネス家という言葉を聞いた途端に、マークの表情が苦々しいものに変わる。
マークは、何故か分からないが家名で呼ばれることや、家について話したり詮索されることを嫌う。
いずれ話してくれればいいと思ってはいるのだが、気になるのも事実だ。
「その名前で呼ばないでくれると有難いんだけどな……ッ!」
向かい合ったままの数回の問答が終わり、先に仕掛けたのはマークの方だった。
マークは数メドルの距離を一気に詰めるように駆け、鋭い刺突を放つ。
マークの敏捷をもって放たれた刺突は、並の者では避けることすら叶わないだろう。
「くっ!流石に、やりますわね……ッ!」
だが、ギリギリではあるものの、エリカはマークの一撃をどうにか木剣で受け止める。
カタギリが心配ないと言っていたが、まさかマークの全速力を凌いで見せるとは……。
「チッ、今ので決まると思ったんだが……ッ!」
突き出した木剣を引くと同時に、マークは後ろへと跳び退いた。
「逃がしません……ッ!」
しかし、その回避の隙をエリカは見逃さない。
全力で飛び退いた事により、他の動作に移れないマークに向けてエリカはマークに勝るとも劣らないスピードの刺突を放った。
「あ……っぶねえな……ッ!」
間一髪、エリカの刺突はマークの服を掠めるだけに留まる。
掠った程度とは言え、マークが攻撃をくらうのなんて初めて見たかもしれない。
「まだまだっ!行きますわっ!」
刺突を無理やり回避したことにより、バランスを崩したマークをエリカの追撃が襲う。
だがその連撃を、バランスを立て直しながらもマークは全ていなしていく。
ただ木剣で正面から受けるのではなく、攻撃の衝撃を逃がすように流すことで、相手の次の攻撃までの時間を少しでも稼いでいるのだ。
「今度はこっちからいくぞ……ッ!」
エリカの連撃を凌ぎ切ったマークが、攻撃を受け流して回避すると同時に相手の懐へと潜り込む。
それは、マークが普段から行っているナイフを使ったヒットアンドアウェイと同じ戦法だった。
隙を突かれた上にマークの敏捷をもって迫られては、対処することはほぼ不可能だろう。
「……これで終わりだ!」
懐に潜り込んだマークは、エリカの鳩尾辺りに剣の柄の部分を押し込むように木剣を向ける。
そのままマークの攻撃が決まり、エリカが場外に吹き飛ばされる。
「……何ッ!?」
そう、マークの一撃を受け、エリカは場外か戦闘不能になる筈だったのだ。
だが、エリカはまたしても間一髪で攻撃を木剣で受け止める。
「甘いですわ……ッ!」
マークのような技術を活かしたものではなく、純粋な力づくでエリカは向けられた木剣の柄を無理やりに払いのける。
そして大きく振り払った木剣を、そのままの勢いでマーク目掛けて振り下ろした。
「そうはいくかよ……っと!」
勢いのままに振り下ろされた木剣は、そこにスピードと重量はあっても技術は無い。
エリカが全力で振り抜いた木剣は、マークによって易々と受け止められた。
「……くっ!しぶといですわ!」
「それはこっちのセリフだっての……ッ!」
マークが攻撃を受け止めたことにより、二人は鍔迫り合いの状態に陥る。
交わされた木剣はギリギリと音を立て続けるままで、二人の実力は拮抗しているようだ。
しばらくの間、マークとエリカの拮抗状態が続いた時だった。
プツン、そんな音がどこからか聞こえた気がする。
「あああああああッ!鬱陶しいですわッッッ!!!」
エリカの怒りに満ちた叫びと同時に力任せの一撃が放たれ、マークがその威力に耐えきれずに押し負ける。
「ぐっ……なんだ……!?」
数メドル後ろに押し退けられたマークが困惑したように呟くが、エリカが休む暇すら無く追撃に出る。
先程までの冴えるような技の鋭さは無く、その一撃一撃に込められるのは純粋な力と怒りの感情だけだった。
「これでえええええッ!止めですわ……ッ!」
怒涛の連撃にマークが怯んだのを見逃さず、エリカが後ろに大きく距離を取る。
そして、そのまま上空へと跳躍したエリカは木剣の刃先を下に向け、マークに突き立てるかのように全力で振り下ろした。
「行きますっ……!奥義、岩盤砕きッ!」
上空から突き立てるように放たれたエリカの必殺はマークに狙いを定め、落下の勢いも加わった木剣が一瞬にして目下の敵を砕こうと迫る。
「威力は上がったが、冴えが全く無いぞ……ッ!」
しかし、怒りに身を任せた乱雑な一撃をマークが躱せない筈も無い。
ただ、いかに乱雑とは言っても、見切りのセンスと敏捷がずば抜けているマークだからこそ避けることが出来るのであって、並の冒険者や魔物であれば文字通り必殺の一撃だったのだろうが……。
「ああああああああッッッ!!!」
マークに躱されたエリカの一撃はそのまま石畳を砕き、爆風とも言える土煙を辺りに巻き上げた。
巻き起こる砂礫と砕かれた闘技場の破片が視界を覆い隠していく。
「……悪いな。この勝負、貰ったぞ!」
今だ舞い上がった砂埃によって煙る視界の中、マークの声が辺りに響く。
「参の型、三日月……ッ!」
そして、俺達の視界を奪っていた砂埃が一瞬にして両断された。
何が起こったのかは分からなかったが、恐らくはマークの繰り出した技によって、辺りに舞い上がっていた砂煙が上下に分かたれたのだ。
「……きゃっ!?」
「威力は殺した、傷は無いだろうよ……」
