第63話 壁際の攻防
先日は投稿できずに申し訳ないです……。
今日は出来ればもう一話、夜に投稿できればと思っています。
「クソッ……多勢に無勢か……!」
「流石に、全部を相手にしてる余裕はないよね……」
シュタイナーの呼び出した魔物に必死で抵抗しているが、結果は芳しくない。
改造により強化された魔物達の戦闘力は高く、未だに数匹を倒す程度に留まっている。
馬鹿正直に全ての魔物を相手にしている余裕などないのだ。
「どうする?【挑発】を使うか?」
【挑発】を発動すれば、魔物の攻撃は全て俺に向けられる。
少なくとも、クロエとマークの負担は減る筈だ。
「いや、相手の戦力が分からない以上はリスクが高すぎる。クロエを守りつつ敵を対処していくぞ!」
「……いえ、私が魔法でこの包囲を崩すわ!せめて今の状況から抜け出しましょう!」
「わかった!頼むよ、クロエ!」
「了解だ!早急に頼む!」
確かに、今はこの包囲網を抜け出すのが先決かもしれない。
全方位を囲まれてどこから敵が襲ってくるか分からない今の状況よりは、壁際まで抜け出して前からの敵だけを対処する方が幾分かマシになる筈だ。
「行くわっ!【水連弾】ッ!」
クロエの魔力が水の弾丸を形作り、魔物達の一点に向けて次々と放たれる。
敵を倒すまでには至らなかったものの、魔法の威力に耐えかねた魔物達が吹き飛び、その包囲網に穴を開ける。
「……今だ、いくぞ二人とも!」
その隙を逃すまいとマークが指示を出して駆けて行く。
襲い掛かる魔物を牽制しながら、俺達はどうにか壁際まで辿り着いた。
「ここからは前だけに集中しろ!」
「ああ、分かった!」
「前衛は頼むわ!」
マークが素早い動きで敵を撹乱し、一体ずつ確実に仕留めていく。
俺はクロエを守るように前に立ちながら、敵に反撃を仕掛けた。
クロエも俺達を補助する様に魔法を使い、着実に敵を妨害している。
少しずつだが、着実に敵の数を減らすことが出来ている。
少なくとも、先程よりは状況は好転している筈だ。
(このままならいけるか……!?)
きっと、俺達の誰もがそんなことを考えていた。
数の有利が相手にあるとはいえ、実力ではこちらの方が上だ。
一匹ずつでも仕留めていけば、いつか終わりが来る。
相手も数が多すぎて同時には攻めてこられないので、それだけは救いだ。
だが、そんな甘い考えは一瞬で打ち砕かれる。
いくら自身に戦闘能力が無いとはいえ、相手は獄王の刃の幹部なのだ。
俺達は、その実力を完全に侮っていた。
「おや?少し減って来ましたね……。数を増やしましょうか……」
奥にあるテーブルで寛いでいたシュタイナーが立ち上がり、こちらの様子を見るなりそんなことを言った。
そして、シュタイナーが指を鳴らすと、壁の一部が開いて減った魔物が補充される。
俺達の倒した魔物達は、あっという間に元の数に戻ったのだった。
「おいおい……!本当にキリがないぞ!」
「うん……!無限ではないだろけど、流石に相手をしきれない……!
