第6話 畑の中心で哀を叫ぶ
心地よい風の吹き抜ける草原の中、綺麗に整備された街道を進むと、程なくコロゾ村へ到着した。
「ようこそ、いらっしゃいました。あの依頼を引き受けてくださるとのことで感謝しておりますぞ」
村に着いた俺がクエストで訪れた旨を伝えると、村長であると言う老人はそう言って笑顔で迎えてくれた。
「この村はグスタの街から最も近く、都市に出荷する農作物が村の最も大切な収入源となっています。村の命とも言える畑に居座ったスライムには、ほとほと困り果てておりました」
聞くところによると、コロゾ村の野菜は質が良く、グスタの街に出回る野菜の多くを占める程に流通しているらしい。
だが、そんな野菜を狙って、草食性のスライムが度々訪れる。
小さい村で唯一の収入源を奪われてしまえば、住民は生活ができなくなってしまうだろう。
「お任せ下さい。スライムぐらい、パパっと片付けてみせますよ!」
「ほほ、それはありがたい。それでは早速、畑まで案内致しましょう」
盛大に啖呵を切った俺をニコニコと見つめながら、村長は畑までの案内を始める。
「ここが、村の農場です」
俺は目を疑った。
縦横無尽に広がる一面の畑、畑、畑……。
これが普通の野菜なら探すことも楽だっただろうが、その半分以上は、俺の背丈を軽く超える程の背の高い作物だった。
更には奥に果樹園の様なものもあり、果てが見えない。
「まさか、これ、全部……?」
「はい、普通の冒険者の方は、パーティで来てくださるので今回は大変でしょうが……。よろしくお願い致しますぞ!」
この広大な農場から、わずか3匹のスライムを見つけ出す。それも1人で。
ギルド職員が困惑していた理由が分かった。
こんな広大な範囲、普通に考えれば1人で探すのは無理だ。明らかにパーティを組んで挑むクエストである。
土地に関する知識が皆無であることが仇になってしまった。
とは言え、一度受けた依頼を放棄するなど、社会人として失格だ。
まぁ、そんな精神で働いていた俺は、その考えのせいで良いように使われ、終わらない仕事が山積みになった挙句、残業続きの毎日だったのであるが……。
「……よし!」
自分の頬を叩いて気合を入れると、俺は広大な農場を探す覚悟を決める。
まずは探しやすい場所、背の低い野菜を栽培する畑からだ。
灯台下暗しとも言うし、案外スライム達もすぐに見つかるかもしれない。
◆◆◆
「み、見つからねえ……!」
体感で2時間、いや3時間ほど経過しただろうか。
村に到着した頃はまだ東にあった太陽はとうに真上に登ってしまった。
広大な農場を端から端まで歩き回り、草木をかき分け、果樹園の木の上までくまなく探した。
しかし、1匹たりともスライムは見つからない。
途中、何人かの農夫に出会い、スライムを見かけなかったか尋ねたが、全く見ていないと言う。
話によれば、スライム自体を見かけないにも関わらず、野菜だけが日に日に食い荒らされ、痕跡だけが残っているというのだ。
最初は必死の思いでスライムを捜索していた村人達も、その不思議な現象に、半ば諦めてしまい、見かねた村長がギルドへと依頼をだしたのである。
「さて、どうしたもんか……」
ただ足を使って探すのは簡単だが、一人でやるには効率が悪い。
その方法を使いたいのであれば、他の冒険者同様に複数人で挑むべきだ。
こういう時は、無闇に歩いて体力を使うよりも、ある程度考えてから動く方が良いだろう。
ギルドで得た事前情報によると、スライムは動きが遅く、餌場から殆ど移動することはない。
そのため、餌場にした痕跡の近くに今も潜んでいる可能性が高い筈だ。
俺は、午前中に調べた農場の中でも、特に作物の被害が酷かった場所にある程度ヤマを張って、綿密に調べることにした。
これで見つからなければ、一度街に戻って、仲間を募るしかあるまい。