EXその3 冒険者達の旅路
土日を仕事と睡眠だけで潰してしまって虚無感が凄い。
二日も投稿できなかった分、今回はいつもよりは少しだけ長めです。
獄王の刃の研究本部を目指してダルク地方へ出発してから、二日目のことだった。
日が傾き始めた山道を、マークが御者を務める馬車がガタガタと進んでいく。
「そろそろ夕暮れだ。二人とも、今日はここらで野営するぞ」
手綱を握るマークが馬車を道の片隅に寄せながら、俺達に声を掛ける。
荷台から顔を出して空を見る限り、完全に日が暮れるまであと1時間程だろうか。
「おっけー。この辺りは都合よく平地になってるし、ちょうどいいんじゃないかな」
「ううっ……。助かるわ、もう限界よ……」
俺とクロエは、荷台から降りながらそれぞれそう答える。
クロエは乗り物酔い、というか馬車酔いをしたみたいで、足取りがおぼつかない。
俺自身、馬車に乗るのは今回が初めてだが、乗り物酔いはあんまりしない性質だからか、乗り心地に関してはそれ程気にならなかった。
まぁ、荷台の後ろから時々景色を眺めていたので、それも大きいのかもしれないが……。
「……ここをキャンプ地とする!」
草木が開けたスペースには、他の冒険者か行商人が使ったであろう焚火の跡がある。
俺はそこで振り返ると、二人に向けてそう声を掛けた。
何となく、気分的に言ってみたかったんだよな……。
「お、おう。そうだな……?」
「当たり前じゃない……。これ以上進めないわよ?」
「アッハイ……」
悲しきかな、当たり前ではあるがネタが伝わらない。
俺達は、三手に分かれて薪や食材を集めることになった。
もうすぐ日が暮れるし、全員でやらなければ間に合わないからな。
「おーい!二人とも、お待たせ!」
集めた薪と食べられそうな野草類を抱えながら、俺は既に帰ってきていた二人に手を振る。
度重なる徹夜クエストで夜の山には慣れてるので、完全に夜になってもある程度は夜目が効くのだが、二人の為にもそこまで待たせる訳にはいかない。
そもそも、夜に活発化する魔物は、結構戦闘力が高かったりするからな。
「おう、ヨシヒロ……ってなんだその荷物……」
「よくもまぁ、この短時間でそこまで集めたわねー……」
両手に一杯どころか、背中にまで背負っている収穫をみて二人がある種飽きれたように俺を見た。
なんやかんやで、この一時間弱で野ウサギをきっちり捕まえて、更には下処理まで終わらせているマークも相当だと思うけどな……。
クロエもクロエで、集めた薬草類を乳鉢でゴリゴリとやりながら、ポーションか何かを作っているようだ。
「まぁ、それはさておきだよ。今日の料理担当はどうする?」
ぶっちゃけ、野営する楽しみなんて食事くらいしかない。
誰を担当にするかによって、その楽しみのクオリティは上下するのだ。
割と深刻な問題ではある。
「……そりゃあ、ヨシヒロだろ?」
「ええ、ヨシヒロがやるべきよ」
「あ、やっぱりそうなるんだ……」
俺が作れるのなんて、精々が日本の家庭料理か、子どもの頃に教わったような田舎料理だけなのだが、この世界とは違った味付けが二人には新鮮なようで、何故かかなり気に入られてしまった。
俺としては、マークの作る野営らしいワイルドな料理や、クロエの作る何故かお婆ちゃんの作った味がする優しい料理も好きなんだけどな……。
「まぁ、この食材なら適当に鍋でもやるのが楽でいいかな……」
幸いなことに肉はマークが調達してくれたし、野菜の類は俺とクロエが集めた山菜でどうにかなる。後は、持ってきた芋やらなんやらを入れて、調味料を加えて煮込むだけでいい。
ミルクやバターがあればシチューにしてもよかったのだが、今回は鮮度の関係でそう言った食品は持ち込めなかった。
「じゃあ、早速準備していこうか。マークはウサギ肉を一口大に切って、クロエも野菜の下処理をお願い」
「ああ、そのくらいなら任せてくれ」
「ザガ芋は皮を剥いて、半分くらいに切っておけばいいかしら……」
俺の指示を受け、マークが解体用のナイフを包丁代わりに使い、テキパキとウサギ肉を一口大にカットしていく。
クロエの言っているザガ芋と言うのは、まんま見た目がジャガイモなのに、食べるとカボチャみたいな味がするという異世界特有の不思議野菜だ。
「ウサギ肉なんて食べたことないけど……」
いくら田舎出身と言っても、きっちり下処理をされた猪肉やら鴨肉しか食べたことが無い。
獣肉は臭みが強いなんて言うし、これでいいのかは分からないけど、とりあえず胡椒と香草類を塗り込んで寝かせてみよう。
それに、さっき集めたスパイスのような木の実があれば、鍋のちょうどいいアクセントになりそうだ。
「……うん、いい感じの仕上がりだ!」
ぐつぐつと煮えた鍋のスープをすくって、俺は一口味見をする。
思った通り、スパイス代わりに使った木の実のおかげで、スパイシーな風味がたまらない。
獣肉の嫌な臭みもスープに出ていないし、これなら二人も気に入ってくれそうだ。
「二人とも、そろそろ食べ頃みたいだよ」
鍋をお玉でかき混ぜながら、焚火の周りで寛いでいた二人に声を掛ける。
マークは武器の整備、クロエは先程と同じくポーション作りをしていたようだ。
「おっ、待ちくたびれたぜ!」