シュタイナーにより補充された魔物達は、最初よりも数が増えているように見える。
それもどうにか対処できているが、このままでは押し返されるのも時間の問題だ。
「マーク、クロエ!何か策はは無いか!?」
「残念だが、ここから抜け出す方法すら思い浮かばねえよ……ッ!」
マークが目の前の魔物を対処しながら、余裕なさげにそう答える。
クロエもそれは同様か、それとも余裕が無いのか、こちらの問いには答えない。
「……やっぱり、そうか。それなら、一つだけ俺に作戦があるんだ」
俺は2人に向けてそう呟く。
本当にこればかりは苦肉の策だ。
できれば俺自身もやりたく無いし、本音を言えば恐怖の方が勝っている。
それは【硬化】を覚えてすぐに思いついたあの作戦……。
「……何!?教えてくれ、ヨシヒロ!」
縋るようなマークに向けて、俺は意を決してそれに応える。
「……俺が【硬化】と【挑発】を同時に発動させて囮になる。2人はその隙に脱出して、どうにか助けを呼んできてくれ」
そう、それは俺が囮になって二人を逃がすだけの単純な作戦だ。
全身を硬化させてしまえば、恐らくは殆ど全ての攻撃を無効化できる。
俺達だけで対処しきれないとなれば、ギルド側も渋るかもしれないが人員の補充をしてくれる筈だ。
「ふざけるな!そんな作戦認められるか……ッ!」
「でも、もう他にどうしようもないじゃないか……!」
「くっ……!それでもダメだ、どうにか他の作戦を考えるぞ……!」
マークはそんな事を言うが、本当は分かっている筈だ。
この状況を打破する為には、現状ではこの作戦しかないことを。
俺だって、他に策があるならそれを実行したい。
だが、俺達の魔法やスキルを全て鑑みても、それしか思い浮かばないのだ。
「……待って、二人とも。一つだけ、あるわ。この状況を変えられるかもしれない方法がね」
これまで沈黙を保っていたクロエが静かに声を上げる。
本当にそんな策があるのだろうか。
だが、他に良い案が無い以上、俺達は藁にも縋る思いでそれを聞くしかないのだ。
「……本当に、そんなに都合のいい話があるのか?」
マークも半信半疑といった様子でそう問い返す。
確かに、クロエのその話は降って湧いたような都合のいい提案でしかない。
ここまで追い詰められてなお、逆転の一手があると信じられないという気持ちも分かる。
「でも、他に策が無いのも事実だ。ここはクロエの話を聞いてみようよ」
「……そうだな、それしかないか。クロエ、続きを頼む」
少し考えた後、マークもそれを受け入れたのかクロエに話を促す。
そして、俺達の反応を見たクロエが、大きく深呼吸をして話を始めた。
「まず始めに言っておくべき事として、この作戦の成功は絶対じゃないわ」
「作戦に絶対なんて無いさ。続けてくれ」
冷静に目の前の敵を対処しつつ、マークがそう答えた。
「むしろ、失敗する可能性の方が高いの。それでも、二人は私を信じてくれる……?」
「勿論だよ。きっとそれが一番良い作戦になる筈だしね……っと!」
敵の攻撃をどうにか受け流しながら、俺はそう答える。
マークも同意見のようで、クロエに深く頷き返した。
「……ありがとう。作戦は単純、私が今まで秘密にしてた一族秘伝の魔法を使うだけ」
「たったそれだけかと言いたいところだが、ここまで隠してきただけはあるんだろう?」
「ええ、その魔法が成功すれば、必ず勝てるわ。それだけの大魔法よ」
だから私達の一族はあいつらに狙われた、とクロエが悲しげに続けた。
それ程の魔法であれば、確かに獄王の刃から狙われるのも頷ける。
上手く研究して使いこなせば、それだけで戦力の増強になる訳だからな。
「ここまで使わなかったってことは、何か理由とかリスクがあるのかな?」
「そうね、この魔法を使った後は、私は魔力切れで動くのがやっとの状態になると思うわ。それがリスクかしら」
「……だが、決まれば勝ちは確定するんだろう?秘伝とは言え、使わない理由はなかったんじゃないか?」
生憎、魔力切れという状態になったことが無いので分からないが、その程度のリスクであれば俺達二人がいればカバーできる範囲だ。
それでも使わなかったのは、単純に信頼やリスクの問題よりも、何か他に理由がある気がする。
「そうね、発動出来れば勝ちなの。発動出来れば、ね……」
「何……?その言い方だと、発動出来ないのか?」
「……発動出来ない、というよりは発動に成功したことが無いっていうのが正しいわね。だから、私は一族の落ちこぼれで出来損ないなの」
そう、クロエはここまで魔法を隠してきたのでも使わなかったのでもなく、使うことが出来なかったのだ。
だが、俺一人が犠牲になるのが許せなかったクロエは、この作戦を提案した。
「……それでも、クロエなら出来るって信じてる。クロエだけが頼りなんだ」
「ああ、その通りだ。成功するまで俺達が持ち堪えればいい話だろ?」
クロエが俺達を助けるために一族秘伝とまで言われる魔法を使ってくれるのなら、俺達もその信頼に応えるしかないだろう。
幸いにも、耐久には自信がある。何度だって攻撃を耐えきってみせるさ。
「……馬鹿ね、本当に。でも、本当に何回失敗するか分からないんだから!覚悟しておいてよね!」
俺達の答えに、クロエは少し泣きそうな声でそう答える。
きっとクロエならやってくれる。
クロエが俺達を信じたように、俺達だってクロエのことを信じているのだ。
「はは、自慢気に言うことかよ!」
「まぁ、壁役は任せてよ。何度失敗しても、成功するまで待ってるからさ!」
「ありがとう……!二人とも、前は任せるわ!」
こうして、クロエは魔法の詠唱を開始した。
3人VS魔物100体という絶望的な状況に、一筋の光が差し込む。
「さぁ、どこからでも掛かってこい……!」




