第59話 双頭の悪魔
結局、もう日付が変わっちゃいましたね……。
本日7月1日は、最低でももう一本、できれば更に一本投稿したいです……
更新ペースが落ちてしまって申し訳ないですね……。
追記:ごめんなさい。仕事の都合と私用により、今日もまた次の更新はできなさそうです……。
獄王の刃の研究本部へと潜入した俺達は身を隠しながら階層を下り続け、最小限の戦闘のみで地下5階の手前にまで到達していた。
これまでの改装は、研究本部とは名ばかりの敵を阻む為だけに作られた迷路のような階層が続いていた。
だが、行き止まりや分かれ道がある分、身を隠すことは簡単だったので進路にいる敵のみと戦うだけで進むことが出来たのだ。
「……先に下を偵察して来たが、少し面倒なことになりそうだ」
マントの認識阻害を発動させ、地下5階の偵察に出ていたマークが帰ってくるなり渋い顔でそう告げる。
「どうしたの?下の階は魔物で埋め尽くされてた、とか……?」
俺は最悪の事態を想定して、マークにそう尋ねる。
ゲームの中だと、魔物で埋め尽くされたモンスターハウスなんてよくあるからな。
「それであっても面倒だが、違う。まず伝えておくべきこととして、下の階層はこれまでと違って、大きく開けた一つの部屋のみで構成されている」
「何よ、いいじゃない!もう迷路の中を右往左往するのは懲り懲りだわ」
マークのそんな言葉に、クロエが表情を明るくさせる。
いくら戦闘が少ないとはいえ、何時間もかけて4階層分もの迷路を踏破してきたのだ。
素直に進めるのであれば、それに越したことは無い。
「確かにそこは良いんだ。だが、問題は別にある」
「へぇ……それで、その問題ってのは何なのかしら?」
「一つ目の問題は、その大広間を巨大な魔物が守っているということだ」
「そんなの、このマントで隠れたまま回避すればいいじゃないの!」
「そう簡単なら良かったんだがな……。下の階層に一歩でも踏み入れると、結界が作動して認識阻害が解除されるんだ。つまり、戦闘は回避できない」
「そんな……!」
マークから告げられる悪い知らせに、俺達は揃って顔を曇らせる。
俺もクロエと同じように、その魔物と戦闘を回避して進めばいいと思っていたのだ。
だがその考えは打ち破られ、もしこの先の階層に一歩でも足を踏み入れれば、ゲームで言えばボス的な存在である魔物との戦闘が避けられない。
「恐らく、狂乱のシュタイナーの放った門番のようなものだろう。だが、その存在があるからこそ、これより先の階層には余程踏み入られたくないとも考えられないか?」
確かに、マークの言う通りだ。
これまでの階層にいたのは、改造されたとはいえ、元が弱いゴブリンのような魔物ばかりだった。
それが一変して、急にボス級の魔物を配置してきたとあれば、その先に何か重要な施設か何かがあるのは明白だろう。
「ってことは、地下6階からが本格的な研究施設ってことかな……?」
「ああ、恐らくな。だからこそ、俺達はこの下にいる門番を討伐して進まなければならない」
そんな会話を聞いていたクロエが、これまで保っていた沈黙を破る。
「なら、行くしかないわよね……!それが、パパやママの……いいえ、一族の皆の為だもの……!」
「……ああ、そうだな。この先何があったとしても、俺達は進まないといけないんだ」
「うん、俺も異論はないよ。じゃあ、この先の強敵との闘いに備えて、一旦作戦会議をしようか」
俺の提案に二人は頷いて話し合いが始まった。
最近はある程度連携が取れてきたとは言え、3人での闘いにはまだまだ不慣れな点も多い。
油断なく、気を引き締めていこう……。
◆◆◆
作戦会議を終えた俺達は、ゆっくりと階段を下っていく。
広間に踏み入ってしまえば認識阻害は解除されてしまうが、階段上であればその迷彩効果は有効だ。
それを利用した俺達は、階段の上から眼下に広がる大広間を観察した。
遠くてはっきりしないが、薄暗い空間の中で大きな影が警戒するように動いている。
「……ヨシヒロ、これを使え」
「これは……ありがとう」
マークがポーチから小型の望遠鏡を取り出し、俺に手渡してくる。
俺が片目を瞑ってそのレンズをのぞき込むと、そこに映ったのは巨大な獣のような魔物だった。
ただし、もちろんただの獣型の魔物ではない。
獅子の頭に山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ魔物……そう、合成獣だ。
だが、その姿は俺の知っている合成獣とは大きく異なっている点が一つだけある。