「馬車に乗ってる間は気分が悪すぎて何も食べてなかったから、もうお腹ペコペコよ……」
「じゃあ、二人とも好きによそって食べていいよ。どの具材もいい感じの頃合いだと思うから」
そう言って俺は、二人に取り皿を渡す。
味も火加減も完璧だ。きっと、二人も喜んで食べてくれる筈だろう。
「……うん!ウサギ肉の独特な香りも上手く消えてるし、流石ヨシヒロだな!」
「ええ、少しスープが辛い気もするけど、冷え込んできた今はそれがちょうどいいわ!」
二人の反応も上々、やはり中々上手くできたようだ。
鍋から漂うスパイシーな香りが鼻をくすぐり、俺の腹の虫が鳴いた。
時折味見をしていたとは言え、俺も今日は殆ど何も食べていない。そろそろ限界だ。
「よし、じゃあ俺もガンガン食べようかな!」
そう言って、俺はお玉を持ってどの具材から食べるか悩み始める。
やはり気になるウサギ肉から、それともあえて野菜から食べるべきだろうか……。
お玉を持ったまま俺がうんうんと唸っていると、突然、二人の様子が急変した。
「……何か、舌が痺れないか?辛さというよりは、毒の類の気配が……」
「うえっ、嘘っ!?もう食べちゃったわよ!?」
マークのそんな指摘に俺も急いで味見をするが、別段変わった感じはしない。
確かに少しピリッとするが、それは辛さによるもので痺れとはまた違っている。
「いや、そんなことはないと思うけど……。あまり慣れない味付けだったかな?」
俺は首を傾げて二人にそう問い返す。
確かに俺好みの味付けにしたので、この世界で生まれ育った二人の舌には合わなかったかもしれない。
「ちが、これは……ッ!麻痺ど……くッ!?」
ガシャンと、マークが手に持った器を落とす。
そして、そのまま意識を失うように前のめりに倒れこんだ。
「かららあ……しいれて……!?」
ろれつの回らなくなったクロエは、同時に目も回してそのままパタリと横に倒れて気絶した。
「二人とも!?なんで……!?」
俺は、突然倒れた二人に駆け寄って意識を確認する。
息はしているが、全身が痙攣していることから、尋常な様子ではなさそうだ。
「まさか……!」
俺はマークの最後の言葉をもう一度反芻する。
よく聞き取れなかったが、あれは確かに『麻痺毒』と言っていた。
まさか、気づかない内に何者かに毒を盛られたのか?
それとも、使った食材の中に毒を持つものが紛れ込んでいたのだろうか。
いや、そんな筈はない。だって、確かに俺が味見をしたんだから。
「いや、今はそんな事よりも……ッ!」
俺はまずクロエを抱え起こすと、ゆっくりとその口に解毒剤を流し込む。
この世界のポーションの類は即効性があるので、飲ませたその場で効果が現れ、クロエの痺れるような痙攣が治まった。
「……マーク、飲めるか?」
マークの方は比較的症状が軽かったのか、意識があった。
話したり動いたりは出来ないが、俺のそんな問い掛けに苦しそうにゆっくりと頷く。
「……ぷはっ!お前、俺達に何を食べさせた!?」
解毒薬を飲み干して麻痺が回復するなり、マークが物凄い剣幕で俺に尋ねてくる。
「何って言われても……。持ってきた野菜と集めた山菜と、マークの獲ってきた野ウサギと……あとは隠し味に使ったスパイスっぽい木の実かな?」
「……ヨシヒロ、その木の実ってのをちょっと見せてくれ」
俺は持って帰るために多めに採取しておいた、その木の実をマークに手渡す。
赤く小さな粒の果実は一見するとベリーのようだが、味はピリッと刺激的で料理のアクセントにちょうどいいのだ。
「おい!これ、龍殺しの果実じゃないか!その辺の獣や魔物どころか、龍ですら食わないっていう噂がある程の木の実だぞ!」
「もしかして、毒……?おかしいな、味見はした筈なんだけど……」
「もしかしなくても毒だよ!狩人や盗賊が矢に塗る麻痺毒だぞ!ていうか、【毒無効】のお前が毒見したところで何も意味はないだろ!」
「あっ……完全に忘れてたよ……」
マークの言う通りだ。
仮に俺が毒見をしていたとしても、スキルのせいで全ての毒を無効化してしまうのでまるで意味がない。
というか、【毒無効】を持っている状態で毒を口にすると、毒が無味じゃなくて辛味とかスパイス的な味に変換されるんだな。
ちょっと便利かもしれないが、これからは気を付けよう……。
「忘れてたで済むか!もしも致死性の毒だったらどうするつもりだったんだよ!?」
「ご、ごめん……。次からは気を付けます……」
俺の反省が伝わったのか、マークもどうにか許してくれる。
そんな会話をしていると、意識を失っていたクロエがようやく目覚めた。
「う、ううっ……。ひどい目に合ったわ……」
「よく聞けクロエ。ヨシヒロが俺達に毒を盛ったぞ」
「へぇ……アンタ、死ぬ覚悟は出来てるんでしょうね……!」
マークが俺への仕返しとばかりにそう言うと、怒ったクロエは魔法を俺に放とうと詠唱を開始した。
「ちょ、待って!マークもふざけてないでちゃんと説明してくれって!」
この後、必死の弁明とマークの助け舟によって、どうにか俺が魔法の餌食になる事態は避けられた。
そして俺は、街で買い物をする以外で食材調達を禁止された。
今回のように野営する場合も、必ずマークとクロエの二人が確認するという。
「あ、そうだ!いい感じのフルーツもあるんだけど、口直しにどうかな?
