第66話 任務の終わり、新たな仲間
今回で三章が終了です。
今後もよろしくお願いします。
22:20追記:タイトルと齟齬があったので一部修正しました。
「あは、あはッ、アハハハハアアアアアアアッ………!」
魔物達による総攻撃を受けたシュタイナーは、体を傷だらけにして倒れ伏す。
だが、焦点の定まらない瞳で、なおも狂気的な笑い声だけを響かせていた。
「……終わったわ」
クロエがぽつりとそう呟く。
クロエにとって、シュタイナーは家族だけでなく一族の仇だ。
その相手をようやく倒したとなれば、きっと複雑な感情だろう。
「……すまない。酷な役割を押し付けてしまったな」
「いいわ。これは私がやること……。いいえ、やらないといけないことだったの」
気丈に振舞うクロエも、まだ16歳の少女だ。
その心の中はどんな思いで満たされているのだろう。
仇を取った達成感、それとも歓喜、亡くなった一族への喪失感、そして追悼……。
いずれにしても、平凡に生きてきた俺には窺い知ることなどできない感情だ。
「お疲れ、よく頑張ったと思うよ」
どこか遠くを見つめるようなクロエの肩をポンと叩く。
そんなクロエに俺が掛けられるのは、ありふれた、平凡な言葉だけだった。
「……二人とも、ありがとう」
そう言うとクロエは、涙を拭って俺達に微笑みかけた。
今回の一件は、一朝一夕で忘れられるようなものではない。
それでも、クロエは笑顔で前に進むことを決めたのだろう。
クロエの見せた表情には、そんな決意が籠もっていたような気がした。
「こいつは拘束して、ギルドに引き渡すことになる。クロエもそれでいいか?」
「ええ、異論はないわ。こいつは腐っても獄王の刃の幹部だもの。きっと私の代わりに、拷問官達がじっくりいたぶってくれるんでしょう?」
クロエが何やら邪悪な笑みを浮かべてそう答える。
何だかクロエが危険な扉を開いてしまったような気がするが、気にしたら負けなのだろうか。
そんなクロエのとそれに圧倒される俺をよそに、マークはどこからか取り出した魔封じの鎖でシュタイナーを拘束していく。
魔法に特化したステータス値だと思われるシュタイナーなら、魔法を封じられてしまえば、純粋に筋力の問題で抜け出すことは不可能だろう。
「とりあえず、なんか気持ち悪いから気絶させといた。ヨシヒロ、街までの輸送は頼むぞ」
「あ、ああ……。わかったよ」
マークは、鎖で縛り上げられてなお笑い続けていたシュタイナーの首筋に手刀を浴びせ、あっという間に気絶させる。
俺はその早業に呆気に取られながらも、指示通りシュタイナーを担ぎ上げた。
加護により強化された俺の筋力値であれば、並の男程度なら肩で担ぐことができる。
「それじゃあ、帰りましょうか」
「ああ、そうだな」
「えっ、俺だけ荷物が多くない?」
この中でも一番筋力値が高い俺は、普段から荷物持ちをすることが多い。
それでも、大人の男を担ぎながら、荷物を持って地上まで上がるのは中々厳しいのだが……。
「仕方ないだろう。俺は魔力切れで碌に歩けないクロエに肩を貸さないといけない」
「そうよ。ヨシヒロは功労者の私に荷物を持たせる気なの?」
「ああ、確かに仕方ないけど……。お願いだからゆっくり進んでね……」
そんな俺をよそに、二人はスタスタと階段を上がっていく。
クロエの足取りもやけに軽い気がするが、気のせいだろうか。
「あぁ、疲れた!帰ったら打ち上げでもしようぜ」
「そうね!勿論、パーティリーダーのヨシヒロの奢りよね!」
「ええっ!?やっぱり俺がリーダーになるの!?」
ぶっちゃけ、リーダーとは名ばかりの雑用係みたいなものだ。
実際に指示を出したり作戦を考えるのは、マークの方が向いてると思うんだが……。
「まぁ、仕方ないか……。おーい、二人とも待ってくれよ!」
こうして俺達は、シュタイナーとの戦いに終止符を打ったのだった。
長い長い階段を上る足取りは、潜入した時よりも何故か軽い気がした。
◆◆◆
「此度の活躍、真に大義であった!対策協議会の代表として、改めて礼を言おう!」
白く豊かな髭を蓄えた老人、極王の刃対策協議会のモルドラック議長が俺達にそう告げる。
シュタイナーを捕縛して街へと帰還した俺達は、何故かいつもの支部長室でなく、ギルド本部にある会議室へと呼び出されていた。
相変わらず豪勢な意匠で飾られた会議室には、前回と同じくそうそうたる面々が集まっている。
「……ふん!ボールズ殿の無駄遣いに関しては、此奴らの活躍に免じて不問にしてやろう!