マークの剣技をきっかけに晴れた俺の視界に映ったのは、中心から大きくひび割れている闘技場と、その床に倒れたエリカ、そして腰に付けた鞘に木剣を戻したマークの姿だった。
「……ふむ。勝者、マーク・マルティネス!」
視界が晴れると同時にカタギリの声が響き、勝敗が決する。
やれやれとばかりにマークが溜息をつくと、ボロボロになった闘技場の上から降りてきた。
「マーク、お疲れ様!まさか、あんなに剣が使えるとは思わなかったよ!」
「……ああ、昔ちょっと齧ってたもんでな」
駆け寄った俺が声を掛けると、マークは何故かばつが悪そうにそう答える。
齧ってたなんてレベルじゃない程に昇華された剣だったと思うのだが、その辺りについては話すつもりは恐らく無いのだろう。
「……一応聞いておくけど、今後も剣を使うつもりは無いんだよね?」
「……そうだな。俺は剣を捨てた。いや、剣から逃げたんだ。そんな俺に、剣を使う資格なんて無いだろうよ」
念のために尋ねたが、マークの答えは予想通りだった。
そう答えたマークは、少し複雑そうな表情で遠くの空を見上げる。
もしかすると、今の俺達の関係なら詳しく聞けば話してくれるのかもしれない。
しかし、俺はマーク自らが話してくれるまでは、そういう事はしたくなかったのだ。
「まぁ、気が向いたらその辺のことも聞かせてよ」
「ああ、勿論だ。いずれ、ヨシヒロ達にも話す時がくるだろうぜ……」
少し寂しそうな顔でマークが答える。
きっと、いつかその時が来るのだろう。だが、それは今じゃない。
「……おう、兄ちゃん達、話は終わったかい?」
珍しく落ち着いた声でカタギリが俺達の方へと声を掛けてくる。
きっと、俺達が話し終わるのを待っていてくれたのだろう。
「ええ、ありがとうございます。それで、倒れたお嬢さんはどうするんです?」
すっかり忘れていたが、確かにエリカはマークの一撃をくらって倒れたままだ。
恐らく気絶しているだろう彼女は、無残にも仰向けに倒れたまま動かない。
「……んん?ああ、そうだったな!とりあえず担いで家に戻るとするか!」
そう言って、カタギリは崩れた闘技場を上がっていくと、倒れたエリカをヒョイと肩に担ぎ上げる。
一瞬驚いたが、俺ですら加護のおかげで成人男性を担ぎ上げることが出来るのだから、筋骨隆々のカタギリであれば、クマでも片手で担ぐことが出来そうだ。
「結構雑に扱いますね……」
「ああ、そんなヤワに育ててねえから大丈夫さ!すぐに目を覚ますだろうよ!」
カタギリに担がれたエリカは、居心地が悪そうに云々と唸っている。
確かに、エリカは大戦士なんて言われているカタギリ自らが鍛え上げた一人娘だ。
実際に、冒険者の中でも中級者として認められたマークと互角に戦えるほどの実力があった。きっと、本当に心配はいらないのだろう。
「んじゃあ、行くぞ!兄ちゃん達!」
エリカを担いだカタギリを先頭に、俺達は最初に来た大食堂へと戻る事になった。
途中でエリカは医務室のような場所に預けられ、意識が戻り次第合流するそうだ。
「……にしても、何もかも唐突だったよなぁ」
大食堂に用意された紅茶とお菓子をつまみながら俺は思い返すように呟く。
決闘どころか、カタギリの家に来たのも、更に言えばカタギリとギルドで出会ったのお突然の出来事だったのだ。
「まぁ、そうだな……」
相変わらず優雅に紅茶を飲みながら、マークも少し疲れたようにそう返す。
まともに剣を使う事が出来ない俺の代わりに決闘をする事になったマークが一番の被害者と言えるだろう。疲れているのも当然だ。
「ガハハ、すまんな!前から家に呼ぼうとは思ってたんだが、中々機会が無くてよう!」
「……そういえば、娘さんの旅のお供を探しているとか何とか?
豪快に笑うカタギリに向けて、マークがそう尋ねる。
そう言えば、今回の決闘の理由や俺達が家に呼ばれた本題はその件についてだろう。
「おうとも!その辺はアイツが目を覚ませば自分で話すだろうよ!兄ちゃん達の実力は、十分に分かっただろうしな!」
「なるほど、それじゃあ、俺達はしばらくここで休ませて貰いますよ」
「そうだね。せっかく色々用意してくれてるし、ゆっくりしたい気分だよ」
昼間の料理に負けず劣らず、用意された焼き菓子や丁寧に飾り切りされたフルーツは、見るだけでもワクワクする。
勿論、専属の料理人によって作られた菓子類は、見た目だけで無く味も抜群なのだが……。
―――コン、コンコン!
俺達が紅茶や焼き菓子を楽しんでいると、大食堂にノックが響いた。
そして、俺達の返事を待つことも無く扉が大きく開け放たれる。
「……お待たせしました!エリカ・ロックウェル、只今戻りました!」
そして、そのまま部屋に入ってきたエリカは、勇ましい声を上げる。
よく通る凛とした声は、気が緩んでいた俺の背筋を思わず伸ばさせる。
「おう、戻ったか、エリカ!それじゃあ、本題に移ろうか!」
ようやく決闘が終わり、一息着いたのも束の間、エリカの帰還によってその休息は終わりを告げる。
エリカやカタギリの言っていた旅とは、一体どのようなものなのだろうか。
俺とマークは、同時にゴクリと息を飲みこんで、その話に備えるのだった。
次回は、仕事の進行と執筆の進捗次第では明日に投稿したいです。
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