「「一人で食っとけ!」」
ご機嫌取りとばかりに俺はそう尋ねるが、二人にはハモってまで断られてしまった。
うーん、残念だ。酸味が強いけど、香りが良くて口直しにちょうど良いと思うんだけどな……。
「……うん、酸っぱいけど爽やかな感じでおいしい!」
これは当たりだと思うんだけど、もったいないな。
ちなみに、二人は鍋を食べられないので、緊急用に持ってきていた携帯食料と干し肉で夕飯を済ませるらしい。
こうして一騒動あって、旅の二日目の夜は更けていく……。
目的地のダルク地方までは、あと一日だ。
◆◆◆
「ええい!あの馬鹿はまだ見つからんのか!」
白髪の混じった髪をオールバックにした、屈強だがどこか気品の漂う男は、目の前の机を大きく叩いて叫ぶ。
服の上からでも分かるその逞しい体は、未だに老いを感じさせない。
「……すみません、旦那様。家臣一同、懸命に探しておりますが、噂程度の情報しか掴めておりませぬ」
男の声に、執事と思わしき老人がそう答える。
何かを探しているようだが、どうやらその結果が芳しくないようだ。
「全く……。出来損ないの愚息とは言え、あれでも我が一族に名を連ねる者。アレがおらねば、継承の儀を始められぬではないか!」
男は眉間に皺を寄せ、忌々しいとばかりに吐き捨てる。
「……先程言った、不確かな噂ではありますが、旦那様に伝えておきたいことがございます」
「何だ、話せ。あいつに関わる情報なら、今は噂であっても耳に入れておきたい」
「は、承知しました。ダルク地方より遥か南方、アルクス地方のグスタの街で、坊ちゃんと似た人物が活躍しているとの噂を入手しております」
「グスタの街、確か冒険者ギルドの本部がある街だったか。あの落ちこぼれがそこまでの活躍が出来るとも思わんが……」
そう言うと、男は髪と同じく白いものが目立ち始めた、短い顎髭をなぞる。
そして、男はしばらく考え込むように目を瞑った。
「あいつが出て行ってから既に三ヵ月が経つ。ここまでで手に入れた有力な情報は、それだけか?」
「はい。我々、家臣団が昼夜を問わず情報収集と捜索を続けておりますが、坊ちゃんに繋がると思わしき情報は先程の一点のみでございます」
この家はダルク地方でも有数の大貴族だ。
至高とも言われた剣技で名を馳せた初代が家を立ち上げて以来、数々の騎士を輩出する名門としてその名を轟かせている。
その大貴族の家臣が総出で、三か月もの間捜索しても、めぼしい情報は見つからなかったのだ。
この状況では、当主である男も、噂の域を出ない情報であっても縋りたい思いなのだろう。
「……分かった。それでは、噂の元になっているグスタの街を重点的に探せ!」
「確信の持てない情報ですが、良いのですか?」
「あの腑抜けのことだ。とうにダルク地方を抜け出している可能性が高い。今ここで、当主の俺が命ずる!今すぐアルクス地方をくまなく調べ尽くし、即刻あの馬鹿息子を連れ戻せ!」
「はっ!マルティネス家の家臣一同、必ずやマーク様を見つけてまいります!」
男の命を受け、執事はそそくさと部屋を出て行った。
「……俺もそろそろ引退せねばならん。いい加減、あの馬鹿が見つかると良いのだが」
広い部屋の中で、男の深い溜息だけが響く。
先程までの精悍な顔つきから一変し、男は年相応の疲れた表情を見せていた。
「さて、誰が俺の跡を継ぐことになるのか……」
―――こうして、ダルク地方のある都市で物語は動き始める。
明日からお盆辺りまでしばらく忙しくなるので、今よりも更新頻度が落ちてしまうかもしれません。
できれば最低でも隔日投稿を心がけたいのですが、出来なかったら本当に申し訳ないです。
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