「頭が二つある……?」
「ああ、ご親切なことにな。あれが戦闘力にどう影響するのか分からないが、厄介なことには変わりないだろうよ……」
そう、その合成獣には獅子の頭が二つ存在するのだ。
二つの頭は闇に目を光らせながら、それぞれ別の方向を警戒している。
なるほど門番にはちょうどいいとも思ったが、恐らくそれだけで頭を二つ付けるような改造はしないだろう。きっと、何かもっと意味がある筈だ……。
「……あんな悪趣味な怪物、許せない」
クロエがそうポツリと呟いた。
確かに、あの双頭の合成獣は悪趣味としか言えない産物だ。
「まず、作戦通りヨシヒロが先に出て奴の注意を引き付けてくれ。尻尾の蛇には猛毒があるが、【毒無効】のスキルを持っているヨシヒロなら問題はないだろう」
「他に注意することは?」
「あえて言うとすれば、口から火炎を吐くことだが、その点はヨシヒロの【硬化】を使えばどうとでもなるだろう。それよりも、双頭であることに何か意味がある筈だ。くれぐれも、注意しながら戦ってくれ……」
獅子の頭、山羊の胴、毒蛇の尻尾、更に口から火炎を吐く。
ここまでは、俺の知っているギリシャ神話に出てくる合成獣と同じ特徴だ。
もしもそれだけなら、多少強化されていたとしても、今の俺達の敵ではない。
だが、俺の知識とは明らかに違う点、恐らくシュタイナーによって更に改造されたであろう、あの双頭だけが気がかりだ。
マークの言う通り、二つの頭の両方に気を使って戦わなければ……。
「よし、じゃあ行ってくるよ。二人とも、隙を見て攻撃を頼む」
「勿論だ。任せてくれ」
「ええ、分かってるわ」
二人の返事を聞いた俺は、大広間へ一歩踏み込み、そのまま一気に合成獣へ向かって走り抜けた。
『……ガオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!!』
俺が広間に足を踏み入れた瞬間、バチバチと光が上がり、マントの認識阻害が解除される。
侵入者に気づいた合成獣は、その双頭で目ざとく俺を捉えた。
そして、お互いに駆け出した俺と合成獣がぶつかる。
右腕の振り下ろし、左腕の横薙ぎ、獅子の頭による噛みつき、毒蛇の尻尾の不意を突くような一撃……。
次々と繰り出される合成獣の攻撃を、俺は硬化させた左右の腕でどうにか受け流していく。
「……くっ!」
その一撃一撃が鋭く、重い。
炎龍程ではないが、受け流すので精一杯だ。
まともに正面からやりあっても受け止められないだろう。
『……ガゴオオオオオオオオオッ!』
余裕のない俺の隙を狙うように、獅子の頭の片方が大きく息を吸い込み、燃え盛る火炎を吐き出した。
息を吸い込む予備動作に気づいた俺は、後ろへ大きく跳びつつ詠唱を開始し、間一髪で全身の硬化による防御に成功する。
一度でもこの攻防に失敗すれば、それが命取りになってしまう。
パワー、スピードの両方を兼ね備えた合成獣は、それ程までに危険な存在だ。
遠くで光が弾けたのを確認した俺は、【挑発】を発動させて合成獣の視線と攻撃を一心に受ける。
結界が発動した。ということは、マークかクロエのどちらかがこの大広間に侵入したのだ。
だが、このタイミングで遠距離担当かつ耐久が皆無のクロエが飛び出してくる理由はない。
「……ということは!」
「ああ、その通りだヨシヒロ!くらえ、【毒の牙】ッ!」
結界の発動からものの数秒で俺達の下まで駆け抜けたマークは、猛毒に染まる刃で合成獣の胴体を切りつける。
自身が毒蛇の尻尾を持っているので無効化するかと思ったが、毒々しい紫色の裂傷を見る限り、そういうことは無さそうだ。
あと一度か二度、【毒の牙】を受ければ、合成獣は猛毒に侵されるだろう。
『ガギャアアアアアアアアオッ!?』
【挑発】の効果により意識外からの攻撃を受けた合成獣が悲鳴を上げる。
だが、【挑発】が続いている限りは俺から目を離すことはできない……!
「離脱する!その調子で頼むぞ!」
【毒の牙】が決まったのを確認したマークが、俺にそう声を掛けて離脱していく。
全く、簡単に言うが中々ギリギリの戦いなんだぞ……。
だが、それでも……やってやれない訳じゃない……!
「来い、合成獣ッ!」
『ガオオオオオオオオオンッッッ!!!』
不意の一撃によりダメージを受けた合成獣が怒りの叫びを上げ、俺に向き直る。
マークの離脱により、これでまた一対一の攻防に逆戻りだ。
『グルルルルアッ!』
怒りに身を任せたその攻撃を皮切りに、再び俺と合成獣の戦いが始まる……。