でっぷりと太った成金趣味の男、本部にて財務担当をしているオルコットが、ボールズに不満そうな目を向けながらそう声を上げる。
確か、上が援助をしてくれないから、支部長として独断で俺達を支援していたんだったか。
恐らく、支援を渋っていた上層部の一人が、このオルコットなのだろう。
「まぁ、我々騎士団が出れば、もっと早く結果が出たでしょうがな……!」
長い金髪をオールバックにした鎧姿の男、騎士団長であるライオネスが俺達を見ながらボソリと呟いた。
「……へぇ、流石騎士団長サマは言うことが違う。これ以上の功績を上げられると仰るなら、是非この場で御教授願いましょうか!」
ライオネスの嫌味に、不遜な態度のマークがここぞとばかりに言い返す。
その隣では、爆発寸前と言った体でクロエが震えていた。
「言うに事欠いて無礼であるぞ!いくらマルティネスの末弟であろうと、栄光ある我が騎士団を侮辱するのであれば容赦せん!今すぐ外に出て剣を抜け!」
マークの物言いに腹を立てたライオネスが、顔を真っ赤にして立ち上がる。
ああ、やってしまった……。見るからにプライドが高そうだったからな……。
「両名静粛に!仲間内での私闘など、この儂の目が黒いうちは許さぬぞ!」
バチバチと火花を散らせて睨み合う二人を、モルドラック議長のよく通る声が静止した。
未だに睨み合いながらも二人は席に着く。
「……ふん。モルドラック様の御前だ。今回だけは不問にしてやろう!」
「……ああ、そりゃあどうも」
尊大な態度で席に腰掛け、ライオネスはマークにそう言い放つ。
一方のマークは、既に興味が無いといった様に手をひらひらとさせてそれに応えた。
「貴様……ッ!」
マークのそんな態度にライオネスは再び怒気を見せるが、それはある男の大声に遮られた。
「いやぁ、それにしてもやるじゃねえか兄ちゃん達!まさか、幹部を生け捕りにしてくるなんてなあ!」
大声の主であるカタギリは、俺達に向けて豪快な笑みを向けた。
「うむ。此度の功績への対価は、冒険者ランクの昇格と報奨金が相応しいだろう。三名が望むのであれば、貴族位すら与えられるが、どうかね……?」
先程とは変わり、穏やかな微笑みを浮かべたモルドラックは、俺達にそう問い掛ける。
「いえ、貴族位は結構です。俺は、昇格と報酬金さえあればそれで……」
「……わ、私も、貴族位は辞退しますわ!」
マークは冷静に、緊張した様子のクロエは、謎の口調でそう答えた。
「俺も、貴族位に関しては辞退します。二人と同じく、昇格と報酬金があればそれで満足ですから」
向こうの世界にいた頃は、平凡な家庭に生まれて社畜生活をしていたので、貴族になるなんて想像もつかない。
何だかんだで、今の気ままな冒険者生活が気に入っている。
いくら金があったとしても、作法やら公務やらで堅苦しそうな貴族になるのは、少なくとも今の段階ではまっぴらごめんだ。
「ふむ、それは残念だ。では、ヨシヒロ・サトウ及びマーク・マルティネスの両名は冒険者ランクBへと昇格、クロエ・ベルヴィルにおいても、特例で冒険者ランクBへ認定する!」
冒険者ランクBともなれば、初級者を抜け出して既に中級者の域に到達することになる。
確かに功績は上げているのかもしれないが、ここまでトントン拍子で昇格してしまって良いのだろうか………。
「えーと、そんなに簡単に良いんでしょうか……」
予想外の出来事に、俺は思わずそう問い返してしまう。
だが、そんな言葉は慌てた様子のマークに遮られた。
「……バッカ、良いんだよ!貰えるもんは貰っとけ!」
俺の口を塞ぎながら、マークは言い聞かせるように小声でそう言った。
まぁ、貰って損がある訳でもないし、ここはマークの言う通りにしておくか……。
「ふむ。それでは、三名は冒険者ランクの昇格、そして報酬として総額50万エルを与える!」
モルドラックがそう声を上げると、会場に静かな拍手が響き渡った。
「それでは、此度の報告会を閉廷する!」
他にも事務的な報告が終了すると、モルドラックが会議の閉廷を告げた。
こうして、俺達の『極王の刃研究本部掃討作戦』は終わりを迎える。
「あ、そうだ。私、アンタ達のパーティに正式に参加するわ」
報告会が終わり、何故か俺の奢りで打ち上げをしていた際に、クロエが当然とばかりにそんな爆弾発言をした。
まぁ、断る理由も無いので、クロエは俺達と正式にパーティを組むことになる。
俺自身、この任務が終わったらクロエを誘おうと思っていたので、実はちょうど良かったりしたのだが……。
俺達の打ち上げは遅くまで続き、夜は更けていく。
―――この後、マークを中心とした新たな騒動に巻き込まれることになるのだが、それはまた別の話。
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次回更新は書き終わり次第かなぁと……。
7/13、17:20追記:次話の更新は日付変わる頃になりそうです。




